龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

文字の大きさ
87 / 150
三章 甥の誕生と六年目まで

27.六度目の結婚記念日

しおりを挟む
 龍王とヨシュアの結婚記念日は龍王の誕生日のすぐ後にある。
 龍王は二十五歳の誕生日を迎えてすぐのころに結婚したのだ。
 初めて会ったときからヨシュアの美しさには目を奪われていたが、最初は酷い言葉をかけたり、ヨシュアが普通に接してくるのに抵抗したりしていた。
 それが過ぎるとヨシュアに愛を乞うて拒まれて、つらい思いもした。

 結婚六周年の記念日はヨシュアと静かに過ごすつもりだったが、三歳の俊宇がヨシュアと龍王にお願いしに来ていた。

「もうすぐシンおじうえとヨーおじうえのおいわいがあるってきいたの。ジェレミーとレベッカはきてくれないのかな?」

 龍王の生誕祭のときにジェレミーが連れて来られたので俊宇は期待していたようだった。

「残念ながらジェレミーは来ないよ。志龍王国に国を挙げて結婚記念日を祝うような風習がないし」

 志龍王国は結婚記念日を祝う風習がない。
 これから作っていってもいいのだろうが、それよりも龍王はヨシュアと二人で静かに過ごすことを望んでいた。
 しょんぼりとして護衛と侍従に連れられて赤栄殿に帰ろうとする俊宇にヨシュアが声を掛ける。

「俊宇殿下、ドラゴンに会って行かれますか?」
「ドラゴン! わたし、あいたい!」

 ぱっと表情を明るくした俊宇を抱きかかえてヨシュアはドラゴンのいる厩舎まで連れて行った。ドラゴンは青毛の馬と鹿毛の馬に並んだ馬房で大人しくジャックに世話をされていた。
 ヨシュアを見ると「ぴいぴい」と鳴いて近付いてくる。

 ドラゴンの大きさは既に大人の馬くらいになっていた。
 まだ幼体の丸みを持っているが、それもそのうちドラゴンらしい細長い体型に変わるだろう。

「いらっしゃいませ、龍王陛下、王配陛下、俊宇殿下」
「ドラゴンの様子はどうかな?」
「最近飛ぶ練習をなさっています。少し飛べるようになってきました」

 ジャックから話を聞いて俊宇が目を輝かせる。

「とべるの? みたい!」
「ドラゴン様を外に出してもよろしいでしょうか?」

 青陵殿はヨシュアが厳重に結界を張っているのでドラゴンが飛んでも出られないようにはなっている。
 ヨシュアの腕に抱かれて龍王に許可を求めてくる俊宇の視線に、龍王は許可を出した。
 ドラゴンは庭に出されて大きくなった羽で羽ばたいて低空飛行をしている。低い位置だが飛んでいるドラゴンに、俊宇はヨシュアに降ろしてもらって拍手を送っていた。

「ドラゴン様の鞍を作ってくださったら、大人一人くらいは乗れるかもしれません」
「ドラゴンの鞍か。考えてみよう」
「まだ体は大きくなりそうなので、急がなくてもよろしいかとは思いますが」

 ドラゴンに乗りたそうな俊宇の顔を見てジャックが鞍を提案してくるが、小さな俊宇を乗せるにはまだ危険なので鞍はもう少し先になりそうだ。
 ドラゴンと触れ合うと俊宇も満足して赤栄殿に帰って行った。

 ヨシュアと二人きりになって、龍王は青陵殿のヨシュアの部屋で寛ぐ。特に大きなお祝いはしていなかったが、この日はヨシュアと過ごすために休みを入れるのが毎年恒例となっていた。

 結婚して玉を捧げるまではヨシュアとの間に距離を感じていたが、玉を受け取ってくれてからヨシュアとは距離が縮まって、抱き合うようになって結婚一周年はヨシュアが指輪を用意してくれて指輪を交換した。ラバン王国の結婚の風習らしいが、そのとき交換した指輪は肌身離さず身に着けている。
 それ以外にヨシュアは左手の小指に印章の指輪をはめていて、それがヨシュアの正式な文章に捺されるものとなっている。龍王も印章の指輪は即位するまでは持っていたが、今は玉璽ぎょくじを使っているので印章の指輪は外している。
 玉璽は王の用いる印章で、四千年の歴史の中で何度か作り直されているが、形は全く同じで龍を模した持ち手に四角い押印面がついていて、それは翡翠を彫って作られている。
 代々受け継いできた玉璽は龍王しか開くことのできない小箱に入れられて、その小箱自体が柱に埋め込まれているので、龍王以外が取り出すことは不可能だ。
 水の加護に反応して開く柱に埋め込まれた小箱の中身を出すときは、龍王がよほど重大な決議の書類に印を捺すときだけである。

 ヨシュアの印章はヨシュアの名前が刻み込まれた金属でできているのだが、龍王とヨシュアの指輪の裏にもイニシャルといって龍王とヨシュアの名前を短縮したものが内側に刻まれているとヨシュアは言っていた。それが龍王にはあまりよく読み取れないのだが、古代のラバン王国語なのかもしれない。

「ヨシュア、結婚してくれてありがとうございます」
「改めて言われると不思議な感じだな。おれも星宇と結婚できて嬉しいよ」

 二人きりになってヨシュアの左手の薬指にはまっている指輪を撫でていると、ヨシュアが龍王の手を取って左手の薬指、指輪の上に口付けてくれる。くすぐったいような、胸がいっぱいになるような口付けに微笑んでいると、ヨシュアが摘まんだ砂糖菓子を龍王の口に入れた。
 甘い味が口の中に広がって龍王は微笑みを深くする。

 お茶の用意をしたネイサンが卓の上に白花豆の蜜煮を置いて、花の咲いたように開く菊茶を入れてくれた。硝子の器の中で開いていく菊茶は花が丸ごと入れてあって、とても美しい。

「白花豆の蜜煮は龍王陛下がお好きだと聞きました。厨房からお祝いに今日出すように言われています」
「わたしは小さなころからこれが大好きで、ヨシュアにも食べてほしかったのです」

 白花豆の蜜煮は甘いが菓子ほどではなく、食事に料理の一品として出されることはあってもお茶請けとして出されることはあまりない。
 これは大好きだったので、龍王は小さなころから白花豆の蜜煮をお茶請けに出してくれるように頼んでいた。

「星宇が好きだというにしては、これまで出てこなかったな」

 ヨシュアが嫁いできてくれてから六年、一度も食べたことのない白花豆の蜜煮に、龍王が苦く笑う。

「そうでしょうね。叔父夫婦が毒を盛ったのはこれだったので」

 白花豆の蜜煮は豆が一個ずつ煮られている。毒見薬が食べない下の方の豆の中に毒は仕込まれていた。その関係もあって、龍王は毒を盛られて苦しんで以降白花豆の蜜煮を遠ざけていた。

「そんなものを食べるのはつらくないのか?」
「ヨシュアと一緒なら平気だと分かっています。わたしも毒を感知する魔術が使えるようになりました。もう何も怖がらずに好物を食べられます」

 箸で摘まんで一つ食べると、甘く煮られた豆がほろりと崩れて口の中に広がる。よく咀嚼して飲み込むと、ヨシュアも箸で摘まんで一つ食べていた。

「これは美味しい」
「そうでしょう? わたしの好きなものをヨシュアと共有できて幸せです」

 菊茶で口の中の甘みを洗い流しながら二つ目を摘まんだら、ヨシュアも箸を伸ばしている。
 ヨシュアのおかげで龍王はケーキや焼き菓子などラバン王国の甘味を知ったが、今度は龍王がヨシュアに志龍王国の美味しいものを伝えていく番なのかもしれない。

「秋にはイチジクの蜜煮、冬には林檎の蜜煮も食べましょう」
「蜜煮は色んなものに応用できるのか?」
「そうなのです。イチジクの蜜煮も、林檎の蜜煮も美味しいのですよ」

 それを聞くとヨシュアが「秋と冬にも楽しみができた」と微笑んでくれる。
 顔立ちは美しいがヨシュアは決して女性的ではない。体付きも立派だし、表情もいかにも男性的だ。そういうところを龍王は愛したので、ヨシュアの男らしい微笑みを見ると頬が熱くなる。

 ヨシュアの膝の上に跨るようにして乗って、唇を奪うと、蜜の甘い味がする。

「ヨシュアは甘いです」
「蜜煮を食べたからだろう」
「わたしにとっては、ヨシュアは全部甘くてたまらなくなります」

 胸に触れるとヨシュアがそっと龍王の手を外した。まだ室内にはネイサンがいる。

「お邪魔でしたか?」

 下がりましょうかと気を利かせるネイサンに、ヨシュアは龍王を膝の間に抱き直し、問いかけた。

「デボラが出産したと聞いたが、本当か?」
「お伝えしようと思っておりましたが、今日は大事なお二人の記念日でしたので後でもよいかと」
「めでたいことは聞きたい。生まれたのか?」
「はい。今日の早朝に生まれたと聞いています。まだ会いに行けていないのですが、元気な男の子だそうです」
「おれに構っている場合ではないではないか。早く会いに行ってやれ」
「いいえ、わたくしは仕事があります。龍王陛下と王配陛下の湯あみまでお手伝いしたら、帰ろうと思います」
「今日はいい。星宇もいいよな。おれが全部してあげるから。ネイサン、これは命令だ。早く帰るんだ」

 命令とまで言われてネイサンは帰らざるを得なくなった様子だった。

「龍王陛下と王配陛下の結婚記念日に生まれてきた我が子に、近々名前を付けてやってください」
「おれが名付け親になっていいのか?」
「デボラもそれを望むでしょう」

 帰る前に乳兄弟の気安さでヨシュアにお願いするネイサンに「早く帰ってやれ」と言いつつ、ヨシュアは名前を付けることを決めたようだった。

「どんな名前がいいだろう。志龍王国でずっと暮らす子どもだ」
「ラバン王国の名前がいいのではないですか。両親はラバン王国の出身なのですから」

 相談してくるヨシュアに答えてから、龍王は改めてヨシュアに向き直り、唇を重ねた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...