龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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三章 甥の誕生と六年目まで

29.ギデオンの名付け

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 夏が近付くころに、デボラが生まれた赤ん坊を連れて青陵殿にやってきた。
 ヨシュアが名付けをするためにデボラと赤ん坊を呼んだのだ。デボラの赤ん坊は栗色の髪と目でネイサンによく似ていた。
 小さな赤ん坊を抱いてヨシュアはその額に触れて名前を付けた。

「君はギデオン。ギデオンだよ」
「ギデオン、いい名前ですね」
「ありがとうございます、王配陛下」

 ネイサンもデボラも喜んでギデオンという名前を受け入れていた。

 ギデオンを抱いたデボラと横に控えるネイサンにヨシュアが考えを確認している。

「このまま青陵殿に仕えるということになれば、子どもとの時間はそれほど持てないことになるが構わないのか?」
「それは覚悟の上です」
「少しでも子どもとの時間を持てるようにデボラとギデオンを青陵殿に住ませることはできないだろうか? おれはギデオンの名付け親だ」

 願うようにヨシュアに視線を投げられて龍王も考えないわけではない。
 もしヨシュアと龍王の間に子どもが生まれるようなことがあれば、デボラはその子どもの乳母になっていたかもしれない。それを考えるとデボラが子どもを連れて青陵殿に住んでも悪くはないと思うのだ。

 できる限り青陵殿には新しいものは入れたくない。それは龍王がヨシュアを独占したいからに違いなかったが、元から青陵殿にいたデボラが再び青陵殿で暮らすのは問題ない気がする。何より、デボラもネイサンも月一回休みは取っていたが、それ以外の日は青陵殿に泊まって、いつでもヨシュアの呼び出しに答えられるようにしていた。
 それだけヨシュアが心を許しているのはこの乳兄弟夫婦しかいないのだから、ヨシュアの願いを叶えてやりたい。

「わたしとヨシュアには子どもはいないが、もしいたらデボラを乳母にしたのは間違いないと思う。デボラには青陵殿で乳母が使う部屋を使って子育てをしてほしい。ギデオンの存在は俊宇にとって弟のように感じられるだろうし、俊宇とギデオンの触れ合いが持てるとよいと思っている」
「星宇、いいのか?」
「あなたの望みなら、わたしは何でも叶えたいのです」

 本当は何でも叶えられるだけの度量はないのだが、それでも叶えられるものは叶えたい。乳母の部屋が与えられると聞いてデボラは恐縮していたが、そこでならばネイサンとの時間も持てると考えて深く頭を下げた。

「ご厚意に感謝いたします。大切なお部屋、使わせていただきます」
「ヨシュアとわたしの間には永遠に子どもが生まれることがないのだから、王配の乳母の部屋はずっと空き部屋だ。有効利用してくれれば嬉しい」

 龍王の言葉にネイサンもデボラも、ヨシュアまでも深く感謝してくれた。
 その日から青陵殿に子どもの気配がするようになって、ヨシュアはそわそわしているようだった。名付け親となったのだから、ギデオンはヨシュアの義理の息子も同じだ。乳兄弟の息子なので甥のような気分なのかもしれない。

「ギデオンの様子を見に行ってもいいか?」
「わたしに断りを入れなくてもいいんですよ?」
「星宇も一緒に行こう」

 龍王の手を引いて日に何度も乳母の部屋を覗きに行くヨシュアに、デボラも喜んでヨシュアを迎えてくれる。

「ネイサンが言っておりました。王配陛下はわたくしたちよりも長い年月を生きるお方。自分たちが死んだ後で王配陛下にお仕えするものが必要だと」
「ギデオンをそのように育てるつもりか?」
「もちろんです。一番はギデオンが望むかどうかですが、王配陛下と龍王陛下にこんなに愛されているのです。きっと王配陛下と龍王陛下を敬うように育つでしょう」

 それに一人だけでは世話役は務まらないとデボラは言う。

「わたくし、子どもは何人いてもいいと思っております。ネイサンとは結婚までに時間がかかりましたが、これからは龍王陛下と王配陛下にお仕えしつつ、子も増やしていきたいと思っております」

 妊娠、出産は大変なこととは聞いているが、前向きなデボラに龍王は感心してしまった。
 子ども用の寝台に眠らされたギデオンは泣いてデボラを呼ぶが、デボラは落ち着いた様子でギデオンの面倒を見ている。これからギデオンに弟や妹が生まれたとしても、デボラならば大丈夫だと龍王は思っていた。

 赤栄殿の俊宇は青陵殿の変化に敏感だ。
 青陵殿に赤ん坊が来たと聞いて、興味津々で龍王とヨシュアにお願いしてきた。

「わたしのおとうとなのでしょう? みにいきたい」
「正確には弟ではないですね。わたしの乳兄弟の息子ですから」
「シンおじうえとヨーおじうえのこどもではないのですか?」
「それは違うな。ヨシュアの乳兄弟の子どもだから、わたしたちの子どもも同然だが、それにしても、俊宇の弟ではない」
「わたし、おとうとがほしかったの。おとうとにできない?」
「弟ではありませんが、弟のように可愛がることはできます」

 ヨシュアの言葉に期待を込めて俊宇が目を輝かせるので、デボラとネイサンにお願いして俊宇を青陵殿の乳母の部屋に連れて行くことになった。俊宇が泊りたいと言ったときには拒んでいた龍王だったが、あれから月日も経って気持ちも落ち着いてきたし、俊宇を青陵殿に入れてもいいという余裕ができてきた。
 それもヨシュアが龍王を深く愛していて、決してよそ見をすることはないと分かってきたからだろう。過去に小さな俊宇にまで嫉妬していたのが恥ずかしくなるくらいだった。

 青陵殿に招かれた俊宇は大人しくヨシュアと龍王についてきていた。乳母の部屋に入ると、デボラに抱かれているギデオンに駆け寄る。

「ジュンユーです! はじめまして!」
「俊宇殿下、息子のギデオンです。まだ話すことはできませんし、首もしっかりと据わってはいませんが、そのうちに俊宇殿下と遊べるようになると思います」
「ギデオン……かわいい。わたしもだっこできる?」
「椅子に座ってくださったら、膝の上に置くことはできます」

 デボラに教えてもらって、頭に気を付けながら俊宇が椅子に座ったままでギデオンを膝の上に置いてもらう。ぽわぽわとした栗色の髪を撫でて、栗色のお目目を覗き込んで、俊宇は感動しているようだった。

「ギデオンのことは、わたしのおとうととおもってもいい?」
「恐れ多いことにございます」
「そう思って可愛がってくださるのならば、それ以上の幸せはありません」

 デボラとネイサンの答えに満足して、俊宇がギデオンに語り掛ける。

「おにいちゃんだよ」
「うー!」
「おへんじした! シンおじうえ、ヨーおじうえ、ぎでおんはかしこいの。わたしのことばにおへんじしてくれたの!」

 大喜びの俊宇に、それが偶然だなどといえるものはいなかった。

「ジャックがわたしのおねえさんで、ギデオンがわたしのおとうと。かぞくがいっぱい、うれしいな」

 歌うように言う俊宇にヨシュアも龍王も自然と表情が和らいだ。

「もうすぐわたしはよっつになるけど、ギデオンはいくつ?」
「ギデオンはまだ零歳です」
「ヨーおじうえ、ジャックはいくつ?」
「十二歳くらいじゃないかな」

 ギデオンとジャックの年齢を確かめて、俊宇はしみじみとギデオンの髪を撫でて、うっとりとしている。

「おねえさんがじゅうにさい、おとうとがれいさい。わたしはもうすぐよっつ。ははうえはつぎはいもうとをうんでくれるかな」

 龍族の王族は子どもができにくい。俊宇が梓晴と浩然の結婚後すぐに生まれたのは、奇跡に近かった。次の子どもが生まれるのはいつになるのか分からない。

「よっつのおたんじょうびに、ちちうえとははうえに、いもうとがほしいっておねがいしてみよう」
「俊宇、子どもはいつ授かるか分からないものだよ。俊宇にはジャックとギデオンがいるから、今は十分じゃないかな」
「そうでした。よくばりはいけません」

 こんなにかわいいおとうとができたのだから。

 嬉しそうに言う俊宇は四歳を前にとても成長して見えた。
 我が儘を言うだけの幼子ではなくなってきている。
 小さなころから物分かりがよく聡明で大人しい子どもだったけれど、それに拍車がかかっている気がする。
 これだけ小さいのだから年相応に我が儘を言ってもいいのだが、周囲にいるのが大人ばかりなのでどうしても物分かりがいいように育ってしまうのだろう。
 俊宇のためにも年の近い友人は必要な気がする。
 ジャックとギデオンがそうなってくれればいいと思うのだが、ジャックもどちらかといえば物分かりのいい方だし、ギデオンも身分というものをしっかりと両親から叩き込まれそうな雰囲気だ。

 いつになるか分からないが、梓晴に子どもができてほしいという思いもあるし、ラバン王国からやんちゃなジェレミーがもっと頻繁に遊びに来られればいいと龍王は思わずにはいられなかった。
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