龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

文字の大きさ
108 / 150
四章 結婚十年目

18.姪の名前は梓涵

しおりを挟む
 俊宇の妹で梓晴と浩然の娘は梓涵ズーハンと名付けられた。
 龍族の王族が増えた喜びに国民は沸いていた。

 ヨシュアと龍王が梓涵と会えたのは、生後一か月を過ぎてからだった。梓晴にも無理をさせないようにして、浩然と梓晴と俊宇と梓涵の生活を守っていたら、いつの間にかそれだけの日にちが経っていた。
 赤みの抜けた黄みがかった白い肌の梓涵がお包みに包まれているのを見て、龍王は腰が引けていた。ヨシュアは自然に抱っこさせてもらったが、龍王は抱っこを拒否していた。

「星宇叔父上、なんで梓涵を抱っこしてあげないの?」
「わたしは首が据わっていないような小さな子は苦手なのだ」
「梓涵は星宇叔父上に抱っこしてほしいと思ってるよ」
「許してくれ。どうしても無理なのだ」

 普段は堂々として龍王の政務をこなす龍王が、幼子一人に「許してくれ」とまで言うのが面白くて、ヨシュアも梓晴も浩然も笑っていた。

「兄上が贈ってくれた着心地のいい寝間着、とても役に立っています。布は梓涵のために何か作ろうと思っています」
「気に入ってくれてよかった。ヨシュアに聞いたら出産祝いは産んだ女性を労うようなものがいいと教えてくれたのだ」
「義兄上の心遣いだったのですね。本当にありがとうございます」

 他にも化粧水や手がすべすべになる軟膏なども送っていたが、どれも喜んでもらえたようだった。

「ヨシュア叔父上、わたしにも抱っこさせて」
「それでは椅子に座ろうか」
「はい」

 抱っこをさせてほしいという俊宇を椅子に座らせて、そっと腕の上に梓涵を置いてやる。安定感が変わったのか梓涵は少しぐずったが、俊宇が頑張ってじっとしていると泣き止んで黒い目で俊宇を見上げていた。

「兄上ですよ。早く大きくなってね」

 優しく語り掛ける俊宇はいい兄になりそうだった。

 王宮ではジャックの結婚相手が探されていた。
 龍族の中でも獣人を結婚相手として差別しない人物で、王宮に住めるだけの地位のある人物。
 血は繋がっていないし種族も違うが、龍王とヨシュアにとってジャックは娘のような存在だった。

 何件かお見合いをしたのちに、ジャックは高位の官吏と打ち解けた様子だった。官吏は二十代後半で年齢差は少しあるが、ジャックの寿命のことを考えるとちょうどいいのかもしれない。
 王宮の官吏はみな、厳しい試験を受けて合格しないとなれない。貴族の子どもであっても、試験に合格しなければ官吏になれない仕組みだった。
 その官吏は平民だが早くに試験に合格して、十年近く王宮に勤めているので王宮のこともよく分かっていた。

「ジャックと共に黄宮の離れに住む覚悟はあるか?」

 龍王の問いかけに官吏は答えた。

「ジャック様と共に生きたいと思っております」
「結婚してもドラゴン様のお世話はさせてくださいますか?」
「ジャック様の思うように生きてくだされば」

 ジャックの結婚相手も決まったところで、まずは婚約をさせて王宮の離れで共に暮らすところから始めることになった。
 その期間に少しでもジャックが不満があるのならば婚約は解消すると言い渡してある。

「わたくしのお義母様とお義父様に会ってくださいませ」
「ぜひお会いしたいです。わたしの両親も兄弟も紹介したいです」
「紹介してください。わたくし、仲良く致したく存じます」

 白い尻尾を振り振りジャックは楽しそうに官吏と話していた。

 ジャックが婚約することを聞いて、俊宇はかなり衝撃を受けていた。

「ジャックは結婚してしまうの!? もう青陵殿では会えなくなるの?」
「結婚してもドラゴンの世話は続けたいと言っていたよ」
「ジャックだけは青陵殿の庭に出入り自由のままにしようと思っている」

 ヨシュアと龍王の言葉に俊宇は安心した様子だった。
 姉のように思っているジャックが結婚するというのはやはり驚きだったようだ。

「わたしもいつか結婚するのかな?」
「俊宇に好きなひとができたら結婚すればいい」
「星宇叔父上が選んでくれるのではないの?」
「わたしも選ぶのを手伝うが、最終的には俊宇が好きかどうかで決めればいい」

 どんな相手と結婚することになっても、龍王は俊宇を応援するだろう。ヨシュアもそのつもりだった。

 まだ八歳の俊宇は結婚という単語に実感を持っていないようだが、赤栄殿で教育を受けているのでそのうちに王族の結婚の意味するものを理解するのかもしれない。願わくば龍王のようなことにはならないでほしいとヨシュアは思っていた。

 初対面での龍王の言葉はあまりに酷すぎたし、それに対するヨシュアの言葉も冷ややかだった。
 険悪な状態からでもこれだけ愛し合うようになれるのだが、できるならば険悪な状態はなしにして最初から愛し合える関係を築いてほしい。

「ヨシュア叔父上、新しい絵本が届いたんだ。読んでくれる?」
「いいよ」

 俊宇を膝に乗せて絵本を読んでいると龍王の視線が妙に刺さる。読み終わって俊宇がお礼を言って部屋に戻ると、ヨシュアの足の間に龍王が座った。

「俊宇はもう大きいので、そろそろお膝は卒業してもいいと思うのです」
「前と言っていることが違うよ? 俊宇はまだまだ小さい」
「ヨシュアのお膝はわたしだけのものにしたいのです」
「それは無理かな。梓涵も大きくなって座りたがったら座らせるだろうし」
「ヨシュアはわたしの王配なのですよ?」
「拗ねてるのも可愛いけど、あまりおれを困らせるな」

 つむじに口付けを落とすと、龍王が目を閉じてヨシュアに体重を預けてくる。出会ったときには骨ばって背骨も肋骨も浮き上がっていた龍王だが、今はそれなりに肉も付いてきている。
 背中から抱き締めると龍王がうっとりとため息を漏らす。

「ヨシュア、注文していた魔術具一式がそろそろ出来上がるのです」
「星宇の分もあったよな」
「ヨシュアに二度と危険がないように、厳重に魔術をかけた装飾具なのですが、ヨシュアは肌身離さず付けてくれますね?」
「もちろん付けるよ」

 答えると龍王は安心したように長く息を吐いた。

 記憶を失っていた間、龍王はずっと不安そうな顔をしていた。ヨシュアに思い出してほしい、触れたい、けれどどこまで許されるか分からない。
 記憶を失っていた期間の記憶もしっかりとヨシュアには残っているので、龍王の不安そうな顔はよく覚えている。
 龍王はずっとヨシュアを見るたびにつらそうな顔をしていた。
 抱き合っているときですら、気を抜くとヨシュアをつらそうに見ていた。
 あんな顔をもうさせたくないと強く思うので、ヨシュアも龍王が魔術騎士団と行動を共にするのを待ってほしいと言っているのに従っている。

 数日後に届いたのは華美ではない耳飾りイヤーカフと指輪と、鎖で小さな黒い石を下げる首飾りと髪飾りだった。どれもよく磨かれた黒い石がはまっていて、ヨシュアは丁寧に一つ一つ身に着ける。
 龍王のものは同じ趣向だったが、石が青だった。

 全てを身に着けると幾重にも守護の魔術がかかっているのが分かって、これだけ守護の魔術を重ね合わせないと龍王が安心しないのかとヨシュアは自分がどれだけ龍王に心配をかけてしまったのかを反省した。
 呪術師に記憶を奪われたのは不意打ちだったので、反応ができなかったが、これだけ守護の魔術のかかった魔術具を身に着けていれば不意打ちでも全く問題なく魔術が作用する。

「星宇、本当に心配をかけた」
「ヨシュア、あなたの記憶が戻らなくてもわたしの愛は変わらなかったと思いますが、記憶が戻って本当によかった」

 腕の中に龍王を抱き締めると龍王がすっぽりとヨシュアの腕の中に閉じ込められる。
 少し背伸びをして口付けてくる龍王に、ヨシュアは目を閉じて口付けを受けた。
 きっと記憶を失っていた期間のことは龍王のつらさと共に龍王には強く刻まれて消えることはないだろう。せめてこれからは龍王を心配させることがないようにヨシュアは気を付けて生きようと思っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...