龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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五章 在位百周年

12.ヨシュアの仕事

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 龍王が若返ってしまった二か月の間、ヨシュアは龍王のそばを少しも離れなかった。小さくなってしまった龍王の世話を誰かに頼むのは不安だったし、何より小さくなってしまった龍王がヨシュアが離れると心細いのではないかと思ったのだ。
 嫁いできてから九十五年の間に魔術騎士団の団長の座も他の魔術騎士に譲り渡していたが、魔術騎士団の頂点は常にヨシュアであった。他国との国境で衝突がありそうだったら、ヨシュアが必ず対応した。
 そのために、ヨシュアが出動できない間に他国との国境でのきな臭い動きが止められずにいた。

 龍王が元の姿に戻ってからヨシュアは魔術騎士団を率いて国境付近を見回る仕事を増やした。周辺諸国は基本的に志龍王国に従順なのだが、国境を治める地方領主までそれが行き渡っているとは限らない。その上周辺諸国が飢えるようになってくると、他国民が難民となって国境を越えようとしてくる。
 難民となって助けを求めてくるのならばまだいいのだが、最悪のときには盗賊となって志龍王国の国境の町や村を襲おうとしてくる。そういう輩にも目に物を見せてやるのが魔術騎士団の役目だった。

 バリエンダール共和国との国境に出現していた盗賊を全員捕らえて、警備兵に引き渡したところでヨシュアは昼の休憩に入る。
 できるだけ遠征に出ていても食事は龍王と共に取りたかったが、まだ仕事が残っている。王配としてバリエンダール共和国に、盗賊となった民が志龍王国の国境を越えて侵入して町や村を荒らしていたことを告げ、二度とこんなことがないように対処するように交渉しなければいけなかった。

「シオン、イザーク、昼餉を一緒に取らないか?」
「光栄です」
「ご一緒させていただきます」

 以前は龍王付きの護衛だったが、今は魔法騎士団長になっているシオンと、副団長になっているイザークに声を掛けると、すぐに応じてくれる。
 本当ならば町で簡単に露店のものなどを食べて終わらせたかったが、国境の町の領主が食事を用意してくれていると聞いたので、そこに行くことにした。

「王配陛下がお越しくださって町のものは皆、安心しております。盗賊たちに攻め入られて、警備兵が守っていたのですが、町のものは心細く思っておりました」
「盗賊は全員捕らえたので安心するといい」
「これから王配陛下がバリエンダール共和国に直々に交渉に行かれます。バリエンダール共和国も我が国に盗賊を入れたことを反省し、国境での警備を厚くすることでしょう」
「この町が今後襲われることのないように王配陛下が交渉してくださいます」

 魔術騎士団長と副団長として食事に招かれたシオンとイザークは堂々としている。
 酒を進められてヨシュアもシオンもイザークも仕事中なので断った。
 すると、果物の香りの付いたお茶を出される。

「この茶は美味しいな」
「お気に召しましたでしょうか? この地方でよくとれるサクランボの香りを付けたものです。よろしければ茶葉を持ち帰られますか?」
「龍王陛下がこういう茶が好きかもしれない。どこに売っている?」
「わたくしから今回のお礼に贈らせていただきます」

 領主からお茶の入った陶器の瓶をもらって、ヨシュアは龍王に手土産ができたと喜んだ。

 食事を終えると、バリエンダール共和国の議員たちを国境の町に呼び寄せて交渉をする。

「我が国はバリエンダール共和国に潤沢に食糧を支援しているはずだ。それなのに国境を越えて盗賊がやってくるとは、バリエンダール共和国は我が国が行っている食糧支援を国の隅々にまで行き渡らせていないのではないか?」
「行き渡らせているはずなのですが……」
「それならば、我が国の富を狙って盗賊団が組まれるはずがない。民も望んで土地を捨てて盗賊団になりたいと思っているはずはないのだ。土地を捨てるにはそれだけの理由があるはずだ」
「支援された食糧を分配している領主に問題があるのかもしれません。早急に調べて、領主が横領をしていたら厳しく罰し、二度とこのようなことがないようにいたします」
「そうしてくれ。そうでなければ、志龍王国はバリエンダール共和国への食糧支援を打ち切ることも考えると心得てくれ」
「心得ました。必ず結果を出して見せます。どうか、食糧支援はこのまま続けてくださいませ」

 平伏して懇願する議員に「くれぐれも再発させないように」と伝えてヨシュアは会議の場を去った。

 会議まで終わると時刻は夕暮れになっていた。
 魔術騎士団に残りのことは任せて、先にヨシュアが青陵殿に戻ると、龍王も仕事が終わったようで戻ってきていた。

「ヨシュア、国境での諍いはどうなりましたか?」
「バリエンダール共和国の民が土地を捨て、盗賊団になって志龍王国に入り込んでいた。盗賊は全員捕らえたし、バリエンダール共和国には今後このようなことがないようにしっかりと伝えてきた」
「お疲れさまでした。わたしは、最高裁判所の裁判官の任命の儀に、四大臣家の後継者の任命の儀に……とにかく、儀式が多くて疲れました」

 抱き締め合いながら今日の報告をして、椅子に座ってギデオンに茶を入れてもらう。ヨシュアはギデオンに領主からもらった陶器の瓶入りの茶を渡した。

「これを星宇の土産にもらったんだ。ギデオン、入れてくれ」
「心得ました」

 ギデオンが茶を入れて、牛乳とハチミツを入れたものを龍王に、何も入れないものをヨシュアに出してくれる。龍王は茶の香りを嗅いで黒い目を瞬かせた。

「果物の香りがします」
「あの地方でとれるサクランボの香りを付けてあるそうなんだ。星宇が好きそうだと思ってもらってきた」
「ありがとうございます。とても美味しいです」

 お茶を楽しんだ後は夕餉が出て、ヨシュアと龍王は一緒に食べる。
 ヨシュアが龍王の皿に取り分けてやると、龍王はヨシュアを見てにこにこしている。

「昼餉はヨシュアがいなかったので、とても寂しかったです。あまり食も進まなかったし」
「あまり食べなかったのか? 星宇は一人にしておくと心配だな。また遠征があるときには昼には帰れるようにするよ」
「そうしてください。わたしはヨシュアがいないとだめなのです」

 可愛いことを言う龍王を軽く抱き締めて、夕餉の後には一緒に湯あみをした。外出していたので汗もかいたし、汚れも付いたヨシュアは、丁寧に髪と体を洗って、龍王の髪も洗ってやる。
 龍王は髪を洗って括ってもらって、湯船に浸かっていた。

「ヨシュアのはね、久しぶりに見たいです」
「それじゃ、広げるよ?」

 肩甲骨あたりに描かれている菱形の翅の模様は、妖精の翅を畳んだものだ。広げると、光で構成された薄翅が四枚、背中に広がる。
 湯船の中で立って太ももまで湯に浸かって背中を見せていると、後ろから龍王が手を差し伸べて翅に触れてくるのが分かる。

 龍王と結婚する前にはその場所に触れられることはおろか、見せることも嫌だったのに、翅を広げた状態でも龍王が触れるのは全く気にならなくなっている。
 光の中に手を突っ込んで、翅の輪郭を辿る龍王に、くすぐったいような、気持ちいいような感覚にヨシュアはくすくすと笑ってしまう。

「ヨシュアの翅はとてもきれいです」
「星宇はこれがお気に入りだな」
「わたししか見せてもらえないものですからね」

 ヨシュアのことを妖精だと知っているものは、ラバン王国の家族、志龍王国の家族、ネイサンとデボラ一家とそれなりの数はいるのだが、翅を広げたところまではっきりと見せたことがあるのは龍王が初めてかもしれない。
 ネイサンと乳母は翅の存在は知っていたが、ヨシュアに隠させることはあっても、翅を広げさせることはなかった。

「ずっとわたしだけにしか見せないでくださいね」
「星宇だけだよ。見せるとなると、上半身裸にならないといけないからな。気軽に見せられるものじゃない」

 肩甲骨の辺りから生えているヨシュアの翅は背中とくっついているので、見せるとなると上半身裸になるか、上衣に切り目を入れて出すかしかない。上衣に切り目を入れるのは王配の地位を持っていてどれだけでも衣を手に入れられる立場だとしても、もったいなくて簡単にはできない。
 上半身裸になるのは、ヨシュアとしては愛する龍王の前ならばともかく、それ以外の相手の前では遠慮したかった。

「ヨシュア、愛しています」

 翅の付け根に唇を寄せられると、ぞくぞくとした快感が沸き上がり、ヨシュアの下腹に熱がこもる。

「星宇、今夜は?」
「もちろん、抱かせてください」

 翅をしまって振り返って龍王の体を抱き締めると、龍王も抱き返しながら微笑む。
 長い夜になりそうだった。
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