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五章 在位百周年
11.王宮の忙しさ
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龍王は基本的にヨシュアに拒まれたことがない。
両想いになるまでの期間はずっと拒まれっぱなしだったが、両想いになってからはヨシュアは龍王が抱きたいと言えば応じてくれた。拒むのは巡行で別の場所に泊まらなければいけないときくらいで、それ以外は拒まれたことはない。
執務が休みで昼間から抱きたいとお願いしても、朝の水の加護の祈りが終わっていわゆる生理現象で龍王が勃っているときに抱きたいと頼んでも、ヨシュアは受け入れてくれる。
ただいくつかのやり方は受け入れてくれないことがあった。
基本、ヨシュアは前に触られるのが苦手で、発情期のときは触らせてくれたが、普段は触らせてくれない。どうしてもと頼んだら手では触らせてくれるが、舌や口を使った行為は許してくれない。
後孔に関してもヨシュアは毎日湯あみしたときにきれいにしてくれているし、恐らく魔術も使って念入りに清潔にしてくれているのだが、舌を使って愛撫させてくれはしない。
そういうことはしなくていいと拒まれるし、しようとすると諦めるまで行為を中断することもある。
龍王としてはヨシュアの全身くまなく舐めたいし、味わいたいし、自分のものだという印をつけたいので唇や舌で触れたがるのだが、ヨシュアにとっても譲れないことがあるようなのだ。
結婚して九十五年目、龍王はまだ達成したことのないヨシュアへの舌での愛撫の達成を夢見ていた。
それはそれとして、ヨシュアの体はすっかりと龍王に馴染んでいる。
九十五年間も抱いているので当然だが、ヨシュアの悦い場所は龍王は知り尽くしているし、龍王も悦い場所を知り尽くされている。
お互いに抱き合うことは気持ちがいいことだと合意しているのだ。
「ヨシュア、次の休みは朝からヨシュアを抱いて、自堕落に暮らしたいです」
「次の休みが来たらな」
口付けながら強請ると、ヨシュアが軽く答えてくれる。
若返りの魔術のこもった壺で龍王が若返ってしまってから、二か月、龍王は公の場に立って政務ができなかった。その分の政務が秋が近くなってもまだ大量に残っている。
龍王とは楽な仕事ではないと分かっているが、それを二か月も休んでしまったのだ、そのしわ寄せがまだ続いていた。
「そろそろ休みが欲しいです」
「星宇はここ一か月働きづくめだもんな。少しは休んだ方がいいかもしれない」
「宰相たちを説得してきます」
今日は龍王は政務に出て、ヨシュアは魔術騎士団の仕事が入っているので、龍王とヨシュアは別々に仕事に行かなければいけない。仕事中もヨシュアが隣りに座っていてくれるならば、休みがないこの状態も何とか我慢できなくもないのだが、ヨシュアも二か月間龍王につきっきりだったので魔術騎士団の頂点としての仕事が溜まっているのだ。
王配としてヨシュアは龍王についていることが多いので、今は魔術騎士団の団長の座も若い魔術師に譲って他国と事を構えるような重要な場面にだけヨシュアは魔術騎士団と共に出動するようになっていた。
龍王と共に魔術騎士団を休んでいた二か月間で、国境付近がきな臭くなっている場所があったり、ヨシュアが出動することで他国を威嚇することができる事案があったりして、どうしてもヨシュアも仕事に駆り出されることが多くなっていた。
名残惜しくヨシュアに口付けして、嫁いできてから九十五年経っても変わらない鮮やかな青い長衣を翻して魔術騎士団へと向かうヨシュアを見送り、龍王は黄宮の執務室に移動した。
執務室では宰相と四大臣家の当主が待っている。
龍王とヨシュアの発情期に前の宰相が龍王に妾妃を宛がおうとしたために、宰相家も四大臣家も大入れ替えをした後で龍王が二か月不在になるという事態になったために、政務の現場はかなり荒れたようだ。
書類仕事などできることは龍王も青陵殿に持って来させて行っていたが、宰相と話し合って決めることや四大臣家と宰相との会議などはまだ残っていた。
宰相も四大臣家も任命されたばかりで政務を任されて相当苦労したはずだ。
「最高裁判所の裁判官の任命の儀がございます。龍王陛下不在の間は仮の裁判官で裁判を行わせるか、急でないものは待たせていたのですが、正式に龍王陛下に裁判官を任命してもらわねばなりません」
「裁判官の資料を見せろ」
「こちらにございます」
仮の裁判官として働いていたものの中から、これまでの地方の裁判でどのような判決をしたものがいるかを確かめて、最高裁判所の裁判官として相応しくないものは退け、相応しいものだけを残していく。
資料をよく読みこんで決定すると、最高裁判所の裁判官として選ばれたものたちの任命の儀が行われた。
裁判官を呼び、一人一人名前を確かめて、最高裁判所の裁判官に任命していく。
「これよりそなたたちはこの国の最高裁判所の裁判官となる。裁判の最終決定をするのはそなたたちだ。公平であることを誓い、正義を守り、心して務めてほしい」
任命の儀を終えると、次の仕事が入れられる。
「四大臣家の後継者を任命する儀がございます。今の当主も任命されたばかりですが、何かあれば仮の当主として立つのは後継者です。まだ後継者の任命の儀を終えておりませんので、そちらをしていただきたくお願いいたします」
四大臣家ともなると国を動かす頂点に立つ。四大臣家の中から宰相は選ばれているし、当主たちは非常に優秀な文官として最高位の仕事についている。
「郭家でございます。後継者には、長男をよろしくお願いします。文官の試験には通っていて、王宮で働いております」
「宋家でございます。長男と次男は近衛兵になっております。後継者には長女をよろしくお願いいたします。女ですが非常に優秀で、文官の試験には通って、王宮の文官として働いております」
「林家でございます。わたくしには実の子はおりません。ですので、兄の次男である甥を後継者によろしくお願いいたします。非常に優秀な子で、最年少で文官の試験に合格しております」
「羅家でございます。長男は地方領主の元に婿に行っているので、次男を後継者によろしくお願いいたします。文官の試験で非常に優秀な成績を修めて、王宮でも重要な仕事をいただいております」
資料を読む限り、後継者として指名されたどのものも問題はないように思われた。
「すべて認めよう。これより、後継者が当主を継げないとなるような事態が起きない限りは、四大臣家には後継者を変えることはできないと命じておく」
「心得ました」
続いて持って来られる龍王にしかできない仕事もこなして、やっと昼の休憩になったが、ヨシュアは遠征に出ているので戻ってきていなかった。
ヨシュアがいなくても龍王は黄宮で昼食を取るのはあまり好きではないので青陵殿に戻っていた。
ギデオンが龍王のために冷たい茉莉花茶を入れてくれる。
「昼餉はさっぱりとしたものにすると厨房が言っておりました」
「ありがとう、助かる」
夏の間は龍王は青陵殿のヨシュアの部屋に溶けない氷柱を立てて涼をとるのだが、まだ暑さが残る秋の始めには小さな氷柱が残されていた。
食欲も龍王はヨシュアがいないとどうしても細くなってしまう。
ヨシュアがいると世話を焼いて龍王に取り分けてくれたり、食べさせてくれたりするのだが、ヨシュアがいない食卓はどうしても寂しく感じられる。
汁物と、冷たい麺と、さっぱりと煮た魚の簡単な昼餉を取って、龍王は歯磨きをして寝台で少し休む。寝台の布団は清潔で新しいものに取り換えられていて、ヨシュアの残り香もしない。
「ヨシュアが恋しい……」
布団を抱き締めて呟く龍王は、昼寝もできそうになかった。
両想いになるまでの期間はずっと拒まれっぱなしだったが、両想いになってからはヨシュアは龍王が抱きたいと言えば応じてくれた。拒むのは巡行で別の場所に泊まらなければいけないときくらいで、それ以外は拒まれたことはない。
執務が休みで昼間から抱きたいとお願いしても、朝の水の加護の祈りが終わっていわゆる生理現象で龍王が勃っているときに抱きたいと頼んでも、ヨシュアは受け入れてくれる。
ただいくつかのやり方は受け入れてくれないことがあった。
基本、ヨシュアは前に触られるのが苦手で、発情期のときは触らせてくれたが、普段は触らせてくれない。どうしてもと頼んだら手では触らせてくれるが、舌や口を使った行為は許してくれない。
後孔に関してもヨシュアは毎日湯あみしたときにきれいにしてくれているし、恐らく魔術も使って念入りに清潔にしてくれているのだが、舌を使って愛撫させてくれはしない。
そういうことはしなくていいと拒まれるし、しようとすると諦めるまで行為を中断することもある。
龍王としてはヨシュアの全身くまなく舐めたいし、味わいたいし、自分のものだという印をつけたいので唇や舌で触れたがるのだが、ヨシュアにとっても譲れないことがあるようなのだ。
結婚して九十五年目、龍王はまだ達成したことのないヨシュアへの舌での愛撫の達成を夢見ていた。
それはそれとして、ヨシュアの体はすっかりと龍王に馴染んでいる。
九十五年間も抱いているので当然だが、ヨシュアの悦い場所は龍王は知り尽くしているし、龍王も悦い場所を知り尽くされている。
お互いに抱き合うことは気持ちがいいことだと合意しているのだ。
「ヨシュア、次の休みは朝からヨシュアを抱いて、自堕落に暮らしたいです」
「次の休みが来たらな」
口付けながら強請ると、ヨシュアが軽く答えてくれる。
若返りの魔術のこもった壺で龍王が若返ってしまってから、二か月、龍王は公の場に立って政務ができなかった。その分の政務が秋が近くなってもまだ大量に残っている。
龍王とは楽な仕事ではないと分かっているが、それを二か月も休んでしまったのだ、そのしわ寄せがまだ続いていた。
「そろそろ休みが欲しいです」
「星宇はここ一か月働きづくめだもんな。少しは休んだ方がいいかもしれない」
「宰相たちを説得してきます」
今日は龍王は政務に出て、ヨシュアは魔術騎士団の仕事が入っているので、龍王とヨシュアは別々に仕事に行かなければいけない。仕事中もヨシュアが隣りに座っていてくれるならば、休みがないこの状態も何とか我慢できなくもないのだが、ヨシュアも二か月間龍王につきっきりだったので魔術騎士団の頂点としての仕事が溜まっているのだ。
王配としてヨシュアは龍王についていることが多いので、今は魔術騎士団の団長の座も若い魔術師に譲って他国と事を構えるような重要な場面にだけヨシュアは魔術騎士団と共に出動するようになっていた。
龍王と共に魔術騎士団を休んでいた二か月間で、国境付近がきな臭くなっている場所があったり、ヨシュアが出動することで他国を威嚇することができる事案があったりして、どうしてもヨシュアも仕事に駆り出されることが多くなっていた。
名残惜しくヨシュアに口付けして、嫁いできてから九十五年経っても変わらない鮮やかな青い長衣を翻して魔術騎士団へと向かうヨシュアを見送り、龍王は黄宮の執務室に移動した。
執務室では宰相と四大臣家の当主が待っている。
龍王とヨシュアの発情期に前の宰相が龍王に妾妃を宛がおうとしたために、宰相家も四大臣家も大入れ替えをした後で龍王が二か月不在になるという事態になったために、政務の現場はかなり荒れたようだ。
書類仕事などできることは龍王も青陵殿に持って来させて行っていたが、宰相と話し合って決めることや四大臣家と宰相との会議などはまだ残っていた。
宰相も四大臣家も任命されたばかりで政務を任されて相当苦労したはずだ。
「最高裁判所の裁判官の任命の儀がございます。龍王陛下不在の間は仮の裁判官で裁判を行わせるか、急でないものは待たせていたのですが、正式に龍王陛下に裁判官を任命してもらわねばなりません」
「裁判官の資料を見せろ」
「こちらにございます」
仮の裁判官として働いていたものの中から、これまでの地方の裁判でどのような判決をしたものがいるかを確かめて、最高裁判所の裁判官として相応しくないものは退け、相応しいものだけを残していく。
資料をよく読みこんで決定すると、最高裁判所の裁判官として選ばれたものたちの任命の儀が行われた。
裁判官を呼び、一人一人名前を確かめて、最高裁判所の裁判官に任命していく。
「これよりそなたたちはこの国の最高裁判所の裁判官となる。裁判の最終決定をするのはそなたたちだ。公平であることを誓い、正義を守り、心して務めてほしい」
任命の儀を終えると、次の仕事が入れられる。
「四大臣家の後継者を任命する儀がございます。今の当主も任命されたばかりですが、何かあれば仮の当主として立つのは後継者です。まだ後継者の任命の儀を終えておりませんので、そちらをしていただきたくお願いいたします」
四大臣家ともなると国を動かす頂点に立つ。四大臣家の中から宰相は選ばれているし、当主たちは非常に優秀な文官として最高位の仕事についている。
「郭家でございます。後継者には、長男をよろしくお願いします。文官の試験には通っていて、王宮で働いております」
「宋家でございます。長男と次男は近衛兵になっております。後継者には長女をよろしくお願いいたします。女ですが非常に優秀で、文官の試験には通って、王宮の文官として働いております」
「林家でございます。わたくしには実の子はおりません。ですので、兄の次男である甥を後継者によろしくお願いいたします。非常に優秀な子で、最年少で文官の試験に合格しております」
「羅家でございます。長男は地方領主の元に婿に行っているので、次男を後継者によろしくお願いいたします。文官の試験で非常に優秀な成績を修めて、王宮でも重要な仕事をいただいております」
資料を読む限り、後継者として指名されたどのものも問題はないように思われた。
「すべて認めよう。これより、後継者が当主を継げないとなるような事態が起きない限りは、四大臣家には後継者を変えることはできないと命じておく」
「心得ました」
続いて持って来られる龍王にしかできない仕事もこなして、やっと昼の休憩になったが、ヨシュアは遠征に出ているので戻ってきていなかった。
ヨシュアがいなくても龍王は黄宮で昼食を取るのはあまり好きではないので青陵殿に戻っていた。
ギデオンが龍王のために冷たい茉莉花茶を入れてくれる。
「昼餉はさっぱりとしたものにすると厨房が言っておりました」
「ありがとう、助かる」
夏の間は龍王は青陵殿のヨシュアの部屋に溶けない氷柱を立てて涼をとるのだが、まだ暑さが残る秋の始めには小さな氷柱が残されていた。
食欲も龍王はヨシュアがいないとどうしても細くなってしまう。
ヨシュアがいると世話を焼いて龍王に取り分けてくれたり、食べさせてくれたりするのだが、ヨシュアがいない食卓はどうしても寂しく感じられる。
汁物と、冷たい麺と、さっぱりと煮た魚の簡単な昼餉を取って、龍王は歯磨きをして寝台で少し休む。寝台の布団は清潔で新しいものに取り換えられていて、ヨシュアの残り香もしない。
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