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四章 新しい家族との高等学校三年目
21.ダンスパーティーの提案
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ダンスと肉体強化の練習は毎日のように続いていた。雪が深く積もるようになったので庭に散歩に行けない分、ダンスで身体を動かすのは運動不足の解消にもなる。基礎のステップは習得して、わたくしはダンスが上達して来ていた。
肉体強化の魔法を習得するにあたっても、身体を動かすことは大事だとエロラ先生は言う。
「魔法で強化したとしても基本はアイラちゃんの身体だから、動かし方や力の入れ方を知らないと、強化した腕力をうまく使いこなすことができない」
「わたくし、運動が苦手なのだと思っていました。ダンスを始めて、身体を動かすことが楽しいです」
「アイラちゃんは畑仕事で身体を使っているから、基礎の力はあったのだと思うよ。それをダンスが引き出した形になるかな」
エロラ先生からもお墨付きをいただいてわたくしはとても誇らしかった。最近はバイオリンの演奏者が来てくれて、その音楽に合わせてわたくしとエロラ先生は踊っている。
「カールロと踊るのは初めてですね」
「スティーナ、無理をしないで」
「体力を戻したいのですよ。少しは運動をしないと」
練習にはカールロ様とスティーナ様も加わっている。マウリ様はミルヴァ様と踊っているが、わたくしの方が気になるのかチラチラ見ていて、ミルヴァ様が唇を尖らせている。
「まー、わたくしとおどっているのよ! わたくしをみて! わたくしのあしをまたふんだじゃない!」
「だってぇ、アイラさまがエロラせんせいとおどってるんだもん」
「もう! わたくしだって、クリスさまとおどりたいわよ」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、マウリ様から手を放してミルヴァ様がふくれっ面で部屋の端に行ってしまう。大根マンドラゴラのダイコンさんと踊っていた人参マンドラゴラのニンジンさんを捕まえて、抱き締めるミルヴァ様。
「ご、ごめんなさい、みー……。わたし、アイラさまのことがきになって……」
「まーはアイラさまとおどればいいんだわ!」
喧嘩腰になっているミルヴァ様を止めようとわたくしがエロラ先生の手を放すと、エロラ先生がミルヴァ様の前に出て手を差し伸べていた。
「ミルヴァちゃん、私と踊ってみるかい?」
「え? わたくしとおどってくれるの?」
「アイラちゃんはステップをほとんど覚えたから、マウリくんと踊ってみたらどうかな?」
エロラ先生の手を取ってうっとりしているミルヴァ様に安心して、マウリ様がわたくしに手を差し出す。
「アイラさま、おどってください」
「はい、喜んで」
マウリ様の手を取って踊り出すと、まだステップを完全に覚えていないマウリ様に振り回されそうになることはあるが、それもまた楽しい。何度も踊っているとマウリ様もステップを覚えて来た。
「ここでターンをするんですよ」
「うん、ターンだね」
わたくしがマウリ様をリードしながら踊れるなんてダンスを始めた当初は考えもしなかったことだった。踊っていると体格差はあるけれどそれなりに様にはなってくる。わたくしとマウリ様が踊っているのを見て、カールロ様が提案した。
「新年のパーティーでは演奏者を呼んでダンスを踊ろうか」
「え!? おとうさま、いやだ!」
即座に反対するマウリ様の頬が膨れているのに、わたくしはダンスを止めてマウリ様の話を聞く。
「ぶとうかいは、いろんなひとがダンスにさそうんでしょう? アイラさまがだれかにさそわれたら、わたし、ぜったいいや!」
ほっぺたをぷっくりと膨らませて反対するマウリ様に、スティーナ様が微笑んで膝を折って視線を合わせる。
「マウリ、あなたが誘えばいいのですよ」
「わたし、アイラさまをダンスにさそっていいの?」
「あなたはヘルレヴィ家の後継者にしてドラゴンの本性を持つ子です。あなたがアイラ様を誘えば、誰もアイラ様に近付かないでしょう」
スティーナ様の言葉に膨れていたマウリ様のほっぺたが見る見るうちに元に戻って、林檎色に紅潮してくる。
「わたし、アイラさまをさそう! アイラさまとおどる!」
喜んで納得しているマウリ様に、エロラ先生と踊っているミルヴァ様が不満そうな顔になっている。マウリ様はわたくしを誘えるが、新年のパーティーではラント領もパーティーを開くので、クリスティアンは来られなくて、ミルヴァ様はクリスティアンと踊れないのが嫌なのだろう。
「わたくしのパートナーは、だぁれ?」
不機嫌な表情で告げるミルヴァ様に、立候補してくれたのはハンネス様だった。
「ミルヴァ、クリスティアン様とはアイラ様のお誕生日に来られたときや、ミルヴァとマウリのお誕生日に踊れば良いでしょう。それまでは、私で我慢してくれませんか?」
「にいさまなら、いいわ。エロラせんせい、わたくし、にいさまにダンスをおしえてあげてくる」
膨らみかけていたほっぺたを元に戻してミルヴァ様がエロラ先生の手を離れてハンネス様の元に駆けていく。ハンネス様と手を取り合って踊るミルヴァ様はステップも覚えてとても上手だった。
体格差があってもダンスを踊ることができる。
そのことはわたくしにとって小さな心の変化をもたらした。それに気付いたのはエロラ先生だった。
「アイラちゃんは、ジュニア・プロムもプロムも不参加のつもりでいたんだろう?」
「はい、マウリ様がまだお小さいので、他のパートナーを選ぶつもりはなかったんです」
「マウリくんは踊れる。それをちゃんと新年のパーティーで示してくれると思うよ」
マウリ様が踊れるのならば年齢など関係ない。マウリ様が行くと言ってくれればわたくしはジュニア・プロムにもプロムにもマウリ様を誘う気でいた。マウリ様の年齢のことで他のひとたちに何か言われるかもしれないが、ジュニア・プロムにもプロムにも、パートナーとして参加するのは下級生や学校外のひとでもいいとはっきり言われているし、年齢制限もなかった。
新年のパーティーでマウリ様が踊れるようならば、ジュニア・プロムの頃にはマウリ様はもっと大きくなってしっかりと踊れるようになっているだろう。新年のパーティーがわたくしは楽しみでならなかった。
浮かれているわたくしやマウリ様やミルヴァ様を他所に、一人取り残されて非常に不満な相手がいた。
フローラ様だ。
午前中の勉強が終わって、昼食を終えてダンスの練習をするのだが、その時間フローラ様はどうしても眠くなってしまってお昼寝をしている。眠っている間に全てが決まっていて、フローラ様は大いに面白くなかったようだ。
「はーにぃに、ねぇねとおどる。わたくち、はーにぃにとおどりたい」
「フローラにダンスはまだ早いですよ」
「わたくち、おどりたい!」
完全に拗ねて涙目になって人参マンドラゴラのジンちゃんを抱き締めるフローラ様に、ヨハンナ様もサロモン先生も慰める言葉がないようだ。年齢が小さいことを理由に踊れないのだと言ってしまうのは簡単だが、フローラ様はハンネス様のことが大好きで、眠っている間にミルヴァ様にハンネス様を取られてしまったような気持ちになっているのだろう。
どう声をかければいいものかわたくしが悩んでいる間に、ミルヴァ様がフローラ様の前に出た。
「フローラ、わたくしと、こうたいでおどりましょう」
「わたくち、はーにぃにとおどれる?」
「わたくしはにいさまをひとりじめしたりしないわ。フローラもおどるのよ」
「わたくち、おどる! ねぇね、あいがちょ!」
ミルヴァ様が譲ることによって事態は丸く収まった。しかし、問題はフローラ様が踊れるかどうかだ。
わたくしたちが練習しているのは男女二人で組むワルツだった。フローラ様は小さすぎてハンネス様と踊ることが難しい。
「円舞を踊りましょう」
そこに助け舟を出してくれたのはヨハンナ様だった。
「全員で手を繋いで円になるのです。それで踊ればいいのではないでしょうか」
サロモン先生が踊り方を教えてくれる。
ハンネス様とフローラ様が手を繋ぐと、人参マンドラゴラのジンちゃんと蕪マンドラゴラのローランも加わる。大根マンドラゴラのダイコンさんとニンジンマンドラゴラのニンジンさんに導かれて、マウリ様とミルヴァ様も円に加わった。
子どもたちとマンドラゴラの円舞が始まる。
ぐるぐると回りながら、途中で中央に集まったり、外に広がったりする円舞は、フローラ様でも踊ることができた。可愛いお尻を振り振り踊っているフローラ様に、ヨハンナ様は笑み崩れて、サロモン先生も若干微笑んでいるような気がする。
「わたくち、おどれる! はーにぃにと、ジンたんとおどれる!」
仲間外れにされなかったことでフローラ様も満足して喜んで踊っていた。
新年のパーティーのダンスは、ワルツと円舞の二種類になりそうだ。
肉体強化の魔法を習得するにあたっても、身体を動かすことは大事だとエロラ先生は言う。
「魔法で強化したとしても基本はアイラちゃんの身体だから、動かし方や力の入れ方を知らないと、強化した腕力をうまく使いこなすことができない」
「わたくし、運動が苦手なのだと思っていました。ダンスを始めて、身体を動かすことが楽しいです」
「アイラちゃんは畑仕事で身体を使っているから、基礎の力はあったのだと思うよ。それをダンスが引き出した形になるかな」
エロラ先生からもお墨付きをいただいてわたくしはとても誇らしかった。最近はバイオリンの演奏者が来てくれて、その音楽に合わせてわたくしとエロラ先生は踊っている。
「カールロと踊るのは初めてですね」
「スティーナ、無理をしないで」
「体力を戻したいのですよ。少しは運動をしないと」
練習にはカールロ様とスティーナ様も加わっている。マウリ様はミルヴァ様と踊っているが、わたくしの方が気になるのかチラチラ見ていて、ミルヴァ様が唇を尖らせている。
「まー、わたくしとおどっているのよ! わたくしをみて! わたくしのあしをまたふんだじゃない!」
「だってぇ、アイラさまがエロラせんせいとおどってるんだもん」
「もう! わたくしだって、クリスさまとおどりたいわよ」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、マウリ様から手を放してミルヴァ様がふくれっ面で部屋の端に行ってしまう。大根マンドラゴラのダイコンさんと踊っていた人参マンドラゴラのニンジンさんを捕まえて、抱き締めるミルヴァ様。
「ご、ごめんなさい、みー……。わたし、アイラさまのことがきになって……」
「まーはアイラさまとおどればいいんだわ!」
喧嘩腰になっているミルヴァ様を止めようとわたくしがエロラ先生の手を放すと、エロラ先生がミルヴァ様の前に出て手を差し伸べていた。
「ミルヴァちゃん、私と踊ってみるかい?」
「え? わたくしとおどってくれるの?」
「アイラちゃんはステップをほとんど覚えたから、マウリくんと踊ってみたらどうかな?」
エロラ先生の手を取ってうっとりしているミルヴァ様に安心して、マウリ様がわたくしに手を差し出す。
「アイラさま、おどってください」
「はい、喜んで」
マウリ様の手を取って踊り出すと、まだステップを完全に覚えていないマウリ様に振り回されそうになることはあるが、それもまた楽しい。何度も踊っているとマウリ様もステップを覚えて来た。
「ここでターンをするんですよ」
「うん、ターンだね」
わたくしがマウリ様をリードしながら踊れるなんてダンスを始めた当初は考えもしなかったことだった。踊っていると体格差はあるけれどそれなりに様にはなってくる。わたくしとマウリ様が踊っているのを見て、カールロ様が提案した。
「新年のパーティーでは演奏者を呼んでダンスを踊ろうか」
「え!? おとうさま、いやだ!」
即座に反対するマウリ様の頬が膨れているのに、わたくしはダンスを止めてマウリ様の話を聞く。
「ぶとうかいは、いろんなひとがダンスにさそうんでしょう? アイラさまがだれかにさそわれたら、わたし、ぜったいいや!」
ほっぺたをぷっくりと膨らませて反対するマウリ様に、スティーナ様が微笑んで膝を折って視線を合わせる。
「マウリ、あなたが誘えばいいのですよ」
「わたし、アイラさまをダンスにさそっていいの?」
「あなたはヘルレヴィ家の後継者にしてドラゴンの本性を持つ子です。あなたがアイラ様を誘えば、誰もアイラ様に近付かないでしょう」
スティーナ様の言葉に膨れていたマウリ様のほっぺたが見る見るうちに元に戻って、林檎色に紅潮してくる。
「わたし、アイラさまをさそう! アイラさまとおどる!」
喜んで納得しているマウリ様に、エロラ先生と踊っているミルヴァ様が不満そうな顔になっている。マウリ様はわたくしを誘えるが、新年のパーティーではラント領もパーティーを開くので、クリスティアンは来られなくて、ミルヴァ様はクリスティアンと踊れないのが嫌なのだろう。
「わたくしのパートナーは、だぁれ?」
不機嫌な表情で告げるミルヴァ様に、立候補してくれたのはハンネス様だった。
「ミルヴァ、クリスティアン様とはアイラ様のお誕生日に来られたときや、ミルヴァとマウリのお誕生日に踊れば良いでしょう。それまでは、私で我慢してくれませんか?」
「にいさまなら、いいわ。エロラせんせい、わたくし、にいさまにダンスをおしえてあげてくる」
膨らみかけていたほっぺたを元に戻してミルヴァ様がエロラ先生の手を離れてハンネス様の元に駆けていく。ハンネス様と手を取り合って踊るミルヴァ様はステップも覚えてとても上手だった。
体格差があってもダンスを踊ることができる。
そのことはわたくしにとって小さな心の変化をもたらした。それに気付いたのはエロラ先生だった。
「アイラちゃんは、ジュニア・プロムもプロムも不参加のつもりでいたんだろう?」
「はい、マウリ様がまだお小さいので、他のパートナーを選ぶつもりはなかったんです」
「マウリくんは踊れる。それをちゃんと新年のパーティーで示してくれると思うよ」
マウリ様が踊れるのならば年齢など関係ない。マウリ様が行くと言ってくれればわたくしはジュニア・プロムにもプロムにもマウリ様を誘う気でいた。マウリ様の年齢のことで他のひとたちに何か言われるかもしれないが、ジュニア・プロムにもプロムにも、パートナーとして参加するのは下級生や学校外のひとでもいいとはっきり言われているし、年齢制限もなかった。
新年のパーティーでマウリ様が踊れるようならば、ジュニア・プロムの頃にはマウリ様はもっと大きくなってしっかりと踊れるようになっているだろう。新年のパーティーがわたくしは楽しみでならなかった。
浮かれているわたくしやマウリ様やミルヴァ様を他所に、一人取り残されて非常に不満な相手がいた。
フローラ様だ。
午前中の勉強が終わって、昼食を終えてダンスの練習をするのだが、その時間フローラ様はどうしても眠くなってしまってお昼寝をしている。眠っている間に全てが決まっていて、フローラ様は大いに面白くなかったようだ。
「はーにぃに、ねぇねとおどる。わたくち、はーにぃにとおどりたい」
「フローラにダンスはまだ早いですよ」
「わたくち、おどりたい!」
完全に拗ねて涙目になって人参マンドラゴラのジンちゃんを抱き締めるフローラ様に、ヨハンナ様もサロモン先生も慰める言葉がないようだ。年齢が小さいことを理由に踊れないのだと言ってしまうのは簡単だが、フローラ様はハンネス様のことが大好きで、眠っている間にミルヴァ様にハンネス様を取られてしまったような気持ちになっているのだろう。
どう声をかければいいものかわたくしが悩んでいる間に、ミルヴァ様がフローラ様の前に出た。
「フローラ、わたくしと、こうたいでおどりましょう」
「わたくち、はーにぃにとおどれる?」
「わたくしはにいさまをひとりじめしたりしないわ。フローラもおどるのよ」
「わたくち、おどる! ねぇね、あいがちょ!」
ミルヴァ様が譲ることによって事態は丸く収まった。しかし、問題はフローラ様が踊れるかどうかだ。
わたくしたちが練習しているのは男女二人で組むワルツだった。フローラ様は小さすぎてハンネス様と踊ることが難しい。
「円舞を踊りましょう」
そこに助け舟を出してくれたのはヨハンナ様だった。
「全員で手を繋いで円になるのです。それで踊ればいいのではないでしょうか」
サロモン先生が踊り方を教えてくれる。
ハンネス様とフローラ様が手を繋ぐと、人参マンドラゴラのジンちゃんと蕪マンドラゴラのローランも加わる。大根マンドラゴラのダイコンさんとニンジンマンドラゴラのニンジンさんに導かれて、マウリ様とミルヴァ様も円に加わった。
子どもたちとマンドラゴラの円舞が始まる。
ぐるぐると回りながら、途中で中央に集まったり、外に広がったりする円舞は、フローラ様でも踊ることができた。可愛いお尻を振り振り踊っているフローラ様に、ヨハンナ様は笑み崩れて、サロモン先生も若干微笑んでいるような気がする。
「わたくち、おどれる! はーにぃにと、ジンたんとおどれる!」
仲間外れにされなかったことでフローラ様も満足して喜んで踊っていた。
新年のパーティーのダンスは、ワルツと円舞の二種類になりそうだ。
応援ありがとうございます!
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