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五章 増える家族と高等学校の四年目

4.合同授業の提案

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 ハンネス様は馬車で高等学校に通うが、わたくしは移転の魔法で高等学校に通う。ハンネス様と手を繋いで連れて行ってもよかったのだが、ハンネス様の方から遠慮されたのだ。

「マウリ様が嫉妬してしまうかもしれませんし、私は馬車に乗せてもらえるだけでも嬉しいので大丈夫です」

 わたくしとハンネス様が同じ馬車で高等学校に行くのを考えるだけでやきもちを妬いてしまうマウリ様のことを考えると、ハンネス様の言うとおりにした方がいい気がした。やきもちを妬くマウリ様も可愛いので、マウリ様の気持ちは大事にしたいと思うし、ハンネス様も兄として弟を大事にしたいと思っているのが伝わってくる。
 優しいハンネス様という兄がいてマウリ様は本当に幸せだと思う。
 サンルームの前の指標に移転の魔法で出ると、渡り廊下の空気に汗が滲んだ。秋になっているとはいえ、まだ暑さは少し残っていた。畑仕事の後は汗びっしょりになっているので、シャワーを浴びて着替えているのだが、高等学校に着くとまた汗をかいてしまう。
 サンルームのドアを押し開けて中に入ると涼しい風が吹いていた。汗が引く感覚にわたくしはホッと息を吐く。サンルームの中にはエリーサ様とエロラ先生がいて、観葉植物の間を二人で話しながら歩いていた。

「アイラちゃん、おはよう!」
「おはようございます、アイラ様」

 声をかけにくくて、お似合いの二人の歩く姿に見惚れていると、エロラ先生とエリーサ様の方からわたくしに挨拶してくれる。わたくしも慌てて頭を下げた。

「おはようございます、エロラ先生、エリーサ様」

 今日は相談があって来たのだとわたくしは話しを切り出す。

「オスカリ・ハールス先生という方をご存じですか?」

 ハールス先生の名前を出すと、エロラ先生とエリーサ様が反応する。

「オスカリ? 彼が何か?」
「メルの幼馴染で、わたくしも可愛がっていただきましたわ」

 ハールス先生とエロラ先生とエリーサ様はやはり知り合いだったようだ。

「ラント領で弟のクリスティアンが飛び級をして高等学校に入学したんです。魔力がなくても魔法学を学ぶことは無駄ではないと主張して、魔法学をハールス先生から学ぶことになりました」
「オスカリが、アイラちゃんの弟をね。ちょっと頭の固い奴だけど、研究熱心だから良い教師になると思うよ」
「オスカリ様がアイラ様の弟君の教師だなんて、繋がりを感じますね」

 エリーサ様が小さな頃にはエロラ先生とハールス先生と南の森で仲良く暮らしていたのだとエロラ先生とエリーサ様は教えてくれた。

「みんな、メルとオスカリ様が結婚すると思っていたのです」
「私とオスカリはそういう関係じゃなくて、ただのよき友人だったのにね」
「それで、オスカリ様の祖父の長老のような存在の方が、メルとわたくしが恋仲と知って、大反対をしました……」

 そのせいでハールス先生はエロラ先生とエリーサ様に負い目を感じて少し距離を置いていたのだという。

「自分のせいでわたくしたちが百年も離れていなければいけないと責任を感じてしまったようなんです」
「私はあの糞爺……いや、言葉が悪かったな、頭の固い爺さんのせいで、オスカリのせいだとは思ってないんだがな」

 話を聞いていると、ハールス先生とエロラ先生とエリーサ様の間には、今は少し溝のようなものができているようだった。わたくしの提案がそれを埋められるのではないかと、わたくしは口を開けた。

「調合室の設備さえ整っていれば、魔力のないものでも魔力を注ぎ込まない魔法薬ならば作れるのではないかと思うのです」

 魔法の火を使うだけでも魔法薬が調合できるのは間違いない。設備さえ整えばクリスティアンでも調合ができるのではないかという提案に、エロラ先生もエリーサ様も興味津々だった。

「確かに、魔法の火が点せる設備を作れば魔法薬は魔力がないものでも、簡単なものなら作れるだろうね」
「面白い試みだと思います。魔法がこの大陸から消えかけている今、魔力がないのに魔法に関して勉強しようという生徒はこれまでいなかったのではないでしょうか。魔力のないものでも魔法薬が調合できる前例が出れば、人々の気持ちにも変化が出るでしょう」

 通常のひとには手の届きにくい魔法薬が、設備さえ整えれば簡単なものならば誰でも作れるとなれば、ずっと人々にとって身近なものになるだろう。それはこの国の医学を支える柱になるかもしれない。

「オスカリと連絡を取ろう!」
「ラント領の高等学校にも調合室を作りましょう、メル!」
「オスカリともずっと話がしたかった。いい機会だ」

 エロラ先生とエリーサ様はやる気になっている。このことがハールス先生が責任を感じてしまってエロラ先生とエリーサ様と距離を置いたことに関して、これからまた仲良くできるきっかけになればいい。
 わたくしはそれを強く感じていた。
 エロラ先生とエリーサ様は早速ハールス先生に手紙を書いているようだった。今日の授業は相談だけで終わってしまいそうだったけれど、ラント領に魔法学を学ぶ設備が急き上がるのならばそういう日があってもいいと思う。

「アイラちゃん、ありがとう」
「わたくしもオスカリ様に関しては、ずっと気にしていました。連絡を取る機会を与えてくださってありがとうございます」

 感謝されてしまってわたくしは恐縮する。

「クリスティアンのためでもありますし、この国のためにもなります」

 調合室の設備を整えるには魔法具職人のエリーサ様の力が必要不可欠だろう。逆にエリーサ様が調合室の内装を整えて、エロラ先生が調合室の空間を広げて作り出せば、二人だけで調合室の設置は可能なのだ。

「ハールス先生はどんな魔法使いなのですか?」
「神聖魔法を得意としていたね。それ以外にも、ものすごい研究者気質で、古代語の本を読み漁っていたよ」
「神聖魔法!」

 わたくしが一番習いたい魔法だと気付いたが、ハールス先生はラント領の教師なのだと諦めかけていると、エロラ先生が「そうだ」と声を上げた。

「魔法学の授業を合同にすればいい。私もエリーサもクリスティアンくんに教えられるし、アイラちゃんはオスカリに教えてもらえる」
「え!? そんなことができるんですか!?」
「ラント領は魔法学を教える設備が整っていないだろう。オスカリもそれは困っているはずだ」
「毎回、日時を合わせて、授業の時間に移転の魔法でこちらのサンルームに来ていただければ、調合室も使えますし、アイラ様に教えている様子も見ることができて、クリスティアン様の勉強にもなると思いますわ」

 ラント領とヘルレヴィ領で離れているのでわたくしがクリスティアンと一緒に授業を受けるようなことはないのだと、わたくしは完全に思い込んでいた。それがエロラ先生とエリーサ様の提案によって、実現しようとしている。

「クリスティアンと一緒に授業を受けられる……」
「オスカリは優秀な魔法使いだし、研究者でもある。学ぶことはたくさんあると思うよ」
「ありがとうございます、そうなったらとても嬉しいです」

 クリスティアンの魔法学の先生となるハールス先生は、わたくしの神聖魔法の先生にもなってくれるかもしれない。まだエロラ先生とエリーサ様が提案している状態で確定ではないのだが、その可能性を見ることができてわたくしはとても嬉しかった。

「神聖魔法は私もエリーサも専門じゃないからどうしようとは思っていたんだよね」
「オスカリ様とまた仲良くできますし、素晴らしいことだと思います。お礼を言うのはこちらの方ですよ」

 ハールス先生との合同授業に関して、エロラ先生もエリーサ様も意欲に溢れていた。
 四年生の魔法学はわたくし一人ではなくなりそうだ。
 新しく来る生徒がクリスティアンであることと、新しく神聖魔法を教えてくださるハールス先生が来てくださるかもしれないということに喜びと希望を抱いていた。
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