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十三章 研究院卒業とキノコブタ

14.歌劇団の結果と、ライネ様のお誕生日

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 初めての試みの後はその結果を調べて、次の公演に活かさなければいけない。それが歌劇団というものの在り方だ。
 わたくしはイルミ様と一緒にアルベルト様とトゥーレ様のお屋敷を訪ねていた。お屋敷の中が簡素になっているような気がして周囲を見渡していると、トゥーレ様が微笑む。

「気付かれましたか? 必要最低限のものがあれば十分なので、今、物を減らしているところなのですよ」
「父は贅沢好きでソファもテーブルも一流のものを集めていた。そんなものは必要ないとトゥーレ様から言われて私も気付いたのです。幼い頃からずっと父の感覚で生きて来たから、気付きもしなかった」
「贅沢品を売ったお金は、少しでも領民にお返しできるようにしようと思っているのですよ」

 領民への医療や教育を無料にしているおかげで、少しずつ辺境伯領も領民が豊かになってきている。ただ、お金というものは無限に湧いてくるものではないので、どこかで作らねばならない。

「税収が安定すれば今のままでもやっていけるのですが、まだしばらくの間は難しいでしょう」
「屋敷のものを売ってでも、領民に尽くすトゥーレ様のお心に私は感動しているのです」

 屋敷の中は質素になっていっても、領民が潤えばそれでいい。それは神官として厳しい修行も耐え抜いたトゥーレ様らしい考えだった。温かくはあるが薄いお茶を飲んで、わたくしは本題に入る。

「闘技場での歌劇団の公演はどうだったでしょう? アンケート設置もお願いしていたのですが、回答がありましたか?」
「アンケートはほとんど回答はありませんでしたが、とても評判がよかったですよ。チケット代を払っても見に来る領民はやはりいました」
「安いチケット代でしたが、それでも収容人数と公演期間を考えるとかなりの収入になりました。これは歌劇団にお支払いすればいいでしょうか?」
「今回は初めての試みだったので、辺境伯領で受け取っていてください。辺境伯領の運営も苦しいようですから」

 イルミ様とわたくしとアルベルト様とトゥーレ様で話していると、辺境伯領の様子が浮かんでくるようだ。識字率の低さからアンケートの回答はほとんど行われなかったが、それでも領民は歌劇団の公演を喜んで足を運んでくれていた。
 毎日闘技場が満員になるくらいにお客様が来ていたことを聞くと、わたくしたちもやった甲斐があったと喜んだ。

「公演の最後には、辺境伯から伝えたいメッセージや、新しい法のことを話させてもらいました」
「ポスターや文書では伝わらないことも伝える場があってとてもありがたかったです」

 アルベルト様とトゥーレ様の言葉をわたくしはメモしておく。受け取った数枚のアンケートと一緒にヨウシア様に渡すつもりだった。
 ラント領へはわたくし一人で出かけた。両親はわたくしを歓迎してくれた。

「音楽堂は毎日満員で、チケットが足りないくらいでしたよ」
「領民もとても喜んでいて、何日も通うものもいたらしい」
「アンケートもこの通り、大量に回答がされていますわ」

 歌劇団のアンケートの束も、ラント領は分厚く、両親はそれを纏めてくれていた。

「歌劇団は人気だったのですね」
「これまで音楽会しか開いてなかった音楽堂が、久しぶりに満員になるのを見ました」
「音楽会には飽きていたところがあるからなぁ」
「春にも公演があるのでしょう? とても楽しみにしています」

 両親も歌劇団の公演を見に行ったようで、春の公演を楽しみにしてくれていた。
 辺境伯領ではアンケートの数が少なくて、立体映像は見やすかったか、音は聞き取りやすかったかなど調べることができないが、ラント領のアンケートは統計を取るのに十分の数があった。
 ヨウシア様とヘルミちゃんに渡しに行くととても感謝される。

「これを元にもっといい公演を展開させていくよ」
「アイラ様、ありがとうございました」

 お礼を言われてわたくしは自分の手柄ではないが、一つのことをやり遂げたような気持になっていた。
 歌劇団の千秋楽が終わると季節は冬になる。雪が積もるようになって、毎日やってくるフローラ様とライネ様とティーア様の服装も暖かなものに変わって来た。子ども部屋にはストーブが置かれるし、子どもたちの人数が多いので暖かいのだが、それでも外に出ると凍えるような寒さがある。
 冬休みに入っていたので、その日はハンネス様も来ていた。

「私、お誕生日に何もいらないから、お願いがあるんだ」

 お誕生日の近いライネ様が話をしている。

「ヘルレヴィ家にみんなで泊まったとき、とても楽しかったのを覚えているよ。またあんな風に泊まれないかな?」
「カールロ様とスティーナ様が辺境伯領に行ったときですね」
「クリスティアン様もいましたね」

 わたくしとハンネス様が話していると、マウリ様が「あ!」と声を上げた。

「父上と母上は、私たちがいたから、二人きりで旅行をしたこともないんじゃないかな」
「結婚したときにはマウリ様とミルヴァ様がいて、わたくしもハンネス様もいましたね」
「結婚したひとは、二人きりで新婚旅行っていうのに行くって聞いたよ。父上と母上は新婚旅行も行ってないんじゃないのかな」
「それは、私の父上と母上も同じですね。結婚したときには私とフローラがいました」

 マウリ様の言葉にハンネス様も気付いたようだ。

「冬場の新婚旅行はなんだか寂しい感じがするから、夏にでも新婚旅行をプレゼントできないかな?」
「その間、ライネの望んだようにみんなでお泊りをすればいいですね」
「私のお誕生日お祝い、叶う?」
「少し時期がずれますがいいですか? 夏になりますよ」
「うん、いいよ!」

 ハンネス様に元気よく答えたライネ様に、ハンネス様が微笑んでライネ様の髪を撫でている。ライネ様はサロモン先生によく似た灰色の髪に黄色の目だが、顔立ちはどこかハンネス様とも似ていた。

「ずんび! おちがえ!」
「ポーチ、いれなきゃ!」

 ポーチを持ってクローゼットに向かっているサラ様とティーア様をミルヴァ様が止めている。

「今日じゃないのよ?」
「ちやう?」
「まちやった?」
「もっと先だし、ティーアがヘルレヴィ家に泊まって、サラはいつも通りにヘルレヴィ家にいるのよ」
「ティーたん、くゆ」
「さーたん、ここ」

 納得したのか分からないがサラ様とティーア様はポーチを閉めてまた遊び始めた。サラ様とティーア様の遊び相手は蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶの他に、キノコブタのキノとノコも加わった。キノとノコを追い駆けているサラ様とティーア様は楽しそうである。

「毒キノコをキノとノコに植えるとしたら、サラとティーアには言い聞かせないと」
「食べないように注意しないといけませんね」

 フローラ様とハンネス様が真剣な表情で話し合っていた。
 ライネ様のお願いを夏まで伸ばすのは可哀想と判断したのか、ハンネス様はサロモン先生とヨハンナ様に許可を取って、年越しの日にヘルレヴィ家に泊まることを決めていた。
 お誕生日にはライネ様はそのことばかり話していた。

「はー兄上が父上と母上に話してくれて、年越しの日はお泊りができるようになったんだよ」
「らいちゃんとずっと一緒なんてすてき!」
「だーちゃん、いっぱいお喋りしようね」
「らいちゃん、私のへやに泊まっていいよ」

 仲良く話しているライネ様とダーヴィド様はとても睦まじい。婚約者同士で7歳と8歳で既にこんなに仲睦まじいのだったら、大きくなったらどうなるのだろう。

「姉上、わたくし、姉上のお部屋にお泊りしていい?」
「いいわよ、フローラ」
「ふー姉上とみー姉上が一緒に寝るなら、わたくしも一緒がいいわ」
「エミリアもわたくしの部屋に泊まる?」

 ミルヴァ様とフローラ様とエミリア様は同じ部屋に泊まることになりそうだ。
 わたくしがマウリ様の方を見ると、マウリ様がちょっと残念そうにしている。

「アイラ様と二人きりにはなれないね」

 年越しの夜に子ども部屋でわたくしとマウリ様の時間は取れないかもしれない。それでも喜んでいるライネ様の気持ちは尊重したかったので、わたくしは仕方がないと思っていた。
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