Calling me,Kiss me

秋月真鳥

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本編

22.記者会見

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 フランスから帰って五日間の休みがあって、その後で開かれた記者会見の日、アリスターはリシャールのために仕事を休んでくれた。
 警備員の帽子を被って、警備員の服を着て、会場の警備員に紛れ込んだアリスターをリシャールはすぐに見つけることができたが、それはリシャールがアリスターをものすごく気にしているからであって、他の人間は全く気付かないであろうことが予測できた。
 警備員の服を着たアリスターの背中がちらりとでも見えたら、リシャールはそれがアリスターだと確信できる。アリスターの脚がちらりとせも見えたら、リシャールはそれがアリスターだと確信できる。

 優しくて頼りになって格好いいアリスター。
 いつでもリシャールのそばにいて支えてくれて、リシャールがどれだけ格好悪いところを見せても見捨てないでくれて、愛してくれる。
 結婚もして、クレイムもして、リシャールとアリスターは正式なパートナーとなっていたし、夫夫にもなっていたので、リシャールは安心して記者会見に臨むことができた。

 記者会見ではまずリシャールが自分の言葉で話させてもらった。

「交際している方とはこの度正式に結婚しました。いつも応援してくださっているファンの方々にはこのことをご報告させていただきます」

 カメラのフラッシュがたかれて、リシャールが写される。

「交際を明らかにするきっかけとなったのは、私に不本意な形で私の自宅や私の大事なひとを写真に撮って広めようとする動きがあったからです。その会社については、事務所ともよく話し合った結果、今後お仕事はお受けしませんし、写真の一枚、名前も載せようとしたら訴えるということをお伝えしておきます。これは事務所のモデル全員に了承を取ってあります。私の所属する事務所のモデル、全員がその会社からは仕事も受けませんし、写真も名前も載せられた場合には訴える構えでいます」

 リシャールもDomなので、怒りを覚えると多少は威嚇のオーラであるグレアが漏れてしまう。会場にはアリスターもいるのでできる限り怖がらせたくなかったし、Subの記者も関係者もいるだろうから、必死にグレアを放たないように抑制する。
 アリスターと初めて会ったときにも、ストーカーに怒りを覚えるあまりグレアが漏れてしまってアリスターには申し訳ないことをした。

「今後、結婚生活や相手については取材も一切受け付けません。ただ、私に関することでしたら、答えられる範囲で答えようと思っています。質問がある方は挙手の上、質問をお願いします」

 アリスターとリシャールの平穏を壊そうとした会社については絶対に許さない。
 事務所のお偉いさんに話を通して、スクープ雑誌を発行している親会社が少しでも関わってくる仕事は全部断るし、その会社が出しているどの雑誌、どの発行物にもリシャール及び事務所のモデル全員の写真も名前も掲載させないという処置をとることでリシャールも納得した。
 リシャール個人の問題ではなく、事務所全体が動いたということに、記者の中からはざわめきが起きていた。

 一人の記者がおずおずと手を上げて質問する。

「リシャール・モンタニエさんは、第二の性ダイナミクスがあるという噂を聞きますが、お相手とはクレイムをされたのですか?」
「第二の性については、私のプライベートな問題なので、お答えできません。ただ、相手とは婚姻届けを出して結婚したことはお伝えしておきます」
「左手の薬指にはまっている指輪はお相手からもらったものでしょうか?」
「そうです。プロポーズされてもらいました」
「プロポーズはお相手からだったんですか!?」
「そうです。私も同じ気持ちだったので喜んでお受けしました」

 次々とされる質問に答えていくと、会場のどよめきが大きくなる。
 リシャールがDomだという噂は以前に付き合っていた相手が広めたようなのだが、プロポーズを相手からされたということはDomではないのではないかと記者たちは思い始めているようだ。
 通常ならばクレイムはDomから申し込んで、Subがそれを受けるか決める。それなのに、アリスターはリシャールに指輪をはめてSubからDomにプロポーズしてくれた。
 それがどれだけ勇気のいることだったか、リシャールにはよく分かる。

 Subは元々本能的にDomに尽くしたい、従いたいと思っている。
 Domは本能的にSubを支配したい、従わせたいと思っている。

 従わされる方の性でありながら、従わす方の性のリシャールに結婚を申し出るだなんて、本能的にも相当葛藤があったはずなのだ。それができないから、クレイムは一般的にDomから申し出るという形になっている。
 それができたということはアリスターは相当強いSubなのではないだろうか。

 もしかするとSwichスイッチの要素があるのかもしれない。
 Swichは相手の第二の性に合わせて、DomとSubを切り替えられるどちらともできる稀有な存在だ。DomとSubが合わせて人口の三割くらいなのに比べて、Swichは非常に少ないと聞いている。

 リシャールもSwichに会ったことはないが、切り替えられるというのはどういう感覚なのだろうと興味はあった。

 記者会見が終わって記者たちが帰り支度をしていると、入口の方で騒ぎが起きていた。
 刃物を持った女性が記者会見会場に入り込もうとしているのだ。

 刃物を振り回しながら近付いてこようとする女性は、アリスターの手によってあっさりと取り押さえられた。
 刃物を奪われて、床の上に組み伏せられてリシャールを見上げる女性に、リシャールはため息をつく。

 母親のように思っていた。
 リシャールが母親を知らないからかもしれないが、年上のマネージャーはリシャールの小さいころからずっとリシャールの面倒を見てくれて、それがべたべたしすぎて気持ち悪いときもあったけれど、リシャールにとっては信頼できる大人は元マネージャーくらいしかいなかったから、母親がいたらこんな感じだったのだろうかと朧げに思っていた。
 それが、リシャールの第二の性が発覚したとたん、目の色を変えてリシャールに迫ってくるようになったのだ。

 心を許していた部分があっただけにそれは本当に気持ち悪かった。

「僕は勘違いしていたんだと思う。僕には両親がそばにいなかったから、近くにいて優しくしてくれる大人に懐くしかなかった。親のように思っていたあなたが、僕を性的に見ていると思ったとき、本当に気持ち悪かった。僕はもう間違わない。あなたのことを、親のように慕っていた気持ちは間違いだった。あなたはただの発情した女で、僕はあなたを愛さない」

 冷たく告げると、アリスターに押さえつけられている女性が暴れ出す。

「あんなによくしてあげたじゃない! あなたのせいで私は婚期も逃して、プレイする相手もいなくなって……あなたは私に報いるべきよ!」
「自分の子どものような年齢の僕に発情するだなんて、本当に気持ち悪い。あなたを一時期でも親のように慕っていた僕が恥ずかしい。僕はあなたのことは忘れるよ。あなたは檻の中で反省するといい」
「いやああああ! 私のリシャールはそんなことを言わない! 私のリシャールは従順ないい子なのよ!」
「僕があなたのものになったことは一度もないよ」

 冷淡に告げたリシャールに、女性の手がアリスターの帽子を跳ね飛ばした。アリスターの真っすぐな金色の髪が露わになって、緑の目も整った顔立ちも見えてしまう。

「こいつのせいで! こいつのせいで、私のリシャールが変わってしまったんだわ! 許さない!」

 持っていた刃物は一つだけではなかったようだ。
 懐からバタフライナイフを取り出して、アリスターに切りかかる女性に、リシャールが駆け寄ろうとした。
 アリスターの胸に突き刺さったと思ったバタフライナイフは、ジャケットを貫通せずに床の上に転がり落ちた。

「平気だ、リシャール。防弾チョッキを着てる」
「よかった、アリスター」

 その間に呼ばれた警察官にストーカーの女性は引きずられていった。
 穴の開いたジャケットに恐る恐る触れて、その下にずっしりと重く頑丈な防弾チョッキがあることにリシャールは安心して涙が出そうだった。

「アリスター、愛してる。君が無事でよかった」
「わざと拘束を緩めて刺させたんだ。未遂だと刑期は短いからな」
「アリスター!?」

 自信満々のアリスターにリシャールは呆れてしまう。
 こんなにも心配したのに、アリスターは自分のことをわざと刺させたのだとあっさりと言ってしまう。

「もうこんな風に自分を犠牲にしないで。アリスターが傷付いたら僕もつらい」
「俺も警察官だし、警察の科学捜査班のラボで働いてるんだぞ?」
「アリスターの仕事は尊重したいけど、仕事をやめて僕に養われてほしい気持ちもある」
「俺をヒモにするつもりか? やめてくれ。仕事して自立した男としてリシャールの夫でいたいんだよ」

 抱き締め合っているリシャールとアリスターに気付いてはいただろうが、リシャールが記者会見ではっきりと宣言していたので、今後リシャールや所属する事務所のモデルの使用禁止と名前も使ってはいけなくなるかもしれないということで、記者たちは誰もリシャールとアリスターの方を見なかった。むしろ、恐ろしいものを感じ取っているようで視線を逸らしていた。

「家が建つまで、僕はホテル暮らしになるけど、アリスターも一緒に暮らしてくれるよね?」
「狭くないのか?」
「僕が狭いホテルに暮らすと思うの?」

 一泊数十万するホテルの最上階のペントハウスを借りるつもりでいるリシャールに、アリスターは想像もついていないのだろう。スクープ雑誌の記事は握り潰したが、写真はインターネットに出回ってしまったようで、リシャールの自宅にいつ過激なファンが押しかけても不思議ではない。ペントハウスを借りるにあたって、事務所からもある程度は補助が出るだろう。
 それだけの価値が自分にはあるとリシャールは自覚していた。
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