魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん

12.遅れた誕生日

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 ダーシャには白い小鳥で伝言を頼んで、アデーラはレオシュを抱っこして、腰のポーチにレオシュの着替えを入れてブランカの家に行った。ブランカは息子であるアデーラがいつ来ても歓迎してくれる。

「レオシュのお誕生日が過ぎていたんだよ、ブランカ母さん」
「それは大変ね」
「私はレオシュのお誕生日を祝ってあげたいんだ」

 ブランカにお願いすると、ブランカはすぐにエリシュカに連絡を取ってくれた。魔法駆動二輪車に乗ったエリシュカが豪奢な金色の髪をなびかせてブランカとエリシュカの家の庭に下り立つ。腰のポーチから出てきたのは艶々の真っ赤な苺だった。

「おいちとう!」
「これをケーキにしてあげるからね。アデーラも手伝いなさい」
「はい、ブランカ母さん! レオシュ、エリシュカ母さんとしばらく遊んでいられる?」
「えーばぁば、のててー!」

 魔法駆動二輪車に乗りたがっているレオシュに、エリシュカはおんぶ紐でレオシュを固定してお散歩に出かける。その間にアデーラはブランカと一緒にキッチンに立った。
 エリシュカは若鶏を丸々一匹買ってきてくれたようだ。若鶏はオーブンで丸焼きにして、スポンジケーキを焼いて、生クリームを泡立てて、苺のショートケーキを作る。
 具材が全部細切れになっているキャベツと玉ねぎと人参とジャガイモと塩豚のポトフを作ると、晩ご飯のご馳走が出来上がった。
 ブランカは作りながらも使い魔の白い小鳥を使ってお客さんを呼んでくれたようだった。

「今日はレオシュのお誕生日なのね! おめでとう……あれ、レオシュは?」
「エリシュカ母さんとお散歩に行っているよ」
「おめでとうをいいたかったの。わたしとブラジェナおねえちゃん、おはなをつんできたの」
「ありがとう、レオシュが戻ったら喜ぶよ」

 アンジェラとディアナがブラジェナとエステルを連れて来てくれていた。アンジェラとディアナからもプレゼントがありそうだ。
 お散歩から帰って来たレオシュはぐっすりと眠っていて、アデーラが受け取るとぱっちりと水色のお目目を開けた。

「まっま、おなかちーた」
「もう少し待ってね。ダーシャが帰ってくるからね」
「だー、まぁだ?」

 お腹を空かせているレオシュを待たせているのは可哀想だが、オムツを替えて着替えさせると、ブラジェナとエステルがレオシュにお花を渡している。

「きえー! かーいー」
「よかったね。ブラジェナ、エステル、ありがとう」
「どういたしまして」
「お誕生日おめでとう」

 お祝いされてレオシュは水色の目をくりくりとさせて、右手の人差し指と左手の人差し指一本ずつを立てて、二を作っていた。

「れー、ふたちゅ!」
「片手で二が作れないから、両手で作ったのかい。レオシュは賢いね」
「れー、かちこい!」
「とっても上手よ」
「れー、じょーじゅ!」

 ディアナとアンジェラからも絶賛されて、レオシュは胸を張る。あまりに背中を反りすぎて後ろにひっくり返ったが、それも可愛いのでよしとする。
 アンジェラとディアナからは特別なお誕生日プレゼントが贈られた。

「ブラジェナとエステルが使ってた三輪車を、レオシュのために改造してみたのよ」
「レオシュ、エリシュカ母さんの魔法駆動二輪を気に入っていたでしょう?」

 エリシュカの魔法駆動二輪車のミニチュアのようになっている三輪車に、レオシュは大興奮だった。

「れーの? えーばぁばといっと?」
「私とお揃いだねぇ」
「やったー! あいがちょ!」

 大喜びで庭で三輪車に乗るレオシュ。まだペダルに足を乗せて漕ぐことができないので、足で動かしているのだが、それでも楽しそうだ。
 三輪車に乗って庭でレオシュが遊んでいると、ダーシャが帰って来た。ダーシャはレオシュのために今日もお土産を買ってきたようだ。

「これはレオシュのグラス。私たちのはこれ。葡萄ジュースを買ってきたから、みんなで飲みましょう?」

 ダーシャが取り出したのは切子で綺麗な模様の付いたガラスのグラスだった。魔法で落としても割れないようにしてある。
 ダーシャが揃ったのでみんなでエリシュカとブランカの家に入って食卓を囲んだ。レオシュのためには子ども用の椅子が用意されている。

「レオシュ、お誕生日おめでとう!」
「これからもいっぱい食べて大きくなってね」
「私たちにも元気な姿を見せるんだよ」
「レオシュ、おめでとう!」
「レオシュ、大きくなってね!」

 グラスを掲げたダーシャの声に、ブランカもエリシュカもエステルもブラジェナもレオシュをお祝いしてくれている。

「まっま、うれちい! れー、みんな、すち!」
「私もレオシュが大好きだよ」
「まっま、いちばんすち!」

 大喜びで小さな切子のグラスを持ち上げるレオシュに、みんながグラスを合わせて乾杯をした。
 若鶏の丸焼きは解体されて、焼くときに出た脂でソースを作ってかけて食べる。腿の身から肉を外して、アデーラはレオシュの口に入れていく。ほっぺたを膨らませて食べるレオシュはとても満足そうだ。ポトフもレオシュに合わせて具材が細切れになっているが、誰も文句は言わなかった。
 最後に出て来た苺のショートケーキに、レオシュが水色の目を輝かせる。

「しゅごーい!」
「お誕生日の歌を歌おうかね」

 レオシュを真ん中に、エリシュカ、ブランカ、アンジェラ、ディアナ、ブラジェナ、エステル、ダーシャ、アデーラが立ち上がって、歌を歌う。女声合唱に混じるアデーラの低い声は少し違和感があったが、それも今は全く気にならなかった。
 長年アデーラは自分が男性として生まれてきたことに疎外感を覚えて来た。男性として生まれて来たのに男性としての性的機能はなくて、アデーラは一生子どもなど持てないものだと思い込んでいたのだ。それが今はレオシュという可愛い息子と縁があって、親子になって、ダーシャとパートナーにもなれて、二人で幸せにレオシュを育てて暮らしている。
 レオシュの存在がアデーラの生活に光を差し込んでくれた。

「レオシュ、大好きだよ。愛してる」
「まっま、あいちてう」

 可愛いつむじにキスをすると、レオシュが嬉しそうに目を細めてアデーラを見上げる。この光景だけでアデーラは泣き出しそうになっていた。 
 遅くなってしまったお誕生日だったが、存分に祝われて、顔中で苺のショートケーキを食べて、レオシュは満腹になって帰り道ではアデーラに抱っこされて眠っていた。

「ダーシャ、私は今、本当に幸せなんだ」
「分かるよ、アデーラ。アデーラの顔が前とは全然違うもの」

 以前はもっと張り詰めて厳しかったアデーラの顔も、レオシュが来てから柔らかくなったとダーシャは言ってくれる。レオシュの存在が愛しくて可愛いことが、アデーラもこんな風に自分が大事に育てられたことを思い出させてくれる。

「ダーシャ、聞いてくれる? 私は獣人の国の国王陛下を試したんだ」

 腕の中で寝息を立てるレオシュを抱き直しながら、森の木々に遮られて月の光もまばらにしか入らない夜道を歩きながら、アデーラは今日の出来事をダーシャに話す。ダーシャは真剣に話を聞いてくれた。

「上の皇子様を助けたいのならば、上の皇子様を私とダーシャの息子にするように言ったんだ」

 お妃は亡くなって、再婚しない限りは獣人の国の国王陛下が次の子どもを持つことはない。それが分かっていながら、アデーラは下の皇子が行方不明の国王陛下に向かって、上の皇子も寄越せと要求した。
 その意味をダーシャが分からないわけがない。

「自分の息子を生き延びさせたければ、手放すしかない。そこまでの覚悟があの国王にあるか、試したかったんだね」
「そうなんだ。レオシュが下の皇子様だとしても、生まれてから一度も顔を見ることがなく放っておいて、上の皇子様もその期間は放っておかれたんだろう。なんだか、私には上の皇子様も哀れに感じられてならないんだ」

 アデーラが語れば、ダーシャが暗い中頷いたのが分かった。

「何があろうと私はアデーラに協力するよ。それがパートナーっていうものだろう」
「ダーシャ、ありがとう」

 お礼を言われてダーシャは照れ臭そうにしていたが、アデーラはダーシャほど頼りになる相手はいないと思っていた。
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