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一章 セラフィナ誕生
10.ラファエルの十二歳の誕生日
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アルベルト様のメイドのクラリッサだったころには、わたくしの行動範囲はそれなりに広かった。
お屋敷中を駆け回っていたし、お使いを頼まれれば町に行くこともあった。
町に行くと学校に通っていたころの同級生が働いている店もあった。学校では友達ではなかった同級生だが、わたくしのことを覚えていたようで話をすることもあった。
セラフィナに生まれ変わってから、わたくしの行動範囲は非常に狭くなった。
まだ一歳なのでどうしようもないのだが、一日の大半を子ども部屋で過ごし、時々庭に出る程度。
退屈ではあるが、わたくしはそれを受け入れていた。
季節は春に移り変わり、わたくしは一歳半になった。
春にはラファエルお兄様のお誕生日がある。
ラファエルお兄様はお誕生日で十二歳になって、秋には学園に通うようになる。
「父上、母上、わたしは誕生日お祝いは何もいりません。セラフィナをわたしの誕生日のお茶会に参加させてください」
ラファエルお兄様は熱心にお父様とお母様に頼んでいた。
「セラフィナはかわいすぎるからなぁ。婚約を求めてくる貴族がいるのだよ」
「公の場に出すには少し早いかもしれません」
「かわいい大好きなセラフィナにこそ、祝ってほしいと思っているのです」
ラファエルお兄様も必死だった。それだけわたくしにお茶会に出席してほしいと思っているのだろう。
わたくしもラファエルお兄様のお誕生日を祝いたい気持ちはあった。
「ママ、パパ、おねちまつ」
一生懸命「お願いします」と言ってみると、お父様とお母様の顔が笑み崩れる。
「セラフィナ、かわいすぎる……」
「セラフィナにまで言われては仕方がありませんね」
わたくしの一言で、わたくしはラファエルお兄様のお誕生日のお茶会に出席できるようになったのだった。
ラファエルお兄様のお誕生日のお茶会にはアルベルト様もユリウス様も参加される。
その他にもたくさんの貴族が参加するのだが、前世でも貴族とはそれほど関りがなかったし、高位貴族などよく知らないので、わたくしは知識がないままにお茶会に出た。
お茶会ではラファエルお兄様は当然のようにわたくしをお膝の上に抱っこしていた。お茶会の主役はラファエルお兄様のはずなのに、わたくしが抱っこされていて構わないのかと考えてしまったが、それはユリウス様もアルベルト様も同じようだった。
「ラファエル殿下、セラフィナ殿下は乳母に預けて、ご挨拶をされた方がいいのではないでしょうか?」
「セラフィナ殿下がおられるので、ラファエル殿下に話しかけにくそうにしている方もおられますよ」
「セラフィナがいることでわたしに話しかけられないなら、それは好都合だ。セラフィナと一緒にいる時間を大事にしてくれない相手など、交友を持ちたくないからね」
ラファエルお兄様は笑顔で言っているが、それでいいのだろうか。
思わず真顔になってしまったわたくしの前に、ストロベリーブロンドに空色の目の少女がやってきた。少女の目はわたくしに釘付けだ。
「アルマンドール公爵家の娘、アンリエットです。お誕生日おめでとうございます、ラファエル殿下。あの、こちらがセラフィナ殿下ですか?」
「ありがとうございます、アンリエット・アルマンドール嬢。わたしの妹のセラフィナです」
「なんてかわいいのでしょう。わたくし、もうすぐ二歳になる妹がおりますの。二歳になってやっとお膝で大人しくしてくれるようになりましたが、セラフィナ殿下はまだ一歳半くらいですよね?」
「そうなのです。セラフィナはとても賢くていい子なのです」
「お顔も皇后陛下そっくりでなんて愛らしいのでしょう。わたくしの妹もとてもかわいいのです。ぜひセラフィナ殿下とお会いできたらと思います」
わたくしの話題で盛り上がっている。
ラファエルお兄様はわたくしを褒められて嬉しそうにしているし、わたくしはアンリエット嬢の妹君が気になっていた。
ルカ様は男の子だったので乱暴だったが、アンリエット嬢の妹君は女の子だし、月齢も半年くらい上なので友達になれるのではないだろうか。
「アンリエット嬢、妹君のお名前は何というのですか?」
「リヴィアですわ」
「リヴィア嬢……セラフィナはわたしと年が離れているので、同年代の友達がいないのです」
「リヴィアもそうなのです。わたくしと年が離れているので、どうしてもわたくしの友人とばかり触れ合うことになって、同年代の友人がいたらいいのにと思っておりました」
「セラフィナとリヴィア嬢を会わせるのはどうでしょう?」
「リヴィアもとても喜びますわ」
兄バカと姉バカの集いになってしまっている気がしたが、ラファエルお兄様はアンリエット嬢を気に入ったようだった。アンリエット嬢は公爵家の出身で、髪色に赤が混じっているので、皇族の血を引いているのだろう。
お父様もラファエルお兄様も髪は燃えるような赤色だ。
「ラファエル殿下、アンリエット嬢と話が弾んでいたようですね」
「アンリエット嬢もかわいい妹君がいるようだ。セラフィナが気に入る子だといいな」
「ルカは酷かったですからね。ルカも早く行儀作法を学んでほしいです」
ため息をつくユリウス様に、ルカ様が悪いのではなく、わたくしが前世の記憶があるから落ち着きすぎているのだとは言えなかった。
「アンリエット嬢ともう少し話をしたいな。セラフィナ、行ってきてもいいかな?」
「あい!」
わたくしは乳母と待っているつもりで、いい子のお返事をすると、ラファエルお兄様はアルベルト様にわたくしを差し出した。
「アルベルト、少しの間、セラフィナを任せてもいいかな?」
「大切にお預かりします」
アルベルト様に抱っこされてわたくしはアルベルト様の顔を間近に見た。アルベルト様は相変わらず顔色が悪かったが、前よりは少しマシになっている気がする。
わたくしが窓の方を指差すと、そっちに連れて行ってくれる。
「アルベルト、ラファエル殿下からセラフィナ殿下をお預かりしたのか」
「はい。セラフィナ殿下はわたしやユリウス殿やラファエル殿下が勉強中に、一緒にいるのでわたしに慣れていると思ったのでしょう」
「ラファエル殿下とはうまくやれているようですね」
「ラファエル殿下はわたしの事情を知っていますから……」
窓際に来たアルベルト様にアルベルト様の両親が話しかけている。
暗い顔になるアルベルト様に、両親が慰めの言葉をかける。
「アルベルトが懐いていたメイドが亡くなってしまったのは不幸な事故だった。アルベルトのせいではない」
「わたしが町に行きたいと我が儘を言わなければ……」
「アルベルト、自分を責めてはいけませんよ。アルベルトを守ってくれたあのメイドは丁重に埋葬しました」
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともないでしょう」
「アルベルト……」
「わたしにはそんな幸福は許されない」
アルベルト様はまだこんなにも苦しんでいる。
わたくしはアルベルト様が襲われたとき、最善の策を取ったと思ったのだが、残されたアルベルト様がこんなにも傷付くとは思っていなかった。
「アルたま、いこいこ」
わたくしがアルベルト様を撫でると、アルベルト様の目が潤んでいる気がした。
こんなことしかできない一歳児のわたくしが悔しい。
「婚約については、そんなに急いで考えなくてもいい」
「時間があなたの心を癒してくれるでしょう。アルベルト、わたくしたちはあなたに幸福になってほしいと思っているのです」
あの事件が起きてからアルベルト様がどのように過ごしてきたかは分からないが、両親はアルベルト様を慰め続けていたようだった。両親の愛がないとかつて嘆いていたアルベルト様。
今はしっかりと両親に愛されている。
わたくしもアルベルト様に幸せになってほしい。
そのためには、アルベルト様がクラリッサであるわたくしを思い出として過去のものにして、未来に目を向けられるようにならなければいけない。
クラリッサは死んでしまったのだ。
わたくしにもそれはどうしようもない。
それでも、アルベルト様に忘れられるのだと思うと、わたくしの中のクラリッサが悲しんでいる気がして、わたくしは胸が痛くなる。
一歳児とは不便なもので、少しでも不快だと体が勝手に泣き出してしまう。
泣き出したわたくしをあやすアルベルト様は一生懸命で、わたくしはアルベルト様に幸せになってほしい気持ちと、クラリッサだったわたくしを忘れてほしくない気持ちの中で揺れていた。
お屋敷中を駆け回っていたし、お使いを頼まれれば町に行くこともあった。
町に行くと学校に通っていたころの同級生が働いている店もあった。学校では友達ではなかった同級生だが、わたくしのことを覚えていたようで話をすることもあった。
セラフィナに生まれ変わってから、わたくしの行動範囲は非常に狭くなった。
まだ一歳なのでどうしようもないのだが、一日の大半を子ども部屋で過ごし、時々庭に出る程度。
退屈ではあるが、わたくしはそれを受け入れていた。
季節は春に移り変わり、わたくしは一歳半になった。
春にはラファエルお兄様のお誕生日がある。
ラファエルお兄様はお誕生日で十二歳になって、秋には学園に通うようになる。
「父上、母上、わたしは誕生日お祝いは何もいりません。セラフィナをわたしの誕生日のお茶会に参加させてください」
ラファエルお兄様は熱心にお父様とお母様に頼んでいた。
「セラフィナはかわいすぎるからなぁ。婚約を求めてくる貴族がいるのだよ」
「公の場に出すには少し早いかもしれません」
「かわいい大好きなセラフィナにこそ、祝ってほしいと思っているのです」
ラファエルお兄様も必死だった。それだけわたくしにお茶会に出席してほしいと思っているのだろう。
わたくしもラファエルお兄様のお誕生日を祝いたい気持ちはあった。
「ママ、パパ、おねちまつ」
一生懸命「お願いします」と言ってみると、お父様とお母様の顔が笑み崩れる。
「セラフィナ、かわいすぎる……」
「セラフィナにまで言われては仕方がありませんね」
わたくしの一言で、わたくしはラファエルお兄様のお誕生日のお茶会に出席できるようになったのだった。
ラファエルお兄様のお誕生日のお茶会にはアルベルト様もユリウス様も参加される。
その他にもたくさんの貴族が参加するのだが、前世でも貴族とはそれほど関りがなかったし、高位貴族などよく知らないので、わたくしは知識がないままにお茶会に出た。
お茶会ではラファエルお兄様は当然のようにわたくしをお膝の上に抱っこしていた。お茶会の主役はラファエルお兄様のはずなのに、わたくしが抱っこされていて構わないのかと考えてしまったが、それはユリウス様もアルベルト様も同じようだった。
「ラファエル殿下、セラフィナ殿下は乳母に預けて、ご挨拶をされた方がいいのではないでしょうか?」
「セラフィナ殿下がおられるので、ラファエル殿下に話しかけにくそうにしている方もおられますよ」
「セラフィナがいることでわたしに話しかけられないなら、それは好都合だ。セラフィナと一緒にいる時間を大事にしてくれない相手など、交友を持ちたくないからね」
ラファエルお兄様は笑顔で言っているが、それでいいのだろうか。
思わず真顔になってしまったわたくしの前に、ストロベリーブロンドに空色の目の少女がやってきた。少女の目はわたくしに釘付けだ。
「アルマンドール公爵家の娘、アンリエットです。お誕生日おめでとうございます、ラファエル殿下。あの、こちらがセラフィナ殿下ですか?」
「ありがとうございます、アンリエット・アルマンドール嬢。わたしの妹のセラフィナです」
「なんてかわいいのでしょう。わたくし、もうすぐ二歳になる妹がおりますの。二歳になってやっとお膝で大人しくしてくれるようになりましたが、セラフィナ殿下はまだ一歳半くらいですよね?」
「そうなのです。セラフィナはとても賢くていい子なのです」
「お顔も皇后陛下そっくりでなんて愛らしいのでしょう。わたくしの妹もとてもかわいいのです。ぜひセラフィナ殿下とお会いできたらと思います」
わたくしの話題で盛り上がっている。
ラファエルお兄様はわたくしを褒められて嬉しそうにしているし、わたくしはアンリエット嬢の妹君が気になっていた。
ルカ様は男の子だったので乱暴だったが、アンリエット嬢の妹君は女の子だし、月齢も半年くらい上なので友達になれるのではないだろうか。
「アンリエット嬢、妹君のお名前は何というのですか?」
「リヴィアですわ」
「リヴィア嬢……セラフィナはわたしと年が離れているので、同年代の友達がいないのです」
「リヴィアもそうなのです。わたくしと年が離れているので、どうしてもわたくしの友人とばかり触れ合うことになって、同年代の友人がいたらいいのにと思っておりました」
「セラフィナとリヴィア嬢を会わせるのはどうでしょう?」
「リヴィアもとても喜びますわ」
兄バカと姉バカの集いになってしまっている気がしたが、ラファエルお兄様はアンリエット嬢を気に入ったようだった。アンリエット嬢は公爵家の出身で、髪色に赤が混じっているので、皇族の血を引いているのだろう。
お父様もラファエルお兄様も髪は燃えるような赤色だ。
「ラファエル殿下、アンリエット嬢と話が弾んでいたようですね」
「アンリエット嬢もかわいい妹君がいるようだ。セラフィナが気に入る子だといいな」
「ルカは酷かったですからね。ルカも早く行儀作法を学んでほしいです」
ため息をつくユリウス様に、ルカ様が悪いのではなく、わたくしが前世の記憶があるから落ち着きすぎているのだとは言えなかった。
「アンリエット嬢ともう少し話をしたいな。セラフィナ、行ってきてもいいかな?」
「あい!」
わたくしは乳母と待っているつもりで、いい子のお返事をすると、ラファエルお兄様はアルベルト様にわたくしを差し出した。
「アルベルト、少しの間、セラフィナを任せてもいいかな?」
「大切にお預かりします」
アルベルト様に抱っこされてわたくしはアルベルト様の顔を間近に見た。アルベルト様は相変わらず顔色が悪かったが、前よりは少しマシになっている気がする。
わたくしが窓の方を指差すと、そっちに連れて行ってくれる。
「アルベルト、ラファエル殿下からセラフィナ殿下をお預かりしたのか」
「はい。セラフィナ殿下はわたしやユリウス殿やラファエル殿下が勉強中に、一緒にいるのでわたしに慣れていると思ったのでしょう」
「ラファエル殿下とはうまくやれているようですね」
「ラファエル殿下はわたしの事情を知っていますから……」
窓際に来たアルベルト様にアルベルト様の両親が話しかけている。
暗い顔になるアルベルト様に、両親が慰めの言葉をかける。
「アルベルトが懐いていたメイドが亡くなってしまったのは不幸な事故だった。アルベルトのせいではない」
「わたしが町に行きたいと我が儘を言わなければ……」
「アルベルト、自分を責めてはいけませんよ。アルベルトを守ってくれたあのメイドは丁重に埋葬しました」
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともないでしょう」
「アルベルト……」
「わたしにはそんな幸福は許されない」
アルベルト様はまだこんなにも苦しんでいる。
わたくしはアルベルト様が襲われたとき、最善の策を取ったと思ったのだが、残されたアルベルト様がこんなにも傷付くとは思っていなかった。
「アルたま、いこいこ」
わたくしがアルベルト様を撫でると、アルベルト様の目が潤んでいる気がした。
こんなことしかできない一歳児のわたくしが悔しい。
「婚約については、そんなに急いで考えなくてもいい」
「時間があなたの心を癒してくれるでしょう。アルベルト、わたくしたちはあなたに幸福になってほしいと思っているのです」
あの事件が起きてからアルベルト様がどのように過ごしてきたかは分からないが、両親はアルベルト様を慰め続けていたようだった。両親の愛がないとかつて嘆いていたアルベルト様。
今はしっかりと両親に愛されている。
わたくしもアルベルト様に幸せになってほしい。
そのためには、アルベルト様がクラリッサであるわたくしを思い出として過去のものにして、未来に目を向けられるようにならなければいけない。
クラリッサは死んでしまったのだ。
わたくしにもそれはどうしようもない。
それでも、アルベルト様に忘れられるのだと思うと、わたくしの中のクラリッサが悲しんでいる気がして、わたくしは胸が痛くなる。
一歳児とは不便なもので、少しでも不快だと体が勝手に泣き出してしまう。
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