転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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一章 セラフィナ誕生

17.ヴァレリアのお茶会参加

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 アンリエット嬢と話し終わってラファエルお兄様はやっとわたくしの状況に気付いたようだった。わたくしは両手にガーベラの花束を抱えていて、わたくしの座っている幼児用の椅子の横にアルベルト様が立っている。

「アルベルト、セラフィナに花束を渡したの!?」
「セラフィナ殿下のお誕生日のときに、セラフィナ殿下からタンポポをいただいたのです」
「そのお礼に花束!?」

 アルベルト様がスマートに花束を渡せていることと、わたくしがアルベルト様にタンポポを上げていたこと。どちらに驚いているのかは分からないが、ラファエルお兄様は驚愕していた。

 なぜタンポポだったのかといえば、わたくしの小さな手で摘めるような花がタンポポしかなかったのと、庭師が管理していない花でないと勝手に取ってはいけないという思いがあったからだった。
 あのタンポポがアルベルト様にとってそんなに特別だったのだろうか。わたくしにはよく分からない。

「亡くなったわたしのメイドもわたしに花をくれていました。セラフィナ殿下にタンポポをもらって、わたしは、ずっとメイドの死を悲しんでばかりではいけないと思ったのです。メイドはわたしを庇って死んだ。それはつまり、わたしに生きてほしかったのではないかと思ったのです」

 その通りです。
 アルベルト様、わたくしの中のクラリッサがその通りだと頷いています。

 アルベルト様にクラリッサだったころのわたくしの気持ちは正しく伝わっていたようだった。そのお礼にこんなに立派な花束をもらえるとは思わなかったのだが、ピンクと白のガーベラはとてもきれいなので喜んでもらっておく。

 アルベルト様からいただいたダリアの花も、乳母が毎日水を替えてくれて、世話をしてくれたのだが、誕生日から二週間も経っているのでさすがに枯れてしまった。ダリアの花が枯れてしまったのを寂しく思っていたので、お花は嬉しくはある。
 嬉しいのだが、アルベルト様の気持ちがいまいち分からない。

 二歳児に小さいとはいえリボンもついた立派な花束を渡すものだろうか。

「アルベルト、笑っているじゃないか。笑えるようになったのだね」
「わたし、笑っていましたか? メイドが死んでからもう笑うことはないと思っていたのに」

 ラファエルお兄様がアルベルト様の表情に驚いている。
 アルベルト様はそれだけずっと暗い表情をしていたのだ。

「アルベルト様、もしかして、セラフィナ殿下のこと?」
「セラフィナ殿下は愛らしいと思っていますよ」
「まぁ、そうですよね。セラフィナ殿下はまだ二歳ですからね」

 からかおうとしたユリウス様が、アルベルト様が自然に答えるのに拍子抜けしている。
 そうなのだ。二歳のわたくしに恋愛も何もないのである。
 もっと大きくならなければ恋愛などできないとわたくしも分かっている。

「セラフィナは嫁にやらないからな!」
「セラフィナ殿下もわたしなど嫌だと思いますよ。年が離れすぎています」
「十歳か……皇族と貴族なら、あり得ない年齢じゃない」
「何を真剣に考えているのですか、ラファエル殿下。セラフィナ殿下はまだ二歳ですよ?」
「まだ二歳とはいえ、セラフィナは賢いし、かわいすぎるからにぃには心配だよー」

 呆れるアルベルト様に、ラファエルお兄様の兄バカが炸裂している。
 それに対して、アンリエット嬢も乗ってきた。

「わたくしも、リヴィアが結婚と思うと、胸が潰れるような気がします。リヴィアにはずっとあのままそばにいてかわいく笑っていてほしい」
「わたしもセラフィナが結婚など考えられません」

 そこでは意気投合する姉バカと兄バカ。
 それを聞いていても不毛なので、わたくしはラファエルお兄様に花束を差し出した。

「にぃに、おはな、おみじゅ」
「そうだったね、セラフィナ。セラフィナの花束を花瓶に入れて飾ってやってくれ」

 ラファエルお兄様が乳母に命じると、乳母は素早く侍女に伝えて、侍女が花瓶を持って来てガーベラの花束は問題なく花瓶に移された。解いたリボンはわたくしが手を伸ばして受け取る。
 金色の艶々としたサテンのリボンだった。

「こえ、ちて! こえ!」

 リボンを示して、わたくしは自分の頭を指差すと、乳母がすぐに察してくれる。乳母がわたくしの長すぎる前髪を持ち上げて、頭頂部でリボンで結んでくれた。
 金色のリボンがわたくしの頭で輝いていることだろう。

「リボンまで使ってくださるのですか。気に入ってくださって嬉しいです、セラフィナ殿下」
「セラフィナはリボンの使い方を知っているのだね。賢いね。かわいいね」
「セラフィナ殿下、とても愛らしいですわ」

 微笑んで喜んでくれているアルベルト様に、ラファエルお兄様もアンリエット嬢もわたくしを褒めるのに夢中になっている。
 ラファエルお兄様はわたくしを褒めるのではなくて、アンリエット嬢のドレスや髪型を褒めればいいのにと思うが、十二歳の男子とはまだまだそこまでは辿り着かないのだろう。

 その週のお茶会はわたくしが褒められて、花束ももらって、わたくしばかりがいい思いをして終わった。

 次の週には、ラファエルお兄様はアンリエット嬢の友人もお茶会に招待しようと思ったようで、招待状を書いていた。
 アンリエット嬢の友人はセルフィナ伯爵家のヴァレリア嬢で、伯爵家の令嬢という時点でなんとなく嫌な予感がしていたが、家名もセルフィナでどこかわたくしと被っているし、わたくしはいい印象は持っていなかった。

「初めまして、皇太子殿下。ヴァレリア・セルフィナです。皇太子殿下の妹君はセラフィナ殿下と仰いますよね。わたくしの家名はセルフィナ。どこか似ていますね」

 黒髪に黒い目のヴァレリア嬢は、アンリエット嬢が紹介しようとするのを遮って、ぐいぐいと前に出てくる。

「よろしく、ヴァレリア嬢」
「セラフィナ殿下もご一緒なのですね。まぁ、かわいい赤ちゃん!」

 赤ちゃん!?
 わたくし、もう二歳なのですけれど!

 小さい子に接し慣れていなかったら、二歳くらいは赤ちゃんに見えるのかもしれないが、わたくしはもう喋れるし、歩けるし、大人と同じものが食べられる年齢だ。赤ちゃん呼ばわりは多少面白くなかった。

「ヴァレリア嬢、セラフィナ殿下は二歳です。赤ちゃんではありませんよ」
「そうですの? わたくし、小さい子と触れ合ったことがないのでよく分からなくて。抱っこしてもよろしいですか?」

 注意してくるアルベルト様に対して、抱っこの許可を取るのも間違っている。
 抱っこの許可は兄であるラファエルお兄様にとってから、わたくしに直接聞かなければいけないところだ。

「ヴァレリア嬢、抱っこの許可はラファエル殿下に致しましょうね」
「あら、申し訳ありません。ラファエル殿下、セラフィナ殿下を抱っこしてもよろしいですか?」
「セラフィナが嫌がらないならばどうぞ」

 ラファエルお兄様もヴァレリア嬢に嫌な印象を抱いているようだ。
 わたくしに判断が委ねられたのだが、ヴァレリア嬢はわたくしに聞く前にわたくしの両脇の下に手を挿し入れていた。

「セラフィナ殿下、抱っこさせてくださいね」
「やー!」
「セラフィナ殿下、大人しくしてください」

 無理やり抱っこされるのに抵抗しようとしたが、もう体を持ち上げられていて、わたくしは抵抗すると落とされる危険性があるために、ヴァレリア嬢にしがみ付く形になった。ヴァレリア嬢はわたくしの両脇に手を差し込んだまま、下半身は安定させていないし、今にも落としそうで怖い。

「ヴァレリア嬢、お尻の方を支えてあげてください」
「こうですか?」
「最初は人見知りをするかもしれませんので、窓の外などを見せて気を紛らわせるといいかもしれません」

 アンリエット嬢が助けに入ってくれて、わたくしは何とか安定して抱っこされる形になった。
 窓の外をわたくしに見せながら、ヴァレリア嬢がぶつぶつと小声で言っているのが聞こえる。

「アンリエット嬢の偉そうなこと。妹がいるからってダシにしてラファエル殿下とお近付きになるだなんて、抜け駆けだわ。この皇女殿下も、ラファエル殿下と全然似てなくてブスだし」

 ブス!?
 わたくし、この体に生まれ変わって初めて言われました。
 前世では言われ慣れていたけれど、セラフィナとして生まれてからは、わたくしは悪意に晒されたことなどなかったのです。

 ヴァレリア嬢の態度にショックを受けて固まっているわたくしに、ヴァレリア嬢が顔を顰める。

「嫌だわ。お尻に手を置くだなんて。お漏らしされたらどうしましょう。ドレスが汚れるのも、臭いが付くのも嫌だわ」

 抱っこしながらわたくしのことを嫌悪しているヴァレリア嬢に、わたくしは腕の中で暴れた。ヴァレリア嬢は抱っこが上手ではないので、すぐに力が抜けて、わたくしを落としてしまう。

 床に落ちて尻もちをついて痛かったけれど、わたくしは泣かなかった。
 泣かずに、ヴァレリア嬢を睨み付けた。
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