転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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一章 セラフィナ誕生

18.アルベルトはセラフィナの騎士

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 わたくしが床に落とされたのに気付いて、一番に駆け付けてくれたのはアルベルト様だった。お尻が痛くて涙目になっているわたくしを素早く抱き上げてくれる。
 わたくしはしっかりとお尻と背中を腕で支えられて、アルベルト様の安定した抱っこに安心する。

「セラフィナ殿下、大丈夫ですか?」
「アルたま、わたくち、ぶしゅっていった!」
「え? ヴァレリア嬢がブスと言ったのですか?」
「いった!」
「そんなこと言っておりません。二歳の幼児とわたくしと、どっちを信じるのですか?」

 そう言われてしまうと、わたくしは強く出られない。
 二歳児の言っていることと十二歳のヴァレリア嬢の言っていること、どちらが重きを置かれるかについては、ヴァレリア嬢に決まっているのだから。
 それに対して、ラファエルお兄様が割って入ってくれた。

「セラフィナは、『ブス』という単語を知らないはずなんだけどね。ヴァレリア嬢、あなたが言ったのでなければ」
「そ、そんな。子どもはどこで言葉を聞いてくるか分からないのですよ」
「子どもに慣れていないあなたがよく言えるものだ。わたしたちはセラフィナをかわいい、天使だ、美しいと称賛することしかない。使用人に至るまでセラフィナの前では使う言葉をとても気を付けている。そんなセラフィナが『ブス』という単語を使ったのだったら、あなたから聞いたからとしか思えないのだけれどね」

 さすがラファエルお兄様!
 わたくしの真の理解者!
 わたくしが心の中でラファエルお兄様を絶賛していると、アルベルト様がため息をつきながら言葉を添える。

「気付かれないように近くに行って聞いていましたが、『お尻に手を置くのは汚いから嫌だ』とか『お漏らしされたらどうしよう』とか『臭いが付くのは嫌だ』とか言っていましたよ」
「い、言っていません!」
「ラファエル殿下は従弟であるわたしと、彼女とどちらを信じるのですか?」
「アルベルトに決まっているよ」

 追い詰められたヴァレリア嬢がアンリエット嬢に助けを求める。

「わたくしは子どもに慣れていないだけなのです。アンリエット嬢のように、弟妹がいないので」
「リーじょう、だちにちた、いった! アンたま、ぬけがけ!」
「リヴィアをダシにしたと言ったのですか? わたくしが抜け駆け?」
「どういうことか、じっくりと聞かせてもらおうじゃないか」

 驚いているアンリエット嬢に、ラファエルお兄様がヴァレリア嬢に詰め寄る。

「わ、わたくし……アンリエット嬢が悪いのです! ラファエル殿下と交友があるのを自慢してきて!」
「わたくし、自慢などしていません」
「わたくしも弟妹がいたら、ラファエル殿下とお近付きになれたのに! ラファエル殿下の婚約者になれたかもしれないのに!」

 涙目になってヒステリックに叫ぶヴァレリア嬢に、ラファエルお兄様は冷静に告げた。

「わたしは、わたしの愛する家族を大事にしない相手とは交友を持たない。もう二度とお会いすることはないだろう。さようなら、ヴァレリア嬢」
「ラファエル殿下!?」
「ヴァレリア嬢はお帰りだ。見送りの必要もない」

 冷たく言い放ったラファエルお兄様は、ティールームから連れ出されるヴァレリア嬢のことをもう見ていなかった。
 わたくしは尻もちをついたお尻を押さえつつ、アルベルト様の腕から降りる。
 ラファエルお兄様がわたくしに駆け寄って、ぎゅっと抱き締めてきた。

「セラフィナ、嫌な思いをさせたね」
「にぃに、ぼとん、ちたの」
「落とされてどこか打っていない? 痛いところはない?」
「おちり、いちゃい」

 抱っこから落とされて尻もちをついたお尻を撫でていると、ラファエルお兄様が心配して乳母にわたくしのお尻を見てもらう。

「少し赤くなっていますが、怪我はされていません。足も無事です」

 股関節から膝、足首、小さな足の指一本一本まで確認して、乳母はラファエルお兄様に伝えていた。

「わたくし、あの方を友人と思っていたのが恥ずかしいですわ。申し訳ありませんでした」
「いえ、アンリエット嬢のせいではありませんよ」
「わたくし、あの方から学園でサロンに誘われてお茶を一緒にするようになりましたの。それで、ラファエル殿下のことを話したら、どうしてもお会いしたいというので、紹介したら……」
「アンリエット嬢、そのサロンにはもう参加しない方がいいかもしれませんね」
「はい、わたくしもそう思います」
「アンリエット嬢がよろしければ、アンリエット嬢の仲のいい友人と一緒に、わたしのサロンでお茶をしませんか?」

 ラファエルお兄様が自然にアンリエット嬢を学園のサロンにお誘いできている。
 この流れならばとても自然にアンリエット嬢も招待を受けるだろう。

「そう致します。どうぞ、よろしくお願いします」

 ラファエルお兄様の恋が一歩前進した気がして、ヴァレリア嬢の存在は不快だったが、彼女が今日お茶会に来たのもこのためだと思えば二度とわたくしの目の前に現れなければ許せそうな気がした。

「それにしても、セラフィナをブスだなんて、何ということを教えたのか」

 わたくしは前世ではブスとか地味とか言われ慣れていたが、今世では家族の愛に包まれて、ラファエルお兄様の話では使用人一人一人にまで目を配って、わたくしに悪い言葉は覚えさせないようにしていたようだ。
 わたくしはヴァレリア嬢と出会うまで、今世で悪意に満ちた言葉を聞いたことがなかったのはそのせいだったのだ。

「にぃに、すち! おとーたま、おかーたま、すち! アンたま、すち!」
「セラフィナ、にぃにもセラフィナのことが大好きだよ」
「わたくしのことも好きと言ってくれるのですね。ありがとうございます、セラフィナ殿下」
「セラフィナはいい言葉だけを使っていこうね」
「あい! わりゅいことば、ないない!」

 もう二度と「ブス」なんて言葉は口にしない。
 口にしたらラファエルお兄様を悲しませてしまう。
 わたくしは強く心に誓っていた。

 それにしても、アルベルト様がヴァレリア嬢を警戒して、わたくしの近くにいてくれて、一番にわたくしのところに来て抱っこしてくれたのは嬉しかった。
 アルベルト様がわたくしの騎士のようだった。

 前世では小さくて守るべき存在だったアルベルト様に、今は守られている。
 わたくしはそのことが存外、嫌ではなかった。

 お茶会が終わってから数日後、学園から帰ってきたラファエルお兄様と、執務を終わらせてきたお父様とお母様とお茶をする機会があった。
 お父様とお母様はラファエルお兄様とわたくしに、報告があったようだった。

「先日、セラフィナとアンリエット嬢に失礼なことをしたという伯爵令嬢だが、謹慎処分となった」
「あの様子では、伯爵は学園を自主退学させるのではないでしょうか」
「不敬罪ということですか?」

 ラファエルお兄様の問いかけに、お父様とお母様が答える。

「不敬罪でもあるし、アンリエット嬢は公爵家の令嬢。高位貴族に対する態度がなっていないので、学園に相応しくないと学園側から言い渡されているだろう」
「もうセラフィナには近付かせませんからね。外面だけはよかったようですから、アンリエット嬢もそれに騙されたのでしょうね」
「アンリエット嬢は罪に問われませんか?」
「アンリエット嬢は被害者ですからね」
「ラファエルはアンリエット嬢を罪に問いたくはないのだろう?」
「そ、それは……はい」

 お父様もお母様もラファエルお兄様の気持ちは知っているようだ。ラファエルお兄様が自分で行動できるまでは見守るつもりなのかもしれない。

「にぃに、がんばって!」
「セラフィナ、ありがとう!」

 アンリエット嬢は仲のいい令嬢と共にラファエルお兄様のサロンに移ってお茶をしているはずだし、これから進展があるはずだ。
 わたくしはラファエルお兄様を応援していた。
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