41 / 47
二章 ミカエル誕生
11.セラフィナの冒険
しおりを挟む
エリカは苺を食べることができたが、あまり好きではないようだった。
ミカは初めての苺を潰してもらってもりもりと食べていた。
「ミカたん、アルベルトおにいたまのいちごでつ」
「うー」
わたくしがミカに教えてあげると、ミカは真剣な表情で聞いていた。
アルベルト様が帰ってからわたくしはクラリッサのことを考えていた。
わたくしの魂がセラフィナの体に馴染んできたのか、クラリッサであったことは遠い昔のように思い出される。
エリカの名前をラファエルお兄様に言われたときにはクラリッサだったときの記憶が朧気で、アルベルト様に再び言われないとクラリッサがエリカの花が好きだったことを思い出せなかった。
子ども部屋で暖炉に当たりながら、エリカを背もたれにして寛いでいると、お母様がミカとわたくしの様子を見に来てくれた。お母様に甘えたくてわたくしはソファに座ったお母様の横によじ登って座る。
お母様はわたくしの髪を撫でて膝の上に座らせてくれた。
わたくしはお母様にそっと言ってみた。
「おかあたま、わたくち、ぼうけん、ちたい」
「冒険、ですか?」
「あい。わたくち、きゅうでん、ちらないとこ、いっぱい。わたくち、あるいてみたい」
ベルンハルト公爵家のメイドでいたころも皇帝陛下がおられる宮殿は遠くから見たことがあった。広大な敷地にいくつもの建物があって、ものすごく広いと思っていたベルンハルト公爵家が何軒も入るくらい広いことを知って驚いたものだ。
帝都の真ん中にそびえ立ち、宮殿の周囲は城壁で覆われており、門には門番が立っていて、気軽に入れないことも理解していた。
前世では入れなかった宮殿に、わたくしは今住んでいる。
それを考えると、宮殿の中を歩いてみたいと思うのは自然だった。
「セラフィナの気持ちも分かりますね。自分が住んでいるところはどんなところか知りたい気持ちが出てきたのですね。これも三歳の成長なのかもしれません」
「わたくち、みっちゅ」
指を三本立てて主張すると、お母様が教えてくれる。
「宮殿のこの棟はわたくしたち皇帝一家のための居住区となっています。厳重に守られていて、許されたものしか出入りできません」
「あい」
「セラフィナが歩き回っても安全であることは保証されています。ただし、広いのでセラフィナが迷子にならないか心配です」
「エリカたん、つれていきまつ」
「エリカと一緒ですか。それでも心配ですね。マティルダさんが一緒ではいけませんか? 転んだときにも安心ですよ」
お母様に言われてわたくしは悩んでしまう。
わたくしは自立して冒険に行きたかったのだが、三歳児の小さな体ではできないことがたくさんある。
ドアノブの位置が高いので持って開けられない。段差に出くわしたら、両手をついても上がれないことがある。転んだり、滑ったりすると三歳児は頭が重いので顔面から床に突っ込んでしまう。
「わたくち……」
一人で冒険するのは無理そうだと分かっていたが、冒険したい気持ちが捨てられないわたくしに、お母様が提案する。
「それでは、セラフィナに内緒でそっとついてきてもらうのはどうでしょう?」
「ないちょ?」
「はい。セラフィナに気付かれないように、セラフィナの冒険の日には、色んな所に助けてくれるひとを配置しておきます」
わたくしに話してしまったら内緒でも何でもないのだが、お母様は三歳児のプライドと冒険心を守るために、内緒という言葉を使った。
それならばわたくしも冒険に行けるのではないだろうか。
「無理だと思ったら近くの大人に助けを求めてください」
「あい」
「冒険には準備が必要なので、数日待ってください」
「あい」
お母様と約束をして、わたくしは冒険に行く日を二人で決めた。
冒険に行く日、お父様とお母様が子ども部屋に来て、わたくしの身支度を手伝ってくれた。
わたくしはチュニックにズボン、靴を履いて、寒さ対策にポンチョを着た。
お母様がわたくしの首にかわいいリボン刺繡の入ったポシェットを下げてくれた。
「ここに小さなお菓子とエリカのジャーキーが入っています。お腹が空いたら開けて食べてください」
「あい」
「階段もあるから、気を付けるのだよ」
「あい。おとうたま、おかあたま、いってきまつ」
エリカの首のあたりをポンと叩いてわたくしがお父様とお母様に挨拶すると、エリカが起き上がってわたくしの横についた。わたくしはエリカを連れて子ども部屋から出ようとした。
子ども部屋のドアノブに手が届かなくて困っていると、エリカが上半身を起こして、前足でドアノブを動かして開けてくれる。
「エリカたん、すごーい!」
拍手で称賛すると、エリカは誇らしそうにわたくしの横を歩いていく。
ドアを出て廊下まではわたくしも見覚えがあった。
ここからどう歩いて行けばティールームに着くかも、わたくしは把握していないのだ。
まずは長い廊下を直進していく。
わたくしの方をちらちらと見ながら、床を掃除しているメイドさんや花瓶を磨いているメイドさんがいるのだが、わたくしは気にしないことにする。
そのまま直進していくと右と左に廊下が分かれている場所に来た。
ティールームに行くときにはいつも右に行っている気がする。
行ったことがないのは左だと判断して左に曲がると、少し歩いたら階段が見えてきた。
前世では軽々と上がっていた階段だが、わたくしは今三歳児である。
階段の一段が胸くらいまでの高さがある気がする。
どうやって上がろうかと悩んで立ち尽くしていたら、階段の手すりを磨いているメイドさんがちらちらとこちらを見てくる。
わたくしは悩んだが、安全を取った。
メイドさんに近付いて、両腕を広げる。
「だっこちてくだたい」
「心得ました、セラフィナ殿下」
素早く掃除道具を置き、手を拭ってからメイドさんがわたくしを抱っこして階段を上がってくれる。体格のいいメイドさんだったので安定感があって少しも怖くなかった。
エリカは体が大きいので普通に階段を上がって行っている。
階段を登りきると、左右に廊下が開けていた。
どちらに行こうか迷っていると、右側の廊下から声が聞こえる。
これはラファエルお兄様の声だ。
「セラフィナはちゃんとここが分かるかなぁ。父上と母上に見送りをお願いして、部屋でセラフィナの到着を待つって宣言したけど、気になるな」
呟きながらラファエルお兄様がドアを開けたり閉めたりしている。
「おにいたまー!」
「セラフィナ!」
わたくしがラファエルお兄様の方に走って行こうとすると、絨毯に足を引っかけて転びかけた。素早くエリカがわたくしの下に入って受け止めてくれる。
「エリカ、ありがとう」
「くぅん」
エリカにお礼を言ってわたくしは転ばないようにラファエルお兄様の方に歩いて行った。
ラファエルお兄様はドアを開けてわたくしを両手を広げて歓迎してくれる。わたくしはラファエルお兄様の腕に飛び込んだ。
ぎゅっと抱き締められて、わたくしは安心する。
しばらく抱き締め合っていたが、ラファエルお兄様の部屋が見たくて体をよじると、ラファエルお兄様はわたくしを開放してくれた。
ラファエルお兄様の部屋は日当たりのいい場所で、子ども部屋が全部入りそうな机と椅子とソファセットが入った部屋と、それよりも少し狭い寝室が繋がっていた。
ラファエルお兄様はわたくしをソファに座らせて、お茶を侍女に入れさせた。
かなり頑張って歩いてきたので喉が乾いていたわたくしは、ありがたくお茶を飲む。
エリカには水を飲ませてくれた。
「セラフィナにはいつかこの部屋に遊びに来てほしいと思っていたんだ。どうかな、わたしの部屋」
「すてき!」
カーテンは高級感のある群青で、ベッドカバーは群青に星模様がキルティングされている。ソファセットも群青の布張りで、統一感のあるラファエルお兄様の部屋は、落ち着いていて居心地がよさそうだった。
お茶を飲み終わると、わたくしはラファエルお兄様にお願いする。
「おにいたま、おてあらい……」
「一緒に行こうね」
お茶を飲むとすぐにお手洗いに行きたくなるのも、三歳児の膀胱が小さすぎるので仕方がない。
お手洗いに行ってすっきりして手を洗って、わたくしは冒険を続けることにした。
「おにいたま、いってきまつ」
「気を付けるんだよ、セラフィナ。あぁ、心配だ。ついて行きたい」
「わたくち、ひとりでぼうけん!」
「頑張って!」
心配そうなラファエルお兄様だったが、廊下までわたくしとエリカを送り出して手を振っていた。
ラファエルお兄様の部屋の横の部屋がわたくしが一人部屋をもらうことになったら、わたくしの部屋になるのだろうか。
覗いてみたかったが、エリカにドアノブを下げてもらおうとしても、鍵がかかっていたようで開かなかった。
階段から上がった廊下を右に来たので、今度は左に戻ってみる。
階段の横を通り過ぎて歩いていると、わたくしはあることに気付いた。
ドアが開いている部屋があるのだ。
ドアが開いている部屋の脇にはメイドさんが立っていて、わたくしをちらちら見ながら掃除をしている。
ドアが開いている部屋を覗き込むと、メイドさんが独り言のように呟いた。
「皇后陛下のお部屋のお掃除は大変ですわ」
皇后陛下!
つまり、ここはお母様の部屋なのだ。
そっと入って行くと、机とソファセットのある部屋と、寝室が繋がっている。
白地に花模様のカーテンとベッドカバーがお揃いで、お母様らしいかわいいお部屋だった。
お母様のお部屋がここということは、隣はお父様のお部屋に違いない。
同じようにメイドさんがドアを開けて掃除をしている横を通り過ぎて中に入ると、重厚な飴色に磨かれた机の上に書類が積み上がり、皮張りの椅子が置かれた部屋に辿り着いた。
ソファセットもあるが、いかにもお父様の執務をするための部屋という雰囲気である。
カーテンは上品な濃い緑色だった。
その部屋から出て奥に向かうと、突き当りに広い部屋があった。
なぜすぐに広いと分かったかといえば、その部屋もドアが開いていたのだ。
広い部屋にソファセットとベッドだけがある。
ここはお父様とお母様の寝室ではないのだろうか。
わたくしが立ち尽くしていると、後ろから声をかけられた。
「セラフィナ、ここまでたどり着いたんだね」
「ここがわたくしとヘリオドール様の寝室ですよ」
「おとうたま、おかあたま!」
振り返るとお父様とお母様がわたくしの後ろに立っていた。
両腕を広げるお父様とお母様に順番に抱き着いてから、わたくしはお父様とお母様の寝室のソファに座らせてもらった。
「冒険は楽しかったですか?」
「あい」
「今日はここまででいいんじゃないかな」
「あい」
「これからはセラフィナは困ったことがあればわたくしたちの部屋に来られますね」
この冒険にどれだけ意味があったかは分からないけれど、わたくしはお父様とお母様に頷き、冒険を終わらせた。
次は庭を冒険してみたいと野望を抱きながら。
ミカは初めての苺を潰してもらってもりもりと食べていた。
「ミカたん、アルベルトおにいたまのいちごでつ」
「うー」
わたくしがミカに教えてあげると、ミカは真剣な表情で聞いていた。
アルベルト様が帰ってからわたくしはクラリッサのことを考えていた。
わたくしの魂がセラフィナの体に馴染んできたのか、クラリッサであったことは遠い昔のように思い出される。
エリカの名前をラファエルお兄様に言われたときにはクラリッサだったときの記憶が朧気で、アルベルト様に再び言われないとクラリッサがエリカの花が好きだったことを思い出せなかった。
子ども部屋で暖炉に当たりながら、エリカを背もたれにして寛いでいると、お母様がミカとわたくしの様子を見に来てくれた。お母様に甘えたくてわたくしはソファに座ったお母様の横によじ登って座る。
お母様はわたくしの髪を撫でて膝の上に座らせてくれた。
わたくしはお母様にそっと言ってみた。
「おかあたま、わたくち、ぼうけん、ちたい」
「冒険、ですか?」
「あい。わたくち、きゅうでん、ちらないとこ、いっぱい。わたくち、あるいてみたい」
ベルンハルト公爵家のメイドでいたころも皇帝陛下がおられる宮殿は遠くから見たことがあった。広大な敷地にいくつもの建物があって、ものすごく広いと思っていたベルンハルト公爵家が何軒も入るくらい広いことを知って驚いたものだ。
帝都の真ん中にそびえ立ち、宮殿の周囲は城壁で覆われており、門には門番が立っていて、気軽に入れないことも理解していた。
前世では入れなかった宮殿に、わたくしは今住んでいる。
それを考えると、宮殿の中を歩いてみたいと思うのは自然だった。
「セラフィナの気持ちも分かりますね。自分が住んでいるところはどんなところか知りたい気持ちが出てきたのですね。これも三歳の成長なのかもしれません」
「わたくち、みっちゅ」
指を三本立てて主張すると、お母様が教えてくれる。
「宮殿のこの棟はわたくしたち皇帝一家のための居住区となっています。厳重に守られていて、許されたものしか出入りできません」
「あい」
「セラフィナが歩き回っても安全であることは保証されています。ただし、広いのでセラフィナが迷子にならないか心配です」
「エリカたん、つれていきまつ」
「エリカと一緒ですか。それでも心配ですね。マティルダさんが一緒ではいけませんか? 転んだときにも安心ですよ」
お母様に言われてわたくしは悩んでしまう。
わたくしは自立して冒険に行きたかったのだが、三歳児の小さな体ではできないことがたくさんある。
ドアノブの位置が高いので持って開けられない。段差に出くわしたら、両手をついても上がれないことがある。転んだり、滑ったりすると三歳児は頭が重いので顔面から床に突っ込んでしまう。
「わたくち……」
一人で冒険するのは無理そうだと分かっていたが、冒険したい気持ちが捨てられないわたくしに、お母様が提案する。
「それでは、セラフィナに内緒でそっとついてきてもらうのはどうでしょう?」
「ないちょ?」
「はい。セラフィナに気付かれないように、セラフィナの冒険の日には、色んな所に助けてくれるひとを配置しておきます」
わたくしに話してしまったら内緒でも何でもないのだが、お母様は三歳児のプライドと冒険心を守るために、内緒という言葉を使った。
それならばわたくしも冒険に行けるのではないだろうか。
「無理だと思ったら近くの大人に助けを求めてください」
「あい」
「冒険には準備が必要なので、数日待ってください」
「あい」
お母様と約束をして、わたくしは冒険に行く日を二人で決めた。
冒険に行く日、お父様とお母様が子ども部屋に来て、わたくしの身支度を手伝ってくれた。
わたくしはチュニックにズボン、靴を履いて、寒さ対策にポンチョを着た。
お母様がわたくしの首にかわいいリボン刺繡の入ったポシェットを下げてくれた。
「ここに小さなお菓子とエリカのジャーキーが入っています。お腹が空いたら開けて食べてください」
「あい」
「階段もあるから、気を付けるのだよ」
「あい。おとうたま、おかあたま、いってきまつ」
エリカの首のあたりをポンと叩いてわたくしがお父様とお母様に挨拶すると、エリカが起き上がってわたくしの横についた。わたくしはエリカを連れて子ども部屋から出ようとした。
子ども部屋のドアノブに手が届かなくて困っていると、エリカが上半身を起こして、前足でドアノブを動かして開けてくれる。
「エリカたん、すごーい!」
拍手で称賛すると、エリカは誇らしそうにわたくしの横を歩いていく。
ドアを出て廊下まではわたくしも見覚えがあった。
ここからどう歩いて行けばティールームに着くかも、わたくしは把握していないのだ。
まずは長い廊下を直進していく。
わたくしの方をちらちらと見ながら、床を掃除しているメイドさんや花瓶を磨いているメイドさんがいるのだが、わたくしは気にしないことにする。
そのまま直進していくと右と左に廊下が分かれている場所に来た。
ティールームに行くときにはいつも右に行っている気がする。
行ったことがないのは左だと判断して左に曲がると、少し歩いたら階段が見えてきた。
前世では軽々と上がっていた階段だが、わたくしは今三歳児である。
階段の一段が胸くらいまでの高さがある気がする。
どうやって上がろうかと悩んで立ち尽くしていたら、階段の手すりを磨いているメイドさんがちらちらとこちらを見てくる。
わたくしは悩んだが、安全を取った。
メイドさんに近付いて、両腕を広げる。
「だっこちてくだたい」
「心得ました、セラフィナ殿下」
素早く掃除道具を置き、手を拭ってからメイドさんがわたくしを抱っこして階段を上がってくれる。体格のいいメイドさんだったので安定感があって少しも怖くなかった。
エリカは体が大きいので普通に階段を上がって行っている。
階段を登りきると、左右に廊下が開けていた。
どちらに行こうか迷っていると、右側の廊下から声が聞こえる。
これはラファエルお兄様の声だ。
「セラフィナはちゃんとここが分かるかなぁ。父上と母上に見送りをお願いして、部屋でセラフィナの到着を待つって宣言したけど、気になるな」
呟きながらラファエルお兄様がドアを開けたり閉めたりしている。
「おにいたまー!」
「セラフィナ!」
わたくしがラファエルお兄様の方に走って行こうとすると、絨毯に足を引っかけて転びかけた。素早くエリカがわたくしの下に入って受け止めてくれる。
「エリカ、ありがとう」
「くぅん」
エリカにお礼を言ってわたくしは転ばないようにラファエルお兄様の方に歩いて行った。
ラファエルお兄様はドアを開けてわたくしを両手を広げて歓迎してくれる。わたくしはラファエルお兄様の腕に飛び込んだ。
ぎゅっと抱き締められて、わたくしは安心する。
しばらく抱き締め合っていたが、ラファエルお兄様の部屋が見たくて体をよじると、ラファエルお兄様はわたくしを開放してくれた。
ラファエルお兄様の部屋は日当たりのいい場所で、子ども部屋が全部入りそうな机と椅子とソファセットが入った部屋と、それよりも少し狭い寝室が繋がっていた。
ラファエルお兄様はわたくしをソファに座らせて、お茶を侍女に入れさせた。
かなり頑張って歩いてきたので喉が乾いていたわたくしは、ありがたくお茶を飲む。
エリカには水を飲ませてくれた。
「セラフィナにはいつかこの部屋に遊びに来てほしいと思っていたんだ。どうかな、わたしの部屋」
「すてき!」
カーテンは高級感のある群青で、ベッドカバーは群青に星模様がキルティングされている。ソファセットも群青の布張りで、統一感のあるラファエルお兄様の部屋は、落ち着いていて居心地がよさそうだった。
お茶を飲み終わると、わたくしはラファエルお兄様にお願いする。
「おにいたま、おてあらい……」
「一緒に行こうね」
お茶を飲むとすぐにお手洗いに行きたくなるのも、三歳児の膀胱が小さすぎるので仕方がない。
お手洗いに行ってすっきりして手を洗って、わたくしは冒険を続けることにした。
「おにいたま、いってきまつ」
「気を付けるんだよ、セラフィナ。あぁ、心配だ。ついて行きたい」
「わたくち、ひとりでぼうけん!」
「頑張って!」
心配そうなラファエルお兄様だったが、廊下までわたくしとエリカを送り出して手を振っていた。
ラファエルお兄様の部屋の横の部屋がわたくしが一人部屋をもらうことになったら、わたくしの部屋になるのだろうか。
覗いてみたかったが、エリカにドアノブを下げてもらおうとしても、鍵がかかっていたようで開かなかった。
階段から上がった廊下を右に来たので、今度は左に戻ってみる。
階段の横を通り過ぎて歩いていると、わたくしはあることに気付いた。
ドアが開いている部屋があるのだ。
ドアが開いている部屋の脇にはメイドさんが立っていて、わたくしをちらちら見ながら掃除をしている。
ドアが開いている部屋を覗き込むと、メイドさんが独り言のように呟いた。
「皇后陛下のお部屋のお掃除は大変ですわ」
皇后陛下!
つまり、ここはお母様の部屋なのだ。
そっと入って行くと、机とソファセットのある部屋と、寝室が繋がっている。
白地に花模様のカーテンとベッドカバーがお揃いで、お母様らしいかわいいお部屋だった。
お母様のお部屋がここということは、隣はお父様のお部屋に違いない。
同じようにメイドさんがドアを開けて掃除をしている横を通り過ぎて中に入ると、重厚な飴色に磨かれた机の上に書類が積み上がり、皮張りの椅子が置かれた部屋に辿り着いた。
ソファセットもあるが、いかにもお父様の執務をするための部屋という雰囲気である。
カーテンは上品な濃い緑色だった。
その部屋から出て奥に向かうと、突き当りに広い部屋があった。
なぜすぐに広いと分かったかといえば、その部屋もドアが開いていたのだ。
広い部屋にソファセットとベッドだけがある。
ここはお父様とお母様の寝室ではないのだろうか。
わたくしが立ち尽くしていると、後ろから声をかけられた。
「セラフィナ、ここまでたどり着いたんだね」
「ここがわたくしとヘリオドール様の寝室ですよ」
「おとうたま、おかあたま!」
振り返るとお父様とお母様がわたくしの後ろに立っていた。
両腕を広げるお父様とお母様に順番に抱き着いてから、わたくしはお父様とお母様の寝室のソファに座らせてもらった。
「冒険は楽しかったですか?」
「あい」
「今日はここまででいいんじゃないかな」
「あい」
「これからはセラフィナは困ったことがあればわたくしたちの部屋に来られますね」
この冒険にどれだけ意味があったかは分からないけれど、わたくしはお父様とお母様に頷き、冒険を終わらせた。
次は庭を冒険してみたいと野望を抱きながら。
312
あなたにおすすめの小説
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。
下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。
レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
知らぬはヒロインだけ
ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。
告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。
しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。
そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。
しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。
※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。
七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる