転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

文字の大きさ
43 / 47
二章 ミカエル誕生

13.セラフィナ、皇帝と皇后の寝室で眠る

しおりを挟む
 わたくしはベッドの中で柔らかくて軽いふわふわの羽根布団に包まれて眠っていた。
 眠っていると、いつの間にかわたくしは馬車の中にいた。
 馬車の中にはわたくしとラファエルお兄様とアルベルト様がいて、わたくしはクラリッサの姿ではなくてセラフィナの姿だった。
 ラファエルお兄様とアルベルト様はどちらがわたくしを抱っこするかで揉めている様子だった。

「セラフィナはわたしに抱っこさせてください」
「いや、わたしが抱っこする」
「ラファエルはいつも抱っこできているのだからいいではないですか」
「馬車の中でセラフィナを受け渡すのは危ないから、わたしが抱っこしたままにする」

 微笑ましい従兄弟同士の口喧嘩を聞きながら馬車に揺られていると、馬車が急に傾いて止まった。
 周囲を馬で守っていた護衛たちが素早く馬車の周りに集まってくる。
 その護衛が次々と倒れて、馬車のドアが無理やり開けられる。

「ベルンハルト公爵家の子息はどこだ!」
「その小僧か?」

 そのときになって、わたくしは自分がクラリッサになっていて、ラファエルお兄様が護衛に変わっていて、アルベルト様が十三歳ではなくなって、十歳のあどけないお顔に戻っているのが分かった。

「アルベルト様! お守りいたします!」
「クラリッサ、逃げるんだ!」
「ダメです、アルベルト様!」

 必死にアルベルト様に覆い被さってわたくしは刃に貫かれた。

 目が覚めたとき、わたくしは泣いていた。
 涙が止まらなくて、体を起こすと寒さで震えてしまう。

「こ、こわい……。おとうたま、おかあたま……」

 裸足のままベッドから降りると、ベッドの横で眠っていたエリカが目を覚まして、わたくしの濡れた頬に鼻先をすり寄せてくる。
 ふらふらと歩き出したわたくしを、気が付いたマティルダさんが止めた。

「セラフィナ殿下、どうなさいましたか?」
「こわいの……。おとうたまとおかあたまに、あいたいの」

 泣きながら訴えるわたくしに、マティルダさんは少しだけ考えて、わたくしの足にルームシューズを履かせて、上着を着せた。

「セラフィナ殿下が『冒険』をしてから、皇帝陛下と皇后陛下からは、セラフィナ殿下がいつ自分たちの部屋に行きたがっても行かせていいと言われています。参りますか?」
「あい」

 涙をぼろぼろと零したままで、わたくしはよろよろと歩き出した。エリカがわたくしの横にいてわたくしを支えてくれる。
 廊下の灯りは最小限に落とされているが、マティルダさんが持っているランプの灯りがわたくしたちを照らしていた。
 廊下を突き当りまで直進して、左に曲がると、階段が見える。階段を登るのは難しいので、マティルダさんに抱っこしてもらって登らせてもらい、階段の上の廊下を左に進む。
 ゆらゆらと揺れるランプの灯りの中、わたくしはエリカに支えてもらって一生懸命歩く。
 突き当りがお父様とお母様の寝室だ。

 ドアをノックすると、わたくしは耐えきれずに泣き出してしまった。

「おとうたまー! おかあたまー! ふぇーん!」

 ドアの前で座り込んで泣いているわたくしに、急いで駆けてきたお父様とお母様がパジャマ姿でドアを開けてくれた。

「セラフィナではないか。どうしたのだ?」
「わたくしたちを訪ねて来てくれたのですね」

 優しく迎え入れられて、ソファに座らされて、顔を拭かれて、わたくしはホットミルクを、エリカは水を飲ませてもらう。ホットミルクをふーふーと吹いて冷まして飲んでいると、温かさに鼻水が垂れたが、それもすぐにお母様が拭ってくれる。

「こ、こわいの……。おとうたまとおかあたまと、ねんねちたいの」

 怖い夢を見たことも、どうゆう夢だったかもうまく説明できなかったが、わたくしが一生懸命に伝えると、空になったホットミルクのカップをわたくしの手から受け取り、ローテーブルに置いたお父様が、わたくしを抱き上げた。

「怖い夢を見たのかな? 今日だけ特別だよ」
「わたくしたちと寝ましょう」
「おとうたま、おかあたま」

 お父様とお母様の優しさに、また新しい涙が零れだしてくる。
 それを拭いながらお父様はベッドにわたくしを連れて行った。
 お父様とお母様のベッドはとても広くて、お父様とお母様の間にわたくしは眠ることになった。
 お母様がわたくしを抱き締めて布団に入れてくれる。

「セレナ、それはずるいんじゃないか? わたしもセラフィナを抱き締めたい」
「ヘリオドール様、布団に入れてあげなければセラフィナは凍えてしまいます。わたくしが布団に入れてあげます」
「わたしの布団でもいいんじゃないか?」
「セラフィナ、どちらの布団がいいですか?」

 わたくしに選択が委ねられてしまった。
 そんなこと決められない。
 わたくしが困っていると、マティルダさんが苦笑して侍女にすぐに子ども部屋からわたくしの布団を持って来させた。

 それで問題なくわたくしはお父様とお母様の間で眠ることができた。
 エリカはベッドの足元の方に丸くなって眠っていた。

 右手をお父様が握って、左手をお母様が握ってくれる。

「おやすみ、セラフィナ」
「お休みなさい、セラフィナ。怖い夢を見たら、起こしてくださいね」
「いつでも声をかけていいからね」

 右の頬にお父様がキスをして、左の頬にお母様がキスをして、わたくしは手を繋いだまま目を閉じた。大きくて温かいお父様の手と、華奢だが心強いお母様の手の温もりを感じて、わたくしはぐっすりと眠っていた。

 翌朝は、お父様とお母様と一緒に目覚めた。
 お父様とお母様は侍女に手伝ってもらって仕度をしているのを、わたくしはベッドに腰かけたままでじっと見ていた。
 お父様は深いグリーンの肋骨服を身に纏い、お母様は上品なグリーンのドレスを身に纏う。
 支度ができてから、お父様がわたくしを抱き上げ、お母様と共に子ども部屋まで連れて行ってくれた。
 エリカも上機嫌で尻尾を振りながらついてきていた。

 子ども部屋に行くと、真夜中に起こされて少し眠そうなマティルダさんがわたくしたちを迎えてくれた。
 お父様がマティルダさんにわたくしを預け、わたくしはお手洗いに行ってから厚手のワンピースと上着に着替える。

「セラフィナが『冒険』をしてわたしたちの部屋を覚えていてくれてよかった」
「また怖いことがあったらいつでも訪ねてきていいですからね」
「おとうたま、おかあたま、ありがとうございまつ」

 昨日見た夢の詳細は教えられないが、わたくしはお父様とお母様が優しく迎え入れてくれたことだけは一生忘れないだろう。

 わたくしがあんな夢を見たのは、アルベルト様のお屋敷に泊まりに来てほしいと言われたからに違いなかった。
 前世で馬車の中で死んだわたくしは、馬車に乗ること自体が怖くなっているのかもしれない。

 皇帝一家の馬車には護衛が大量についてあんなことは絶対に怒らないと思っていても、恐怖は消えなかった。
 わたくしが震えていると、お父様とお母様はわたくしを暖炉のそばに連れて行ってくれる。

「セラフィナ、寒いのかな? それとも、まだ怖いのかな?」
「わたくち……こわい」
「何が怖いのですか?」
「むつかちい」

 今世でわたくしはまだ馬車に乗ったことがないし、馬も見たことがない。そんな状況で馬車に乗ることが怖いだなんて言えるはずがない。馬車というのも絵本では知っているが、今世で経験していないのだから、それが怖いというのは不自然だろう。

「この宮殿にいる限りは、セラフィナの安全は守られるからね」
「エリカもいますから、安心してください」
「何かあったら、わたしは一番にセラフィナとミカエルのところに行くよ」
「わたくしも、セラフィナとミカエルのところに行きます。わたくしたちがついていますからね」

 お父様もお母様も子どもを愛する優しい両親だった。
 わたくしが怖い夢を見てお父様とお母様の寝室で寝たことは、ラファエルお兄様にも知らされていたのか、朝食後にラファエルお兄様も子ども部屋に顔を出してくれた。
 ラファエルお兄様はわたくしを抱き上げて、わたくしの額にこつんと自分の額をぶつける。

「セラフィナ、怖い夢を見たんだって?」
「あい」
「父上と母上がいないときには、わたしの部屋に来てもいいよ」
「おにいたまのおへや?」
「うん。わたしでよければ一緒に寝てあげる」

 ラファエルお兄様までそんなことを言ってくれて、わたくしは家族に本当に愛されているのだと実感する。
 アルベルト様が王宮に泊まりに来た後で、わたくしとラファエルお兄様もベルンハルト公爵家に泊まりに行くかもしれない。
 そこでわたくしは初めて馬車に乗るだろう。
 馬車の中でもラファエルお兄様が一緒だと思うと、大丈夫かもしれないと思える。

「おにいたま、いっちょにいて」
「セラフィナが怖いときには一緒にいるよ」

 ラファエルお兄様に言われて、わたくしは恐怖が少しだけ薄れるようだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...