オメガの大公閣下の溺愛

秋月真鳥

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カリス(受け)視点

9.結婚指輪とお互いの初めて

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 せっかくのヒートだったが、カリスの体はやはりオメガとしては出来損ないだったようで、妊娠することはできなかった。元から無理だと思っていたからカリスは気にしていなかったが、医者の診断を受けると、リオネルが残念そうにしていたのでカリスはリオネルに謝る。

「元々子どもは望めないと思っていた。リオネルには悪いが、子どもを抱かせてやることはできないかもしれない」
「わたしに謝ることなどありません」
「もし、子どもが欲しいなら……」
「愛人は持ちませんよ! わたしは閣下以外に勃ちませんからね!」

 子どもがほしいなら養子も考えるつもりだったのだが、リオネルは愛人を持つように言われるかと思ったようだ。カリスは少し驚いてしまったが、リオネルのことは愛しているし、他の相手と睦み合っているところを想像するだけで嫌な気分になってしまうので、カリスも愛人は持ってほしくなかった。

「愛人と言おうとしたのではない。養子を、と言おうとしたのだ」
「そうでしたか。失礼いたしました」
「リオネルと育てる子どもはかわいいだろう。だが、リオネルの子どももかわいいだろうな。悩ましい。リオネルに子どもができないものか」
「わたしの子どもは無理かもしれませんが、養子でわたしは十分幸せですよ」
「そうか。リオネル、おれのオメガ性が弱いせいですまないな」

 カリスが謝れば、リオネルは緩々と首を振る。癖のある金色の髪がふわふわと揺れた。

「そんな閣下だからこそ愛したのです」
「リオネル……お前は本当にかわいい」

 もう隠すことはないのだから、リオネルにどれだけ気持ちを伝えてもいい。
 カリスはリオネルを抱き締めて何度も「かわいい」と囁いた。

 リオネルとの結婚は最初が契約結婚だったので、心が通じ合うことを考えていなかった。
 領地に視察に行くときに、カリスは宝飾店に予約を入れておいた。
 リオネルと本当の夫夫になったので、やり直したいことがたくさんあった。

 夏の増水で壊れた橋の修復の様子を見て、町でカフェでお茶をして、カリスはリオネルを宝飾店に導いた。
 店の入り口でカリスは名乗る。

「予約していたカリス・ヴェルナートだ」
「ようこそいらっしゃいました、閣下。こちらへどうぞ」

 店の個室に通されて、店員がビロードの箱を持ってきた。
 そこには、カリスが注文しておいた指輪が二つ並んでいた。

 小さな四角い青みがかった緑のエメラルドをはめたプラチナの台座の指輪。
 結婚指輪も婚約指輪も交わしていなかったリオネルに、カリスは改めて結婚指輪を贈りたかったのだ。

「結婚指輪を贈っていなかっただろう? 受け取ってくれるか、リオネル?」
「わたしと閣下の結婚指輪ですか?」
「そうだ。エメラルドはリオネルの目の色に近いものを選んだ」

 リオネルの目の色に近いものを身に付けておきたい。リオネルにはカリスとお揃いのものを身に付けてほしい。
 カリスの我が儘だったが、リオネルは指輪を左手の薬指に通してやると、感動している様子だった。

「閣下、わたしと結婚してください!」
「もう結婚しているのだが」
「分かっていますが、わたしは閣下にプロポーズしていませんし、閣下からも契約結婚を持ち掛けられた他は、プロポーズの言葉はいただいていません。ここでしっかりと閣下との関係を明らかにしておきたいのです」

 言われてみればカリスからもリオネルからもプロポーズの言葉はなかった。
 先にプロポーズされてしまって、カリスの方が身分は高いし年も上なので、負けたくない気持ちが勝ってリオネルに自分からもプロポーズをする。

「おれから申し込むべきだったな。リオネル、結婚してほしい」
「わたしから申し込んだのです。わたしの返事は決まっています。閣下の返事が欲しいです」

 リオネルも譲らないので、こういうことで競っても仕方がないとカリスはプロポーズを受けることにした。

「リオネル、おれでよければ喜んで」
「閣下がいいのです。愛しています」

 返事をすれば、リオネルがカリスの左手の薬指にエメラルドのはまった指輪を通してくれる。リオネルとお揃いの指輪が左手の薬指に輝くことになって、感動して泣きそうになっているリオネルに、カリスは顔中にキスを降らせた。その間店員は席を外して見ないでいてくれた。

 季節は冬に移り変わっていたが、雪の中を馬車を走らせてカリスとリオネルは王都に出向いた。騎士団からどうしても来てほしいと呼ばれたのだ。
 騎士団長になっている侯爵令息と副団長になっている伯爵令息は、カリスが若いころからの付き合いで、二人ともアルファだが、カリスとリオネルの結婚式にも来てくれていて、カリスがオメガだということを知ってくれている。
 オメガ性が弱いので必要ないと思ってカリスは特にネックガードは付けていないが、リオネルの噛んだ痕がカリスのうなじの服の襟で見えるか見えないかぎりぎりのところについているし、今はオメガだということを隠していないので、カリスも気は楽ではあった。

「閣下、お呼びだてして申し訳ありません」
「リオネル殿もよく来てくださいました」

 騎士団長と副団長から挨拶されて、カリスは頷いて答える。

「急に騎士団を辞して全ての仕事を任せてしまって悪かったな。その後はどうだ?」
「わたしたちでもなんとかやれていますが、それも閣下が平和な時代を作ってくださったおかげです」
「戦争が終結したのはよかったのですが、奴隷の闇取り引きが再び始まっていて、それで九年前に奴隷の売買を摘発した閣下と、被害者だったリオネル殿にお話を聞きたかったのです」

 奴隷の売買の話が出たので、カリスはリオネルの方を気遣いながら話を進めることにする。リオネルに奴隷時代を思い出して苦しんでほしくはなかった。

「閣下はどんな状況で人身売買を摘発したのですか?」
「闇市で奴隷が売られているのを確認して、そこから売られた奴隷の足取りを追った。リオネルは剣闘士として闇の闘技場で戦わせられているのを保護した」
「闇市が再びこの国でも開かれている可能性があるということですね」
「闘技場も復活しているかもしれない」

 話しているうちに、黙り込んでいるリオネルの顔色が悪くなってきたのに気付いて、カリスはリオネルは別室で休んでいるように伝えた。最初は遠慮していたが、強引にでもリオネルを別室で休ませると、カリスは奴隷の売買の話を騎士団長と副団長と続けた。

「オメガは娼館に売られて、アルファは貴族の後継に売られることが多いようだが、アルファをいたぶって楽しみたいという悪趣味な輩もいる。闘技場で優秀なアルファが客を取らされていることもある」
「それは許されませんね」
「闘技場のアルファは、ヒートを誘発剤で起こしたオメガに襲われたり、アルファを従えたいものに抱かれたりすることもあったようだ」
「なんということを……」

 騎士団長も副団長もリオネルが奴隷上がりだということは知っている。リオネルの境遇を思って顔を顰めている二人だが、廊下から聞こえてきた声に、副団長が唇に人差し指を当てて耳を澄ませる。
 カリスも耳を澄ませていたら、下卑た笑いが聞こえた。

「大公閣下がオメガだったというのは本当だったのか?」
「大公閣下よりも元副団長の方がまだオメガだと言われて納得できる」
「あの二人が結婚するなど」
「やはり、奴隷上がりの元副団長が体で媚びたんじゃないのか?」

 その騎士たちはカリスとリオネルが騎士団を辞した後に入団した新米のようで、カリスとリオネルの戦場での功績を軽く見ているようだった。
 不快感に眉間に皴を寄せたカリスに、騎士団長がドアを開けて廊下の騎士たちを怒鳴りつける。

「お前たち、何の話をしている! 閣下とリオネル殿を侮辱するような真似がよくできたものだな!」
「も、申し訳ありません!」
「な、何も話しておりません!」
「言い訳をするな! 懲罰房に入っていろ!」

 騎士団長に怒鳴られた騎士たちは、他の騎士に連れられて懲罰房に連れて行かれた。
 その後で奴隷の話を騎士団長と副団長としている間も、カリスはリオネルの様子が心配でたまらなかった。
 話が終わると、すぐに別室に移動していたリオネルの元に行く。
 ソファの隅で小さくなっていたリオネルを抱き締めると、リオネルは緊張を解いて長く息を吐いた。

「わたしがあの騎士たちを止めるべきでした。閣下のお耳に不愉快な言葉を聞かせてしまったかもしれません」
「リオネル、気にすることはない」
「わたしは……全部閣下が初めてだったらよかったのに」

 カリスは全ての性的なことがリオネルが初めてだったが、リオネルはそうではない。
 そのことを気にしているリオネルに、カリスは真面目な顔で告げる。

「おれはリオネルが何もかも初めてだったが、騎士団の応急処置として、人工呼吸はしたことがある」
「それは、口付けには入らないでしょう」

 リオネルの口から否定の言葉を引き出したところで、畳みかけるようにカリスは言う。

「それならば、リオネルも全部おれが初めてだ」
「わたしは違います。奴隷時代に客に強要されて、どんなことでもしました。わたしは汚れている」
「リオネル・ラウゼン、奴隷時代に強要されたことは忘れなさい」
「ですが、閣下……」
「気持ちが伴わずにしたことは数に数えなくていい。リオネルの初めては全ておれがもらった。いいね?」
「はい、閣下……」

 リオネルの意志がなくされたことは忘れてしまっていい。
 リオネルが愛して触れたのはカリスが初めてだったのだから、それがリオネルの初めてだと教えれば、リオネルは安堵したようにカリスに体を預けていた。
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