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その19 カルタヘナ法
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東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
「あれ、この美味しそうな匂いはうな丼かな? でもあの部屋って……」
ある日の放課後、下校しようとしていた私、灰田菜々は生物学実験室の方から漂ってきた美味しそうな匂いにつられて廊下を歩いていた。
私は肉アレルギーという体質上うなぎや穴子などの一部の魚介類は食べられないがうなぎの蒲焼きの味は好きで、以前両親にうな丼屋に連れて行って貰った時はタレだけをご飯にかけて食べていた。
「創ちゃん、何かこの実験室からうなぎの蒲焼きっぽい匂いが……ってそれ虫じゃない!?」
「おおっ、流石は食通の灰田先輩、この遺伝子組換えコオロギの匂いにお気づきになりますとは」
いつものように学校から生物学実験室を借りて動物を飼育していたのはケインズ女子中学校2年生の天才生徒である解木創ちゃんで、彼女は日本の家屋によくいる黒くてツヤテカしたやつによく似た虫を大量に飼育していた。
「この遺伝子組換え昆虫は拙者の自信作でございまして、何とうなぎの蒲焼きの味がするコオロギなのです。少し火を通しただけでそのまま食べることができ、飼育も通常のコオロギと同程度に容易という便利さでして。飼育体制を確立しましたら昆虫食業者とライセンス契約を締結するつもりなのです」
「へえー、そうなんだ……でも本当にうなぎの蒲焼きと同じ味なら買ってくれる人も多いかも」
現在の日本で昆虫食が中々普及しない理由には生理的な嫌悪感に加えてそもそも美味しくないのではという印象によるものが大きく、うなぎの蒲焼きほど美味しい昆虫なら無理に推進しなくても食材として普及する気がした。
「……」
「あっカメちゃんだ。この前見た時より大きくなったかな?」
生物学実験室の床をのしのしと歩き回っているのは創ちゃんが個人的に飼育しているカミツキガメのカメ太郎で、温厚な性格のカメ太郎はコオロギ飼育用水槽を手入れしている創ちゃんのもとへと歩いていった。
「ええ、カメ太郎は成長期でしてそろそろおやつを……ってえええええ!?」
「……」
創ちゃんが返事した瞬間にカメ太郎は無言で目の前の水槽へと頭突きを食らわせ、強い衝撃を受けた水槽は割れてしまい中から遺伝子組換えコオロギが逃げ出し始めた。
「ひいいいいいい、コオロギが逃げてしまいますううううう! 灰田先輩も捕まえてくだされー!!」
「えーそれはちょっと……あ、でも遺伝子組換え動物って逃げ出しちゃいけないんだよね!?」
実験室内を飛び回る大量のコオロギを創ちゃんは涙目になって追いかけ始め、うなぎ味のコオロギを美味しそうに食べているカメ太郎をよそに私も近くに置かれていた虫あみを取って必死でコオロギを捕まえた。
しかし一部の遺伝子組換えコオロギは実験室の窓から逃げ出して行方不明となってしまい、不慮の事故とはいえ遺伝子組換え動物を逃がしてしまった創ちゃんはorzになって落ち込んでいた。
「先輩もご存知の通り日本にはカルタヘナ法というものがございまして、遺伝子組換え動物を自然界に逃がしてしまうと反省文では済まないのです。ひとまず校長先生に事実をお伝えしてきます……」
創ちゃんはがっくり落ち込んだままとぼとぼと校長室へと歩いていき、満腹になって昼寝しているカメ太郎をよそに私も創ちゃんが何か処罰を受けるのだろうかと心配になった。
その翌月……
『先月東京都内の私立ケインズ女子高校から逃げ出した遺伝子組換えコオロギですが、環境省が首都圏全域の生態系調査を行ったところ自然界のコオロギとの交雑は確認されませんでした。全日本昆虫学会はうなぎの蒲焼きの味がするコオロギのため逃げ出してからすぐに全個体が鳥類などに捕食されたものと推定しており……』
「灰田先輩、今度は大トロの味がする遺伝子組換えカミツキガメを作製致しました! カメは動きがのろいのでこれなら逃げ出す心配はございません!!」
「カメ太郎と交雑させないように注意してねー……」
懲りずに遺伝子組換え動物を作製している創ちゃんに、私はこれは結果オーライと言ってしまっていいのだろうかと思った。
(続く)
「あれ、この美味しそうな匂いはうな丼かな? でもあの部屋って……」
ある日の放課後、下校しようとしていた私、灰田菜々は生物学実験室の方から漂ってきた美味しそうな匂いにつられて廊下を歩いていた。
私は肉アレルギーという体質上うなぎや穴子などの一部の魚介類は食べられないがうなぎの蒲焼きの味は好きで、以前両親にうな丼屋に連れて行って貰った時はタレだけをご飯にかけて食べていた。
「創ちゃん、何かこの実験室からうなぎの蒲焼きっぽい匂いが……ってそれ虫じゃない!?」
「おおっ、流石は食通の灰田先輩、この遺伝子組換えコオロギの匂いにお気づきになりますとは」
いつものように学校から生物学実験室を借りて動物を飼育していたのはケインズ女子中学校2年生の天才生徒である解木創ちゃんで、彼女は日本の家屋によくいる黒くてツヤテカしたやつによく似た虫を大量に飼育していた。
「この遺伝子組換え昆虫は拙者の自信作でございまして、何とうなぎの蒲焼きの味がするコオロギなのです。少し火を通しただけでそのまま食べることができ、飼育も通常のコオロギと同程度に容易という便利さでして。飼育体制を確立しましたら昆虫食業者とライセンス契約を締結するつもりなのです」
「へえー、そうなんだ……でも本当にうなぎの蒲焼きと同じ味なら買ってくれる人も多いかも」
現在の日本で昆虫食が中々普及しない理由には生理的な嫌悪感に加えてそもそも美味しくないのではという印象によるものが大きく、うなぎの蒲焼きほど美味しい昆虫なら無理に推進しなくても食材として普及する気がした。
「……」
「あっカメちゃんだ。この前見た時より大きくなったかな?」
生物学実験室の床をのしのしと歩き回っているのは創ちゃんが個人的に飼育しているカミツキガメのカメ太郎で、温厚な性格のカメ太郎はコオロギ飼育用水槽を手入れしている創ちゃんのもとへと歩いていった。
「ええ、カメ太郎は成長期でしてそろそろおやつを……ってえええええ!?」
「……」
創ちゃんが返事した瞬間にカメ太郎は無言で目の前の水槽へと頭突きを食らわせ、強い衝撃を受けた水槽は割れてしまい中から遺伝子組換えコオロギが逃げ出し始めた。
「ひいいいいいい、コオロギが逃げてしまいますううううう! 灰田先輩も捕まえてくだされー!!」
「えーそれはちょっと……あ、でも遺伝子組換え動物って逃げ出しちゃいけないんだよね!?」
実験室内を飛び回る大量のコオロギを創ちゃんは涙目になって追いかけ始め、うなぎ味のコオロギを美味しそうに食べているカメ太郎をよそに私も近くに置かれていた虫あみを取って必死でコオロギを捕まえた。
しかし一部の遺伝子組換えコオロギは実験室の窓から逃げ出して行方不明となってしまい、不慮の事故とはいえ遺伝子組換え動物を逃がしてしまった創ちゃんはorzになって落ち込んでいた。
「先輩もご存知の通り日本にはカルタヘナ法というものがございまして、遺伝子組換え動物を自然界に逃がしてしまうと反省文では済まないのです。ひとまず校長先生に事実をお伝えしてきます……」
創ちゃんはがっくり落ち込んだままとぼとぼと校長室へと歩いていき、満腹になって昼寝しているカメ太郎をよそに私も創ちゃんが何か処罰を受けるのだろうかと心配になった。
その翌月……
『先月東京都内の私立ケインズ女子高校から逃げ出した遺伝子組換えコオロギですが、環境省が首都圏全域の生態系調査を行ったところ自然界のコオロギとの交雑は確認されませんでした。全日本昆虫学会はうなぎの蒲焼きの味がするコオロギのため逃げ出してからすぐに全個体が鳥類などに捕食されたものと推定しており……』
「灰田先輩、今度は大トロの味がする遺伝子組換えカミツキガメを作製致しました! カメは動きがのろいのでこれなら逃げ出す心配はございません!!」
「カメ太郎と交雑させないように注意してねー……」
懲りずに遺伝子組換え動物を作製している創ちゃんに、私はこれは結果オーライと言ってしまっていいのだろうかと思った。
(続く)
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