たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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水平線の向こうに④

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 ふかふかのベット、美味しい食事、そして海を一望できる最高の眺め。各ある部屋の中でも最上級の部屋ということでとても居心地がいい。
 ダクリュオンで一番の宿と言われるだけのことはある。

 朝の日差しとキラキラ輝く海を見ていると、ハクレイも起きてきたようで飲み物を持ってきてくれた。

「おはよ」

「おはようございますケーナ。今日はなにしますか」

「今日も天気がいいからね。また海で遊びたいところなんだけど……」

 探索スキルで宿の周りを取り囲むように見張られているのが分かる。今回はクライゼル少佐とは違ってちゃんと隠れることができる者たちが揃っていた。よく調べればやっぱり軍の者たち。

「どうしようかなぁ。またあの軍人にだけは会いたくないからなぁ」

「違う浜辺を探してきましょうか?」

「そうだ今日は沖に出てみようよ。海に潜るのも楽しいよ」

「是非やってみたいです」

 今日のプランが決まったところでフランも加わる。

「海に潜るのじゃな。余は長く息が続かぬぞ」

「じゃーん、とっておきのアイテムを作ったよ」

 一見すると『おしゃぶり』だが、その実体は魔石に複雑な術式を彫りこみ、咥えるだけで空気を発生させレギュレーター代わりになるものだ。
 エアタンクみたいなのがなくても海水を空気に変換させるので魔石が消費されるまでずっと使えて、しかもどんなに長く深く潜っても減圧症にも低体温症にもならない優れものに仕上げてある。

「また奇怪な物を作りおったの」

「便利でしょ」

「あともう1つはこのゴーグル」

「こっちはどんな仕掛けがあるのじゃ」

「あえて言うなら頑丈にできてるよ。水中をよく見るだけのものだからそんなに期待しないで」

 2人に渡し使い方や水中での耳抜きなどを教えていたが、おしゃぶり姿が可愛くて面白くて笑いが込み上げてくる。

「ふぁにをわふぁっておふのふぁふぇーな(何を笑っておるのじゃケーナ)」

「わってふふぁふぃともおふぁふりふぃてふのあふぁかいくて(だって2人ともおしゃぶりしてるのが可愛くて)」

「ふぇーなふぁほのはたひにふふったんひゃほーひ(ケーナがこの形に作ったのじゃろうに)」

「ほふはふぇほ(そうだけど)」

 などと話しているとドアをノックされ朝食が運ばれてきたことに気づき、咄嗟にドアを開けてしまう。私もおしゃぶりを咥えていることを忘れていた。

 給仕には朝から異様な光景を見せてしまい、私も無事笑われる側へとなったのだった。



 大満足の朝食を終えるとさっそく水着に着替えてもらう。理由は部屋から一気に海まで空間転移するため。

「なぜ、そんなに急ぐのかの。海は逃げんのじゃ」

「追ってくる人がいるからだよ。フランにもハクレイにも気づかれてないんだから相当な実力者なんじゃないの?」

「もう、いるのじゃな?」

「宿の周りで待ってるよ」

「……ハクレイにも分かりません」

「ってことで移動しまーす。手つないで、ほらほら」

 どんなに隙間なく囲んでいようが、抜ける手段はいくらでもある。折角の旅行なのに軍人と追いかけっこなんてしている暇などないのだから。

 とりあえず転移先は昨日の浜辺。
 ここと演習で使われていた浜辺ぐらいしか知らないのだからしかたない。
 
 それを読まれていたのだろうか、着いた浜辺にも幾人かの軍人が見張りをしていた。

「いたぞ! こっちだ!! いつの間にか転移してきたぞ!!」

 1人の軍人が私たちを見つけて声をあげる。

「ハクレイが殺さない程度にやりましょうか」

「いやー、それはそれで問題になりそうなんだよね」

「また宿に戻るのかの?」

「帰ってもねしかたないし、海に逃げちゃおう」

「さっそく、おしゃぶりの出番かの!」

 ゴーグルをつけ、おしゃぶりを咥えると海に飛び込む。

「海中部隊と海上部隊に連絡! 対象が海へと入っていった! 逃がすなよ、しっかりおもてなししてやれ!!」

 飛び込んだのはいいが、私以外はまともに泳げていない。潜っても深く潜れないので浮いてきてしまう。ここでは喋れないので念話スキルを発動させた。

⦅2人とも、私の手掴んで。一気に潜るからね⦆

 手を繋ぐと海中をどんどん進んでいく。

⦅追って……来てるね⦆

 後方に空気の球体に包まれた人が何人か見える。あれが海軍の海中作戦用の仕様なのだろう。
 快適そうで真似したいところだが今は逃げに徹する。

 距離を取るためバタ足から力任せのドルフィンキックに変えて一気に潜る。水の抵抗を無視するような動きには流石についてこれないようだ。

 取りあえず深い海底まできた。一度様子を見るため止まる。辺りは砂だけ。
 海面からの光の届き具合から70m以上は余裕で潜っているかなといったところ。

⦅ハクレイ、具合は大丈夫?⦆

 両手で丸を作ってくれた。ステータスの異常もないようで安心した。
 それを見ていたフランも真似て丸を作っている。そもそもフランは不死なのであまり心配していない。

 追手の方はと見上げてみると一定の深さ以上に潜ってこようとしない。あれがあの仕様の限界なのかもしれない。

 空気を纏わせたまま潜るのだから水圧に抵抗したり浮力を制御したりと面倒そうでもある。

⦅これ以上は潜ってこないみたいだね。さらに深いところまで行くよ。ハクレイは魔法障壁を張って体を守ってね⦆

 相手の視界から逃げるように手加減スキルを止めたドルフィンキックを炸裂させて更に深く遠くに逃げた。


 数十キロは潜水しただろうか、探索スキルを使っても軍人の気配がないところまで来ると、一度浮上し海面に顔を出した。

「ふぅーーー。ここまで来ればって感じかな。2人とも大丈夫?」

「大丈夫じゃ」

「ハクレイは、魔力が切れそうです」

 魔法障壁の連続使用のせいだろう。完全な魔力切れにならなくて良かった。

 ハクレイを休ませるため辺りを千里眼で見てみると、まさに無人島と呼ぶに相応しい場所を見つける。

「いい場所見つけた! ハクレイは全身の力を抜いて浮かんでればいいから、私が引っ張るね」

「なんじゃ、余も上手く泳げんのじゃよ、引っ張ってくれなのじゃ」
 
 仕方ないのでフランも引っ張りつつゆっくり無人島を目指した。
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