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薬草売りの少女③
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「おい! これはどういうことか説明してもらおうか」
帰宅早々に、玄関で植物のつるに拘束されているグランジ。
妖精たちの悪戯だろう。
呼んだのは私なので少々申し訳ない。
「妖精さんが大歓迎してくれた証拠だよ」
「手厚い歓迎を受けておるのぉー」
「いいからほどいてくれ。俺の力じゃ無理なんだ。どうなってんだ」
解除の魔法で拘束を解く。
「あのな、呼びつけておいて縛りあげるなんていい趣味してるな」
「私の趣味じゃないよー」
「で要件は何だ?」
「取りあえず座ろうか。お茶ぐらいだすよ」
妖精たちの悪戯のお詫びにと菓子までだした。私がハクレイに教えて作ってもらったクッキーだ。「甘い美味い」といいながらあっという間に出した分を食べてしまった。
「今日呼んだのは知りたいことがあって」
「情報か、何が知りたい」
「ホワイトディアの角って知ってる?」
その一言で何かを察したのか考え出すグランジ。
「ちょっと待て。それはモンスターについての話か?それとも素材の効果についての話か?」
「効果の方」
「あーやっぱりそっちか。元々ホワイトディアの角は粉末にして使う痛み止めの薬なんだが、使い続けると効果に変化が起きて幻覚を見ることができるらしい。現実逃避するにはうってつけで一部に人気らしいがな。買い方が特殊で普通の店には売ってないぞ」
「町で女の子が売ってたよ」
「ああ、隠れて売るには子供を使うこともあるとは聞いたな。まさか子供がそんなもの売っているとは思わないからな。買うには合言葉があってそれを言った客のみが買えるそうだ」
「ふーん」
「欲しいのか?」
「別に欲しくはないかな。元々痛み止めなのになんで今は店に売ってないの?」
「そもそも素材が希少ってこともあるが、幻覚効果を期待して使い続けると人格が壊れ、酷いと廃人のようになってしまうらしい。それもあって国や領土によっては販売と使用を禁止してるからな。大っぴらに商売しにくいんだ」
「そんなんだったら、カスケードは禁止じゃないの?」
「もちろん禁止だ。アヤフローラ教が禁忌の薬として認定している。それでもこそこそ商売している奴らはどこにでもいるからな」
「お金の為なのかな」
「売る側の目的は金だろう、危険な商売なだけあって利益は大きいぞ。……いくら魔王様でもこれはオススメしないからな」
「私はしないよ! 魔王って言っても悪の組織の親玉じゃないんだから」
薬師という仕事がありながら、危険な商売に手を出す。さらには子供まで使う理由。かなり追い込まれているのかもしれない。
「あと1つ聞きたい」
「なんだ?」
「町の薬屋って儲からないの?」
「そんな事はないだろう……いや、カスケードに限っていえばそうかもしれない。ここ最近薬屋がいくつか閉店しているからな」
「え、なんで?」
「知らないのか? 聖人がいるカスケードの教会に行けば、タダで怪我でも病気でも治してくれるんだ。神から授かった聖水のおかげでだそうだ。しかもその聖水は無くならないらしいぞ。なのに誰がわざわざ薬屋で金を出してまで薬を買う? ポーションは冒険者に売れるかもしれないが、それだけの稼ぎじゃ食っていけないだろう」
(あっ……あの瓶かも……)
薬屋が追い込まれている理由が分かってしまった。まさか失敗作の瓶がここまで影響するとは考えていなかった。
「おい、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「えっ、あぁ、大丈夫。ちょっと考え事してただけ。知りたかったことは取りあえず知れたかな。情報料はいくら?」
「そんな大した情報じゃないからな……あ、菓子余っているか?」
「まだあるよ」
「それを情報料として貰っておくぞ。ケーナが作ったのか? 美味いぞこれ」
「レシピは私が教えたけど、作ったのはハクレイだよ」
クッキーがよほど気に入った様子で全部袋に詰めている。
「もしホワイトディアの角を流している奴の事、知りたきゃ調べておくがどうする?」
「一応お願いするよ」
「わかった。こっちは後で金いただくからよろしくな。3日後また来る」
扉から出て行くグランジの背中を見ると、妖精たちの悪戯描きがびっしりと描かれていた。よくもまぁ気づかれずにやるもんだと感心しつつ見送った。
浮上した問題を解決しようにも、ブハッサから瓶を取り上げるわけにもいかない。あの瓶のおかげで聖人として振る舞えてるわけだし、困っている人達を救っているのにそれを邪魔したらそれこそ悪者になってしまう。
薬師の方を止めたところで、お金の問題が解決するわけではない。また危険を冒してでも何かするだろう。
(うむむむ……)
私なりに解決案を考えているとキッチンの方から悲鳴にもにた絶望の声が聞えてくる。
「余の菓子ない! どこにいったのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もともと余だけの菓子ではない。皆のお菓子だ。
「あ、お菓子はグランジが全部――」
「なーーーーにーーーー! 許さんのじゃ!!!!」
怒りの感情を表に出ているフランが珍しくもあり、ここまで怒るのかと驚きもした。
「ちょ、ちょっと、待ってフラン。報酬の代わりに渡したの。欲しいなら私が作るから」
「ケーナが作ってくれるのか!?」
「時間かかるけどいい?」
「もちろん待つのじゃ!! ケーナの菓子は妖魔でもひれ伏す美味しさじゃからな」
先ほどの怒りはもう消え失せ、ニッコニコの笑顔を向けてくる。
褒めすぎだろうとも思うが、フランがお世辞を言っているようには思えなかった。
帰宅早々に、玄関で植物のつるに拘束されているグランジ。
妖精たちの悪戯だろう。
呼んだのは私なので少々申し訳ない。
「妖精さんが大歓迎してくれた証拠だよ」
「手厚い歓迎を受けておるのぉー」
「いいからほどいてくれ。俺の力じゃ無理なんだ。どうなってんだ」
解除の魔法で拘束を解く。
「あのな、呼びつけておいて縛りあげるなんていい趣味してるな」
「私の趣味じゃないよー」
「で要件は何だ?」
「取りあえず座ろうか。お茶ぐらいだすよ」
妖精たちの悪戯のお詫びにと菓子までだした。私がハクレイに教えて作ってもらったクッキーだ。「甘い美味い」といいながらあっという間に出した分を食べてしまった。
「今日呼んだのは知りたいことがあって」
「情報か、何が知りたい」
「ホワイトディアの角って知ってる?」
その一言で何かを察したのか考え出すグランジ。
「ちょっと待て。それはモンスターについての話か?それとも素材の効果についての話か?」
「効果の方」
「あーやっぱりそっちか。元々ホワイトディアの角は粉末にして使う痛み止めの薬なんだが、使い続けると効果に変化が起きて幻覚を見ることができるらしい。現実逃避するにはうってつけで一部に人気らしいがな。買い方が特殊で普通の店には売ってないぞ」
「町で女の子が売ってたよ」
「ああ、隠れて売るには子供を使うこともあるとは聞いたな。まさか子供がそんなもの売っているとは思わないからな。買うには合言葉があってそれを言った客のみが買えるそうだ」
「ふーん」
「欲しいのか?」
「別に欲しくはないかな。元々痛み止めなのになんで今は店に売ってないの?」
「そもそも素材が希少ってこともあるが、幻覚効果を期待して使い続けると人格が壊れ、酷いと廃人のようになってしまうらしい。それもあって国や領土によっては販売と使用を禁止してるからな。大っぴらに商売しにくいんだ」
「そんなんだったら、カスケードは禁止じゃないの?」
「もちろん禁止だ。アヤフローラ教が禁忌の薬として認定している。それでもこそこそ商売している奴らはどこにでもいるからな」
「お金の為なのかな」
「売る側の目的は金だろう、危険な商売なだけあって利益は大きいぞ。……いくら魔王様でもこれはオススメしないからな」
「私はしないよ! 魔王って言っても悪の組織の親玉じゃないんだから」
薬師という仕事がありながら、危険な商売に手を出す。さらには子供まで使う理由。かなり追い込まれているのかもしれない。
「あと1つ聞きたい」
「なんだ?」
「町の薬屋って儲からないの?」
「そんな事はないだろう……いや、カスケードに限っていえばそうかもしれない。ここ最近薬屋がいくつか閉店しているからな」
「え、なんで?」
「知らないのか? 聖人がいるカスケードの教会に行けば、タダで怪我でも病気でも治してくれるんだ。神から授かった聖水のおかげでだそうだ。しかもその聖水は無くならないらしいぞ。なのに誰がわざわざ薬屋で金を出してまで薬を買う? ポーションは冒険者に売れるかもしれないが、それだけの稼ぎじゃ食っていけないだろう」
(あっ……あの瓶かも……)
薬屋が追い込まれている理由が分かってしまった。まさか失敗作の瓶がここまで影響するとは考えていなかった。
「おい、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「えっ、あぁ、大丈夫。ちょっと考え事してただけ。知りたかったことは取りあえず知れたかな。情報料はいくら?」
「そんな大した情報じゃないからな……あ、菓子余っているか?」
「まだあるよ」
「それを情報料として貰っておくぞ。ケーナが作ったのか? 美味いぞこれ」
「レシピは私が教えたけど、作ったのはハクレイだよ」
クッキーがよほど気に入った様子で全部袋に詰めている。
「もしホワイトディアの角を流している奴の事、知りたきゃ調べておくがどうする?」
「一応お願いするよ」
「わかった。こっちは後で金いただくからよろしくな。3日後また来る」
扉から出て行くグランジの背中を見ると、妖精たちの悪戯描きがびっしりと描かれていた。よくもまぁ気づかれずにやるもんだと感心しつつ見送った。
浮上した問題を解決しようにも、ブハッサから瓶を取り上げるわけにもいかない。あの瓶のおかげで聖人として振る舞えてるわけだし、困っている人達を救っているのにそれを邪魔したらそれこそ悪者になってしまう。
薬師の方を止めたところで、お金の問題が解決するわけではない。また危険を冒してでも何かするだろう。
(うむむむ……)
私なりに解決案を考えているとキッチンの方から悲鳴にもにた絶望の声が聞えてくる。
「余の菓子ない! どこにいったのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もともと余だけの菓子ではない。皆のお菓子だ。
「あ、お菓子はグランジが全部――」
「なーーーーにーーーー! 許さんのじゃ!!!!」
怒りの感情を表に出ているフランが珍しくもあり、ここまで怒るのかと驚きもした。
「ちょ、ちょっと、待ってフラン。報酬の代わりに渡したの。欲しいなら私が作るから」
「ケーナが作ってくれるのか!?」
「時間かかるけどいい?」
「もちろん待つのじゃ!! ケーナの菓子は妖魔でもひれ伏す美味しさじゃからな」
先ほどの怒りはもう消え失せ、ニッコニコの笑顔を向けてくる。
褒めすぎだろうとも思うが、フランがお世辞を言っているようには思えなかった。
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