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薬草売りの少女⑤
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ドラゴン討伐の報酬は久しぶりにまとまった収入だったので、帰りに店に寄って爆買いをしていく。消費アイテムから食材、出店の食べ物までじゃんじゃん買っていく。どんなに買っても空間収納内が満杯になるなんてことはなく、時間停止で保存も効くため無駄にはならない。
お店の人の呼び方は、変わらず「ケーナ嬢ちゃん」や「ケーナちゃん」と呼ぶ人もいれば、仰々しく「魔王様!」と呼んでくれる人もいる。どちらにせよ私が町の皆に受け入れてもらえているようで心地がいい。
でも「この棚全部とこっちの棚全部」「あるだけ買っていくわ」などの爆買いにはさすがに驚いたようでどこの店主も目を丸くしていた。
この世界ではお金を貯めるより、どんどん使って形ある物や経験などに変換しておいた方があとあと役に立つことの方が多い。
それに私がお金を使えばこの町も少しは潤う。この程度で経済を回すことはできないが町の人がちょっとでも潤えば、それでもいいといった感じだ。
目についた薬屋にも片っ端から寄っていき、ポーション・毒消し・麻痺直しなどの大量発注と前金を渡しておいた。せめてもの罪滅ぼしのつもり。
日が沈むころに家に帰ると、グランジが既に待っていた。
「待たせちゃったね」
「いいや、気にしなくていい。今日はここで飯をいただくつもりだからな」
「……ま、別にいいけど。ホワイトディアの角の出所は分かったの?」
「その件だが、さっぱりだ」
肩をすくめ、あまりの情報の無さにグランジも驚いたという表情だ。
「え、なんで? あの角は希少な素材なんでしょ? 買い取りに持ち込む人なんて限られてるじゃないの?」
「はじめは俺もそう思っていたさ。だが調べてもカスケードでの最近の買い取り記録が無い。カスケードだけじゃなくアヤフローラ全体でも最後の取引記録は10年以上前になる。買い取りがなければ当然素材の販売もなかった」
「そんなに希少なの? 他の国は?」
「昔はそれなりに買い取りがあったそうだが、今はかなり希少な素材になってきているらしい。他国は調べきれてないが、難しいだろうな。ホワイトディアの生息域はアヤフローラ限定だからな。ここでは年1ぐらいで目撃情報が入るが、他国では目撃情報すらないのが普通だ」
「じゃあ、自分で狩って、素材を売らずに使ってるってことかな」
「可能性としてはそうだが」
「何が引っかかるの?」
「そもそもホワイトディアはグレートディアの特殊個体的な存在だ。グレートディアが進化しているとも言われている。ただでさえ強いグレートディア、その特殊個体を狩るとなると熟練ハンターを集めたり、串刺し以上冒険者を集めたりする必要がある」
「こっそり1人で狩るのが難しいってこと?」
「そうだな。だから狩りや討伐となればパーティーメンバーが募集される。その記録がないのはおかしい」
「他にホワイトディアの角の入手方法はないの?」
「どこかに保管されている素材を盗み出すとかになってしまうが、最後の角の取引が10年以上前、それすら今どこにあるのか分からないのに難しいだろうな」
「そう……わかったよ」
よほど上手に商売をやっているのだろう、ならこちらも気合を入れて探すしかない。
空間収納から金貨をガバッと掴んでグランジに渡す。
「報酬だけどこれで足りる?」
「おいおい随分気前がいいな。40枚ぐらいか。いいのかこんなに」
「まだ調べてほしい事があるからそれの準備金も入ってるよ」
「もちろん引き受けるぜ、で内容はなんだ?」
簡単に言えば監視と尾行だ。
粉末の入った小さな包みを仕入れるタイミングを狙うしかない。対象は最初に見つけた薬師のブレドニロンだ。家の場所を教え、ブレドニロンが取引する相手を更に尾行するといった感じだ。
「たまに報告に来て、追加報酬もその時渡すよ。1日金貨3枚でどう?」
「分かった。明日から監視しよう」
「よし、じゃあ、作戦も決まったことだし、夕食にしますか。今日の夕食はサービスにしておくから」
「お、ありがたいね」
こちらのタイミングを見計らってハクレイが食器を持ってきてくれる。
今夜の料理は肉料理だ。
ハクレイの料理の腕前はもう私を超えているかもしれない。グランジの食いっぷりをみればよくわかる。
しかし、グランジは手を止め、何かを思い出したように話し始めた。
「そういえば、3日前ここから帰った時、街中でやたら視線を感じたんだ。家に帰るまで原因は分からなかったが……俺の背中に落書きしたのはどこの妖精だ」
「ちなみに何が描いてあったの?」
「いやなんの絵なのかは分からなかったが」
グランジはまだ部外者扱いなのでこの家の妖精達を見ることはできないし、声を聞くこともできない。それを分かっていながらプリツがグランジの目の前に現れ
「あんたの背中にはね ”お菓子泥棒” っていっぱい書いてやったのよ!!」
と高らかに宣言していた。
しかたないので私が通訳してグランジに教えておいたら、さすがにクッキーを全部持って行ったことは悪かったと反省していた。
グランジの帰り際にお守りを渡す。私のお手製お守りで見た目は可愛い猫の顔だが、その中に小さな魔石が入っている。
「念のためにこれ持ってて」
「なんだこれは、お守りか? でもなんでジャガイモなんだ?」
「は? 猫ですけど」
失礼な奴だ。プリツと同じことを言っている。
グランジはきっと妖精のような善くない目をもっているのだろう。フランとハクレイは芸術的で独創的と褒めてくれた逸品だ。
「なんでもいい、持ってろと言うなら持っておく。作戦は明日の昼から、報告には明後日の朝来るからよろしくな」
「よろしく頼んだよ」
作戦開始から5日間、ときどきグランジが報告に来てくれていた。
ここまでは特に動きはなく、相変わらずそこの娘が薬草を売りながら、小さな包みを売っていたらしい。
しかし5日目の夜、そろそろ寝ようかというタイミングでグランジに渡してあったお守りから知らせが届く。
【所有者の残りHPが50%を下回りました】
お店の人の呼び方は、変わらず「ケーナ嬢ちゃん」や「ケーナちゃん」と呼ぶ人もいれば、仰々しく「魔王様!」と呼んでくれる人もいる。どちらにせよ私が町の皆に受け入れてもらえているようで心地がいい。
でも「この棚全部とこっちの棚全部」「あるだけ買っていくわ」などの爆買いにはさすがに驚いたようでどこの店主も目を丸くしていた。
この世界ではお金を貯めるより、どんどん使って形ある物や経験などに変換しておいた方があとあと役に立つことの方が多い。
それに私がお金を使えばこの町も少しは潤う。この程度で経済を回すことはできないが町の人がちょっとでも潤えば、それでもいいといった感じだ。
目についた薬屋にも片っ端から寄っていき、ポーション・毒消し・麻痺直しなどの大量発注と前金を渡しておいた。せめてもの罪滅ぼしのつもり。
日が沈むころに家に帰ると、グランジが既に待っていた。
「待たせちゃったね」
「いいや、気にしなくていい。今日はここで飯をいただくつもりだからな」
「……ま、別にいいけど。ホワイトディアの角の出所は分かったの?」
「その件だが、さっぱりだ」
肩をすくめ、あまりの情報の無さにグランジも驚いたという表情だ。
「え、なんで? あの角は希少な素材なんでしょ? 買い取りに持ち込む人なんて限られてるじゃないの?」
「はじめは俺もそう思っていたさ。だが調べてもカスケードでの最近の買い取り記録が無い。カスケードだけじゃなくアヤフローラ全体でも最後の取引記録は10年以上前になる。買い取りがなければ当然素材の販売もなかった」
「そんなに希少なの? 他の国は?」
「昔はそれなりに買い取りがあったそうだが、今はかなり希少な素材になってきているらしい。他国は調べきれてないが、難しいだろうな。ホワイトディアの生息域はアヤフローラ限定だからな。ここでは年1ぐらいで目撃情報が入るが、他国では目撃情報すらないのが普通だ」
「じゃあ、自分で狩って、素材を売らずに使ってるってことかな」
「可能性としてはそうだが」
「何が引っかかるの?」
「そもそもホワイトディアはグレートディアの特殊個体的な存在だ。グレートディアが進化しているとも言われている。ただでさえ強いグレートディア、その特殊個体を狩るとなると熟練ハンターを集めたり、串刺し以上冒険者を集めたりする必要がある」
「こっそり1人で狩るのが難しいってこと?」
「そうだな。だから狩りや討伐となればパーティーメンバーが募集される。その記録がないのはおかしい」
「他にホワイトディアの角の入手方法はないの?」
「どこかに保管されている素材を盗み出すとかになってしまうが、最後の角の取引が10年以上前、それすら今どこにあるのか分からないのに難しいだろうな」
「そう……わかったよ」
よほど上手に商売をやっているのだろう、ならこちらも気合を入れて探すしかない。
空間収納から金貨をガバッと掴んでグランジに渡す。
「報酬だけどこれで足りる?」
「おいおい随分気前がいいな。40枚ぐらいか。いいのかこんなに」
「まだ調べてほしい事があるからそれの準備金も入ってるよ」
「もちろん引き受けるぜ、で内容はなんだ?」
簡単に言えば監視と尾行だ。
粉末の入った小さな包みを仕入れるタイミングを狙うしかない。対象は最初に見つけた薬師のブレドニロンだ。家の場所を教え、ブレドニロンが取引する相手を更に尾行するといった感じだ。
「たまに報告に来て、追加報酬もその時渡すよ。1日金貨3枚でどう?」
「分かった。明日から監視しよう」
「よし、じゃあ、作戦も決まったことだし、夕食にしますか。今日の夕食はサービスにしておくから」
「お、ありがたいね」
こちらのタイミングを見計らってハクレイが食器を持ってきてくれる。
今夜の料理は肉料理だ。
ハクレイの料理の腕前はもう私を超えているかもしれない。グランジの食いっぷりをみればよくわかる。
しかし、グランジは手を止め、何かを思い出したように話し始めた。
「そういえば、3日前ここから帰った時、街中でやたら視線を感じたんだ。家に帰るまで原因は分からなかったが……俺の背中に落書きしたのはどこの妖精だ」
「ちなみに何が描いてあったの?」
「いやなんの絵なのかは分からなかったが」
グランジはまだ部外者扱いなのでこの家の妖精達を見ることはできないし、声を聞くこともできない。それを分かっていながらプリツがグランジの目の前に現れ
「あんたの背中にはね ”お菓子泥棒” っていっぱい書いてやったのよ!!」
と高らかに宣言していた。
しかたないので私が通訳してグランジに教えておいたら、さすがにクッキーを全部持って行ったことは悪かったと反省していた。
グランジの帰り際にお守りを渡す。私のお手製お守りで見た目は可愛い猫の顔だが、その中に小さな魔石が入っている。
「念のためにこれ持ってて」
「なんだこれは、お守りか? でもなんでジャガイモなんだ?」
「は? 猫ですけど」
失礼な奴だ。プリツと同じことを言っている。
グランジはきっと妖精のような善くない目をもっているのだろう。フランとハクレイは芸術的で独創的と褒めてくれた逸品だ。
「なんでもいい、持ってろと言うなら持っておく。作戦は明日の昼から、報告には明後日の朝来るからよろしくな」
「よろしく頼んだよ」
作戦開始から5日間、ときどきグランジが報告に来てくれていた。
ここまでは特に動きはなく、相変わらずそこの娘が薬草を売りながら、小さな包みを売っていたらしい。
しかし5日目の夜、そろそろ寝ようかというタイミングでグランジに渡してあったお守りから知らせが届く。
【所有者の残りHPが50%を下回りました】
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