たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
175 / 221

薬草売りの少女⑤

しおりを挟む
 ドラゴン討伐の報酬は久しぶりにまとまった収入だったので、帰りに店に寄って爆買いをしていく。消費アイテムから食材、出店の食べ物までじゃんじゃん買っていく。どんなに買っても空間収納内が満杯になるなんてことはなく、時間停止で保存も効くため無駄にはならない。
 
 お店の人の呼び方は、変わらず「ケーナ嬢ちゃん」や「ケーナちゃん」と呼ぶ人もいれば、仰々しく「魔王様!」と呼んでくれる人もいる。どちらにせよ私が町の皆に受け入れてもらえているようで心地がいい。
 でも「この棚全部とこっちの棚全部」「あるだけ買っていくわ」などの爆買いにはさすがに驚いたようでどこの店主も目を丸くしていた。
 
 この世界ではお金を貯めるより、どんどん使って形ある物や経験などに変換しておいた方があとあと役に立つことの方が多い。

 それに私がお金を使えばこの町も少しは潤う。この程度で経済を回すことはできないが町の人がちょっとでも潤えば、それでもいいといった感じだ。

 目についた薬屋にも片っ端から寄っていき、ポーション・毒消し・麻痺直しなどの大量発注と前金を渡しておいた。せめてもの罪滅ぼしのつもり。

 日が沈むころに家に帰ると、グランジが既に待っていた。

「待たせちゃったね」

「いいや、気にしなくていい。今日はここで飯をいただくつもりだからな」

「……ま、別にいいけど。ホワイトディアの角の出所は分かったの?」

「その件だが、さっぱりだ」

 肩をすくめ、あまりの情報の無さにグランジも驚いたという表情だ。

「え、なんで? あの角は希少な素材なんでしょ? 買い取りに持ち込む人なんて限られてるじゃないの?」

「はじめは俺もそう思っていたさ。だが調べてもカスケードでの最近の買い取り記録が無い。カスケードだけじゃなくアヤフローラ全体でも最後の取引記録は10年以上前になる。買い取りがなければ当然素材の販売もなかった」

「そんなに希少なの? 他の国は?」

「昔はそれなりに買い取りがあったそうだが、今はかなり希少な素材になってきているらしい。他国は調べきれてないが、難しいだろうな。ホワイトディアの生息域はアヤフローラ限定だからな。ここでは年1ぐらいで目撃情報が入るが、他国では目撃情報すらないのが普通だ」

「じゃあ、自分で狩って、素材を売らずに使ってるってことかな」

「可能性としてはそうだが」

「何が引っかかるの?」

「そもそもホワイトディアはグレートディアの特殊個体的な存在だ。グレートディアが進化しているとも言われている。ただでさえ強いグレートディア、その特殊個体を狩るとなると熟練ハンターを集めたり、串刺し以上冒険者を集めたりする必要がある」

「こっそり1人で狩るのが難しいってこと?」
 
「そうだな。だから狩りや討伐となればパーティーメンバーが募集される。その記録がないのはおかしい」

「他にホワイトディアの角の入手方法はないの?」

「どこかに保管されている素材を盗み出すとかになってしまうが、最後の角の取引が10年以上前、それすら今どこにあるのか分からないのに難しいだろうな」

「そう……わかったよ」

 よほど上手に商売をやっているのだろう、ならこちらも気合を入れて探すしかない。

 空間収納から金貨をガバッと掴んでグランジに渡す。

「報酬だけどこれで足りる?」

「おいおい随分気前がいいな。40枚ぐらいか。いいのかこんなに」

「まだ調べてほしい事があるからそれの準備金も入ってるよ」

「もちろん引き受けるぜ、で内容はなんだ?」

 簡単に言えば監視と尾行だ。
 粉末の入った小さな包みを仕入れるタイミングを狙うしかない。対象は最初に見つけた薬師のブレドニロンだ。家の場所を教え、ブレドニロンが取引する相手を更に尾行するといった感じだ。

「たまに報告に来て、追加報酬もその時渡すよ。1日金貨3枚でどう?」

「分かった。明日から監視しよう」

「よし、じゃあ、作戦も決まったことだし、夕食にしますか。今日の夕食はサービスにしておくから」

「お、ありがたいね」

 こちらのタイミングを見計らってハクレイが食器を持ってきてくれる。
 
 今夜の料理は肉料理だ。

 ハクレイの料理の腕前はもう私を超えているかもしれない。グランジの食いっぷりをみればよくわかる。
 しかし、グランジは手を止め、何かを思い出したように話し始めた。
 
「そういえば、3日前ここから帰った時、街中でやたら視線を感じたんだ。家に帰るまで原因は分からなかったが……俺の背中に落書きしたのはどこの妖精だ」

「ちなみに何が描いてあったの?」

「いやなんの絵なのかは分からなかったが」

 グランジはまだ部外者扱いなのでこの家の妖精達を見ることはできないし、声を聞くこともできない。それを分かっていながらプリツがグランジの目の前に現れ

「あんたの背中にはね  ”お菓子泥棒” っていっぱい書いてやったのよ!!」

 と高らかに宣言していた。
 しかたないので私が通訳してグランジに教えておいたら、さすがにクッキーを全部持って行ったことは悪かったと反省していた。

 グランジの帰り際にお守りを渡す。私のお手製お守りで見た目は可愛い猫の顔だが、その中に小さな魔石が入っている。

「念のためにこれ持ってて」

「なんだこれは、お守りか? でもなんでジャガイモなんだ?」

「は? 猫ですけど」
 
 失礼な奴だ。プリツと同じことを言っている。
 グランジはきっと妖精のような善くない目をもっているのだろう。フランとハクレイは芸術的で独創的と褒めてくれた逸品だ。

「なんでもいい、持ってろと言うなら持っておく。作戦は明日の昼から、報告には明後日の朝来るからよろしくな」

「よろしく頼んだよ」


 作戦開始から5日間、ときどきグランジが報告に来てくれていた。
 ここまでは特に動きはなく、相変わらずそこの娘が薬草を売りながら、小さな包みを売っていたらしい。
 
 しかし5日目の夜、そろそろ寝ようかというタイミングでグランジに渡してあったお守りから知らせが届く。
 
【所有者の残りHPが50%を下回りました】
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

乙女ゲームの隠れチートモブ〜誰も知らないキャラを転生者は知っていた。〜

浅木永利 アサキエイリ
ファンタジー
異世界に転生した主人公が楽しく生きる物語 その裏は、、、自分の目で見な。

処理中です...