たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
178 / 221

薬草売りの少女⑧

しおりを挟む
 勇者や英雄が錬金術の心得をスキルレベルAまで上げることなどはしない。もっと戦闘に向いたスキルを優先させるから取得してもそのままだ。
 優秀な錬金術師でも人族ならスキルレベルDかCが限界になるので錬金術Aのスキルはとても貴重だといえる。
 スキルの性能はほとんどの物質を見るだけで理解し、分子の結合を分解し、そして再構築が可能にすることだ。
 
 そのスキルを利用して普通のグレートディアの角と薬草からホワイトディアの角の粉末を作り出していたそうだ。しかも純度も高純度。欲しがるものが多いのも納得できるし、流通していない素材なのに粉末を作っていた謎も分かった。 

「ねぇ、ヤマダってこの世界とは違うところか来た人でしょ?」

 少し驚く表情はしたものの、すぐに素に戻った。

「……なんで分かった? 魔王にはそういうのが分かるのか?」

「似たような人を知ってるの。その人も勇者でもないのに高いスキルレベルを複数持ってたし、ここじゃない世界から来たって言ってたね」

 もちろん私の事だ。

「スキルレベルAってのは相当凄いらしいな。オレには異世界言語ってやつと、錬金術の心得ってやつと、体術の心得ってやつがある」

「それ他の人にはあまり言わないほうがいいよ。スキルってのは切り札なんだから」

「わかった、わかった」

「ここからが本題なんだけど、その凄いスキル使ってある物を作ってほしい」

「なんだ?」

「砂糖だよ」

「砂糖? そんなのどこにでも売って――」

「売ってないよ!!」

 近所にスーパーかコンビニが有ると思っているのだろうか? 
 この世界にそんな便利な物なんて無い。

「ちなみにヤマダは転移してどれくらい経つの?」

「もうすぐ4か月ぐらい経つかな……」

「それでも気づかなかったの? 砂糖は貴重なんだよ?」

「知るかよ。料理なんてしねぇし、甘いもん嫌いだし、食わねぇから分からねぇよ。魔王は魔王なのに料理してるのか?」

「もちろん。するよ」

「魔王が料理……この世界の魔王ってのはガキだったり料理好きだったりで、本当に魔王かまた怪しくなってきたな」

「それよりも、砂糖だよ。作れるの?」

「オレの錬金術なら余裕だ。空気があれば無限に作れる」

 分からない人から見れば無か有を生み出しているようにさえ思える。まさに神の所業。
 空気中の水分と二酸化炭素を利用し分解、再構成することができる、これがスキルレベルAというこだ。ただ無限に作れるとは言い過ぎだと思う。

「じゃ、さっそく作ってよ」

「今は無理だ。疲れてっからな」

 しかたないのでしばし休憩。タイムが持ってきた水を飲ませ、椅子とテーブルを用意してくつろいでもらう。砂糖を作るまでは空間収納から出すつもりはない。 

「あのよ、オレからも1ついいか」

「なに?」

「オレ、元の世界に帰りてぇんだよ。なんか方法ねぇかな。地球の日本って場所なんだけどよ」

「……知らないよ」

 信用が無いので知っていることを明かすつもりも慣れあう気も無い。

「魔王の力でも無理なんかな。常磐線乗って居眠りしてて気がついたらこっちの世界だったんだ。オレを召喚した奴らは勇者じゃねぇから出てけって、城を追い出されてすげー大変だった」
 
 天を仰でため息をついている。

「……あぁ、彼女どうしてっかな。もう他の男んとこいっちまったかな。バイク乗りてぇな。読みてぇ漫画もあったんだけどなぁ、連載再開してっかなぁ」

 私の転生前の記憶が思い出される。確かに前の世界の方が安全だし、暮らしやすいし、娯楽も多かった。
 
 でも私はこの世界の方が好きだ。戻りたいとは思わない。

「そろそろどう? 砂糖作れそう?」

「ん? おう、やってみるか」

 スキルを発動する時に両手を合わせるのは癖なのだろうか。そんなことをしなくても発動するのだけど。

 などと思っているうちに輝く手のひらからモリモリと白い粉が溢れてくる。
 
「どうだ! こんなもんで」

「いいと思うよ。ちょっと味見してみるね」

 鑑定眼で見ると麦芽糖となっている。なめてみるとまぁまぁ甘い。甘味料としては十分だ。
 普通の砂糖じゃないのは無意識に甘いもの嫌いが反映され甘さひかめになってしまったのだろうか。

「砂糖ほど甘くないけど売れるよこれ」

「いくらで売れるんだ?」

「本物の砂糖なら金貨1枚で金貨と同じ重さで取引されてるけど、甘さが低いからそれなりに安くしとかないとね」

「え? 砂糖と金貨が同じかよ、ぼったくりじゃねーか」

「ぼったくりじゃないよ。言ったでしょ貴重だって」

「聞いたけどさ、そんなに貴重だって思うわけねぇ―じゃん」

「早く慣れなよ。この世界に」

「……わーったよ」

 売るとしても、大々的に売るわけにはいかない。砂糖を生業としている人に迷惑がかかる可能性があるからだ。
 これはあくまで薬として売りだす。販売するところはもちろん薬屋だ。
 
 薬を売るのは薬師の専売になる。たとえ甘い物だとバレたとしても薬だと言い張れば商人から文句をつけづらいのがいい。
  
「これ混ぜておこう」

 取り出したのは白い小さな木の実。それをつぶして粉末にする。無味無臭なので甘さを邪魔することはない。ちなみにこの木の実の効果は疲労回復の効果がほんの少しだけある。

「どうなるんだ?」

「一応薬だからね、そのまま使っても効果があるように疲労回復薬にしておくんだよ」

ちゃっちゃっと混ぜれば完成。

「これを瓶詰めにして売る」

 1瓶300gで1000メルク。そしてこの専用の瓶を持ち込みで中身だけなら900メルク。この値段なら庶民でも手が出ると思う。
 そして薬局で売っている疲労回復薬が砂糖の代用品になるという噂を流す。甘い刺激に飢えている奥様たちなら噂の拡散力は冒険者以上だ。

「そんな簡単に売れるかよ」

 リスクの少ない失敗を恐れる方が、自分の可能性を自分で潰していることになってしまう。それはもったいないだけだ。 

「きっと売れるよ、だってそれぐらいこの世界は甘さが足りてないからね。それに上手くいかなくてもいいんだよ。その時はその時に次の手を考えればいいだけなんだから」

 儲かった時のことを考えて瓶代を頂くことも忘れてはいけない。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...