たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
179 / 221

薬草売りの少女⑨

しおりを挟む
 まずはお試し用を5つ作らせる。これは宣伝用になる物。

「よし、今日のところはこれくらいで勘弁してあげるね」

「成行とはいえ、魔王と商売することになるなんて思ってなかったぜ」

「最後にもう1つ」

「なんだ、まだあるのか?」

「私に会う前に戦った男の事覚えてるでしょ?」

「なんだ、仲間だったのか? 悪いことをしたな……あいつはもう……」

「大丈夫、生きてるから!」

「なっ!? まさか」

「ちゃんと直ってるよ。後で追加の瓶を運ばせるつもりだから仲直りしとくんだよ」

「うっわ。めっちゃ気まずい。許してくれっかな」

「私からもいっておくから」

「そうしてもらえると助かる」



 翌日、屋台で働く顔なじみの奥さん達に宣伝用の瓶を渡しておいた。お金を貰わない代わりに宣伝を頼んだのだ。
 その後、瓶を100個準備してグランジにおつかいを頼む。ヤマダが少しでも殺気をとばしてきたら次は油断せず全力で相手をするそうだ。
 
 奥様達の井戸端会議のおかげで順調に噂が広がり、いいころ合いで発売日を迎える。
 手始めにブレドニロンが経営する薬屋に協力してもらい、疲労回復薬改め砂糖代替甘味料を販売する。3日ぐらいで全部売れればいいかなと思い100個程並べておいたが、予想以上の売れ行きで即日完売したのだった。
 買えなかった人も多く、次の入荷を仕切りに聞いてくる程だ。
 
 この人気に驚いたのはヤマダとブレドニロン。10万メルクをあっという間に稼いでしまったのだ。

「完売か……すげーな」

「とても素晴らしいです。薬としても、甘味料としても使えるものが存在するなんて」
 
「オレの作った薬なんだ、当然だろ!!」

 発案は私。

「買占め防止のために1人2瓶までにしといて良かったね」

「今後もここで売ってくれないか?」

「もちろんですとも」

 取り分などの交渉も進み、明日からでもまた販売してもらえることとなった。
 商売に敏感な商人たちもその砂糖の代わりになる疲労回復薬なるものを欲しがっていたが、どこから仕入れていいのか分からず困っているみたいだった。
  

「なぁ、魔王。もう瓶が無いがどうしたらいい」

「また私がすぐ作るから安心して。それとこの甘味料は私の瓶でしか売っちゃだめだからね」

 ナナスキルのアイテム作製で作り出す特殊な瓶。1000個でも1万個でも一瞬で作り出せる。

「なんでだ? 瓶代稼ぐためか?」

「それももちろんあるよ。だけど本当の狙いは偽物対策」

「今日発売なのに偽物なんてないだろう?」
 
 不思議そうな顔をするのも無理はない。しかし商人の嗅覚を軽んじてはいけない。

「今はないけど、これが売れるとわかれば中身が全く違う物でも似せて売る奴が出てくると思う」

「そうなったら町の奴にはわからねーだろ」

「だからこそ私の瓶が必要なんだよ。町の人でも本物か偽物か一目で分かるようにしてあるんだから」 

「ん? あ、あの瓶のジャガイモマークか! 確かにそんなマークのついてる瓶なんて中々見ないな。なかなかいい考えの偽造防止だな」

「……猫マークですけど」

「あっ、あー、マジか……猫か?あれ」

「その猫マークの付いてる瓶が本物、それ以外は偽物ってわけ!!」

 ここにも芸術のわからない奴がいたせいで語尾が強くなる。

 もし瓶を真似しようとしても、猫マークがついている瓶はもはや芸術品といってもいい物になる。それを作るとなると偽物の方が売価が高くなって偽物を作る意味がなくなってしまうのだ。

「悪かったって……でもよ、中身だけ取り替えられたらどうするんだ?」

「私の作る瓶がただの可愛い瓶なわけないでしょう? ヤマダが作った甘味料以外がある程度混ざると瓶に大きなヒビが入るの。そして不純物だけが漏れる仕組み。悪用しようとしたかすぐわかるし、かさまし防止にもなる。まるまる入れ替えたら全部漏れるでしょうね」

「なんじゃそりゃ、スゲーな。俺しか作れない。偽物が作れない、専売特許みたいだな」

「そして、あくまで薬ってことだからね。商人が扱う商品とは違って、薬師しか扱えない。面倒な登録とか申請とか要らないし、薬師が売る薬に商人は口出しができないしね」

「庶民向けとはいえ儲かるぞこれ」

「でしょぉ!!」

「こりゃ魔王というより商売上手の悪代官みてぇだ」

「町中を甘い罠にかけてあげる」

 これで薬師もヤマダもしばらくは稼ぎに困る事は無いと思う。ついでに私も瓶代でお小遣い稼ぎをさせてもらう。
 
 私が瓶を売るもう一つ隠れた理由がある。この商売を良く思わない者がガラスの買占めをしても販売には影響がでない。

 そして仕上げは疲労回復薬兼甘味料の使いどころを教える事だ。



 この甘い衝撃はたちまち町中に広がった。そしてもう1つ広がった物がある。ほんのり甘いお菓子だ。
 大人も子供もこぞって薬屋に買いに来る。お菓子といっても、名目上は滋養薬ということになっている。だが見た目は完全にクッキーだったり、水あめだったりでまるで菓子屋状態だ。
 今までお菓子は上級の貴族のみが口にできる高級品だったのが、庶民のちょっとした贅沢品にまでなったのは衝撃が大きかった。

 もちろんレシピの作成者は私。そして惜しげもなく公開した。家でも作れる滋養薬として皆が作りたがる。そうなると疲労回復薬兼甘味料が売れる。

 そして消費をさらに加速させるために、料理に使うレシピまで公開予定だ。


 以前は危険な物を売っていたプレドニロンの娘の姿はもうない。
 今はバスケットにいっぱい滋養薬という名のお菓子を詰め込んで、友達と遊びに行っているそうだ。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

乙女ゲームの隠れチートモブ〜誰も知らないキャラを転生者は知っていた。〜

浅木永利 アサキエイリ
ファンタジー
異世界に転生した主人公が楽しく生きる物語 その裏は、、、自分の目で見な。

処理中です...