たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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才色兼備で一枚上手③

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 一方、ギルドでは色々と問題が重なって、落ち着きのないヘッケンの声が外にまで響き渡っていた。

「おい! 誰だよギルド本部からの手紙を俺の机に置いたやつ。そのせいで手紙に気づくの遅くなっちまったじゃねーか」

「はい、置いたのは私ですが、机に置けと命じたのギルマスです」

 受付嬢の1人がギルマスの前で堂々と宣言をする。

「本部からの手紙なんだから重要に決まってるだろ、中身確認しとけよ」

「お言葉ですが、本部から最速のピクシードラゴン便で届くような重要な手紙を許可なく開封する事が許されるとも思っていらっしゃるのですか? 極秘事項だったら誰が責任とるんですか?」

「あああお前は本当に賢いなああああ」

 イライラしているヘッケン。そこへ丁度出張から帰ってきたマナが現れる。

「なにカリカリしているの? ご近所の迷惑になるでしょ」

 受付嬢は勝ちを確信し、マナに駆け寄る。

「おかえりなさーーいマナさーん。出張お疲れさまでーーーす」

「ただいま。何かあったの?」

「聞いてください、マナさん。ギルマスが自分のミスを私になすりつけようとしてるんです。それで私とても怖くて怖くて」

 マナは元受付嬢。今いる全ての受付嬢達は可愛い後輩でしかない。受付嬢に対して少しでもパワハラ・セクハラの疑いがあれ直ぐに報告する事になっている。見過ごした者でさえも罰せられるからだ。
 そして受付嬢を守るべき立場の人間が逆のことをしている現状は最もおかしな話になってくる。

「ヘッケン」

「……はい……」

「話をしますので奥の部屋に来なさい」

「……はい……」

 因みに、マナが現役の受付嬢だった頃に、こちらもまだ現役の冒険者をしていたヘッケンが一目惚れをしたのが成り行きだったりする。猛アタックを何度も仕掛けお付き合いの許しを得たのだ。しかし、上下関係は今も昔も変わらない。


 ピシャン!!!!!

 ピシャン!!!!!

 ピシャン!!!!!

 奥の部屋から聞こえる音に、なんの音なのか容易に想像がつく。カウンターにいる受付嬢達も苦笑いするしかない。

「ギルマスの顔何倍になるかな」

「3倍ぐらい大きくなるんじゃない?でもホント馬鹿だよねギルマスもこうなるって分かってるのに」

「マナさんが最近忙しいから、こんな形でも構ってもらえて喜んでんじゃないかな」

「やだーなにそれ気持ち悪い、ほんと気持ち悪い」

「根が変態なのよウチのギルマスは」

 お仕置きを兼ねた尋問が行われている奥の部屋では、顔が風船のように膨らんだヘッケンが少しでも罪が軽くなればと嘘を織り交ぜ弁解していたが、見破られる度に鞭が飛んでいた。

 マナが鞭を使う事にも理由がある。
 受付嬢も元冒険者だった場合も多く、マナもその1人だった。
 冒険者だった頃は若くして白銀まで昇りつめた優秀な冒険者だったのだ。もちろん使用武器は鞭。
 昼はモンスターを鞭でシバキ、夜は男どもを鞭でシバイていたと言われるほど恐れられていた。
 手に馴染んだ武器だからこそ、気絶させずにギリギリまで調整ができるというわけだ。

「勤務中に居眠り、で手紙に気づかなかった。他には?」

「もふ、おあいあせん(もう、ございません)」

「取りあえず手紙を私にも見せて頂戴」

「はひ(はい)」

 首から上が真っ赤に腫れ上がり痛々しくもプクプフにふくらんだせいで、まともに喋ることができないでいた。

 ------------------------------------------

 カスケード領内のカエデ街道とガントラ街道にて

 重要物資輸送中3部隊のうち2部隊の竜車が賊に襲われたとの連絡あり

 直ちに捜索又は感知スキルに特化した部隊を編成し箱回収すべし
 可能であれば賊の殲滅をおこなうこと

 荷物は全て木箱でカジノブルースカイの模様が印字されており、数は34箱

 箱には罠が仕掛けられているのて確認の際は木箱の模様のみで内容物の確認不要

 回収後ギルド金庫内で厳重に保管

 この件については関わる者は最小限にし緘口令を発令すべし

 なお今回に限り、緊急依頼報酬の50%を本部が負担することとする

 荷物内容一覧

 金貨 おおよそ3万枚
 レア級召喚魔法結晶 18個
 エピック級召喚魔法結晶 2個
 ミシクル級召喚魔法結晶 1個

 ------------------------------------------

 手紙を見たマナの顔が青ざめる。

「これだけの品、偶然というより狙ったとしか思えない」

「ふぉうおもひまう(そう思います)」

「それにこれだけの品よ。運ぶのに腕利きの護衛がいないわけがない」

「ふぉうおもひまう(そう思います)」

「召喚魔法結晶の詳細は?」

「ほこまでは、わかひまへん(そこまでは、わかりません)」

「いつまでふざけた喋り方してるのよ!」

 ピシャン!!!!!

 理不尽だと思いつつも、引き出しからハイポーションを取り出し腫れを治す。

「現状はどうなってるの?」

「その荷物の一部は昼頃うちのギルドに届いてるんだよ」

「襲われなかった一部隊分かしら」

「対応した受付嬢に聞いたんだけど16個の木箱を入口付近に積んでもらったそうだ」

「今は?」

「金庫で保管してる」

「荷物は無事なのね。よかったわー、召喚魔法結晶なんか町で使われたらどれだけの被害が出ていたか想像もしたくないわ」

「でもね」

「やだ、聞きたくない」

「2箱足りない」

「聞きたくないって言ったのに。……もーそれ盗まれてるじゃない」

「あなたがちゃんと仕事してれば最悪の事態は防げたかもしれないのに」

「申し開きの言葉もございません。あとね、箱を開けられないから、何が足りてないのかも把握できていない……。金貨なら後でどうにでもなるんだけど」

「取り合えず、集められるだけ優秀な人集めて緊急依頼よ」

「一応めぼしい冒険者にはかけあってる。でも人が集まらないし、緘口令あるから町中で大っぴらにはできない」

「もう、どうしたらいいの……」

 今できることを最大限やっている。
 それでもどこか足りてない感がマナを不安に駆り立てていた。




「緊急!緊急!」

 ギルドのロビーに駆け込んできた1人の冒険者に周りの目が集まる。

「こちらで対応します!!どうされましたか?」

 緊急の場合、その場で1番のベテラン受付嬢が全ての仕事を停止して対応する事となっている。

「町の南に特級モンスター、ブラックベヒーモス2体を確認。大至急白銀を集めてくれ」

 ブラックベヒーモスの名前が出た瞬間、ロビーにたむろっていたの冒険者達にも緊張が走る。
 ブラックベヒーモスは全身が筋肉の鎧で覆われた巨体で、2足歩行も可能な強靭な四肢と太い尾持ち、頭には大きな角を2本ある獰猛なモンスターだ。大きい個体だと体長が10mを超えるものもいる。

 数年前にとある小国に突然1体現れ、対応が遅れて町一つが壊滅したのだ。
 そんなこともあり冒険者の間で危険視されているモンスターの1体になっている。

 受付嬢の1人はギルマスへ伝達に走り、他の受付嬢達もカスケードを拠点とする白銀パーティーへの要請を走らせた。
 事情を知ったギルマスとマナは直ぐに住民の避難誘導の指示をだし、立ち向かえる勇敢な冒険者を集ってはみたが残念ながらここにはいなかった。

「まさか……召喚魔法結晶が使われたの……?」

「まだ決まったわけじゃない、少しでも被害を食い止めないと」

 2体という数が、リストにあったエピック級召喚魔法結晶と同じ数と言うことから推測した。そして召喚魔法結晶はこれだけじゃない。最悪のシナリオも視野に入れないといけなくなってきた。

 2体のブラックベヒーモスが並ぶ姿は人々に絶望を与え、猛る雄叫びは人々の悲鳴すら掻き消した。
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