たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
188 / 221

乾いた怒り②

しおりを挟む
「……いきなり大胆なことをいうでありんすな」

「ここから脱出できる方法かもしれないんだよね」

 出たがっていると思っていたけど、少々困る様子のクレア。それでも意を決したように快諾してくれた。

「わかりんした。このままずっとここにいるよりはずっとマシでありんす」

「それなら早速、目を閉じて」

 ギュッと目を閉じたところで空間収納にクレアを指定して収納する。

 何事もなく収納できた。

「やっぱりできるんだ……空間収納って便利」

 魔王すら外に出さないとされる特別な空間。このまま放置するのはちょっと勿体ない。
 後々物置とかに使えると思ったので足元に魔力でマーキングを残して私も収納した。

 もちろんエーナの世界へ来ている状態になる。ここに来ると本体と途切れていた繋がりが元に戻ったので思考を伝達させ本体のケーナにクレアを取り出してもらうだけ。

「あーはいはい。上手くいったみたいだね」

 エネルギー体からの思考を読みクレアを空間収納から取り出す。

「もういいよ」

 パッと目を開けたクレアは状況を一瞬で理解したみたいだった。

「凄いでありんす。あの場所から本当に戻ってきたでありんす」

 脱出失敗の可能性の方が高いと思っていたのだろうから嬉しさもひとしおだ。

「だ、だれじゃ、そ、やつは!?」

 私の隣に立つクレアに怯え警戒をするフラン。

「紹介するね、さっき友達になったクレアだよ」

「まさか……本当に憤怒の魔王を呼び寄せたというとるのか?」

「そうだけど」

 紹介しても警戒を解こうとしないフラン。そんなフランをよそに私の手を握ってくるクレア。

「恥ずかしいのはわかるでありんすが友達だなんて冗談をいうなでありんす。先ほどのケーナの物になると契りを交わしたばかりではありんせんか」

「契り……?」

 物になれとは確かに言ったが物体という意味のつもりだった。
 色恋めいたセリフのつもりは一切なかったし誤解ははやめに解いておいた方がいい。

「ごめんね私の言葉が足りなかったみた――」

「アレは嘘だったと申すでありんすかぁ?」 
 
 一瞬で空気が悪くなったのが分かった。
 それだけじゃない怒りの感情がフツフツと沸いてきているのが握っている手に伝わってくる。
 
 (誤解させて怒っちゃった)

 なんて気安く思っていたが、フランが慌てふためていている。

「ケーナ! 誰を怒らせているのか分かっておるのか!! このままじゃ1つ国が消えるかもしれんのじゃぞ!?」

 表情もみるみる変わり怒りが更に高まってくると脳裏に警告が表示された。

【憤怒のスキルが使用条件を満たしています】

 確かに憤怒の魔王を怒らせスキルを使わせるわけにはいかない。

 手っ取り早く冷静に戻すためにマインドプロンプトを発動させる。

《何をなさいますか?》

(クレアの怒りの感情を沈めてあげてほしい)

《……できませんでした》

(ん? え?)

《できませんでした!》

(え?なんで?)

《怒りの感情は憤怒のスキルと深く結びついている感情です。七大スキルである憤怒のスキルは仕様外スキルのため現在マインドプロンプトから感情に干渉することは不可能です》

(じゃ、どうすればいいの?)

《スキルの譲渡をしてもらい取り込むことで、解析し改変が可能かもしれません》

(アブソーブで吸収すればいいのね?)

《それはできません。アブソーブも憤怒もカテゴリー6に属するスキルですが、都合上カテゴリー6なだけであり憤怒のスキルはアブソーブよりも上位に位置するスキルなので吸収はできません》

(ブチギレ寸前のクレアにスキル頂戴なんて言えるわけないでしょ。どうにかしてよ)

 今まで色欲スキルや暴食スキルを見てきたが、どれも攻撃的なものではなく私自身に特に影響がなかったので試したことがなかった。

《示せばよろしいかと》

(……シメ?)

《誰が誰の物なのか明確にすればよろしいのではないでしょうか》

(どうすればいいの?)

《キスがとても効果的かと》

(……キス?)

《よもやキスを存じない? 》

(し、しってるよ)

 前世でも今世でも恋愛に関してはド初心者なのに、いきなり凄い高いハードルが目の前に現れる。

 国が吹き飛んでもたぶん私は無事だと思うが、『国が吹き飛ぶ』と『キス』を天秤にかけたら圧倒的に後者が軽い。

 並列思考と思考加速で全力で考えた結果、だした答えはコレだ。

「ごめん、恥ずかしかったからつい友達だなんていって」

 と言いつつ握っていた手を両手で優しく包み込み目を見つめながら手の甲にキスをした。ちょっと気持ち長めに。

 マインドプロンプトも口にキスをしろとは言っていなかった。それにいきなり口にキスをして更なる怒りを買うわけにもいかない。

 どうやらこれが功を奏したようで脳裏の警告は消え、クレアの表情も元に戻っている。

「おどろかせないで欲しいでありんす」

「ご、ごめんね」

 フランもホッとしてる様子を見るに最悪の事態は避けることができたのかもしれない。

 怒りの沸点が低い人なのかと思っていたけど思っていた場所とは違う場所に沸点があっただけなのかもしれない。

「あぁ、紹介しておくね。こちらはこの家で一緒に住んでるフランだよ。元ヴァンパイアだったけど今はちょっと特別な存在なんだよね」

「一つ屋根の下で特別な存在でありんすかぁ?」

 僅かにピリつく空気。

「た、ただの居候みたいなものなのじゃ。特別なのは聖魔混合の魔力なのじゃ。余は無害な生き物なのじゃ、よろしくなのじゃ」

「あらホント、珍しいでありんすね。よろしくでありんす」

 フラン相手にこの対応。ハクレイはまだ大丈夫だと思うが、テッテに合わせたら面倒ごとしかうまれないと思う。
 ヨシエさんには申し訳ないがすぐに合わせることはできなさそうだ。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

乙女ゲームの隠れチートモブ〜誰も知らないキャラを転生者は知っていた。〜

浅木永利 アサキエイリ
ファンタジー
異世界に転生した主人公が楽しく生きる物語 その裏は、、、自分の目で見な。

処理中です...