たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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ハクレイの受難①

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「ここが最深部でしょうか……到着ですね。ここのダンジョンもハズレでしたか……」

 あからさまに落胆するハクレイ。
 その理由は最深部のアイテムがなかった訳ではなく、最下層にいたモンスターがただ弱かったことにある。
 むしろアイテムに関しては当たりの部類になる物理耐性と魔法耐性を上げるローブだった。

 ハクレイが本日訪れたダンジョンは、西の大陸にある小国マゴメコにある攻略難易度6、3割もマッピングされてないとされる未踏破ダンジョン。

 挑んだ冒険者のほとんどが第一層の途中で引き返し、無理に進んだパーティーは半数以上減って途中で帰ってくると言われているダンジョンだった。

「攻略難易度が上から3番目と聞いていたので強いモンスターでもいるかと思いましたが、地形と空気が悪いだけのダンジョンでしたね……。近くに強そうなモンスターの反応も無いので帰りましょうか……」

 虚しく響くハクレイの声。
 ソロで訪れているので会話の相手はいない。

 本来ダンジョンに潜る際はギルドを通した申請が必要になる。
 救助要請があった時のためと、死亡者をカウントする記録のためだ。
 建前上救援措置はあるが莫大な資金が必要となるので救助を要請する冒険者などいない。

 黙って入ることは本来禁止行為とされているが、それはあくまで弱い者たちのための縛りでしかない。

 レベルを上げるには自分よりやや低いレベルのモンスターとの戦闘が1番効率がいいとされている。
 短時間の連戦により多くの戦闘経験を得ることができるとされいるからだ。

 しかしレベル差大きいと戦闘回数は増えるものの、どんなに連戦を重ねようがレベルがなかなか上がらなくなってしまう。

 人族はレベル限界によるレベル上昇停止はあれど、そこに辿り着く者は稀なのでほとんどはレベル上げで生涯困ることはない。
 
 ただ、勇者のようなレベル限界を突破した者には当てはまらない。

 丁度いい相手がいないのだ。
 レベルが高いほど個体数は少なくなる。

 食物連鎖のピラミッドに似た構図になってしまうのだ。
 
 レベル差が大きいと、低い方が勝つには命懸けでスキルや特殊な魔法を駆使するしかない。
 そこまでして、経験値が必要になることは通常はありえない。
 
 ただただ強さを求める者を除いて。


 ハクレイは空間転移魔法を駆使して各地を回っていた。

 このダンジョンに来たのもレベル上げのためではあったが、結果は空振りに終わってしまった。

 皆を心配させないように夕食の支度をするころには戻らないといけないので、かなり厳しい時間制限がある。

 空間転移魔法が使えるようになったのは、ケーナのおかけだ。
 ハクレイの探究スキルは、観察したり体験したりすることで通常の学習や修行の数十倍にもおよぶスキル取得効率をもたらすことが出来る。一度や二度では無理だが何度も体験し観察することで、スキルや魔法の習得を格段に早める事が可能になる。

 ケーナが使う魔法をそのまま転用するなど無理な話だが、自身が使いやすいように再構築、最適化することで似た効果を発揮する事ができた。
 空間転移のイメージは紙を使った折り紙理論なるものをケーナから教えてもらい、それを自分なりに解釈できたのが成功させた大きな要因だろう。

 これによりハクレイは一度訪れたば場所かつ、そこに魔力による魔法陣を残した場所への短距離間の空間転移を可能にすることができた。

 魔法陣は簡易的なものなので、長期的な運用はできないが一度使えば10日ぐらいは消えずに残ってくれる。
 
 そしてその魔法陣を中継地点にすることにより国を跨ぐ距離でも移動を可能にしていたのだ。

 まずはダンジョン最深部からダンジョン入り口付近へ。
 更にそこから人目を避けた森の中へと転移した時だった。

(誰か……2人?)

 偶然でも見つけられるような場所には魔法陣を仕掛けていないので、魔法陣の魔力を頼りに探し出したのだろう。

 このまま次の魔法陣に転移するか、姿を見られてしまったので対処をするか迷っていると相手の方から声をかけてきた。

「おまえさんエルフ族か?それとも精霊族の類か?」

すらっと背の高い男が1人木の影から体を出し、警戒しつつ尋ねてくる。

 ハクレイの肌も髪も白いせいで、一目見て人族と判断するのは難しい。
 ステータスを覗こにも妨害されるので、正確な鑑定には高レベルなスキルやアビリティが必要になる。

「違います!ただの町娘です!」

「町娘はこんな所にいねーよ!」

 嘘が下手なハクレイは、こう言う時に誤魔化しが上手くない。

「……夕食のためのキノコを取りに」

「まだ言うか。呆れたやつだ。キノコの為だけにこんな所にまで来るやつがいるか。一体誰に召喚されたんだ?」

 ゆっくり近づいてくる男。
 転移用の魔法陣を召喚用の魔法陣と勘違いしているようだった。

「召喚ですか?」

「召喚じゃないのか?」

「あっ、召喚です。召喚されました」

「あ? 召喚師はどこだ?」

「召喚師は……どこでしょうか?」

「オレが聞いてるんだよ! まさか召喚も嘘か?」

「召喚師とは会ったことがないので……」

 嘘を頑張ってみるハクレイだったが、真面目さが隠しきれない。

「もういい。怪しい魔法陣から怪しい奴が出てきたんだ。悪いが一緒来てもらうぞ、抵抗するなよ手荒な真似はしたくないからな」

「それは困ります。帰って夕飯の用意をしないといけませんので」

「お前……はぁ」

 ハクレイの言葉に呆れた様子で肩をすくめると、振り返って背中を見せた。

 それが合図だったのだろう。
 隠れていたもう1人が何かを投げてくる。

 手のひらに収まるほどの小さな投げナイフが4本。

 殺傷力が低そうな武器には麻痺毒などが刃に塗ってあるのがセオリーだ。

 上に避けると的になるので飛ばず地面に伏せるが、そこを狙っての一投もある。
 咄嗟の対処に対してどうしても生じる体のこう着状態。
刹那のこう着を見越した攻撃は熟練の技を感じさせる。

 ハクレイも対人戦はゼン師匠に叩き込まれているので、この隙を散々狙われボコボコにされたおかげで対処が体に染み付いている。

(見せたくなかったのに……)

 簡易アイテムボックスからまな板を取り出し盾代わりにしてナイフをしのぐ。

「なんだかすりもしなかったか」

 ハクレイはサッと立ち上がり、次に備える。

「おい!白いの!お前ここらへんの者じゃないだろ。その見た目でそれだけ強けりゃ名が知られてない方がおかしいからな」

 簡易アイテムボックスは以前訪れたダンジョン最深部から取得した物。そこにいつでも料理ができるように野営用のまな板や包丁などを入れていたのだ。

「急いでるのでこれで失礼しますね」

「つめたいねぇ。おとなしくしてくれれば痛い思いしなくていいのに」

 空間転移魔法を発動させようと魔力操作と詠唱に集中するハクレイ。
 短い距離の転移とはいえ、この場から逃げるには十分な距離になる。

「地と地、空と空、重なる面を貫く——」

「バド! 転移系の詠唱だ! 逃がすんじゃないよ!」

 隠れていた仲間が男に忠告している。

「なんっだと! おっりゃ!」

 急いで男が小袋をハクレイ目がけて投げつけると、手前でキラキラ輝く粉が飛び出しハクレイのまわりに漂う。

(魔法が……使えない?)

 発動するはずの空間転移魔法が不発となってしまった。

「バイザー! 足喰いを使え」

 ハクレイの驚きと焦りが隙となり、足に何かが絡みつく。

「捕まえた、もう逃げられないわよ」

「くっ……!」

 ハクレイの左足に膝下まで黒く太い蔦がぎっちりと絡んでいる。
 植物を操作して、まるで足が地面に埋まってしまったかのように動かない。

「無理に動くと締め付けが強くなって、足が千切れるわよ」

 忠告しつつ隠れていたもう1人が姿をみせる。
ハーフリング族の女だ。

「こんなところで、魔封じの粉と黒域の足喰いを使うことになるなんて思ってもなかったよ。いやー強いね白いの!」

 何か魔法を発動しようとしても、やはりまた不発に終わってしまう。

(これが魔封じ粉の効果?)

 ギギュ!ギュ!

 魔法の発動しようとしただけでも蔦の締めつけが強くなる。

「やめときな! 魔力の動きにも反応するから、おとなしくしてないと左足なくなっちゃうよ」

「こんな蔦すぐに——」

「強がってもいいことないよー。コイツはナイフなんかじゃ斬ることができない黒域の植物なんだから」

「黒域」という言葉をどこかで聞いたか覚えのあるハクレイは、解析スキルを使い調べる。
 分かったことは植物でありながらスキルを使うことだった。

(物理耐性Sのスキル持つ植物が存在するなんて……)

「バイザー、この白いのどう思う? エルフか? それとも西の魔法使いだと思うか?」

 ハーフリング族の女に向かって質問する男。

「いやいや、白いけど人族だよ。ただ西の魔法使いは魔法や魔術の事しか頭にないからね。体術なんて覚えやしないよ」

「じゃぁ、やっぱり冒険者か? あのまな板、野営用だもんな」

「そうだとは思うんだけど、1人ってのが気になるね」

「仲間がいる気配はやっぱりないのか?」

「探索スキルは使ってみたけど全然。たぶん近くにゃいないよ」

「いったんギルドに突き出してみるか、それなりの賞金首かもしれねぇから」

「人を殺してそうなツラじゃないよ。どっちかというなら、見世物小屋のほうが高く値がつくかもよ」

「耳少し切ってキズありエルフって言やいい金にでもなるか?」

「それはアリだね。これだけ白けりゃ、騙せるかも知れないね」

多くの金が手に入る妄想は膨らむばかりで、2人の高笑いが森に響く。

 遊ぶ予定までたてて、完全に捕らえたと思い込んでいるのだろう。男も女もハクレイから視線を外してしまっている。

 動くことがままならず、魔法も使えずとなるとハクレイ1人では脱出が難しい。

 何をされても抵抗できない状態で精神操作、洗脳系アイテムなどを使われた場合を考えるとケーナの情報を話さない確証がない。

 戦闘をして上手く2人を殺したところで、他に仲間がいないとも限らない。

 不安や焦りのせいで、今のハクレイには死を覚悟で逃げるしか選択肢がなかった。

 そっとアイテムボックスから取り出した剣を左膝裏に当てると、気配を消し、そして躊躇なく膝から下を切り落としす……

バキッ!バキバキッバキ!

 骨が砕ける音で視線を黒域の足喰いに戻した男と女だったが、その時にはハクレイの姿はなかった。

「まさか、左足を喰わせたっていうの!?」

「やりやがった。片足じゃ遠くには無理だ。血の痕をたどればまだ捕まえられる」

 慌てて血痕をたどるが、少し進んだ所で途絶え足跡すら消えてしまっていた。

「一体どこに消えた……」

 目を凝らし、耳をすませてみるがそれらしい気配はない。

「なんで!? もう、探索スキルの範囲外よ。無理、追えない」

「あいつちょっと強い冒険者かと思ってたが、こんな早く切断なんてことを選ぶとなるともっとヤバい奴だったのかも知れねぇな」

 逃げるためだけに足を切り落とす。
 冒険者がモンスターに捕まってしまったら、それも手段の一つではあるが今回は交渉ができる相手。

 そんな決断をするのは何か重要な物や情報を持つ諜報員や存在を知られてはならない者。
 騎士や兵士とは別に国に裏で仕える者たちだ。

 男が感じたヤバさはそれに近いのかも知れない。

「えっ!? やめてよ。あたしたち大丈夫だよね?」

「顔見たし見られたからなぁ、わかんねぇぞ。消されるかもな」

「町に戻って少しでも異変感じたらあたし全力で逃げるから」

「そりゃねーぜ、一緒に逃げようぜ、なっ?」

「ふん、知らないわよ!」

 冗談で笑い飛ばしたいが、あまり笑えない話に気が沈む2人。
 お酒の力で早く忘れたい出来事なのは確かだった。
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