たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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ハクレイの受難②

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 2人から逃げたハクレイはモフモフに包まれていた。

 そのモフモフが大きなぬいぐるみだと気づき、体勢はお姫様抱っこ状態。

 足を切断して止血をせずに逃げようとしたので、貧血を起こして少しの間気を失っていたのだ。
 その間に状況が一転してしまっていたが、不思議と危機感は全く感じなかった。

 そして切り落としたはずの足は何事もなかったように元に戻っている。

(確かに左足を切ったはずなのに……)

 最上位クラスの回復魔法かエピック級の回復アイテムを使用した事になる。

 意識がはっきりしてきて状況を理解し、慌てて声を上げる。

「あの! 下ろしてください!」

 ふるふる と首を横に振るぬいぐるみ。
 ぎゅっと包まれる力は優しいが、ハクレイの力では抵抗できない。

「助けてくれたのですか?」

 うんうん と頷くぬいぐるみ。コミュニケーションは取れている。

「足も治してくれたのでしょうか?」

 うんうん と頷く。

「ありがとうございます! あ、ハクレイはハクレイと申します。アヤフローラのカスケードの町から来ました」

 うんうんうん と、分かってるよ感を醸し出す着ぐるみ。

 気がつくとぬいぐるみは立ち止まり、そっとハクレイを降ろす。視線の先にはカスケード領主の屋敷。

「あれいつのまに!? ここは領主様の……」

 マゴメコ国から最短距離で戻るとするなら海を越えないとアヤフローラ国には入れないはずなのに、いつの間にか国境を超えカスケード領内まで来ていることに驚く。

 魔力を使った感覚はしなかったので、移動系スキルだと思いハクレイはぬいぐるみに解析スキルを使ってみるが解析不可に終わってしまった。

 ハクレイは一度だけこのカスケード家の豪邸を訪れたことがある。
 ケーナが出席するのを凄くためらっていた誕生日会の場所だったのでハッキリ覚えていた。

 ぬいぐるみに背中を押され裏口に行くと

「いらっしゃい、ハクレイ。遠慮せずに入るといいわ」

「え、えっと……エーナお嬢様、ハクレイは……」

「安心なさい、ケーナには知らせてあるから。それより足を切ったことお話してくれないかしら?」

「なんで、それを……」

「いいから、いいから」

「かしこまりました」

 貴族のエーナのお誘いを断ることなどハクレイにできるはずもなく、緊張しながら上がることになった。

 すれ違うメイドたちは、エーナが通る前に端に寄って深く頭を垂れる。

 屋敷内でエーナが大きなぬいぐるみを抱きかかえ歩くことも、その後ろにハクレイがいることも口を出すことではないのだろう。

 黙ったままでいいのか、話しかけたほうがいいのか、でもこちらからは失礼か、やっぱり何も話さない方が失礼じゃないかと葛藤した末に話そうと決めたハクレイだったが、何を話したらいいのか困り何度も話したことがあるだろう話題を出すのが精一杯の様子。

「エーナお嬢様とケーナは本当にそっくりですよね」

「あら? 私のことは呼び捨てにしてくれませんの?」

「そ、そんなことでません」

「お堅いのね。では、ケーナと違うところはございませんの?」

 一つぐらい違うところを答えようと必死考えた結果、

「……芸術性でしょうか」

「ふふっ。あなた、見直したわ」

 どうやら正解だったようだ。

「この部屋よ。お入りになって」

「失礼します」

 部屋にはぬいぐるみがズラリと並ぶ。
 大きさも異なりどれも個性的で独創的で前衛的なぬいぐるみだ。

「欲しい物があればさしあげますわ。全て実働向きではございませんので飾るしかできませんの」

「だ、大丈夫です。ハクレイの部屋は狭いので置く場所に困ってしまいます」

  大きいものだと熊人族並。
  1人分のスペースを余裕で奪ってしまうので、置いとくだけでも場所に困る場合もある。

「そっ、ケーナは狭い部屋をあてがってあなたに不憫な思いをさせてるのかしら」

「いえ! けしてそんなことはありません」

「ならいいのだけど。さっ、お座りになって」

「はいっ、失礼します」

 座ると同時にお茶が出され、お菓子が運ばれてくる。

「好きなだけ食べていいわよ。遠慮なんてしてはいけませんからね」

「はいっ、いただきます」

 香りがとても良い紅茶。それに合わせてとても甘い焼き菓子。
 高価な砂糖を惜しげもなく使っているのがわかる。

「どう? 口に合うかしら?」

「はいっ、とても美味しいでふっ」

「あわてないでゆっくり食べていいわよ」

「はいっ」

 エーナがメイド達に目配せをすると、静かに部屋から出ていく。

「食べながらでいいから早速質問に答えてほしいのだけど、なぜあの男女の2人組を殺さなかったの? 簡単に殺せたでしょ?」

 ぐっと顔を寄せるエーナ。質問というより尋問に見えてしまう。

「まだ、他にも仲間がいると思いまして」

「そうですの? 他にいたとしても、あなたが遅れをとるとは思えないわ」

「いえ、そんな……」

「ちなみに人族や亜人族を殺めたことはありますの?」

「あります……ただ、できる限り殺したくはありません」

「あらお優しいのね。でもそれで自らを危険にさらしていい理由にはなりませんわ」

「あらゆる手段を試したかったので」

「足を切るは何度目になりますの?」

「今回が初めてになります」

「でしょうね!」

 少し怒りの感情を混ぜた返しに、ハクレイが萎縮してしまう。

「あれだけの出血をして止血をしなければ、すぐに倒れるのは当たり前ですのよ」

「はぃい」

「自分で回復もままならないのに、あのような強行手段に出るべきではないわ」

「おっしゃる通りかと」

「どうして切断なんてしたのかしら?」

「ハクレイが捕まってケーナの情報が漏れるのを危惧してました」

「漏れて困る情報なのてあるのかしら」

「それがわからないのでハクレイは捕まることはできません」

「だったら、あの様な場所に行かない方がいいわよ」

「それでは強くはなれません。強くないとハクレイすら守れません」

「強さを求めますの?」

「はい、強くなりたいです。でも難易度の高いダンジョンに行ってもハクレイの相手になるモンスターがいなくて……」

「ならもういいじゃない!!」

「いえ、まだダメなのです。ハクレイより強い方がいますので」

 ハクレイより強い者。身近な者では家にいるフランとフレアのことになる。
 レベル差がハッキリ分かっていなくても、勝てない相手と言うことだけは理解が出来るぐらいまではにはなっている。

「しかたないわねぇー、私が鍛えてあげますわ!」

「そんな、ハクレイは――」

「直接じゃありませんよ。夢の中で鍛えて差し上げます」

「寝てる時に見る夢でしょうか」

「もちろんですわ」

「そのようなことで本当に強くなれるのでしょうか」

「やってみればわかりますわ」

「はい……」

「さっ、そこのベットで横になって」

「え、え? ハクレイは床で十分です」

「バカな事をおっしゃってないで、早く横になりなさい」

「……かしこまりました」

 ハクレイが仰向けになると、エーナが魔法で強制的に寝かせる。
 睡眠耐性のないハクレイはあっという間に夢の世界へ落ちていった。

「かわいい寝顔ですわね。無防備で私を信じ切ってしまってこの子は…… ケーナはこの子にもっと構ってあたらいいのに」

 そっと額にかかる前髪をよけてエーナとハクレイの額をぴったりとくっつける。

(マインドプロンプト発動)

《いかがなさいましたでしょうか?》

(この子の夢の中に入りたいのだけど)

《意識を移すことでよろしいでしょうか?》

(それでいいわ。10分しても起きないようでしたら強制的に意識を戻しなさい)

《かしこまりました。それでは行ってらっしゃいませ》
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