たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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ハクレイの受難③

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 ペシペシとハクレイのおでこを叩くエーナ

「ハクレイ! 目を開けて! ハクレイ!」

「……はい」

「あなたの眠りは深いわね。なかなか目を開けないから困ったわ」

 明るい雲の中にいるような場所で足元もおぼつかない。

「あなたの夢の中なのですから、しっかりしなさい」

「あ、夢でしたね」

「そうよ、ここで鍛えてあげるからしゃんとしなさいよね」

「はい!」

 気合いの入った声で一気に視界が晴れていく。

 あたりは草原に変わっていた。

「ハクレイにとって特訓の場はいつもこんな感じの場所でした」

「知ってるわ」

「知ってるのですか? ここは特別な場所で——」

「行くわよ!! 構えなさい」

 ハクレイの言葉を遮るように一気に近づき間合いを詰めるエーナ。
 やや不意を突かれたようになったが、ガードで攻撃に備える。
 
 パーーーン!!


「ハクレイ! ほら! ハクレイ!!」

「はい……」

「あなたまた寝てたわ」

「あれ?? さきほど、あれ?」

「夢の中で寝てたのよ」

「寝てたのですか……」

「あなた私の攻撃覚えてますの?」

「間合いを詰められたので咄嗟にガードをしたのですが」

「ガードの上から蹴られて穴あいてたわよ。それで無意識に死んだと思ってしまったのね」

「そう、ですか……」

「ここでの体は意思の強さがそのまま反映されたものですから、普段の体とは全然別物ですわよ」

「意思ですか」

「心技体でいう心の部分ですわ」

「心」

「どれだけ体鍛えても、どんなに技を磨いても、心が強くなければ十分とはいえませんわ」

「心を鍛えれば強さにつながるのですね」

「そうですね、簡単に鍛えられないのが難点ではありますわね」

「どうすれば……」

「あなたの場合、死への恐怖が薄いわね。強さとは別に自己犠牲への憧れがあるのかしら」

「そうなんでしょうか」

「特別な人のためなら死んでも構わないとか思っていません?」

「思ってます」

「それをされてその特別な人は喜ぶと思いますの?」

「……ハクレイが生き残るよりは、マシかもしれません」

「お馬鹿ね、あなた。それは自己満足。自慰と同じですわよ」

「じ……」

「死ぬことより、その特別な誰かと共に生きることをなにより第一なさい。自分の死を悲しむ姿を私は耐えられなかったわ……」

「……」

「では続きいきますわよ」

「はい!」

 ここからハクレイはエーナの最初の一撃を防ぐのに20回夢の中で眠らされる。

 わかっていても避けられず、受け流すこともできず、少しは強くなったと勘違いしていたことに恥ずかしさすら感じていた。

 21回目の初撃をなんとか防げたときでも、両腕の肘から先はボロボロになっていた。

「やっと防げたわね」

「とても痛いです」

「夢でも痛いでしょ? そっちのほうが勉強になると思いますわ」 

「でも生き残れました」

「まだまだですわよ」

 エーナの声がした方向とは逆から蹴られてしまい、ハクレイは炸裂してしまった。
 

 ペシペシおでこを叩かれなくてもハクレイ自身の意思で起きれるようになったころ、休憩をとることになった。

「寝てるのに休憩なんて不思議な感じです」

「疲労は体を動かすこと以外でも溜まるものですわ」

「知りませんでした」

「ところでステータスのHPについてはどれくらいご存知かしら」

「ダメージを受けこの数値が0になり、死んでしまうのは知っております」

「間違ってはいないけれど正確ではございませんわね」

「0になっても死なないのですか」

「0になるとまずは戦闘不能、あるいは瀕死に状態が変化しますわ」

「すぐには死になるわけではないということでしょうか」

「そうですね。そのままほっとくと死に変化してしまいますけど、死までの変化の時間には種族差、個体差がありますわ」

「知らないことばかりです」

「それなら全て叩き込みなさい」

「はい!」

「続けますわ、HPを自ら消費できることをご存知かしら」

「意図的に消費させるのですか?」

「そうよ、魔力を消費するのと同じですの」

「消費させると何ができるのでしょうか?」

「しっかり見てなさい」

「はい!」

 エーナの周囲だけが影がかったように暗くなる。

「下位魔法を私に放ちなさい」

「かしこまりました」

 エーナめがけてファイアボールを放つ。
 しかしファイアボールが当たる前に影がファイアボールと共に弾けて消えた。

「もしかして攻撃の無力化でしょうか?」

「半分正解かしら。これはHPの先払いですの」

「先払い?」

「簡単に申しますと、ファイアボールが当たった時に減少するHPを先に消費し体に纏った影がダメージを受けましたの」

「先払いの消費ならダメージではないので、傷や痛みがないのですね」

「ご明察! 賢いわね、でも弱点も多いわ。相手からのダメージを予想して多めに消費しなければならないし、万が一足りない場合は無力化の効果が発動されずそのままダメージになりますのよ」

「失敗するとHPの減りは大きいですね。多用も避けるべきですし、ここぞという攻撃を受ける直前でないと活かせないということでしょうか」

「そこまで理解できるのね、凄いわ。ケーナの所に置いておくのは勿体無いぐらいよ。よかったらうちの子になりません? 私ダンジョン潜りなら得意ですよ」

「……う、うーん」

 貴族の誘いを断っていいのか悩むハクレイ。

「フフフ、冗談よ」

 冗談といいながらも、残念がるエーナ。

「この技はなんて言うのでしょうか?」

「そうね……『死中に活』とでも呼びましょう。追い込まれた時に必殺のカウンターになりますわ」

「シチューにカツですか。聞いたことありません」

 ハクレイの脳裏を献立がよぎる。

「それは仕方ないわ、使える人は限られているでしょうから」

「知っている方もいるのですね」

「それは分かりませんわ。ただ他にこんなHPの使い方をする方いないでしょうね」

「それでも生きるための活路を見出すことができるならハクレイは使います」

「なら早く覚えることね」

「はい!」

 探求スキルを持つハクレイは死中に活を覚えるのに時間はかかることはなく、徹底的な反復練習で発動までの時間の短縮と無力化効果成功率を高めていった。
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