たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

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未来の花嫁⑫

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 うなだれ落ち込むトラントに声をかけるエーナ。

「すぐ出てけとはいいませんわ。居候ぐらいさせてあげますの」

 ぐるりと見渡し名を呼ぶ。鑑定眼スキルで職業と名前を見てここの使用人長を見つけ出した。

「ジェントル!」

 突然呼ばれて少し驚くも、主が変わったことを瞬時に判断し素早く近寄りひざまづくジェントル。対応力がとても高いのがわかる。

「薔薇姫様、何かご用でしょうか?」

「後でトラントさんに金貨を300枚差し上げて」

「かしこまりました」

 トラントが不思議そうに見ていると、再びトラントに向き直るエーナ。  

「居候の条件がありますわ!」

「なんだでの?」

「ジェントル!」

「なんでしょうか」

「ここの使用人たちは何人かしら」

「300人ほどでございます」

「次の支払い日の賃金の総額はいくらかしら」

「おおよそ金貨で900枚分になっております。次の支払い日は25日後でございます」

「全員に残るか去るか聞きなさい。残る場合これまでと変わらない賃金を払いますとお伝えなさい」

「かしこまりました」

「トラントさん、次の支払い日までにその金貨を増やしてそこから使用人全員に満額お給金を支払いなさい。それができたら、また次の支払い日までの居候を許可するわ」

「……わかったでの。やってやるでの!」

「おらたち協力するんだっぺ、なぁ」

「やってやるんさ」

「だべだべ」

「それと勇者様たち、あなたたちが私にスキルを向けた償いがまだでしたわね」

「そんな、許してくれたんじゃねっぺか?」

「何をおっしゃいますの? トラントさんとの勝負の話にすりかえて、償いの話しが保留になったままでしょ? ついでに言うとシュランゲさんあなたもよ!」

 部屋の隅で気配を消していたシュランゲを引っ張り出す。
 なんで気づいてるんだと肩を落としている。律儀にこの勝負を見届けるために来ていたのだが、なるべく視界に入らないようにしていたつもりだった。

「あ、あぁ、確かに保留だったな」

「勇者様たちの償いは【運命の先読み】の封印よ。勇者とはいえ軽々と使っていいスキルではないわ」

「そんな、それは勘弁してほしいんさ」

「それがなかったらトラントさん助けられないべ」

「これ使わずに、どうしらいいっぺよ」

「頭を使うか、足を使いなさい。そしてシュランゲさん、あなたは3人の【運命の先読み】を受ける役目よ。最初の支払いまで毎日受けなさい」

「はぁ、俺はそれでいいぜ」

 毎月使用人たちのお給金を払うことが居候の条件になった。

 ここで商人としての意地を見せるか、お金を使い果たして落ちぶれるかは本人次第だ。

 金帝から居候へジョブチェンジをしたトラントだったが、再起の機会を与えられ意外にもやる気はあるようだった。

「まずは3日で商売の勘を取り戻すでの! 運命の先がわからんでも、商売の先読みならできるでの!!」

「その意気ですわ。励みなさい!」

 トラントの勝負は63対37というナインホール史上2度と出ることはないスコアで勝ちとなった。


 帰り際、結婚反対活動をしていた者たちの前に顔を出したエーナ。歓喜の渦が湧き起こるも、一言で場を鎮める。

「静かになさい! 勝負は私の勝ち、トラントさんと私の結婚はありませんわ。これ以上ここで騒いだら斬首ですわよ! 分かったら早く帰りなさい」

 過激な発言ではあったが、もうトラントの領土ではなく、魔王の領土であることの知らせるためでもあった。
 
 そしてこの言葉に従わないものなどいるはずもなく、直接命令をしてもらったことに逆に感謝をしながら解散となった。


 我が家に空間転移魔法で戻ったところでネタばらしを始めるエーナ。

「ケーナの家に初めて来たけど庶民的でいいじゃない。悪くはないわ。でも家具のセンスはまだまだかしら」

 本当の庶民からすると豪邸に値する広さではある。

「エーナお嬢様ですよね?」

 一度会ったことのあるハクレイが恐る恐る確かめる。

「あ、やっぱりわかります? 誰も私のことケーナって呼んでくれないからバレてる気はしてましたの」

「バレバレじゃ。相手が鈍感で助かったのじゃ」

「お主が指輪の所持者になるのかや?」

「私はいらないわ。ケーナも……あっ、あそこで最初に案内された場所なら欲しがるかしら。だってお風呂が凄かったのでしょ。私も入りたいわぁ。ケーナと記憶を共有してる部分があるからある程度はわかるわよ」

「記憶の共有じゃと? 恐ろしいすぎるのじゃ」

「エーナと言ったでありんすな。ケーナとは簡単に変われるのかや?」

「代わることは簡単ですの。でもバレないようにするのが大変ですわ。私の専属メイドは違和感に敏感ですのよ」

「見た目だけでは長くは保たないのでありんすね」

「どうして入れ代わったのじゃ?」

「運命の流れを変えるためかしら。あのままケーナにサイコロを振らせると必ず負けていましたわ」

「どうしてエーナが振ると勝てるのじゃ?」

「想定していた相手と別人だからでしょうね。運命にも種類があって、老衰のような変化が難しい運命もあれば相手が違うだけで簡単に変えられるものもありますわ。ギャンブルは後者ですわね」

「エーナとケーナは双子と言うより見た目だけなら同一人物ありんすね」

「どんな関係なのじゃ?」

「ケーナからお聞きになった方がよろしいわね」

「そうじゃな」

「ケーナから聞くでありんす」

「ふふふ、あなたたちケーナの仲間だけあってとても素敵な方なのね。是非私の家に遊びに来てね」

「もちろんじゃ」

「いいでありんすよ」

「ハクレイ、あなたもよ」

「はいっ」

 エーナはハクレイの手をそっと握り名残惜しそうに見つめた。

「……そろそろ帰らないと、ねっ。また会いましょう。あ、それと余計なこと言うけど、ケーナの魂は男よ。体が女だから性格が女に引っ張られてるけど、まだ微かに男っぽさはのこってるわね」

 その言葉と同時にケーナに入れ替わった。
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