転生少女は片腕をなくした薬屋の片腕になる

しのだ

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前世の想いを届けるために②

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 西の方は森に近いので、町はずれとなるとほとんど家が無い。

 その中で、半分が木に侵食されているような家を見つけた。一応人が住んでいるような気配はある。
 扉の前には ポーション屋 営業中 の札が掛けられていた。

 配達する商品はいつも薬草だったり、ポーション用の瓶だったことを思い出す。

「ここかも」

 おそるおそる扉を開けると、

 リリリン

 小さなベルが鳴り

「はい、はい。何かご入用で?」

 と奥から男の人の声。

 とても懐かしい声。

(この人だ!)

 出てきた男は髪はボサボサの寝癖がついていて、たまにしか剃らない無精ひげ。背が高くて、

「あ、あれ…… 右腕がない」

「あ、わりぃな。怖がらせちまったか?」

「怖くない。けど、なんでないの?」

「昔、火事で酷い火傷をしたときにな。仕方なかったらしい」

「痛かった?」

「そうだな、たぶん。でも今は片腕にも慣れたさ」

 もし私があの時もっと早く駆けつけていたら、腕も助かったのではと思うと涙が溢れてしまっていた。

「おいおいどうした嬢ちゃん? まいったな」

「違うの。でも無い腕を見てたらなんか悲しくて」

「そうか、この腕見て悲しんでくれたのか? だとしたら嬢ちゃん優しんだな」

 そう言って涙を拭ってくれる左手は昔のままの大きな手だった。

「こっちにおいで、大したものはないけど落ち着くまでいたらいい。ホットミルクでも飲むか?」

「うん」

「ちょっと待ってろ」

 テーブルと椅子が1つずつ。ずっと1人ぐらしなのだろうか。
 出されたホットミルクはちょっと大人な味がした。

「どうだ? 落ち着いたか?」

「うん」

「今日はどうしてここに来たんだ?」

「おじさんに会いたくて」

「ん? あれ? ここ来るの初めてだろ?」

「うん。でも昔会ったことあるの」

「昔っていつだ?」

「10年前」

「10年って嬢ちゃん今いくつ?」

「7歳」

「じゃぁ、無理じゃないかな」

「10年前、配達屋してた」

「え?」

「おじさんに、いつも薬草とか、ポーションの瓶とか届けてた」

「そんなぁ、冗談はよしてくれ」

「そしたら、おじさんいつも、ありがとなって言ってくれた」

「そんな……それじゃまるで」

「たまに、屋台で何か買ってけって言って、銅貨を1枚右手でピンってはじいて渡してくれた。嬉しくていつも焼き菓子買ってた」

 話しているうちにどんどん細かいところまで記憶が蘇ってくる。

「やめてくれ、あいつはあの日、俺を助けて……」

「うん。おじさんを助けて私死んじゃった。でも後悔なんてしてない。最後の記憶はおじさんが生きてた良かったで終わってるから」

「シルニア。シルニアなんだな」

 前世の名前を呼ばれて、私のモヤがかってた前世の名前の記憶がすっきりとする。

「うん、シルニア。私シルニアだったの」

「俺は、何もしてやれなかった。ずっと後悔してた。なんでシルニアが死ぬ必要があったんだって。全部俺のせいじゃないかって。この10年間ずっと、ずっと思ってた」

「今日来たのはシルニアの言えなかった思いを伝えに来たの」

「思い?」

 ちょっと呼吸を整えて、出来るだけ記憶にあるシルニアの声に似るように


「初めて会った時から、ずっと好きだったよジグ」


 その言葉を聞いた途端、おじさんが目を赤くして唇を震わせていた。
 そしてこのおじさんの名前も思い出していた。
 愛称はジグ、本名はジグリット・ハーベスだ。

「そんな……そんなこと、今言われても……どうしろってんだよ……」

 まさにその通りだ。
 残酷な想いの伝え方だったかもしれない、それでも前世の私の想いを無視できなかったか伝えた。

「ごめんなさい。辛い?」

「謝らなくていい、でも、そうだな……辛いな。それでもちょっと楽になったよ。あいつが俺のこと想ってくれてたなんて。だからなのかな、だからだろうな無茶なことして、最後の最後まで俺の心配して、人の気も知らずに」

「ホットミルク飲む? 飲みかけだけど」

「俺は、大丈夫だよ。……なあ嬢ちゃん。名前は?」

「リーン」

「伝えてくれてありがとな、リーン」

「もうシルニアじゃないけど、私とも仲良くしてほしい」

「こちらこそ、ぜひとも、こんなおじさんだがな」

「私前世の記憶のせいで妙に大人ぶってるって言われて友達いないの」

「そりゃ難儀だな。いいぞ、今日から友達だ」

「じゃ明日もまた来るね」

「リーンもジグって呼んでくれていい」

「わかった、ジグ」

「どうせこの店はいつも暇だからな。いつでも来いリーン」

 ジグに会えた。
 想いも伝えられた、それで辛い思いをさせてしまったけど、最後は笑ってくれた。


 家に帰って親にどこまで行ったのか聞かれたけど、西の方とだけ。詳しくは話さなかった。

 ジグとシルニアだけの秘密だから。

 ◇◆◇◆◇
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