魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第34話 魔王様の言葉

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 あの日から、数日が経った。
 クリア条件を満たし、僕の進級は確定する。今日は少し用事があり、僕はさみだれ大学に足を運んでいた。
 出入り口前、見知った顔の――人物と遭遇する。

「あら、あなたもクリアできたのね」
「……」

 構内、碧土さんが話しかけてくる。
 人目のつくところで――向こうから話しかけてくるのは初めてだった。僕は視線を合わせるだけにとどめて彼女の横を通り過ぎる。

「待ちなさい。なにか言いなさいよ」
「クリアおめでとう」
「……馬鹿にしているの? いっぱい言いたいことがあるでしょう、あるに決まってるでしょう?! どうして私を責めないのよっ!? 殴られたって文句が言えないことを私はしたでしょうっ! どうしてそんなに哀しい目で私を見るだけなのよっ!!」

 碧土さんが僕の襟を掴み――叫ぶ。
 周囲からすれば、衝撃的な光景だったに違いない。碧土穂波は構内でその存在を知らないものがいないほどに有名な女子だ。いつもクールな雰囲気をまとわせて、異性に対しては常に距離を取っている。
 そんな彼女が――僕相手に、感情を露わに吼えている。

「あなたが言わないのなら言ってあげる。勇者を手引きしたのは私、魔王に取り入ったのも内部を把握するため、全ては私が――クリア条件『勇者の役に立つこと』のためよ」
「知っているよ」
「だったら、なんでなにも言わないのよっ!」
「ニャンニャが、君を恨むなと言ったからだ」
「は?」
「ニャンニャが最後に――死ぬ間際、君には感謝していると言っていた。君が培ってくれた緑は必ず魔王城の道しるべになるってね」
「……やめてよ」
「僕からは――それだけだ」
「……なんで、そんなこと、言うのよ」
「僕は事実を話しただけだ。碧土さん、君が"僕の言葉"を欲しがるのなら――一つだけ伝えてあげるよ」

 自身の想いを示すよう、碧土さんの襟を――掴み返す。

「僕はまだ諦めていない」

 休学届を提出した。
 放任主義な両親は自由にしろと、僕の自主性を重んじてくれた。今から僕がすることは途方もない旅路となるだろう。
 僕は支度を整えて――家を出る。

「さて、休学期間内にどうにかなるのかな」
「そうね。天音くん――あなただけじゃ無理だと思うわ」

 ドアを開くと、碧土さんが立っていた。

「なんで僕の家知ってるのっ?!」
「ラブリー卍の人に聞いた。天音くんの家に行きたいから――場所を教えて欲しいって」
「僕一人暮らしだよ。変な噂立てられても知らないからね」
「構わないわ」

 碧土さんは頭を深く下げながら、

「少しだけ、私に――付き合ってくれないかしら」
「???」

 家の前で待っていたり、どうにも不思議な行動である。
 ただ、碧土さんが――ここまでするのだ。僕は言われるがままに、碧土さんが待機させている車に乗り込む。
 たどり着いた先は――病院の個室だった。

「入ってちょうだい」

 部屋の中には、小学生くらいの女の子がいた。
 ひと目見てわかったのは――間違いなく碧土さんの妹だろう。将来美人になるであろうということ、もうすでに顔が整いすぎていて驚く。
 女の子は僕を見るなり一言、

「お姉ちゃんの彼氏?」
「そうだよ」
「違うでしょっ! なんで普通に頷いてるのよっ?!」
「いや、なんかイエスっていう空気かなって」
「微塵もでてないわよっ!」
「あはは。お兄ちゃん面白いね」

 女の子が笑う。

「初めまして。僕は晴人――君の名前は?」
美波みなみだよ」
「美波ちゃんか。お姉ちゃんに似て綺麗だね」
「……へ、平然と言うんじゃないわよ」
「あ、お姉ちゃん照れてる」
「照れてないっ!」
「こういうグワってする時はね、強がってる時なんだよ」
「……リンゴでも剥くわ」
「あ、お姉ちゃんが話を逸らした」
「碧土さん、美波ちゃんには勝てなさそうだね」

 しばらくの間、皆で談笑をする。
 美波ちゃんが突然の来客に疲れたのか――眠ってしまった。僕と碧土さんは美波ちゃんの寝息を聞きながら静かに時を過ごす。
 何故、碧土さんは僕をここに連れて来たのか。

「美波ね、もう長くないの」

 ゆっくりと、碧土さんが口を開く。

「お医者さんには、いつ死んでもおかしくないって言われている。全然そんな感じに見えないわよね。異世界と繋がって色々なことが発展した反面、不可思議な病気も密かに流行ってるって知ってた? 今の医学では治せない――どこにも治療法がない」

 早くクリアがしたい――碧土さんはそう言っていた。
 不可思議な病気、特殊な分野に知識があるものがいれば――コットン、コットンがいれば救いの手はあったかもしれない。

「一秒でも、妹さんと長くいたかったんだね」
「そうすることが最善だと思っていた。でもね、実行した結果私は妹の前に立つことが怖くなっているの。魔王様の命を差し出した私に――命を見守る資格なんてない」
「だけど、それが――君のクリア条件だった」
「わかっている。そして、今さら虫のいい話をするのも――わかっている。あなたの諦めていないという言葉が私の頭から離れない」

 碧土さんは大粒の涙を流しながら、

「犯した罪は消え去る? あの時、あの瞬間、馬鹿な私を止めてくれる? どうにかなるのなら――助けてほしい」
「ああ。全部丸ごと救ってみせるよ」

 僕はその涙を指で拭い去り――強く頷き返す。

「碧土さん、そこにある果物ナイフで僕を刺してくれないかな」
「……あなた、なにを言っているの?」
「幸いここは病院だ。なにかあっても――一命は取り留められる」
「幸いの意味がわからない」

 僕は果物ナイフを手に取り、碧土さんに手渡す。

「不可思議な病気、だったよね。碧土さんの話で――大切なことを思い出した。とにかく、自傷行為じゃ意味がない」
「……はぁ、今さらあなたの言うことに反論しても仕方ないわよね。やるからには思いっ切りいくわよ?」

 碧土さんは勢いよくナイフを振り上げ、

「覚悟しなさい」

 その切っ先が――僕の体内に入り込むことはなかった。
 僕の身体が光り輝き、ピンク髪の女の子が飛び出してくる。とても小さく可愛らしく、僕たちの姿を見て――微笑んだ。

「わぅ。お久し、ぶりです。晴人様、碧土様、お会いしたかったのです」

 僕の身に危険が迫った時、発動する加護魔法――転移陣は生きていた。
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