1 / 1
これはある日の帰り道
しおりを挟む
「──悪い、実はさっきの告白を見てた」
ついさっきの出来事を意中の彼に見られていたという、あまりに予想外すぎた突然のピンチに、部屋までは平静を装うつもりが不可能になってしまった。
頭の中はこれでもかというくらいに混乱し、心は心で鼓動を早めてピンチをさらに煽ってくるし。
短くまとめると、現在私はすごくピンチ!
「──だけど、やっぱりこのまま平然を装うのは俺には無理だ。後出しだけど、」
しかし頭の中の人生最大の混乱より、過去最高の心臓のバクバクよりも、彼の台詞の内容の方が重要だと思う私がこうしている。
だから私はムードのカケラもない彼の言葉を一旦止めて手を引き、この待ち望んだシーンを少しでも理想に近づける努力をする。
乙女な私はいつもの帰り道で理想に合うところを、すこーしでもムードがあるところを瞬時にピックアップして、これまで何度もそうしてきたように彼を引っぱっていく。
(きた、きた、キターーッ! ついにきた、この時が! 散々待たされたけどこれは勝った! 私たちの勝ちだ!)
◇◇◇
私には好きな人がいます。いわゆる初恋です。
相手は隣に住んでる男の子で、幼稚園からの付き合いで、そこから今まで一緒の学校という幼馴染な男の子です。
そんな鈍感、目が節穴、意気地なしともう相当なクソヤロ……彼を、昔はよく一緒に遊ぶ友達だと思っていました。
それというのも私たちの住むマンションの前は専用の公園になっていて、同じマンションの子たちはみんなそこで遊ぶ友達だからです。
彼も昔はその友達の中の一人でした。
しかし友達の一人であり家も隣というだけでなく、私たち二人は同じ私立の幼稚園ということもあり、いつの間にか帰宅後も一緒に遊ぶことが多かったのです。
朝はそれぞれのママに見送られて一緒の送迎バスで幼稚園に行き、帰りもママたちにマンションの前で一緒に出迎えられます。
そこからエレベーターを使い家には帰らず、私はママたちにカバンだけを渡して手を振って見送り、彼を引きずって前の公園にと遊びに向かいます。
これは土日と悪天候な日以外は毎日のことでした。
「あーちゃん。かえってゲームやりたい」
「アレ、ひとりしかできないじゃん。イロチガイでないし」
「えー、どうせブランコでしょ。もうあきたよ」
「ほう。まーくんはわたしにそんなこというんだ……」
「いや、やっぱりブランコしたいかな。うん、したい!」
この時はまだ彼を「好き」でもなんでもなく、単純に一番遊びに誘いやすく、私の言うことを素直に聞くから毎日彼を引っぱっていっていたのです。
ままごとより外で遊ぶのが大好きな私と、放っておいたら家から一歩も出てこない彼。
男の子みたいな私と、女の子みたいな彼でした。
今でこそ私はとてもとても女の子らしいですが、昔はよく男の子に間違えられていました。
何故かというと女の子らしい格好などせず、女の子らしい振る舞いまどせず、女の子らしい言動もしなかったからでしょう。
幼稚園の制服はスカートが嫌で男の子と同じ物を着ていたし、髪はできるなら坊主でいいのにと思っていたし、パパとママがうるさくなければ物事は叩いて解決すればいいと思っていたからでしょう。
この当時の私の女子力はマイナスに振り切れていたのです。
「──あら、アナタ。ブランコはじゅんばんこにつかうときめたではありませんか。きょうはワタクシにゆずりなさい!」
「……でたな。ぶりっこおじょう」
「このっ、またそのようなよびかたを!」
「いまきたところだからもうすこしマテヤ。またナカスぞ」
当時は新しかったマンションに住む子たちは年齢も近い子が多く、人気の遊具の取り合いは日常茶飯事でした。
中でもこのマンションの最上階に住む、見た目も中身もお嬢とはよく喧嘩していました。
喧嘩しようと一度も負けたことはなかったですが、このお嬢だけは私に繰り返し挑んでくる、ライバルであり実は恋敵でもあるという間柄だったのです。
それを私が知ったのは小学生も終わりという頃。彼に対する気持ちが「好き」なんだと自覚した頃でした。
「お嬢、また習いごとですか。お嬢は大変ですねー」
「アマネさん。そういう言い方はおやめなさいと……アナタどうしてスカートはいてますの。それになんだか髪も伸ばして、まるで女の子みたいになっていますわよ」
「何言ってんの。私、女の子だけど?」
「えぇぇぇぇっ、いつから!? いつからそんなことに!?」
そしてお嬢は私のことを、小学校の六年生まで男の子だと思っていました。
普通気づくだろとお思いでしょうが、お嬢は毎日送迎が必須の遠いお嬢な小学校にと進み、普通に近くの公立小学校に通う私たちとはたまにしか会わなくなっていたのです。
何より、私はこの直前まで男の子みたいだったからしょうがないのかもしれません。
お嬢は私を男の子だと思い、私が好きな鈍い節穴なクソヤ……彼を男の子が好きな特殊なヤツだと思い、自らの初めての恋心を腐らせていました。
それはもう取り返しがつかないくらいに……。
彼にバレンタインにチョコと一緒にやんわりとしたラブレターを渡したお嬢は、曖昧な返事から彼に好きな子がいると察し、それが私(男の子だと思っている)だと気づき、両思いでそうなんだと思っていたのです。
裏ではハァハァしていたのです。
「──そ、そうでしたか。それならいたって普通。むしろありきたりな幼馴染パターンですわね。はぁ……」
「この女ヤベェなと最初から思っていたのが、別な意味でヤベェことになっていて私はビックリだよ」
「アナタがあんな男の子にしか見えないのが悪いのでしょう! ……それよりアナタです。どのような心境の変化からそのようなことに?」
勘違いはしていたが鈍くないお嬢に年頃になったからなんて言い訳が通じるわけもなく。
どうせ誤魔化したところでバレるし、誤魔化した結果バレたらものすごく笑われるから正直に話しました。
お嬢が彼にバレンタインにチョコを渡したのを知って危機感を覚えたのだと。
クラスの女の子からもバレンタインを貰っていて危機感を覚えたのだと。
そんなことをしようと思ったことすらなかった自分に危機感を覚えたのだと。
「遅っ──、ですが間違いなく彼はアナタのことが好きでしょう。しかし彼の性格から考えるに、ちょっとやそっとではアナタの気持ちには気づかないのでは?」
「し、知ってる。この女の子らしい格好にもまるで理解がない。席替えも頼んで席代わってもらったりしてるんだけど、ヤツは本当にクジだと思ってる……」
「アマネさん。彼から告白を待つのは乙女らしいですが、待つばかりではいつになることやらです。こちらからも攻めませんと!」
たとえ私が女の子だったところで、お嬢の中のできあがっているカップリングに変化はなく。
そのカップル成立に向けてお嬢は私の女子力のアップと、彼へのアタックに協力してくれるようになった。
小学校よりは遠いが一番近い公立の中学校に行く私たちと同じ中学に通い、聖ナントカ高校という女子校に入るまでの三年間もだ。
お嬢は幼稚園。小学校と母親の送迎にずっと申し訳なく思っていて、中学校はどこでも勉強だけしっかりやれば進路に問題ないと言っていた。
そんな理由も本当にあったのだろうけど、本当は一度くらいは私たちと同じ学校で、同じクラスで過ごしたかったのではないかと思う。
ツンデレがいきすぎているから絶対に認めないだろうが、お嬢はおかわいいところがあるし、あながち外れてはいないと思うのです。
「アマネさん。一緒にテニス部に入りましょう!」
「いや、ヤツと同じ化学部とかいうつまらなそうなところに入るのでは?」
「クラスは同じなんですから部活くらい違ってもいいでしょう。何より私はテニス部に入りたいのです」
目をキラキラさせて化学部に入った彼も、同じく目をキラキラさせてテニス部に入りたいお嬢も、部活にまったく興味がない私にはどうでもよかったけど、どこかには入らないといけなかったから私はお嬢に付き合ってテニス部に入った。
入るまで知らなかったのだが軟式テニスというのは二人組で、私は当然のようにお嬢と組まされたりもした。
運動は嫌いではないが自由に遊んでいる方が好きだった私には窮屈だったけど、この三年間の部活動はまぁ悪くはなかった。
問題はお嬢の協力があろうとまったく進展がない彼との関係と、受験という中学生がどうやっても避けられないものだった。
「アマネさん。アナタ、高校はどうしますの?」
「彼と同じところに。マンションから徒歩十五分の、朝八時まで寝られるところにします。進学にも問題ないし、八時まで寝られるしなので」
「全然ダメですわね。中学校より、小学校より近いところを選ぶとは……。それに、アナタの成績では近いけど結構頑張らないといけないのではなくて?」
「うっ──、頑張ります」
みんなは帰りに遊べるから都合がいいと少しでも街の方へと進路を選ぶのに対し、新しいし近いがバリバリの進学校を私は選んだ。
しかし、ボーっとしていても余裕で入れる彼とも。
お嬢な高校に行きたいくらいだから勉強ができるお嬢とも違い、私は塾に通い頑張らないといけなかった。
三年間の部活が夏休み前に終わり、秋にあった修学旅行や文化祭が終わると、あとはもう受験受験だった。
余裕がない私は毎日必死だったのだが、そんなある日、問題が発生した。
「こ、告白されてしまった。ど、どうしよう……」
私は冬休みになる直前にクラスメイトから告白された。
スポーツ推薦で高校がすでに決まっている人で、学年でもモテるタイプの男の子だった。
そしてどこから話が漏れたのか、私たちの近い友達にもこの事は広まってしまい、私は勉強に加えて告白という新たな問題も抱えてしまいました。
彼にこんなことを相談できるわけもなく、というか絶対に知られるわけにもいかず、本当に大変だったのです……。
「アマネさんモテますのね。昔はあんなでしたのに」
「自分は推薦なのかもしれないけど、こっちは必死で勉強してんのに告白なんて迷惑でしかないんだけど!? 受験の時期なのに男子の頭の中はどうなってんの!?」
「必要なところにはまったく届いていませんのにね。しかし、アナタは目立つグループですからね。同じ括りの方からの告白。わかりやすくこれまでの成果が出たのですが、ただ邪魔でしかないですわね。きっぱりお断りしましょう」
そう言って私に付き添ってくれたお嬢にはお嬢の友達がいて、彼には彼の友達がいて、学年が上がるにつれてそのグループには明確に差ができていて……。
私はお嬢を友達だと思っていても私の周りは「高飛車な女」「場違い」とお嬢を評価していて、彼も「勉強はできるが地味」「どうしてあんなヤツと?」なんて言われてもいて、私は彼に好かれようと頑張った結果の自分がわからなかった。
好きでもない人からの告白に「もったいないから付き合いなよ」とか、「今からでも彼と一緒の学校に行けばいい」とか、近い友達から言われた時は本当に意味がわからなかった。
私が振り向いてほしいのは別な人なのに。別にあなたたちが私に何をしてくれたわけでもないのにと思ってしまった。
それを直接ブチまけてしまいそうになった……。
「──ダメですわよ。他人からどう言われようと私は気にしません。それに、もう卒業なのですから今さら波風立てる必要もないですわ。と、友達は自分で選びますし。そ、それに、」
「……それはあの腐ってる仲間のこと?」
「いま個人の趣味嗜好はどうでもいいでしょう!? それより、アナタの友人たちも別に悪気があるわけではないと思います。アマネさん、あの友人たちに彼のことを話したことは?」
「ないよ。お嬢にしか言ってない。恥ずかしいし……」
「なら、勇気を出して相談してごらんなさい。たぶんアナタが彼をどう思っているのか知れば、彼女たちは喜んで協力してくれると思いますわよ。そういう話が大好きな方々でしょうから」
絶望的なまでに合わない、お嬢と私の友達たち。
これまで一度も一緒に遊びに行ったこともないし、仲良くしているところも見たことがなかった。
でも、告白を断った本当の理由を友達に話したら、友達たちは目の色を変えて私に協力してくれるようになった。
これまで味方だったお嬢のことも話すと、お嬢を呼び出して詳しい話を聞き出したりして、その後はなんやかんや上手くやっていくようになった。
二人ほどお嬢と同じ腐った道に行ってしまったけど……。
「卒業式の次の日が合格発表とは、まったくもってふざけてますわよね。まぁ、彼にも勉強を見てもらって頑張ったわけですから、間違いなく合格しているでしょうけど」
「お、お嬢ーーっ! 私と同じ学校に行こうよ!」
「いや、私もう合格していますから! というか、どうして私のところで泣いてますの!? あっちとかそっちとか行きなさいな」
塾がない日は勉強会と称して彼に勉強を見てもらったり、彼の都合が悪い日はお嬢にも勉強を見てもらったりして、私は無事に彼と同じ学校に合格しました。
私は嬉しいけどお嬢と離れるのは悲しくて、泣いて駄々をこねてみたけどやっぱりそれは無理で、お嬢も仲のいい友達もいない高校生活を始めた。
しかしそんな高校生活でも私は上手くやれていたらしく、また本日告白されてしまったというわけで……。
しかもそれを彼に見られていてどうしようかと思ったけど、待ち望んだ瞬間も一緒に来たわけで。
急に訪れた待ち望んだ瞬間には正直焦るけど、彼への返事はもうとっくに決まっているから一人で大丈夫。
◇◇◇
「──でも、お、俺の方が間違いなく好きだ! だから、俺と付き合ってほしい!」
本当はもっと気の利いた台詞と場所で言ってほしかったけど、「好き」だとさえ言われればもうそれだけでいいらしい。
どうせ彼にそういうのは無理だと知ってるし。
「はい」
自分から告白したらいいじゃないかと友達には言われもしたけど、やっぱりそういうのは彼から言ってほしくて私は待ちに徹した。
お嬢は「私らしい」「きっと大丈夫」だと、同じく乙女な思考から言ってくれた。
だけど本当は、もし違ったらどうしようとか、もし断られたらどうしようとか、少しでも思ってしまうと自分から告白なんてできなかっただけだけど。
結果がよかったんだからよかったんだと思おう。
帰ったらまずお嬢に付き合うことになったと報告して、彼を取っちゃってごめんなさいと謝らなくては。
きっとお嬢だって彼が本気で好きだったはずだから……。
ツンデレだから違うと言うだろうけどね。
でも、今はちょっと冷静ではいられないので、まずは嬉しさを全身で表現してみる。
とっても恥ずかしいが思い切って抱きついてみよう。
ついさっきの出来事を意中の彼に見られていたという、あまりに予想外すぎた突然のピンチに、部屋までは平静を装うつもりが不可能になってしまった。
頭の中はこれでもかというくらいに混乱し、心は心で鼓動を早めてピンチをさらに煽ってくるし。
短くまとめると、現在私はすごくピンチ!
「──だけど、やっぱりこのまま平然を装うのは俺には無理だ。後出しだけど、」
しかし頭の中の人生最大の混乱より、過去最高の心臓のバクバクよりも、彼の台詞の内容の方が重要だと思う私がこうしている。
だから私はムードのカケラもない彼の言葉を一旦止めて手を引き、この待ち望んだシーンを少しでも理想に近づける努力をする。
乙女な私はいつもの帰り道で理想に合うところを、すこーしでもムードがあるところを瞬時にピックアップして、これまで何度もそうしてきたように彼を引っぱっていく。
(きた、きた、キターーッ! ついにきた、この時が! 散々待たされたけどこれは勝った! 私たちの勝ちだ!)
◇◇◇
私には好きな人がいます。いわゆる初恋です。
相手は隣に住んでる男の子で、幼稚園からの付き合いで、そこから今まで一緒の学校という幼馴染な男の子です。
そんな鈍感、目が節穴、意気地なしともう相当なクソヤロ……彼を、昔はよく一緒に遊ぶ友達だと思っていました。
それというのも私たちの住むマンションの前は専用の公園になっていて、同じマンションの子たちはみんなそこで遊ぶ友達だからです。
彼も昔はその友達の中の一人でした。
しかし友達の一人であり家も隣というだけでなく、私たち二人は同じ私立の幼稚園ということもあり、いつの間にか帰宅後も一緒に遊ぶことが多かったのです。
朝はそれぞれのママに見送られて一緒の送迎バスで幼稚園に行き、帰りもママたちにマンションの前で一緒に出迎えられます。
そこからエレベーターを使い家には帰らず、私はママたちにカバンだけを渡して手を振って見送り、彼を引きずって前の公園にと遊びに向かいます。
これは土日と悪天候な日以外は毎日のことでした。
「あーちゃん。かえってゲームやりたい」
「アレ、ひとりしかできないじゃん。イロチガイでないし」
「えー、どうせブランコでしょ。もうあきたよ」
「ほう。まーくんはわたしにそんなこというんだ……」
「いや、やっぱりブランコしたいかな。うん、したい!」
この時はまだ彼を「好き」でもなんでもなく、単純に一番遊びに誘いやすく、私の言うことを素直に聞くから毎日彼を引っぱっていっていたのです。
ままごとより外で遊ぶのが大好きな私と、放っておいたら家から一歩も出てこない彼。
男の子みたいな私と、女の子みたいな彼でした。
今でこそ私はとてもとても女の子らしいですが、昔はよく男の子に間違えられていました。
何故かというと女の子らしい格好などせず、女の子らしい振る舞いまどせず、女の子らしい言動もしなかったからでしょう。
幼稚園の制服はスカートが嫌で男の子と同じ物を着ていたし、髪はできるなら坊主でいいのにと思っていたし、パパとママがうるさくなければ物事は叩いて解決すればいいと思っていたからでしょう。
この当時の私の女子力はマイナスに振り切れていたのです。
「──あら、アナタ。ブランコはじゅんばんこにつかうときめたではありませんか。きょうはワタクシにゆずりなさい!」
「……でたな。ぶりっこおじょう」
「このっ、またそのようなよびかたを!」
「いまきたところだからもうすこしマテヤ。またナカスぞ」
当時は新しかったマンションに住む子たちは年齢も近い子が多く、人気の遊具の取り合いは日常茶飯事でした。
中でもこのマンションの最上階に住む、見た目も中身もお嬢とはよく喧嘩していました。
喧嘩しようと一度も負けたことはなかったですが、このお嬢だけは私に繰り返し挑んでくる、ライバルであり実は恋敵でもあるという間柄だったのです。
それを私が知ったのは小学生も終わりという頃。彼に対する気持ちが「好き」なんだと自覚した頃でした。
「お嬢、また習いごとですか。お嬢は大変ですねー」
「アマネさん。そういう言い方はおやめなさいと……アナタどうしてスカートはいてますの。それになんだか髪も伸ばして、まるで女の子みたいになっていますわよ」
「何言ってんの。私、女の子だけど?」
「えぇぇぇぇっ、いつから!? いつからそんなことに!?」
そしてお嬢は私のことを、小学校の六年生まで男の子だと思っていました。
普通気づくだろとお思いでしょうが、お嬢は毎日送迎が必須の遠いお嬢な小学校にと進み、普通に近くの公立小学校に通う私たちとはたまにしか会わなくなっていたのです。
何より、私はこの直前まで男の子みたいだったからしょうがないのかもしれません。
お嬢は私を男の子だと思い、私が好きな鈍い節穴なクソヤ……彼を男の子が好きな特殊なヤツだと思い、自らの初めての恋心を腐らせていました。
それはもう取り返しがつかないくらいに……。
彼にバレンタインにチョコと一緒にやんわりとしたラブレターを渡したお嬢は、曖昧な返事から彼に好きな子がいると察し、それが私(男の子だと思っている)だと気づき、両思いでそうなんだと思っていたのです。
裏ではハァハァしていたのです。
「──そ、そうでしたか。それならいたって普通。むしろありきたりな幼馴染パターンですわね。はぁ……」
「この女ヤベェなと最初から思っていたのが、別な意味でヤベェことになっていて私はビックリだよ」
「アナタがあんな男の子にしか見えないのが悪いのでしょう! ……それよりアナタです。どのような心境の変化からそのようなことに?」
勘違いはしていたが鈍くないお嬢に年頃になったからなんて言い訳が通じるわけもなく。
どうせ誤魔化したところでバレるし、誤魔化した結果バレたらものすごく笑われるから正直に話しました。
お嬢が彼にバレンタインにチョコを渡したのを知って危機感を覚えたのだと。
クラスの女の子からもバレンタインを貰っていて危機感を覚えたのだと。
そんなことをしようと思ったことすらなかった自分に危機感を覚えたのだと。
「遅っ──、ですが間違いなく彼はアナタのことが好きでしょう。しかし彼の性格から考えるに、ちょっとやそっとではアナタの気持ちには気づかないのでは?」
「し、知ってる。この女の子らしい格好にもまるで理解がない。席替えも頼んで席代わってもらったりしてるんだけど、ヤツは本当にクジだと思ってる……」
「アマネさん。彼から告白を待つのは乙女らしいですが、待つばかりではいつになることやらです。こちらからも攻めませんと!」
たとえ私が女の子だったところで、お嬢の中のできあがっているカップリングに変化はなく。
そのカップル成立に向けてお嬢は私の女子力のアップと、彼へのアタックに協力してくれるようになった。
小学校よりは遠いが一番近い公立の中学校に行く私たちと同じ中学に通い、聖ナントカ高校という女子校に入るまでの三年間もだ。
お嬢は幼稚園。小学校と母親の送迎にずっと申し訳なく思っていて、中学校はどこでも勉強だけしっかりやれば進路に問題ないと言っていた。
そんな理由も本当にあったのだろうけど、本当は一度くらいは私たちと同じ学校で、同じクラスで過ごしたかったのではないかと思う。
ツンデレがいきすぎているから絶対に認めないだろうが、お嬢はおかわいいところがあるし、あながち外れてはいないと思うのです。
「アマネさん。一緒にテニス部に入りましょう!」
「いや、ヤツと同じ化学部とかいうつまらなそうなところに入るのでは?」
「クラスは同じなんですから部活くらい違ってもいいでしょう。何より私はテニス部に入りたいのです」
目をキラキラさせて化学部に入った彼も、同じく目をキラキラさせてテニス部に入りたいお嬢も、部活にまったく興味がない私にはどうでもよかったけど、どこかには入らないといけなかったから私はお嬢に付き合ってテニス部に入った。
入るまで知らなかったのだが軟式テニスというのは二人組で、私は当然のようにお嬢と組まされたりもした。
運動は嫌いではないが自由に遊んでいる方が好きだった私には窮屈だったけど、この三年間の部活動はまぁ悪くはなかった。
問題はお嬢の協力があろうとまったく進展がない彼との関係と、受験という中学生がどうやっても避けられないものだった。
「アマネさん。アナタ、高校はどうしますの?」
「彼と同じところに。マンションから徒歩十五分の、朝八時まで寝られるところにします。進学にも問題ないし、八時まで寝られるしなので」
「全然ダメですわね。中学校より、小学校より近いところを選ぶとは……。それに、アナタの成績では近いけど結構頑張らないといけないのではなくて?」
「うっ──、頑張ります」
みんなは帰りに遊べるから都合がいいと少しでも街の方へと進路を選ぶのに対し、新しいし近いがバリバリの進学校を私は選んだ。
しかし、ボーっとしていても余裕で入れる彼とも。
お嬢な高校に行きたいくらいだから勉強ができるお嬢とも違い、私は塾に通い頑張らないといけなかった。
三年間の部活が夏休み前に終わり、秋にあった修学旅行や文化祭が終わると、あとはもう受験受験だった。
余裕がない私は毎日必死だったのだが、そんなある日、問題が発生した。
「こ、告白されてしまった。ど、どうしよう……」
私は冬休みになる直前にクラスメイトから告白された。
スポーツ推薦で高校がすでに決まっている人で、学年でもモテるタイプの男の子だった。
そしてどこから話が漏れたのか、私たちの近い友達にもこの事は広まってしまい、私は勉強に加えて告白という新たな問題も抱えてしまいました。
彼にこんなことを相談できるわけもなく、というか絶対に知られるわけにもいかず、本当に大変だったのです……。
「アマネさんモテますのね。昔はあんなでしたのに」
「自分は推薦なのかもしれないけど、こっちは必死で勉強してんのに告白なんて迷惑でしかないんだけど!? 受験の時期なのに男子の頭の中はどうなってんの!?」
「必要なところにはまったく届いていませんのにね。しかし、アナタは目立つグループですからね。同じ括りの方からの告白。わかりやすくこれまでの成果が出たのですが、ただ邪魔でしかないですわね。きっぱりお断りしましょう」
そう言って私に付き添ってくれたお嬢にはお嬢の友達がいて、彼には彼の友達がいて、学年が上がるにつれてそのグループには明確に差ができていて……。
私はお嬢を友達だと思っていても私の周りは「高飛車な女」「場違い」とお嬢を評価していて、彼も「勉強はできるが地味」「どうしてあんなヤツと?」なんて言われてもいて、私は彼に好かれようと頑張った結果の自分がわからなかった。
好きでもない人からの告白に「もったいないから付き合いなよ」とか、「今からでも彼と一緒の学校に行けばいい」とか、近い友達から言われた時は本当に意味がわからなかった。
私が振り向いてほしいのは別な人なのに。別にあなたたちが私に何をしてくれたわけでもないのにと思ってしまった。
それを直接ブチまけてしまいそうになった……。
「──ダメですわよ。他人からどう言われようと私は気にしません。それに、もう卒業なのですから今さら波風立てる必要もないですわ。と、友達は自分で選びますし。そ、それに、」
「……それはあの腐ってる仲間のこと?」
「いま個人の趣味嗜好はどうでもいいでしょう!? それより、アナタの友人たちも別に悪気があるわけではないと思います。アマネさん、あの友人たちに彼のことを話したことは?」
「ないよ。お嬢にしか言ってない。恥ずかしいし……」
「なら、勇気を出して相談してごらんなさい。たぶんアナタが彼をどう思っているのか知れば、彼女たちは喜んで協力してくれると思いますわよ。そういう話が大好きな方々でしょうから」
絶望的なまでに合わない、お嬢と私の友達たち。
これまで一度も一緒に遊びに行ったこともないし、仲良くしているところも見たことがなかった。
でも、告白を断った本当の理由を友達に話したら、友達たちは目の色を変えて私に協力してくれるようになった。
これまで味方だったお嬢のことも話すと、お嬢を呼び出して詳しい話を聞き出したりして、その後はなんやかんや上手くやっていくようになった。
二人ほどお嬢と同じ腐った道に行ってしまったけど……。
「卒業式の次の日が合格発表とは、まったくもってふざけてますわよね。まぁ、彼にも勉強を見てもらって頑張ったわけですから、間違いなく合格しているでしょうけど」
「お、お嬢ーーっ! 私と同じ学校に行こうよ!」
「いや、私もう合格していますから! というか、どうして私のところで泣いてますの!? あっちとかそっちとか行きなさいな」
塾がない日は勉強会と称して彼に勉強を見てもらったり、彼の都合が悪い日はお嬢にも勉強を見てもらったりして、私は無事に彼と同じ学校に合格しました。
私は嬉しいけどお嬢と離れるのは悲しくて、泣いて駄々をこねてみたけどやっぱりそれは無理で、お嬢も仲のいい友達もいない高校生活を始めた。
しかしそんな高校生活でも私は上手くやれていたらしく、また本日告白されてしまったというわけで……。
しかもそれを彼に見られていてどうしようかと思ったけど、待ち望んだ瞬間も一緒に来たわけで。
急に訪れた待ち望んだ瞬間には正直焦るけど、彼への返事はもうとっくに決まっているから一人で大丈夫。
◇◇◇
「──でも、お、俺の方が間違いなく好きだ! だから、俺と付き合ってほしい!」
本当はもっと気の利いた台詞と場所で言ってほしかったけど、「好き」だとさえ言われればもうそれだけでいいらしい。
どうせ彼にそういうのは無理だと知ってるし。
「はい」
自分から告白したらいいじゃないかと友達には言われもしたけど、やっぱりそういうのは彼から言ってほしくて私は待ちに徹した。
お嬢は「私らしい」「きっと大丈夫」だと、同じく乙女な思考から言ってくれた。
だけど本当は、もし違ったらどうしようとか、もし断られたらどうしようとか、少しでも思ってしまうと自分から告白なんてできなかっただけだけど。
結果がよかったんだからよかったんだと思おう。
帰ったらまずお嬢に付き合うことになったと報告して、彼を取っちゃってごめんなさいと謝らなくては。
きっとお嬢だって彼が本気で好きだったはずだから……。
ツンデレだから違うと言うだろうけどね。
でも、今はちょっと冷静ではいられないので、まずは嬉しさを全身で表現してみる。
とっても恥ずかしいが思い切って抱きついてみよう。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【短編版】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化進行中。
連載版もあります。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
義務的に続けられるお茶会。義務的に届く手紙や花束、ルートヴィッヒの色のドレスやアクセサリー。
でも、実は彼女はルートヴィッヒの番で。
彼女はルートヴィッヒの気持ちに気づくのか?ジレジレの二人のお茶会
三話完結
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から
『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更させていただきます。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる