連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

こわい。ただ、こわい。

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 定めされた死を回避するには、暴威の化身に供物を捧げる必要があった。
 それで逃れられない死の運命を回避できるのなら安いものだろう。
 まずはその前夜の話をしよう──



「俺は明日。死ぬかもしれない……」

 俺は重たい現実をお姫様へと告げた。
 何故かといえば彼女は俺と同じく、このつまらない世界を変えようとする同士だからだ。
 その彼女になら死の運命さえ打ち明けられた。

「ふーん」
「だけど、もし生きて帰ることができたなら……」

 もし生きて帰ることが出来たらなんて、そんな可能性の低いことを口にするのはやめようかとも思った。
 それでも口にし、甘い夢を見てしまうのは俺の弱さ故だろう。

「コレはケーキっていうのね。チョコレートケーキ」
「その時は会得しているはずだ。チョコレートの秘術。その生成法を」

 死の運命を越えた先にある、もしもの未来の話。
 そこに辿り着けたなら確かに会得しているはずだ。常人には不可能と言われた、チョコレートの秘術を。

「ケーキって、チョコレートじゃないやつもあるって言ったわよね? それも食べたいから、今すぐ買ってきて!」

 さっきからかなり真剣に話してるんだけどな……。何この対応。俺の話はケーキ以下なのかい?
 それとも何か。最初の「ふーん」から興味なかった!? だとしたら辛すぎる!
 俺は明日マジで死ぬかもしれないのに!

「ねぇ、任せるから早く行ってきてよ」
「キミは今何時だと思ってるんだい。店なんて全部閉まってるわ!」

 コンビニに行けばあるとは口が裂けても言わない。
 ボク、学んだんだ。不用意な発言は自分へ跳ね返ってくるって。

「つかえな。じゃあ、もう帰れば?」

 うん、帰ろう。そして明日。本当に死んだら呪ってやろう!
 ケーキをわざわざ届けに来るんじゃなかった。多少なりとも心配してくれると思ったのが間違いでした!

「──じゃあな! おやすみなさい!」
「……おやすみ」

 貴様など、寝る前に甘いものを摂取しすぎて太ってしまえ! もしくはその栄養の足りないところが育つように祈るんだな! ハーハッハッハ!

 とは思っても、絶対に口には出さない。
 ボク、学んだんだ。このお姫様もすぐ手が出るタイプだって。
 あー、もう帰って寝よう。


◇◇◇


 はい、そんなわけで火曜日です。
 本日の死のリスクを、すこーーしでも低くするためにやってきました。賄賂を買いに。

 平日の午前中なのに列ができているお店に、平日だけど並ばなないと買えないプリンを買いにきました。
 これは、「学生には買えない」そういう仕様です。休日は並んでも買えないらしいからな。

 ちゃんと事前に調べてきたんだよ? 何時くらいがいいとかさ。
 ……学校? 出席の時はいたよ。「はい」って返事はしてきたよ。大丈夫だって。プリン買ったらちゃんと戻るから!

 あとは覚悟とやらを決めるだけだ。まだまだ時間はあるしなんとかなる!
 考えると震えるけど……なんとかなる!

 ──で、あっという間に放課後。

 一瞬だったな。まるで一行にも満たない。そのくらいの体感時間だった。つまり覚悟なんてできてない。
 こうなれば当たって砕けるしかない。 ……いや、砕けるのはダメだ。それはいけない。

 もう、約束された時間は近い。
 果たして俺は明日を迎えることができるのか?

 次回に続くといいなー。

 次回に続くかな……。

 次回に続く……。

 続く……。

 続く。

 続く。










 ──えっ、ダメ? これじゃダメなの?
 前と同じ引きでいいじゃん! これで後10回くらいやろうよ! そうしたら俺の気持ちも準備できるかもしれないし!


◇◇◇


 あぁ……この時がきた。きてしまった。
 まだ始まってもいないのにドキドキする。いろんな意味で。あんまり良くない意味で。

「おっ、逃げねーで来たな。感心感心」

 いきなりインターホン押す勇気はないので、言われた通りに同じ時間におっちゃんのところに来た。
 ある1つの可能性がある可能性があると思ったからだ。

「お嬢さんはご在宅でしょうか? 急用とかでいないという可能性もあると思うんだ。というか、むしろ急用が発生していてくれないと困るというか。まだ死にたくないというか。明日にしてくれないかな?」

「明日明日っていつまでやる気だ。ルイなら、ちゃんといるよ。裏に回って居間に行け」

 ダメだったーーっ。可能性は0ではなかったはずだったが、俺に運がない。
 もう「逃げる」は使えない! 逃げたところで、逃亡先は徒歩1分の距離もないし!

「なんとしてもルイと仲直りしろ。オレはお前のせいで大変なんだ。昨日、ルイにお前の話をしたら、娘は目すら合わせてくれなくなった……。零斗れいと、もうわかるだろうが上手くいかなかったら、オレがお前を殺す」

「それ、俺のせいじゃなくね?」

「──お前のせいだろ! オレがなんかしたか!」

 いやー、してるだろ。いろいろ……。嫌われてるのは今更だと思う。
 逆に何をもって娘に好かれていると思っているのかが謎だ。

 しかし今はいい。ここで余計なことは言えない。
 おっちゃんには、是非とも頼まなければならないことがあるんだから。

「ねぇ、おっちゃん。俺が助けを呼んだらさ。もちろん助けにきてくれるよな?」
「店番があるから無理だ……」
「嘘つけ! 昨日と変わんないじゃないか!」
「さっさと行けよ! 待たせるだけ機嫌が悪くなるぞ!」
「わかってるよ!」

 あぁ、なんということだ。期待した助けもなく、俺は完全に1人らしい。
 これは本当に覚悟がいるな。まてよ……。

 実はもう怒っていなくて、「久しぶりに会いに来てくれて嬉しいわ!」とかって展開はないだろうか?
 幼馴染だし、あるパターンだと思うのですが?

 ない? ──ないの!? それでも待ってるってヤバいよね。しかもここで終わんの!?
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