連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

DO・GE・ZA

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 おっちゃんに和菓子屋の裏側。自宅の方から入れと言われた俺は、恐る恐るインターホンを鳴らす。
 こんなにプルプルしながらインターホンを鳴らしたのも、人が出てくるのを待つのも始めてだ。もう帰りたい。

「あら、れいちゃん。いらっしゃい。ルイは居間よ」

 いつでも逃げられる体勢でいたのだが、幼馴染様が初っ端から出てくることはなく、何故だかひじょーーに楽しそうなおばちゃんが出てきた。
 おばちゃんは幼馴染様の母上であらせられる方だ。顔はよく似ている。中身は真逆だがな。

「なんか、ご機嫌ですね」
「こんなにおもし……──良い日なんだから! お茶とお菓子はすぐ持っていくから、あがってあがって」

 この人さ「こんなに面白い」って、いま言いかけたよね?
 いい日とか言って誤魔化そうとしても、その本音は誤魔化せない。楽しそうなのは面白そうと思ってるからじゃん。
 他人事だと思いやがってー。おっちゃんもおっちゃんなら、おばちゃんもおばちゃんだ!

「……お菓子はいいです。これ、買ってきましたから」

 おばちゃんはお菓子って言うけど、店に出てる和菓子じゃん。チョコレートもだが、餡子の甘さも今の俺には必要ない。
 お茶も本当は遠慮したい。熱々のお茶が顔に飛んできたら嫌だし……うわぁ、嫌な想像してしまった。

「うそ、どうやって。学校サボったわね! そんな子に跨がせる敷居はウチにはありません。出直してきなさい!」

 手土産に驚かれたがそれは一瞬でキッと睨まれる。そんな幼馴染様と似た顔をされると、幼馴染様に睨まれた気になってしまう。こ、こわいです。
 だが、怯んでばかりはいられないのだ。これを練習と思って乗り切らなくては!

「ちょこっと抜け出しただけですー。ちゃんと戻って、クソつまらない授業を聞きましたー。黙っているなら1個やろう」
「……今日のところはそれで手を打とう。中に入りなさい」

 よし、勝った。プリン1個で買収に成功した! これで親バレもない。いい出だしなのかもしれない!

「おじゃまします」
「はい、いらっしゃいませ」

 ずいぶん久しぶりにこの家の玄関に足を踏み入れた。
 靴を脱ぎ家の中を進んでも、店の方と違ってこっちは記憶の中と何も変わらない。

「……って、なんでついてくるんですか?」
「台所は居間の横よ。お茶用意しなくちゃ! それと晩ご飯の支度もしなくちゃ!」

 絶対違う。おもしろそうだから隣で立ち聞きしてるつもりだ。おばちゃんはそういう人だ。
 しかしあれだ。そういうことならば……。

「おばちゃんはさ。おっちゃんと違って、俺がピンチの時は、助けてくれるよね?」
「言ったでしょう。晩ご飯の支度しなくちゃいけないから、ムリ!」

 こっちも助けてはくれないらしい。密室で助けもないとなるとこれは死ぬかな?
 今からでも帰った方がいいんじゃないだろうか?

「最初から若い2人に任せて、お邪魔虫はすぐに退散するから。気にせずやってください」

 なんで、そんなに楽しそうなんだろうか……。
 俺はこんなにも不安と恐怖で吐きそうなのに。マジで逃げ出したいのに。

「れいちゃん。あの子も鬼じゃないわ。誠意を見せれば許してくれるわ。 ……きっと」
「きっとなんだ。余計に不安になったわ」
「でもね。れいちゃんが悪いのよ? 私だったら、ぶっころしてるわね。きっと」

 昔の俺は何をやらかしたんだろうか?
 というか、おばちゃんはルイが怒っている理由を知ってるのか。俺はまったく心当たりがないというのに。

「それが何なのか教えていただくわけには……」
「あら、覚えてないの? じゃあ教えない」
「なんで!? ぶっころされるよ!」
「ほらほら、ただでさえ機嫌が悪いのよ。早く行きなさい!」

 おばちゃんに背中を押され、居間の障子の前についてしまった。
 そしておばちゃん。「早く逝きなさい」って言わなかった!? そう聞こえたんだが。き、聞き間違えだよね?


◇◇◇


 突然だが、俺がこれまで味わってきた恐怖を、数字で表してみようと思う。最大値は100点とする。
 異世界で拷問椅子に括り付けられ、強面たちに囲まれる。これが100点だ。もうぶっちぎりで!

 お姫様の着替えシーンに遭遇する。うーん、70点かな? あの時は他の感情も多分に含まれていたからな……邪なやつが。
 セバスにヤラれそうになる。60点だな。「こわっ!」とは思ったが、俺は恐怖に耐性を得た。もう半端なことではビビらない。

 この何日かで様々な恐怖体験をし、もう慣れた。余裕。くらいに思っていたんだが……。

「「……」」

 居間に入ってすでに10分。互いに何も話さない。
 前に座る幼馴染様は能面のような無。怒りなどまるで感じさせないが、それが俺には恐怖でしかない。

 何をされたわけでもないが、俺が感じている恐怖は99点。わかるか? 最大値から1点しか違わない。
 囲まれての状況と大差ない。むしろ1人の圧としては、これ以上は有り得ない。
 くそっ、なんて力だ……。俺じゃ到底敵わない!

 余裕があるように思えるかもしれないが、そんなわけがない。こうでもしないとここに居られないんだ。

「「…………」」

 そしてついに互いに黙ったまま動かない沈黙を、幼馴染様が破る。ルイはスマホをいじり始めた。
 こいつは自分から口を開くつもりはないらしい。俺からいくしかないようだ。

「えー、本日はお日柄もよく──」

 やっと口を開いた俺に、幼馴染様から視線が注がれる。その目はこう言っている。「ちげーだろ?」と。

「幼馴染様におかれましては──」

 今度は、「ふざけてんのか?」だろうか。
 こんなことなら簡単にわかるのに、どうして何に怒っているのかはわからないんだろ……。

「──俺が悪かった。ごめん!」

 日本人が謝るといえばこれしかない。
 土下座である。DO・GE・ZA。謝るならこれだ。

「……」

 頭を下げたままの俺にルイは何も言わないが、少ししてパシャと音がした。
 どうやら生で見ることの少ないだろう土下座は撮影されたらしい。だが、やはりルイは何も言わない。

「……それは何に謝ってるの? どうせなんにもわからないで謝ってるんでしょ」

 しばらくしてから、土下座の姿勢のままの俺にルイは言う。
 流石は幼馴染である。よく俺を理解している。

「だけど……やっと謝りにきたから、話くらいは聞いてやる。けど、その前に立って」

 一応、土下座の効果はあったようで、ルイの態度は軟化したような気がする。
 しかし、ここで待たせては意味がなくなるかもしれないので、すぐに言われたように立ち上がる。

 久しぶりに幼馴染と並んでみて、ルイは俺と身長が大して変わらないと知った。何センチか俺の方が高いくらいだろう。
 会わない間に互いに成長した俺たちたが、目線の高さは昔からずっと同じくらいだ。
 そんな成長しても変わらないところと、明らかに変わったところ……。

 ルイを姫的な誰かさんと比較すると、出るところは出ている。引っこむところも引っこんでいる。
 変わったといえば髪も染められる。制服も今どきに着崩していて、ギャルっぽくなっている。昔はもっと真面目な感じだったのに。

 そんなふうに変わった幼馴染だが、それでも唯一その爪だけは何もされてない。
 今も変わらず、「将来の夢はお菓子屋さん」なだけはある。

零斗れいと、一発殴らせろ。それで許してやる」
「わかった。お前の気が済むならやってくれ」

 そしてなんと男らしい。女々しい俺とは大違いだ。とは言え、女子の殴らせろって要は平手打ちだろ?
 くるとわかっていて、覚悟していればどうということもない!
 それで許されるなら喜んで一発殴られよう。

「さあこい!」
「いい度胸だ、 ──このクソ野郎が!」
「ぐはっ────!?」

 平手打ちどころか本気のグーで殴られた!? 全然、平手打ちチガウ!

「──よし!」

 予期せぬ本気のグーパンチに何の用意もなかった俺は、受け身すら取れずに襖に突っ込み、大きく襖に穴を開ける。
 その音は家中に聞こえたことだろう……ぐふっ。

「それで。話ってなんなの? 早く言えよ。いつまでも寝っ転がってないで」

 殴って満足したらしい幼馴染様は切り替えが早い。ただね……少しくらい俺を心配してくれないのかな?
 これ、絶対に口の中とか切れてるよ。血の味するもん。とはいえ、ようやく目的を達成できるところまできた。口の中が痛いが言わねば。

「チョコレートを作りたいんだ。豆から」
「……はぁ?」

 正直に目的を言ったのだが、何故だかルイにゴミを見るような目をされた。
 それに先ほどと違い明らかに怒っている。
 あれ? なんか、危険な感じなんだけど? 命の危機な感じがする……。

「よりによってチョコレート! 零斗、本当はわかってて言ってるんでしょ!」

 スゴイ! チョコレートのレートと零斗ってかかってる。これは笑うところかな?
 ハッハッハーー……なんて言って誤魔化せない!

「──やっぱり殺す! ふざけんな!」

 ルイの怒りのメーターは何故だかぐんぐん上がっているようだ。振り切れたら俺は死ぬ!
 そして襖に突っ込んだまま起き上がっていない俺に、容赦なくルイは蹴りを放つ。やはり物理攻撃を多用し始めた! 痛い!

「痛い、いってーな。全然一発じゃねーじゃねーか! それに見えてる。パンツ見えてるぞ!」
「なっ──!? お前はどこ見てんだ!」
「そのスカート丈で、足を上げ下げしたら見えない方がおかしい! 横暴だ。暴力反対!」

 スカートを抑えながらも足蹴にするのをやめなかったルイだが、顔を赤らめたまま居間に戻り、何やらごそごそしている。
 この隙に起き上がり逃げなくては! きっと俺は殺されてしまう。

「ぶっころす……」
「はっ?」

 ごそごそしていたルイが振り返ると、その手には木刀が握られる。ブンと1回振られた木刀が出した音は、そのガチな重さを表している。

「なんでそんなのあるんだ!? そ、それで殴ったら本当に死んじゃうよ? おっちゃんもおばちゃんも、いい加減に助けろよ! 絶対に聞こえてんだろ!」

 しかし、俺の叫びも虚しく誰も助けはこない。
 もうボッコボコである。次回に続く……。
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