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始まりのバレンタイン
ルイちゃんのチョコレート講座! 最終回。
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今日でルイちゃんのチョコレート講座はおしまいです。ついに、カカオ豆からチョコレートを作ります。
今日はふざけるのは無しにしようと思う。
再びルイと話すようになって1週間が経過した。
2人だけの止まっていた時間。その理由すら分からなかった俺は、この1週間の間にその理由を知った。
バレンタインに起因していた事象は、バレンタインで解決しなくてはいけない。だからこその逆バレンタイン。
その決行日は決めてある。 ──今日だ!
チョコレートを当日に渡さなくてもいいはずだ。
ルイは許すと言ってくれたが、そんな訳にはいかない。ちゃんと俺の中でけじめをつけたい。
けじめをつけずにバレンタインには参加できない。楽しめない。だから、今日やる。
材料は用意してきた。あとは、チョコレートだけあれば作れる。
さあ、そのチョコレート作りを始めよう……。
「いらっしゃい。今日は女の子連れてないのねwwww」
「……今日は、まじめにいこうと思ってたのに」
おばちゃんに、いきなり出鼻をくじかれた。
まだ家にすら入ってないのに、真面目さが消し飛んでしまった。もうダメだ。
「れいちゃんには無理よ。失敗するからやめときなさい。変に気を張ってると『また』やらかすわよ」
そう言われると返す言葉がない。だが、ふざけていてもダメだし、まじめにしていてもダメとなると、俺はどうしたらいいんだい?
「じゃあ、どうするのがいいの?」
「いつもと同じようになさいよ。らしくしてた方がいいわよ」
いつもと同じ。自分らしくか……。
その自分らしくとはなんなんだ?
あまり気にするなということだと解釈しよう。
「ところで、ヒメちゃんはどこの子なの?」
答えられない質問がきた。
配達でいろんなところに行っているおばちゃんに、下手なことは言えない。
「いいとこのおじょうさまだよ」
「それ知ってるから。作法もちゃんとしてるし、受け答えも品がある。お嬢様と言われればそうだと思う。ただ……この辺りじゃ見ない子だし、れいちゃんと同じクラスっていうのは少なくとも嘘ね」
どうして、おばちゃんがそんなことを知っている?
ルイにお姫様を紹介した時いなかったはずなのに。ルイが話したのか?
可能性はなくはないかな……。
しかし、どう話しているのかも分からない。やっぱり下手なことは言えない。
しっかりヒメちゃんのキャラクターを作っておかないと駄目だった。そんなとこまで気が回らなかった。
「即答できないのね。何がとは言えないけど、あやしいわね。デートするくらいの仲なのに、知らないなんてことはないはずよね」
「──おっちゃんだな! あの野郎、べらべら喋りやがったな!」
「こら、待ちなさい。話は終わってないわよ」
「おじゃましまーーす」
ボロが出る前に撤退。さっさと家の中にお邪魔してしまおう。
おっちゃんには文句言うとして……何故、おばちゃんは、お姫様を気にするのか。土曜日には何もなかったはずだ。
「何を玄関で騒いでたんだ?」
そう、今帰ってきたのだろう制服姿のルイに、後ろから声をかけられた。
「うぉっ──!? び、ビックリさせるな! おばちゃんがヒメちゃんを、なんだか訝しんでいるんだ」
帰ってくるのは俺の方が早かったのか。気づかなかった。というか、今帰ってきたってことは、ルイも同じ電車だったのでは?
俺が駅から急いでここまで来たから、互いに分からなかったんじゃないか。
「……き、気にしすぎじゃないか? それより、来たんなら始めんぞ」
気にしすぎではないと思うが、確かに今はチョコレート作りだ。
お姫様のことを突かれていいこともないし。
「着替えてくるから先に手洗っとけよ。それと、そのクーラーボックスはなに?」
「気にしないでくれ。じゃ、俺は手を洗ってくるよ」
最初からぐだぐだだな。ルイの方が先に帰ってきていると思っていた。
まさか、いきなりクーラーボックスを見られてしまうとは……。
おばちゃんに頼んで、隠しておいてもらおうと思ってたのに。
ヒメちゃんのことを聞かれて言いそびれた。
うーん、なんだか初めから上手くいかない日だ。
◇◇◇
ばっちり手も洗ったし、しっかりと水気も拭き取りました。チョコレート作りは水気がダメ。
湯煎もだが、水が入ると上手くいかないぞ。気をつけろ!
今日はより気を使わなくてはならない。失敗は許されないからだ。
「これがカカオ豆らしい。私も今回初めて実物を見た」
「ほー」
目の前にあるカカオ豆。ルイがいるので初めて見たふうを装っているが、異世界で『カカオ豆っぽいもの』なら見ているから、実は初めてではない。
「……えっ、ルイもカカオ豆からチョコレート作るの初めてなの?」
「当たり前だろ。カカオ豆からなんて、普通作らないよ。カカオマスからだって怪しいぞ。板チョコ溶かしてで、普通は足りるよ」
「それなのに、俺に最高のチョコレートを要求したのか……。高難度クエストなのに……」
「そうだな」
そうなんだ。そうなんだ……。
俺が内心衝撃を受けている中、ルイはカカオ豆をオーブンに入れている。ピコピコ操作音がして、オーブンは動き出したようだ。
「まずはオーブンで30分ローストする」
「その間に出来ることはあるか?」
「……ないな。ローストしないと先に進まない」
ローストが終わらないと進まないのは分かった。
それより、高難度なチョコレート作りかつ、最高のチョコレートだ。これはやはり無理ゲーである。
詰む。詰むよ。ツムツムだよ。昨日の試作がなかったらもう詰んでる。
ぶっつけ本番しなくて良かったー。
しかし、この感じで間に合うのか?
ルイは知らないが、逆バレンタインは今日なのだ。
「これ、今日中に完成するのか?」
「完成はする。時間はかかるけどな」
「明日もあるのに……」
逆バレンタインは今日が本番。だが、明日も本番。明日は異世界の方のバレンタインなのだ。
どちらも気を抜けず、どちらも結果を残さないといけないのに……。
まあ、学校に関してはサボりチャンスがあるからいいけどさ。こないだ使ってないし。
「零斗。お前、明日学校なのか?」
「いや、学校だろう。今日だって学校だったし、明日も学校だよ。14日は自宅学習となっているがな」
はっ──、まてよ。もしかして──。
「明日、休みなのか?」
「あぁ、自宅学習という名の休みだ。明後日も」
「あ、明後日も! 2日も休みなのか。俺たち1日なんだけど!?」
なんてこった。俺もお菓子学校に行けばよかった。
入試という、在校生にとってはただの休みが1日多いなんて。
こればかりは学校ごとだから仕方ないのか。なんて、不公平だろ! どうしてウチの学校は1日なんだ! もっと休みにしてくれよ!
だが、ルイに文句言ったところでしょうがない。あの校長、今度会ったら髪の毛むしってやろうか……。
「どこも入試なのは同じだけど、日程は違うもんな。どうする。今日はカカオマスにだけして明日やるか?」
「いや、今日完成させる! 最悪、泊まっていく!」
「帰んのに1分もかからないのにか?」
「最悪と言っただろう……」
時間がかかるのは確定。頑張ったところでどうにかなるのかも分からないが、やるしかない!
というわけで、チョコレートを作る!
◇◇◇
ルイちゃんのチョコレート講座。最終回。
超高難度。カカオ豆からチョコレートを作る。
工程1。殻をむき、皮もむく。
ローストされたカカオ豆から熱が取れたら、殻をむき皮をむきする。人力で?
「この地味な作業なに。これ、一粒一粒やんの?」
ちまちま、ちまちま、ちまちまと!
何故、豆如きにこのように時間をかけなくてはならないのか!
「手抜くと、チョコレートになんないぞ」
……なら、いっさい手を抜けない。
地味な作業が美味しいチョコレートに繋がっているのなら。豆如きにも時間を割かなくてはならない。
「あら、ずいぶん地味な作業してるわね。その調子で今日中に終わるの?」
「──おばちゃん! 手伝いに来てくれたのか!」
台所で作業中の俺たちのところに、おばちゃんが現れた。これは救世主の予感! マンパワーは大事!
「夕飯の買い物に行こうと思って、冷蔵庫を確認しにきただけだけど」
そんな……苦戦する俺たちを助けにきたんじゃないのか。嘲笑い、見下しに来たというのか……。
「そんなのいいから手伝ってよ」
だけど、勧誘はしてみる。ルイと2人だけでは手が足りない。もう10本は手が必要だと思われる。
「いいわけねーだろ。ウチの夕飯が無くなるわ!」
「明日もやればいいじゃないの」
2人して否定的な意見を言うが、はいそうですかとは引き下がれない。俺には俺の事情があるから!
「──今日じゃなくちゃダメなんだよ!」
「「どうせ後先考えてないくせに?」」
俺はそんなふうに思われているのか。というか、2人してそんなふうに思ってたのか。
いつもはそうかもだけど! 今日は違うんだ。
「後先考えて今日なんだよ。なんとしてもチョコレートを完成させる!」
「……意外と本気みたいね。よし、手伝いましょう! 夕飯は、れいちゃんの奢りで店屋物ね」
あるもので作るとことはできないんだろうか? 冷蔵庫が空っぽではないだろう。
しかし、そのくらいの出費で人手が増えるなら仕方ない。
「わかった。好きなものを頼んでくれ。その代わり、ちゃんと手伝ってくれよ?」
「じゃあ寿司ね! どこのにしようかしら」
「気が早いから。皮むくの手伝ってからにして」
おばちゃんには遠慮とかないのか。容赦なく寿司を頼むとか。4人分では諭吉さんが1人はいなくなる。
おっちゃんの分はなくてもいい気もするが、カカオ豆の恩がある。貸し借りはなしにしておきたい。
「3人いれば早くなるわよ。お店のことは全部、お父さんに任せましょう!」
可哀想だと思わなくはないが、チョコレートが大事。したがって、おっちゃんのことなど、どーでもいい。
だが、カカオ豆をありがとう。感謝してます。このくらいのお礼は言おう。あとは寿司を感謝の印だと言おう。
工程2。すりつぶしてカカオマスにする。
や、やっと終わった……。
皮を剥く作業と、胚芽も可能な限り取り除いた。手では無理だからピンセットを使ってだ。さらに細かい作業だった。
あとは、これをすりつぶしてカカオマスにする。
土曜に使ったカカオマスは刻む作業があったが、この場合は必要ない。最初からすりつぶしてあるんだから。
「3人で2時間近く掛かるとは思わなかったわね。もう7時じゃないの……」
カカオ豆の剥きだけで、1人でやったら1日は余裕で終わる。ローストしてる時間の比じゃなかった。
「だけど、ここまでやれば機械の力が使えるだろ。フードプロセッサーでガーッと!」
文明の利器の力を使えばあとは余裕よ。豆如き粉々にしてくるわ。
手間をかけてくれたもんだ。豆のくせに。
「無理だぞ。油分が多いから機械の方が壊れるからな」
「……つまり?」
「手でやるしかない。まだまだ時間は掛かるぞ」
夕方からやる作業じゃなかったーー。
確かにカカオ豆は油分が多いよ。だって、カカオマスもカカオバターもカカオ豆から出来てるんだから!
「少し砕くくらいなら大丈夫よ。全部はやれないけどね。様子を見ながらやればいいのよ」
「おばちゃん。寿司頼んで。ご飯食べてから。続きやろう」
おばちゃんが気休めを言うが、結局おわんないじゃん…………がくっ。
「しっかりしろ! 零斗、おい!」
全然、終わらない。これは1日掛かる作業だ。
ルイちゃんのチョコレート講座も終わらない。
今日はふざけるのは無しにしようと思う。
再びルイと話すようになって1週間が経過した。
2人だけの止まっていた時間。その理由すら分からなかった俺は、この1週間の間にその理由を知った。
バレンタインに起因していた事象は、バレンタインで解決しなくてはいけない。だからこその逆バレンタイン。
その決行日は決めてある。 ──今日だ!
チョコレートを当日に渡さなくてもいいはずだ。
ルイは許すと言ってくれたが、そんな訳にはいかない。ちゃんと俺の中でけじめをつけたい。
けじめをつけずにバレンタインには参加できない。楽しめない。だから、今日やる。
材料は用意してきた。あとは、チョコレートだけあれば作れる。
さあ、そのチョコレート作りを始めよう……。
「いらっしゃい。今日は女の子連れてないのねwwww」
「……今日は、まじめにいこうと思ってたのに」
おばちゃんに、いきなり出鼻をくじかれた。
まだ家にすら入ってないのに、真面目さが消し飛んでしまった。もうダメだ。
「れいちゃんには無理よ。失敗するからやめときなさい。変に気を張ってると『また』やらかすわよ」
そう言われると返す言葉がない。だが、ふざけていてもダメだし、まじめにしていてもダメとなると、俺はどうしたらいいんだい?
「じゃあ、どうするのがいいの?」
「いつもと同じようになさいよ。らしくしてた方がいいわよ」
いつもと同じ。自分らしくか……。
その自分らしくとはなんなんだ?
あまり気にするなということだと解釈しよう。
「ところで、ヒメちゃんはどこの子なの?」
答えられない質問がきた。
配達でいろんなところに行っているおばちゃんに、下手なことは言えない。
「いいとこのおじょうさまだよ」
「それ知ってるから。作法もちゃんとしてるし、受け答えも品がある。お嬢様と言われればそうだと思う。ただ……この辺りじゃ見ない子だし、れいちゃんと同じクラスっていうのは少なくとも嘘ね」
どうして、おばちゃんがそんなことを知っている?
ルイにお姫様を紹介した時いなかったはずなのに。ルイが話したのか?
可能性はなくはないかな……。
しかし、どう話しているのかも分からない。やっぱり下手なことは言えない。
しっかりヒメちゃんのキャラクターを作っておかないと駄目だった。そんなとこまで気が回らなかった。
「即答できないのね。何がとは言えないけど、あやしいわね。デートするくらいの仲なのに、知らないなんてことはないはずよね」
「──おっちゃんだな! あの野郎、べらべら喋りやがったな!」
「こら、待ちなさい。話は終わってないわよ」
「おじゃましまーーす」
ボロが出る前に撤退。さっさと家の中にお邪魔してしまおう。
おっちゃんには文句言うとして……何故、おばちゃんは、お姫様を気にするのか。土曜日には何もなかったはずだ。
「何を玄関で騒いでたんだ?」
そう、今帰ってきたのだろう制服姿のルイに、後ろから声をかけられた。
「うぉっ──!? び、ビックリさせるな! おばちゃんがヒメちゃんを、なんだか訝しんでいるんだ」
帰ってくるのは俺の方が早かったのか。気づかなかった。というか、今帰ってきたってことは、ルイも同じ電車だったのでは?
俺が駅から急いでここまで来たから、互いに分からなかったんじゃないか。
「……き、気にしすぎじゃないか? それより、来たんなら始めんぞ」
気にしすぎではないと思うが、確かに今はチョコレート作りだ。
お姫様のことを突かれていいこともないし。
「着替えてくるから先に手洗っとけよ。それと、そのクーラーボックスはなに?」
「気にしないでくれ。じゃ、俺は手を洗ってくるよ」
最初からぐだぐだだな。ルイの方が先に帰ってきていると思っていた。
まさか、いきなりクーラーボックスを見られてしまうとは……。
おばちゃんに頼んで、隠しておいてもらおうと思ってたのに。
ヒメちゃんのことを聞かれて言いそびれた。
うーん、なんだか初めから上手くいかない日だ。
◇◇◇
ばっちり手も洗ったし、しっかりと水気も拭き取りました。チョコレート作りは水気がダメ。
湯煎もだが、水が入ると上手くいかないぞ。気をつけろ!
今日はより気を使わなくてはならない。失敗は許されないからだ。
「これがカカオ豆らしい。私も今回初めて実物を見た」
「ほー」
目の前にあるカカオ豆。ルイがいるので初めて見たふうを装っているが、異世界で『カカオ豆っぽいもの』なら見ているから、実は初めてではない。
「……えっ、ルイもカカオ豆からチョコレート作るの初めてなの?」
「当たり前だろ。カカオ豆からなんて、普通作らないよ。カカオマスからだって怪しいぞ。板チョコ溶かしてで、普通は足りるよ」
「それなのに、俺に最高のチョコレートを要求したのか……。高難度クエストなのに……」
「そうだな」
そうなんだ。そうなんだ……。
俺が内心衝撃を受けている中、ルイはカカオ豆をオーブンに入れている。ピコピコ操作音がして、オーブンは動き出したようだ。
「まずはオーブンで30分ローストする」
「その間に出来ることはあるか?」
「……ないな。ローストしないと先に進まない」
ローストが終わらないと進まないのは分かった。
それより、高難度なチョコレート作りかつ、最高のチョコレートだ。これはやはり無理ゲーである。
詰む。詰むよ。ツムツムだよ。昨日の試作がなかったらもう詰んでる。
ぶっつけ本番しなくて良かったー。
しかし、この感じで間に合うのか?
ルイは知らないが、逆バレンタインは今日なのだ。
「これ、今日中に完成するのか?」
「完成はする。時間はかかるけどな」
「明日もあるのに……」
逆バレンタインは今日が本番。だが、明日も本番。明日は異世界の方のバレンタインなのだ。
どちらも気を抜けず、どちらも結果を残さないといけないのに……。
まあ、学校に関してはサボりチャンスがあるからいいけどさ。こないだ使ってないし。
「零斗。お前、明日学校なのか?」
「いや、学校だろう。今日だって学校だったし、明日も学校だよ。14日は自宅学習となっているがな」
はっ──、まてよ。もしかして──。
「明日、休みなのか?」
「あぁ、自宅学習という名の休みだ。明後日も」
「あ、明後日も! 2日も休みなのか。俺たち1日なんだけど!?」
なんてこった。俺もお菓子学校に行けばよかった。
入試という、在校生にとってはただの休みが1日多いなんて。
こればかりは学校ごとだから仕方ないのか。なんて、不公平だろ! どうしてウチの学校は1日なんだ! もっと休みにしてくれよ!
だが、ルイに文句言ったところでしょうがない。あの校長、今度会ったら髪の毛むしってやろうか……。
「どこも入試なのは同じだけど、日程は違うもんな。どうする。今日はカカオマスにだけして明日やるか?」
「いや、今日完成させる! 最悪、泊まっていく!」
「帰んのに1分もかからないのにか?」
「最悪と言っただろう……」
時間がかかるのは確定。頑張ったところでどうにかなるのかも分からないが、やるしかない!
というわけで、チョコレートを作る!
◇◇◇
ルイちゃんのチョコレート講座。最終回。
超高難度。カカオ豆からチョコレートを作る。
工程1。殻をむき、皮もむく。
ローストされたカカオ豆から熱が取れたら、殻をむき皮をむきする。人力で?
「この地味な作業なに。これ、一粒一粒やんの?」
ちまちま、ちまちま、ちまちまと!
何故、豆如きにこのように時間をかけなくてはならないのか!
「手抜くと、チョコレートになんないぞ」
……なら、いっさい手を抜けない。
地味な作業が美味しいチョコレートに繋がっているのなら。豆如きにも時間を割かなくてはならない。
「あら、ずいぶん地味な作業してるわね。その調子で今日中に終わるの?」
「──おばちゃん! 手伝いに来てくれたのか!」
台所で作業中の俺たちのところに、おばちゃんが現れた。これは救世主の予感! マンパワーは大事!
「夕飯の買い物に行こうと思って、冷蔵庫を確認しにきただけだけど」
そんな……苦戦する俺たちを助けにきたんじゃないのか。嘲笑い、見下しに来たというのか……。
「そんなのいいから手伝ってよ」
だけど、勧誘はしてみる。ルイと2人だけでは手が足りない。もう10本は手が必要だと思われる。
「いいわけねーだろ。ウチの夕飯が無くなるわ!」
「明日もやればいいじゃないの」
2人して否定的な意見を言うが、はいそうですかとは引き下がれない。俺には俺の事情があるから!
「──今日じゃなくちゃダメなんだよ!」
「「どうせ後先考えてないくせに?」」
俺はそんなふうに思われているのか。というか、2人してそんなふうに思ってたのか。
いつもはそうかもだけど! 今日は違うんだ。
「後先考えて今日なんだよ。なんとしてもチョコレートを完成させる!」
「……意外と本気みたいね。よし、手伝いましょう! 夕飯は、れいちゃんの奢りで店屋物ね」
あるもので作るとことはできないんだろうか? 冷蔵庫が空っぽではないだろう。
しかし、そのくらいの出費で人手が増えるなら仕方ない。
「わかった。好きなものを頼んでくれ。その代わり、ちゃんと手伝ってくれよ?」
「じゃあ寿司ね! どこのにしようかしら」
「気が早いから。皮むくの手伝ってからにして」
おばちゃんには遠慮とかないのか。容赦なく寿司を頼むとか。4人分では諭吉さんが1人はいなくなる。
おっちゃんの分はなくてもいい気もするが、カカオ豆の恩がある。貸し借りはなしにしておきたい。
「3人いれば早くなるわよ。お店のことは全部、お父さんに任せましょう!」
可哀想だと思わなくはないが、チョコレートが大事。したがって、おっちゃんのことなど、どーでもいい。
だが、カカオ豆をありがとう。感謝してます。このくらいのお礼は言おう。あとは寿司を感謝の印だと言おう。
工程2。すりつぶしてカカオマスにする。
や、やっと終わった……。
皮を剥く作業と、胚芽も可能な限り取り除いた。手では無理だからピンセットを使ってだ。さらに細かい作業だった。
あとは、これをすりつぶしてカカオマスにする。
土曜に使ったカカオマスは刻む作業があったが、この場合は必要ない。最初からすりつぶしてあるんだから。
「3人で2時間近く掛かるとは思わなかったわね。もう7時じゃないの……」
カカオ豆の剥きだけで、1人でやったら1日は余裕で終わる。ローストしてる時間の比じゃなかった。
「だけど、ここまでやれば機械の力が使えるだろ。フードプロセッサーでガーッと!」
文明の利器の力を使えばあとは余裕よ。豆如き粉々にしてくるわ。
手間をかけてくれたもんだ。豆のくせに。
「無理だぞ。油分が多いから機械の方が壊れるからな」
「……つまり?」
「手でやるしかない。まだまだ時間は掛かるぞ」
夕方からやる作業じゃなかったーー。
確かにカカオ豆は油分が多いよ。だって、カカオマスもカカオバターもカカオ豆から出来てるんだから!
「少し砕くくらいなら大丈夫よ。全部はやれないけどね。様子を見ながらやればいいのよ」
「おばちゃん。寿司頼んで。ご飯食べてから。続きやろう」
おばちゃんが気休めを言うが、結局おわんないじゃん…………がくっ。
「しっかりしろ! 零斗、おい!」
全然、終わらない。これは1日掛かる作業だ。
ルイちゃんのチョコレート講座も終わらない。
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