彼氏彼女の事情『ビッチと噂の黒川さんとお付き合いします!』

KZ

文字の大きさ
13 / 38

きっかけ ⑦

しおりを挟む
 僕が悲鳴も音も演技だったのだと気がつき、「やられた……」と思った時にはもう遅かった。
 逃げられないようにするためだろう首に手を回され、前日と同じくらいの距離まで黒川くろかわさんの顔が近づく。

「──ダメだよ。お弁当箱を忘れちゃ」

 倒れているし触れられている分、前日よりさらに密着感があり、さらに際どい体勢になっていただろう……。

「は、離して。離れてください!」
「逃げるからダメ!」
「……逃げないので離して」
「ダーメ。でも、質問に答えてくれたら離しましょう。あーしの何がダメなのかな?」

 自分にダメなところがあるから僕が逃げるのだと黒川さんは思っていたようで、ダメなところを言ってくれと繰り返し求められた。

 しかし、昨日初めて会って話した黒川さんのダメなところなんて見つかるわけがないのだが、何かは言わないと黒川さんは納得しなかったろうし、離れてもらわないと心臓が破裂しそうだったので僕は考えた。

(──彼女が言っていたから姫川ひめかわさんと比較すると。身長は姫川さんの方が高いが別に問題ない。黒川さんは金髪だけど別に個人の自由だし、僕にこだわりがあるわけでもないし問題ない。制服をゆるく着ているのも目のやり場に困るが自覚しているらしいから特に気にしない。こんなふうに真っ直ぐ気持ちをぶつけてくるのは困るが、別にダメでも嫌でもない?)

 頭をフル回転させて考えたけど、やはり何も見つからなかった。こんなふうに積極的すぎるのに問題がある気がするだけで……。
 でも女の子が積極的に行動するのがダメな理由もあるわけなくて、ダメなところは特にないと僕は結論を出した。

「ダメなところは特にないです」
「……なら、なんで逃げるの?」
「いや、こんなふうにされたらドキドキして逃げたくなるでしょ!? 昨日だって顔とか近すぎだから!」
「えっ、あー、そういうこと。なになに意外と女の子に耐性ないの?」

 一瞬きょとんとした顔をした黒川さんは一人で納得すると、すぐに黒川さんらしさ(からかい)を発揮する。

 あろうことが黒川さんは僕の首に回した手を離すのではなく、力を入れて引っ張り僕との上下を逆転させにきた。
 そして、少し緩んだ彼女の手に油断し力を抜いていた僕は簡単に上と下を逆転されてしまった……。

「──な、なにするの!?」
「約束通り手を離してあげたんだよ?」
「じゃ、じゃあ今度はどいてください。お願いします」
「嫌です。スキンシップが足りないだけだった一条いちじょうくんに、ちょーっとお仕置きというかサービスというのかをしようかなぁと思います」

 目のやり場に困るどころかお腹のあたりに馬乗りされ、抵抗しようにも女の子のどこにどう触れていいのかもわからず、かといってされるがままではいけないと思った(思っただけ)。

 つまり何もできなかったのだ。
 これが黒川さんの計算高さと、したたかさにしてやられた結果である。

「あのまま無視することもできたのにちゃんと戻ってきてくれたってことは、まるっきり脈なしというわけでもないんだよね」
「そ、それは自分のせいかもって思って!」
「本当にそれだけー、本当は別な気持ちもあるからじゃないのー」

 黒川さんは少しだろうと、わずかだろうと自分に僕の気持ちが向いているのを見透かしていて。
 それをわかった上で僕に悪戯な笑みを浮かべていて。
 ここで黒川さんは自分が望む返事が僕から出るまで、やめるつもりはなかったのだと思う。

「──おい、今度はどういうこった! 一条、何があったら、なっ、何してんだ。オマエら……」

 勢いよく屋上へのドアが開閉する音がしたと思ったら、すぐに陰になっているこの場所に友人Cが顔を出した。
 最初は勢いがよかった友人Cは押し倒されている僕と目が合い、次に僕に覆いかぶさる格好の黒川さんを視界に収めて徐々に勢いをなくしていった。

「もう少しだったのに……」

 黒川さんは友人Cの方を振り返らず、おそらく僕にしか聞こえなかったくらいの音量でそう言った。
 この時、黒川さんの眉はわずかに釣り上がっていて、友人Cの乱入に内心はイラッとしたのだろう。

「い、一条?」
「あーーっ。あーし、次の授業は移動教室だった。もういかなきゃ! またね」

 黒川さんはわざとらしく大声でそう言うとその場ですっと立ち上がり、僕にだけ不吉でしかない言葉を残して去っていった。
 僕は今のに次があるのかと心底怯え、さらにはバッチリ見えてしまった黒い布のことでさらに心音を跳ね上げ、とてもではないが次は耐えられないと思った。

「おい、一条。大丈夫か!」
「……ありがとう。ありがとう」
「おい、それは何に対する礼だ。オレにか、それとも黒川のスカートの中身にか!」

 僕は友人Cに助けられたわけだけど、お前は何を言ってるんだと言いたかった。
 黒川さんにもスカートは押さえて立ち上がってくれと言いたかった。
 当然だが光景はこの後しばらく脳裏から消えなかった……。

 そして、今思えばこの時、、、だったのだと思う。
 この時に友人Cがタイミングよく現れたのはおそらくだけど、僕が前日に黒川さんに呼び出されたことを友人Dから聞いた直後だ。

 から返事だった僕を心配した友人Dは、昼休みに他の友人たちに前日の話をして。
 その結果、適切な人材として現れたのが友人Cだったのだろう。

 黒川さんに遭遇した場合にも対応できるだろう友人Cが現れる確率が高いように、僕に何があったのかを学校内で話していれば誰かにそれを聞かれてしまう確率も低くない。
 この次の日だ。僕が「姫川さんに告白した」と、どこかから噂が出たのは……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...