31 / 38
下駄箱に入っていた運命 ②
しおりを挟む
ラブがないラブレターに宛名も何も書いてなかった理由は、そのままラブレターにラブがないからだ。
特別好きじゃない相手に出す、負い目のあるラブレターだから、宛名も自分の名前も書くことができなかったのだろう。
ラブレターを渡す手段が下駄箱に投函だったのも、おそらく一番始めにラブレターを開封してもらうというハードルを自分で作るためだ。
一条は読まれない可能性があること、読まれても返事がない可能性をどこかで覚悟していたと思う。
周到に用意したラブレターに宛名を書き忘れるなんてミスをする一条じゃないし、負い目があろうとハードルを越えさえすれば大丈夫だという自信もあったのだろう。
まあ、普通はドン引く内容だったわけだけど……。
しかし、あのラブレターにラブは一欠片も感じられなかったけど、彼女が欲しいんだという書いた人間が伝えたい気持ちは十分に伝わった。
そしてラブレターとしては零点でも、企画書としての面白さは満点だった。
一条の不純さは相手を好きではないというところであり、その不純さは企画書をこなしていけばなくなるもので。
始まりが好きではなくても、最後が好きならいいんだという考えに基づいたビジネスライクなラブレター。
あーしにはそれがとても面白かった。だからすぐ様行動したのだ。
「──リンちゃん。さっきの続きだけど一条くんに本当に声かけるからね。『やっぱりアタシも好きだった』とか『この泥棒猫。絶交だ!』とかあとで言わないでね」
「言わないって。お好きにどうぞ。どうせ無理だと思うけど」
「それは去年までの話でしょう。今はラブレターを出すくらいには異性に興味があるんだからいける! 多少強引にでも落とすし」
昼休みでは会話の時間が足りず、かと言って授業中に喋っていてはリンちゃんにも先生にも怒られるから、この日の体育の授業というのは都合がよかった。
体育は二つのクラス合同で行われ、授業数も単位に必要な分だけしかなく、まったくと言っていいほど厳しくないのだ。
そして運動が得意ではないリンちゃんは単位だけ取れればいいらしく、あまり体育に乗り気でないから端の方でサボっ……話しかけても怒らないのだ。
「モテる女は言うことから違うね。 ……というか、ラブレターは誰宛だったの?」
「姫川 美咲」
「あー、あの美人で背が高い。球技大会で大活躍だった子ね。羨ましいわ、あの運動神経」
「美咲ちゃんゴール下で立ってただけだったけどね」
「でも負けたじゃん。あれ黒川の背が足りないのと、ウチの運動神経のなさが主な原因だぞ」
この時点ではどうして告白する相手が美咲ちゃんなのかはわからなかった。
人気がある女の子にラブがないラブレターの意味もわからなかったし、どう考えてもリンちゃんに告白した方が可能性があるのになと思った。
一条と美咲ちゃんが同じクラスで、席も隣というのは情報収集をするまで知らなかった。
美咲ちゃんに「私に話しかけないで」と初日も初日に言われていたから、あーしは美咲ちゃんに意識して近づかないでいたんだ。
今更だけど、そんなの気にしなければよかった。
あーしが少しでも美咲ちゃんと話していれば、美咲ちゃんの気持ちに気づくこともできただろうと思うから……。
「──それにしても一条は無謀だね。姫川さんってモテるんだろ。姫川さんにちゃんと届いてたら間違いなく振られてたな」
「リンちゃんの十倍。あーしの三倍はモテるね。無謀と言えば無謀だけど、そんなこと言ってるからリンちゃんモテないんだと思うよ」
「言い返したくても言い返せない。なら、黒川から見てウチはどうしたらいいの。ファッションには気をつけてますが?」
「もう少しガードを甘くしたら? ファッションをどう変えようと付け入る隙のない今のままだと、寄ってくる男も寄ってこないよ」
「そうか。そういうのも必要なのか……」
高等部になって彼氏はほしいがガードが固く、本来なら人気はありそうなのにもったいないのがリンちゃん。
そのリンちゃんにファッションをレクチャーしたのはあーしだが、リンちゃんがライバルになったりしたら手強いので話題を早急に変えることにした。
「で、一条くんって誰と仲がいいの? あーし、顔も知らなくて。ラブレターについてお話しようにもクラスに突撃よりは、友達に伝言を頼んで呼び出したいんだけど」
「あー、今のクラスだとアレとアレ。あのトサカも仲良いけどクラスは違う」
「……何か変な組み合わせだね。気のせい?」
「明らかにカテゴリーが違うわな。でも、そうなんだよ。別にずっと一緒ってわけでもないらしいのにな」
一条とは違った意味の真面目そうな硬派くんと、その真逆をいくような見た目ヤンキーくんと、どちらとも仲良さそうには見えないオタクくん。
ラブレターでわかった気になっていた一条のイメージが急にバラけた。
ファッションに興味があったリンちゃんとあーしとは違う、カテゴリーからのエラーに見えた。
そんな三人と仲がよく、あんなラブレターを書く一条のイメージは会うまでわからなかった。
スキンシップへの耐性のなさも意外だった。
「って、別にウチが紹介すればいいんじゃない?」
「それだと話が違ってくるから。ラブレターのこともあるしリンちゃんは無関係でいて。付き合うことになったら教えてあげるから」
「そんな報告いらない……」
「まぁそう言わずに。リンちゃんにも幸せをおすそ分けするから♪」
このあと硬派くんにはよく思われてなく、ヤンキーくんにもよく思われてなく、消去法でメッセンジャーはオタクくんになる。
そして、あーしは体育館の裏で一条がくるのを今か今かと待った……。
特別好きじゃない相手に出す、負い目のあるラブレターだから、宛名も自分の名前も書くことができなかったのだろう。
ラブレターを渡す手段が下駄箱に投函だったのも、おそらく一番始めにラブレターを開封してもらうというハードルを自分で作るためだ。
一条は読まれない可能性があること、読まれても返事がない可能性をどこかで覚悟していたと思う。
周到に用意したラブレターに宛名を書き忘れるなんてミスをする一条じゃないし、負い目があろうとハードルを越えさえすれば大丈夫だという自信もあったのだろう。
まあ、普通はドン引く内容だったわけだけど……。
しかし、あのラブレターにラブは一欠片も感じられなかったけど、彼女が欲しいんだという書いた人間が伝えたい気持ちは十分に伝わった。
そしてラブレターとしては零点でも、企画書としての面白さは満点だった。
一条の不純さは相手を好きではないというところであり、その不純さは企画書をこなしていけばなくなるもので。
始まりが好きではなくても、最後が好きならいいんだという考えに基づいたビジネスライクなラブレター。
あーしにはそれがとても面白かった。だからすぐ様行動したのだ。
「──リンちゃん。さっきの続きだけど一条くんに本当に声かけるからね。『やっぱりアタシも好きだった』とか『この泥棒猫。絶交だ!』とかあとで言わないでね」
「言わないって。お好きにどうぞ。どうせ無理だと思うけど」
「それは去年までの話でしょう。今はラブレターを出すくらいには異性に興味があるんだからいける! 多少強引にでも落とすし」
昼休みでは会話の時間が足りず、かと言って授業中に喋っていてはリンちゃんにも先生にも怒られるから、この日の体育の授業というのは都合がよかった。
体育は二つのクラス合同で行われ、授業数も単位に必要な分だけしかなく、まったくと言っていいほど厳しくないのだ。
そして運動が得意ではないリンちゃんは単位だけ取れればいいらしく、あまり体育に乗り気でないから端の方でサボっ……話しかけても怒らないのだ。
「モテる女は言うことから違うね。 ……というか、ラブレターは誰宛だったの?」
「姫川 美咲」
「あー、あの美人で背が高い。球技大会で大活躍だった子ね。羨ましいわ、あの運動神経」
「美咲ちゃんゴール下で立ってただけだったけどね」
「でも負けたじゃん。あれ黒川の背が足りないのと、ウチの運動神経のなさが主な原因だぞ」
この時点ではどうして告白する相手が美咲ちゃんなのかはわからなかった。
人気がある女の子にラブがないラブレターの意味もわからなかったし、どう考えてもリンちゃんに告白した方が可能性があるのになと思った。
一条と美咲ちゃんが同じクラスで、席も隣というのは情報収集をするまで知らなかった。
美咲ちゃんに「私に話しかけないで」と初日も初日に言われていたから、あーしは美咲ちゃんに意識して近づかないでいたんだ。
今更だけど、そんなの気にしなければよかった。
あーしが少しでも美咲ちゃんと話していれば、美咲ちゃんの気持ちに気づくこともできただろうと思うから……。
「──それにしても一条は無謀だね。姫川さんってモテるんだろ。姫川さんにちゃんと届いてたら間違いなく振られてたな」
「リンちゃんの十倍。あーしの三倍はモテるね。無謀と言えば無謀だけど、そんなこと言ってるからリンちゃんモテないんだと思うよ」
「言い返したくても言い返せない。なら、黒川から見てウチはどうしたらいいの。ファッションには気をつけてますが?」
「もう少しガードを甘くしたら? ファッションをどう変えようと付け入る隙のない今のままだと、寄ってくる男も寄ってこないよ」
「そうか。そういうのも必要なのか……」
高等部になって彼氏はほしいがガードが固く、本来なら人気はありそうなのにもったいないのがリンちゃん。
そのリンちゃんにファッションをレクチャーしたのはあーしだが、リンちゃんがライバルになったりしたら手強いので話題を早急に変えることにした。
「で、一条くんって誰と仲がいいの? あーし、顔も知らなくて。ラブレターについてお話しようにもクラスに突撃よりは、友達に伝言を頼んで呼び出したいんだけど」
「あー、今のクラスだとアレとアレ。あのトサカも仲良いけどクラスは違う」
「……何か変な組み合わせだね。気のせい?」
「明らかにカテゴリーが違うわな。でも、そうなんだよ。別にずっと一緒ってわけでもないらしいのにな」
一条とは違った意味の真面目そうな硬派くんと、その真逆をいくような見た目ヤンキーくんと、どちらとも仲良さそうには見えないオタクくん。
ラブレターでわかった気になっていた一条のイメージが急にバラけた。
ファッションに興味があったリンちゃんとあーしとは違う、カテゴリーからのエラーに見えた。
そんな三人と仲がよく、あんなラブレターを書く一条のイメージは会うまでわからなかった。
スキンシップへの耐性のなさも意外だった。
「って、別にウチが紹介すればいいんじゃない?」
「それだと話が違ってくるから。ラブレターのこともあるしリンちゃんは無関係でいて。付き合うことになったら教えてあげるから」
「そんな報告いらない……」
「まぁそう言わずに。リンちゃんにも幸せをおすそ分けするから♪」
このあと硬派くんにはよく思われてなく、ヤンキーくんにもよく思われてなく、消去法でメッセンジャーはオタクくんになる。
そして、あーしは体育館の裏で一条がくるのを今か今かと待った……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる