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花火大会 下 ④
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「──どう、面白かった? 一条が知らないあーしができる部分の話をしたよ。聞いた美咲ちゃんはどんな気持ち?」
黒川さんは後部座席にいる僕に感想を求めたと思ったら、隣にいるのに先ほどから目どころか顔すら合わせない姫川さんに声だけで問う。
「……」
何故だかその様子がラブレターを出し間違いられたのを責めるように見える。
そんなわけがないはずなのにそう見えてしまう。
姫川さんは何も悪くないはずなのに、姫川さんは黒川さんに何も言い返さない……。
「じゃあ、質問を変えるにゃん。どうするの?」
「……」
「あーしからは言えないよ。フェアじゃない」
「私は……」
姫川さんの様子がおかしい気はしていた。
黒川さんの語りが始まった直後からだ。
姫川さんから見て不都合な内容はなかったはずだけど、黒川さんが「運命の人」と言ったところから少しずつ。
「私は? 美咲ちゃんはどうするの」
「私が……」
今はもう窓の外を見ている姫川さんが、必死になって強がっているようにしか見えない……。
「悪い、到着まで一時間って言ったけど一時間かかんなかった。それに司と高木で尺取りすぎた。誰だ、一番近いの?」
「俺が一番近いです。だけど、」
「高木、気持ちはわかるけど今日のうちに全員送っていきたい。日が変わると親御さんによく思われないだろ。ただでさえよく思われてないかもしれなんだ。どっちだ?」
一時間くらいと伯母さんは出発前に言ったが、実際には四十五分ほどで泉駅まできてしまった。
途中コンビニに寄ったのを足しても一時間と少しくらい。
まだ日付が変わるまでは三十分ほどあるが、送ってきた伯母さんが時間を心配するのは当然だ。
みんな電車でならもう家に帰ってきている時間なはずだから、これ以上意味もなく遅くなるのはよくない。
最初の僕と高木くんの話が予定通りにいかなかったのが響いているし、黒川さんは残り時間をわかっていて自分の番を喋っていたのだろう。
おそらく途中から姫川さんの喋る時間がないのを地元の三人はわかっていて、だけど誰もそれを言わなかった。
姫川さんは喋りたくないからで、高木くんはそれをわかっていて、たぶん黒川さんは今のように姫川さんを追い詰めるためだ。
チャンスと言ったのもそのためで、その揺さぶりは姫川さんに効いている。
「──高木、もう着くって家に連絡しろ。玄関先でダラダラやってらんない。黒川たちの家が近くても女の子の家に挨拶もなしってわけにはいかない。悪いけど端折るのは男のところだ。パパっと済ませたい」
僕には黒川さんの考えもわからないし、姫川さんの様子の理由もわからない。
わかるのは半端なところで高木くんが抜け、最悪このまま終わりになってしまうということだ。
高木くんも伯母さんもそして僕も、姫川さんの話を聞きたいはずなのに。
何か、何かこの状況でできることはないか。何か、
「──そうだ、連絡先交換しようよ!」
「司、お前は突然何を言い出すんだ!? こっちは慣れない道なんだから黙ってろ。空気読め!」
「いや、伯母さん。僕は考えがあって言ったんだよ。高木くんもLINEで通話繋いでおけば混ざれるし、みんないなくなったとしてもグループ通話ってこともできる。必要だと思うから言ったんだ」
高木くんが伯母さんに指示したところまではもう何分もなく、今日という日の残り時間も大してない。
僕は忘れることはないだろう今日で区切りと、姫川さんと高木くんに望まれるなら新しい始まりを始めたい。
「一条、余計なことを……。でもまぁ美咲ちゃんの言う通りか。思った時に言うのが一条だし、こんなふうに思いもよらない切り返しをするのが一条だし」
「黒川さん?」
「せめて意地悪してから認めようと思ったのに。なんかもうどーーうでもよくなるわー。美咲ちゃん、今度こそ連絡先交換しよう」
大きな息を吐いた黒川さんは自分のスマホを操作して、隣の姫川さんに強引に促して連絡先を交換し、その姫川さんのスマホを後ろの僕たちに向ける。
画面にはQRコードが出ていて、読み取ると姫川さんのだろうIDが表示される。
「高木っちもいった? よし、そっちは勝手にやって。あーし、グループ作るから」
黒川さんに言われて僕と高木くんとが連絡先を交換している間に、手早く黒川さんがスマホを操作しグループを作成したらしい。
そのグループ名は「友達」となっている。
このグループに参加しているということは友達であるということなんだろう。
僕と高木くんもだし、黒川さんと姫川さんもだ。
これでいいのかはわからないけど、二人と友達という括りにはなったんだ。
やっぱり黒川さんすごいな。僕にはできない。
「……伯母さんわからないんだけど、何かがどうにかなったの? 着いたんだけど?」
「あーしたちは友達になりました。ご迷惑ならびにご心配をおかけしましてごめんなさい。あっ、せっかくだし伯母さんも入る?」
「ちょっと意味が……。戻ってきたら聞くから。高木、いくぞ」
高木くんは「またな」と僕に、前にいる二人にも同じく声をかけて車を降りた。
そして伯母さんがインターホンを押す前に灯がついていた玄関が開き、高木くんの母親だろう人と会話している。
「一条、高木っちに繋ぐの車が走り出すまで待って」
「……大丈夫よ、ありがとう。けど、今しか言えないと思うから言うわ。全員の前で言う勇気はなかったから」
「いいって、じゃああーしは後ろにいくから。一条これ持ってて」
姫川さんが黒川さんにお礼を言うところなんて初めて見た……。
あと、黒川さんはどうして女の子なのにそんなふうに行儀悪く、前の席から後ろの席に移動したりするんだろう。
後ろにきたいなら一度降りて乗り直してもらいたい……。
「一条くん、私はまず貴方に謝らないといけない。ごめんなさい。後になってとても後悔しているわ」
「……何で? 姫川さんに謝られることなんて僕、」
「その上でひとつだけ。どうして誰からかわかるようにしてくれなかったの。私は貴方からなら……」
「姫川さん、何の話をしてるの? 誰からかって……」
「一条くん。私が貴方のラブレターを黒川さんの下駄箱に入れたのよ」
黒川さんは後部座席にいる僕に感想を求めたと思ったら、隣にいるのに先ほどから目どころか顔すら合わせない姫川さんに声だけで問う。
「……」
何故だかその様子がラブレターを出し間違いられたのを責めるように見える。
そんなわけがないはずなのにそう見えてしまう。
姫川さんは何も悪くないはずなのに、姫川さんは黒川さんに何も言い返さない……。
「じゃあ、質問を変えるにゃん。どうするの?」
「……」
「あーしからは言えないよ。フェアじゃない」
「私は……」
姫川さんの様子がおかしい気はしていた。
黒川さんの語りが始まった直後からだ。
姫川さんから見て不都合な内容はなかったはずだけど、黒川さんが「運命の人」と言ったところから少しずつ。
「私は? 美咲ちゃんはどうするの」
「私が……」
今はもう窓の外を見ている姫川さんが、必死になって強がっているようにしか見えない……。
「悪い、到着まで一時間って言ったけど一時間かかんなかった。それに司と高木で尺取りすぎた。誰だ、一番近いの?」
「俺が一番近いです。だけど、」
「高木、気持ちはわかるけど今日のうちに全員送っていきたい。日が変わると親御さんによく思われないだろ。ただでさえよく思われてないかもしれなんだ。どっちだ?」
一時間くらいと伯母さんは出発前に言ったが、実際には四十五分ほどで泉駅まできてしまった。
途中コンビニに寄ったのを足しても一時間と少しくらい。
まだ日付が変わるまでは三十分ほどあるが、送ってきた伯母さんが時間を心配するのは当然だ。
みんな電車でならもう家に帰ってきている時間なはずだから、これ以上意味もなく遅くなるのはよくない。
最初の僕と高木くんの話が予定通りにいかなかったのが響いているし、黒川さんは残り時間をわかっていて自分の番を喋っていたのだろう。
おそらく途中から姫川さんの喋る時間がないのを地元の三人はわかっていて、だけど誰もそれを言わなかった。
姫川さんは喋りたくないからで、高木くんはそれをわかっていて、たぶん黒川さんは今のように姫川さんを追い詰めるためだ。
チャンスと言ったのもそのためで、その揺さぶりは姫川さんに効いている。
「──高木、もう着くって家に連絡しろ。玄関先でダラダラやってらんない。黒川たちの家が近くても女の子の家に挨拶もなしってわけにはいかない。悪いけど端折るのは男のところだ。パパっと済ませたい」
僕には黒川さんの考えもわからないし、姫川さんの様子の理由もわからない。
わかるのは半端なところで高木くんが抜け、最悪このまま終わりになってしまうということだ。
高木くんも伯母さんもそして僕も、姫川さんの話を聞きたいはずなのに。
何か、何かこの状況でできることはないか。何か、
「──そうだ、連絡先交換しようよ!」
「司、お前は突然何を言い出すんだ!? こっちは慣れない道なんだから黙ってろ。空気読め!」
「いや、伯母さん。僕は考えがあって言ったんだよ。高木くんもLINEで通話繋いでおけば混ざれるし、みんないなくなったとしてもグループ通話ってこともできる。必要だと思うから言ったんだ」
高木くんが伯母さんに指示したところまではもう何分もなく、今日という日の残り時間も大してない。
僕は忘れることはないだろう今日で区切りと、姫川さんと高木くんに望まれるなら新しい始まりを始めたい。
「一条、余計なことを……。でもまぁ美咲ちゃんの言う通りか。思った時に言うのが一条だし、こんなふうに思いもよらない切り返しをするのが一条だし」
「黒川さん?」
「せめて意地悪してから認めようと思ったのに。なんかもうどーーうでもよくなるわー。美咲ちゃん、今度こそ連絡先交換しよう」
大きな息を吐いた黒川さんは自分のスマホを操作して、隣の姫川さんに強引に促して連絡先を交換し、その姫川さんのスマホを後ろの僕たちに向ける。
画面にはQRコードが出ていて、読み取ると姫川さんのだろうIDが表示される。
「高木っちもいった? よし、そっちは勝手にやって。あーし、グループ作るから」
黒川さんに言われて僕と高木くんとが連絡先を交換している間に、手早く黒川さんがスマホを操作しグループを作成したらしい。
そのグループ名は「友達」となっている。
このグループに参加しているということは友達であるということなんだろう。
僕と高木くんもだし、黒川さんと姫川さんもだ。
これでいいのかはわからないけど、二人と友達という括りにはなったんだ。
やっぱり黒川さんすごいな。僕にはできない。
「……伯母さんわからないんだけど、何かがどうにかなったの? 着いたんだけど?」
「あーしたちは友達になりました。ご迷惑ならびにご心配をおかけしましてごめんなさい。あっ、せっかくだし伯母さんも入る?」
「ちょっと意味が……。戻ってきたら聞くから。高木、いくぞ」
高木くんは「またな」と僕に、前にいる二人にも同じく声をかけて車を降りた。
そして伯母さんがインターホンを押す前に灯がついていた玄関が開き、高木くんの母親だろう人と会話している。
「一条、高木っちに繋ぐの車が走り出すまで待って」
「……大丈夫よ、ありがとう。けど、今しか言えないと思うから言うわ。全員の前で言う勇気はなかったから」
「いいって、じゃああーしは後ろにいくから。一条これ持ってて」
姫川さんが黒川さんにお礼を言うところなんて初めて見た……。
あと、黒川さんはどうして女の子なのにそんなふうに行儀悪く、前の席から後ろの席に移動したりするんだろう。
後ろにきたいなら一度降りて乗り直してもらいたい……。
「一条くん、私はまず貴方に謝らないといけない。ごめんなさい。後になってとても後悔しているわ」
「……何で? 姫川さんに謝られることなんて僕、」
「その上でひとつだけ。どうして誰からかわかるようにしてくれなかったの。私は貴方からなら……」
「姫川さん、何の話をしてるの? 誰からかって……」
「一条くん。私が貴方のラブレターを黒川さんの下駄箱に入れたのよ」
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