彼氏彼女の事情『ビッチと噂の黒川さんとお付き合いします!』

KZ

文字の大きさ
35 / 38

鬱陶しさと後悔と ②

しおりを挟む
 どうすればよかったとか、こうしたらよかったかもとか、今も私は後悔し続けている。
 意味がないとわかっていても止められない。
 これは選ばなかった選択肢が良く見えるからではなく、間違えたと本当に後悔しているからだろう……。

 そんな私のきっかけは些細なことだった。
 些細というのは貴方にであって、私は細かく覚えている。

 それまで何とも思っていなかった人間に対して、こんなことを話すくらいにまで膨れ上がったのだから、私にとっては重大なことだったのだと思う。

 何があったか結論だけ先に述べると、「ミイラ取りがミイラになる」と表現するのがわかりやすいだろう。
 私は貴方と彼女、、をくっつけようとしているうちに、自分がミイラになってしまったという話。

 貴方は知らないでしょう。
 貴方を好きな女の子のことを。
 貴方をずっと見ていた女の子を。

 色恋になんてまるで興味なさそうな貴方だから、彼女は想いを打ち明けることなどできず抱えていた。
 いえ、彼女が直接そうだと言ったわけではないから私が想像したこと。勝手にやったこと。
 だけど、きっとそう。彼女は貴方が好き。

 ……認めたくはないけど黒川くろかわさんに言われた通りよ。私は彼女に遠慮した。
 彼女が抱えたものを何も言わないままなのに、私がそこに後から割り込むことはできなかったし。
 貴方にそんな気がないとわかって密かに安心もしてた。

 私もおそらく彼女も貴方の現状に満足していて、そんなわけがないのにずっとそのままでいてほしかったのよ。
 平等に振り分けられる貴方の性質に私たちはすがっていたかった……。

 貴方にないものは人に好かれたい認められたいという、誰にだってあるはずのもの。
 そのくせ誰彼構わずコミュニケーションを取り、誰彼構わず仲良くするその性質。

 貴方みたいな人はスクールカーストなんて縁がないでしょう。
 誰に対しても態度が変わらない貴方みたいな人は、一周回って評価されさえするでしょう。

 これも知らないと思うけど、貴方のことを悪く言う人って一人もいないのよ。
 もちろん中等部からの知り合いとはなるわけだけど、それでも異常よ。本当に何をしてきたのよ。

 私は貴方の友人たちの気持ちも理解できる。
 貴方が特別、、仲良くする彼らは全員がはぐれ者。
 彼らが一人では孤立してしまうから、貴方は彼らを特別に扱うのでしょう?

 そのやり方は貴方だからできること。
 意図してはいけない位置にいる貴方だからできることよ。
 そのくせ優しいんだもの甘えてしまうのは仕方ない。うっかり惹かれる人間がいても仕方ない。
 自分も特別になりたいなんて思ってしまうのも仕方ない。

 私と真逆である貴方に私が惹かれるのはきっと避けられなかった。
 避けられる方法があるとするならそもそも出会わないこと。出会っていたとしても深くは知らずにいること。

 運命なんて言う誰かさんとは逆で、私は貴方に出会いたくなかった。
 知らなければ私は後悔することもなかったわけだもの。運命なんて言葉……私は嫌いよ。

◇◇◇

 始まりは席替えから少し経ってから。
 悪いけど私は隣の席になるまで目立たない、これといった特徴もない、言い方は悪いけどスクールカーストの下位にしか見えない貴方の名前すら知らなかった。

 外部から進学してきた異物である私たちのためにあったような自己紹介は聞き流していたし。
 同様の理由で行われたのだろう球技大会も、異物が加わった学年とクラス内のカーストを決めるための儀式としか思ってなかった。

 それらを踏まえての私の貴方への印象が変わったのはある日の休み時間。
 席替えしてから私の周りはみんな大人しい人ばかりで、休み時間になると近寄ってくる鬱陶しい彼ら彼女らを除けば、わりと気に入っていた私の席でのこと。

 その休み時間。私と同じ異物である馬鹿な男たちが、私と後ろの席の彼女とを比べた。
 男たちは私を持ち上げようとしたのだろう。
 私たちの容姿にスタイルを比較するだけでなく、それを笑いに変えるということをした。

 関係ない後ろの席の女の子を巻き込んだことに腹が立った私が、ちょうど机の上にあった辞書で馬鹿な男の頭を思いっきりぶん殴ってやろうとした、その時だ。

「──やめなよ。みんなで笑うような内容じゃないし、そもそも発言するべき内容でもない。佐々木ささきさん、大丈夫?」

 この時まで一度だって私たちに積極的に関せずにいた、関われないのだと思っていた隣の席の貴方がはっきりと意見した。

 その発言は当たり前で、正しいのは貴方だけど、私にはとても愚かな行為に見えた。
 例え言ったことが正しくても弱い貴方の発言より、間違っていても強い馬鹿の発言が勝つのが普通で。
 そんなことで勇気を見せる場面にも思えなかったから。

「……なんだよじゃないよ。僕はただやめなよ、、、、って言ったんだ。話題を変えたらいいだけの話だよ」

 貴方は「謝れ」とは言わなかった。
 彼女がそれを望まないことをわかっていて、馬鹿たちとの間に余計な軋轢が生まれるのを避けたのだ。

 それでも急に出てきた貴方を面白くなかったのだろう馬鹿は威圧したけど、貴方がまったく動じず引かないから、馬鹿も引くに引けない雰囲気になってしまった。

 雲行きが変わってすぐに止めるべきだとわかっている私も、自分が上だと言うなら笑ってないで我先に止めるべきだった高木かれも、思ってもいない貴方からの発言にすぐに動けなかった。

 ちらりとも見えなかった意思の強さを目の当たりにして、発言から思っていたのと印象が急にズレた、貴方の扱い方がわからない私たちには難しかったのだ。

「──ストップ。先生くるからそこまで! 佐々木ごめんね。今の本当にふざけただけなんだ。一条いちじょうも熱くならない。クールに、ね」

 私たちに代わって間に立ったのは、貴方たちとは違って学年でも目立つグループにいる内部進学の女の子。
 あとで聞けば貴方たちとはずっと同じクラスで、二人がどういう人間なのかをよく知っていた。
 そんな彼女は貴方をこう表現した。「モンスター」だと。

 私はこの日を境に思っていたのと違った貴方の見え方が変わり、モンスターと言った彼女の言葉の意味を理解した。
 貴方はこのあと馬鹿たちをよくどころに連れていき、何をどうしたのか馬鹿たちと仲良くなっていた。

 やりたいと言ってクラス委員になった男はもちろん、軽薄さが売りの馬鹿な男ともだ。
 高木ともいつの間にやら話すようになっていたし、クラス内での発言がないだけで決して発言力がないわけではなかった。

「……一条くんがいるから」

 そして極め付けはこれだ。
 佐々木さんとは彼女に謝ってからよくに話すようになり、二人きりになるタイミングがあった時にどうして謝罪を受けてくれたのかと聞いたのだ。

 あれで傷ついたのは彼女だけであり、私だったら言った奴らはもちろん比較された奴まで許さないだろうに、どうして私たちを許すのかと。
 
 あまり口数の多くない彼女の一言には様々なものがこもっていた。
 彼女が貴方をどう思っているのかは明白だった。
 だから、私は罪滅ぼしというわけではないけど、彼女と貴方とをくっつけようとしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...