連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
17 / 101
天使のホワイトデー

続・お留守番の天使

しおりを挟む
♢10♢

 それは帰宅してすぐは分からなかったんだ。
 今日お留守番だった天使に買ってきたお菓子をあげ、天使に今朝上手いこと言ってくれた妹にお菓子をあげ、バイト帰りな俺は真っ直ぐ風呂にいった。

 その風呂から出て、自分の部屋に荷物を置きに行って初めて分かった。部屋に入った瞬間に、『──あれっ?』って思った。

 今朝、妹が聞き分けのない天使を、時間が迫っている俺の代わりに引き受けてくれた。
 俺は、『一愛いちかのことだ。上手いこと天使に話してくれたんだろう』とだけ思っていた。

 しかし、ヤツはどうミカに話したのか? 何を言ったのか? それを俺は考えるべきだったんだ。
 妹はろくなヤツではないと知っていたんだから……。

 入った自室は散らかっているわけでも、荒らされているわけでもない。むしろ綺麗に掃除されている。
 綺麗過ぎるくらい掃除されていた。この時点で嫌な予感がした。

「なっ──」

 みんなの内、いくらかは経験があるだろう。
 やらなくていいと言ってるのに、部屋が勝手に掃除されているということを。それは見られたくないものがあるからだと言えないから、やらないでくれと言ってるのだということを。

「──」

 そして、もしソレを発見した場合、机の上に整理して置かれるているという、謎の現象に見舞われるということを。

「ミ、ミカエラーーッ! 貴様、何をしたーー!」

 俺は下にも聞こえるだろう声で叫び、ここで思い出す。お菓子をあげた際に、茶の間のコタツに入っていた2人から、それぞれ言われたことを。

 天使は、『だ、大丈夫よ。アタシは理解がある女だから。必要だって知ってるから!』と、何を言ってんだ? このポンコツ天使? な発言も。

 妹の、『まぁ、いいでしょう……。ごく普通のだったので特に何も言いません。だから、早くそのお菓子をちょうだい』という、意味が分からない発言も。全て繋がった。

「一愛、貴様はミカに何を言ったんだーーーーっ!」

 ダッシュで茶の間までいき、勢いよくふすまを開き、最初から一歩も動いていない妹たちに詰め寄る。
 すでにお菓子の袋はからになり、2人はコタツでお茶をすすっていた。

「なに? 今朝ミカちゃんに、日本には一宿一飯の恩義というのがあると教えてあげただけだよ。ただ、れーとの部屋を掃除してあげたら喜ぶよ。お宝が見つかるかもしれない! っても言ったけどね。ズズッ……」

「お宝が肌色の本だったのはショックだったけど、いい事したから気分はいいの。だから満足したわ。暇しなかったし。ズズッ……」

 そういう話ではない。これは男のプライド的な話なのだ。
 個人的な志向とか、個人的な趣味とかの話でもある。俺はノーマルな人だけどね!

「一愛……俺は怒っている。余計なことしやがって……」

「ふっ──、じゃあどうするの? 一愛に何かしようものなら、個人の趣味嗜好について言わなくていいことも、そこら辺でベラベラと喋ってしまうよ」

「脅して何とかしようなど、あまい! 女だろうと妹だ。一発ひっぱたいてやる!」

 俺は女の子を殴りはしない。だが、妹は女の子ではない!
 この性悪には物理的にダメージを与えるしかないんだ。おそらく精神的にダメージを与えることはできないから……。

「しねやーー!」

 この行為に対する批判は甘んじて受けよう。だが、それでもやらないといけないんだ!
 男にとって見られたくないものを見られた。その上、趣味嗜好を言いふらすなど言語道断だろ!

「ミカちゃんたすけて」

「──妹になにをしようっていうのよ!」

 俺は妹に物理的制裁を加えようと手を振り上げたのだが、その妹の隣でコタツに入ったままの状態の天使に攻撃を軽く止められ、逆に天使の雑な攻撃が俺にクリーンヒットする。

「ぐっ──、そうだった……この天使は物理が強かった……。がくっ……」

「ふふふ、れーとがミカちゃんに勝てないことも知っていた。ルシアちゃんにも。お姉ちゃんにも勝てないと知っているぞ? 一愛に何かしようものなら、彼女たちが黙っていない。あきらめるんだな! HAHAHAHA──」

 やはり、この妹が俺にとってのラスボスらしい。
 もし一愛に何かすれば、物理な女たちにその倍以上に制裁されるとは。俺は妹に勝てないらしい……。

「──HAHAHAHA──」

 ラスボスの高笑いが遠くに聞こえる。
 おわり。


 ※


「──なんて終わるか! 何であんなことするの? やめて、金輪際やめて!?」

「ああなるとは思わなかったんだよ。ミカちゃんは、もっと不器用なやつだと思ってたんだよ」

 あぁ……なるほどな。ダメな天使のことだから、掃除という名の散らかしになると一愛いちかは考えたのか。それがああなったと。
 ああなったのが何より問題なわけだが、その件に関してはもう諦めるしかない状況なので。物理的に敵わないので……。

「それは確かに。ミカにあんな女子力があるとは思わなかった。ポンコツなだけじゃなかったんだね」

 確かに、掃除なんかができるとは思わなかった。そんなことは執事任せにでもしてるもんだと思ってた。
 というか、俺は何もできないダメなヤツだと思っていたよ。

「学校でやってることは大抵できるわ! できないと天使長に怒られるからね!」

 自信ありげにミカは言うが、その自信に見合うだけのことはあった。これも予想外だが、天使の学校というのはあなどれない。天使長なる人物もだ。
 一見ダメな天使に、あれだけの女子力を与えるとはな……。

「──とにかく! もうやめてね? 男の子にはいろいろあるんだよ!」

「しばらくはやめるよ」

「しばらくじゃなくて、もうやめろよ! 帰ってくるたびにビクビクすんのやだよ!」

「そんなに嫌なら処分しなよ。見られて困るものなんて置いとくべきではないよ。それに、お姉ちゃんとかどう思うかな?」

 オープンに置いてあったわけでは断じてないが、そう言われると考えざる得ない。
 ルイは……わからない。しかし、許してはくれないかもしれない。
 お姫様も……わからない。やっぱり許してはくれないかもしれない。

「考えておきます」

「よろしい!」

 一愛とミカはともかく、女子の出入りが勝手にあるし考えた方がいいかもな……隠し場所を。
 えっ、なくすのはムリだよ。男の子だから。

「れーと。ところで、お姉ちゃんから何か聞けたの?」

「──そうだ、忘れてた! 一愛。明日、スーパーなアレを飾ろう!」

「自分から言いだすとは……。いったいどうしたの? 毎年イヤイヤなのに?」

 何か気になるものがあったのか、真剣にテレビを見ている天使に気づかれないように、聞かれないようにヒソヒソ話にする。

(天使とお姫様を仲直りさせるのに使えるかと思ってな。ひな祭りとは思いつかなかった)

(なるほどー、悪くないかも。ひな祭りといえばアレだしね)

(なので明日やろう。バイトは休むと言ってきた)

(さすがだね。用意もいい。ルシアちゃんには?)

(これから言ってくる。天使を少し見張っててくれ)

 天使を帰らせるのを少し遅らせる。もとい、お姫様に天使が通ると伝えておかなくては。プラスして明日のお誘いをしなくては。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...