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天使のホワイトデー
ひな祭りの用意。異世界編 ②
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昨日は失敗だった。いや……昨日も失敗だっただな。
連日の失敗続きでめげそうだけども、このくらいで諦められないからな。
昨日の失敗のについては理由がはっきりしているし、そこを反省して今日こそはミカに会う!
ミカの件が進まなくては話にならない。
チョコレートでお忙しいお姫様の手をわずらわせる事なく、お姫様に気づかれることなく進めなくてはいけないのだ。
昨日の失敗の理由は準備不足。だが、俺は同じ轍は踏まない男。
同じ失敗を繰り返さないためにはアレがいる。そう、──賄賂が必要だろう!
そして賄賂といえばお菓子。時代劇でもよくあるしな。そしてお菓子といえばお菓子屋さん!
「へい、いらっしゃい……なんだ零斗じゃねーか。冷やかしか?」
賄賂を買うために入った、お隣の和菓子屋の店内。俺の顔を見るなりそう言われた……。
いつもは競馬新聞読むのに忙しいおっちゃんは、今日は何か書き物をしていたらしい。というか、おっちゃんだと?
「なんでいつも冷やかしが前提なんだよ。つーか、おっちゃん。死んだんじゃなかったのか?」
「いつだよ……。毎日こうして店に出てるわ! だいたい、隣のオヤジが死んだら流石に分かるだろ!」
おっちゃんはキレて自分の死亡説を否定する。
しかし、俺の記憶では確かに死んだはずだ。
だが、生きていたならいたでちょうどいい。
「そんなことはどうでもいいんだ。お菓子を千円分くらいで見繕ってくれ」
「……」
「手土産としていくつか欲しいんだ。女の人が喜びそうなヤツを頼む! プロの目線でチョイスしてくれ!」
イラッとされたのは間違いないが、おっちゃんでも俺が客だと分かれば、流石にキレたりはしないらしい。
そして、お願いした通りにおっちゃんは、お菓子の入ったケースから、いくつかお菓子をチョイスしていく。
これが秘策というか間違いない選択だ。
お店の人に選んでもらうという、もう間違いようのないな。
昨日の失敗は手土産がなかったからだ。間違いない!
あれでは門前払いにされても仕方がなかった。それを踏まえて今日は天国の門へ行こう。
「ほらよ。こんなところだろう」
「流石はおっちゃん。俺ではこうはいかない!」
プロに選ばせた和菓子。これ以上はない手土産でしょう。いや、念には念をを入れて二重底にして、下に金色のやつも必要だろうか?
しかし、あれは断られた場合がマズイよな……。
「今度は何をやってやがんだ?」
「なにもしてないよ。ただ、あそびにいくのにおみやげがあったほうが、いいかとおもっただけだよ」
言った以上の事は言えないので誤魔化すしかない。追及されても、それっぽい事を言って誤魔化そう。
「警察のご厄介になるようなことだけはすんなよ」
「──しねーよ! 俺のことをどう思ってんだよ!」
「ならいい……」
どうして俺の評価はこんなんばかりなのか!? 真面目にやっているし、生きているのに。
……あのヤンキーたちのせいか? あんなのと一緒にいるからなのか。
今度、頭を真っ黒に染めさせよう。もしくは丸刈りにさせよう。
「じゃあもういくから。あぁ、ひな祭りはいつものやつね。ママンが言ってた」
「はいよ。毎度ありがとうございます。って言っておけ」
よし、これで準備は万端!
今日も元気に天国に行ってみよう!
※
大工衆の進捗を確認して、お姫様のご機嫌とりをして、二クスからおっさんたちの進捗を聞いたりしていたら、だいぶ時間がかかってしまった。
賄賂のお菓子を買ってはきたが、これにお姫様の分は含まれていない。
それなのに目ざとく袋を見つけられた時は、どうしようかと思ったーー。
お姫様に勘づかれるわけにはいかないのだ。これは秘密の案件なんだから。
なんとかお姫様を誤魔化し、ようやく今日もここまで来た。今日こそはミカに合わなくては!
「……貴様。昨日の大天使様の言葉を聞いていたのか?」
門のあるところまでは来たが、インターホンもない。アポの取りようもない。そもそも、狙い撃ちされるから門まで近づけない。
そんな状況の俺は、とりあえず昨日の天使ビームで穴の空いたままのところまで進んでみた。そしたら、昨日の頭の固い天使が、呼んでもいないのにやってきた。
「お前に用などない! ミカエルさん。もしくはガブリエルさんを呼んでこい!」
しかし、この天使くん。ちょうどいいところに出てきてくれた。
こいつにどちらかを呼び出してもらおう。
「貴様──」
「いいのか? 昨日ここでやるなと言われてたよねー。俺は昨日の位置から進んでない。もしこれで手を出したら、悪者はキミだよ。天使くん」
この天使くん。こいつが昨日のやりとりで、ガブリエルさんには逆らえない事は判明している。
それを利用しない俺ではないし、野郎なんぞに容赦も遠慮もない。
「これでは手は出せないよな。ザマァみろ! さあ、大人しく言われた通りにするんだな!」
「馬鹿め。取り継ぐわけがあるまい。そうして、そこで好きなだけ立っているんだな!」
それだけ言うと天使くんは俺に背を向け、嫌なやつ特有の笑いをしながら去っていこうとする。
嫌なやつだとは初めから思ってたが、やっぱり最悪だった。
「お前、性格悪いぞ。それでも天使か! ミカを見習えよ。クソ天使が!」
「ミカエラ様とお呼びしろ……」
こいつも天使だというだけで、自分のとこの姫が大好きな人だ。信者だ信者。
しかし、この世界の姫たちは愛されてるねぇ。ミカも見てくれは悪くないし、あのプニプニは魅力的だけどさ。勘違いの姫だからなー。
「──黙れ、お姫様大好きマンが!」
「何を言う、当然のことだろう!」
「どうせあのプニプニに目が眩んだだけだろう。自分たちの姫をいやらしい目で見ている変態野郎が」
「なっ、なんの話だ。そんなわけがあるまい! プニプニなどと……」
俺に掴みかかろうとしてくる天使くんを、お土産の袋を使って阻む。
こんなプニプニに目が眩んだ、変態野郎なんかにやられる俺ではない。返り討ちにしてくれる!
『何をしているのですか?』
そんな一進一退の攻防が続いていたら、不意に天から声がした。その声は昨日と同じ声。
──やった、ガブリエルさんや!
「聞いてください、この天使が酷いんです!」
「──何を言う。貴様の方がよほど酷いぞ!」
またもついている。今日は運が味方してくれているな。
この天使を悪者にしたてて、それを口実にガブリエルさんに取り入り……ふふふふっ……。
『貴方たち2人ともに言っているんです。話を聞いていなかったのか。わざとそうしているのか。どちらでしょう?』
ガブリエルさんは昨日と変わらぬ口調だが、何というか、ひしひしと感じるものがある。
たぶんだが、ものすごく静かにだが、これは怒っていない?
(おい、天使くん。ガブリエルさんは怒ってる?)
(ま、マズイぞ……。天使長が怒ったらただではすまんぞ)
姿も見えないのに、声だけなのに、なんかこう空気がビリビリする感じ。
雲より上にいるわけだが、雷でも鳴っているような気がする。
それに天使くんの顔色がヤバい。真っ青だ。
『そうですね。反省文を提出してもらいましょうか。ノート1冊分くらい。内容は心配せずとも大丈夫ですよ。ごめんなさい。と永遠書いてくれればいいですから』
な、何それ……。超こわいんですけど。
そんな狂気じみた罰を課せられるの?
「──申し訳ありませんでした! すぐに配置に戻りますので、ご勘弁ください!」
『わかりました。今日のところは見逃しましょう』
「──はい! 失礼します!」
ガブリエルさんの見えない圧に、2人ともガクブルしていたのに天使くんは自分だけが謝り、さっさと配置とやらに戻っていった。
あの野郎。俺を見捨て自分だけ助かりやがった。反省文から逃れやがった……。
『何故、また来たのですか?』
「昨日は、お土産がなかったから入れてくれなかったのかと思って」
問答無用で反省文なのかと思ったら、ガブリエルさんは話を聞いてくれるらしい。マジ天使!
ならば、ここで持ってきたお土産をアピール。だが、ただのお菓子ではやはり心許ない。
二重底にした方が良かったのかもしれないな。
『そんなことは関係ありません。何度来ようと門は開きません。帰りなさい』
「えー、お菓子買ってきちゃたんで」
『帰りなさい』
こえー、姿がないのに怖いよーー。冷たいよ。声が凍りそうなくらい冷たい。
どっから声が出てんのよ。どういう仕組みなのよ。
「はい」
怖いからそう言うしかないじゃん。
これ以上は、ガブリエルさんを刺激しない方がいい。今日は。
『次はありませんからね』
※
お土産ではダメだった。グサリと釘も刺された。
しかし、引き下がるわけにはいかんのです。あと、昨日のお土産はお姫様が美味しくいただきました。
『今日も来ましたか。まったく私の話を聞いていないようですね……』
「聞いてるけど来てんだよ。連絡手段が何もないんだ。何より合って話したい。あわよくば連れ出したい」
『聞き分けのないところが、ミカエラとそっくりですね』
「なんでもいいんで入れてくださいよー。日にちがないんすよー。そういうわけなんで、今日は中に入れてくれるまで、ここから動かないって決めてますから!」
今日は現実では2月28日。つまり異世界では3月1日なんだ。
異世界側の日付は誰かのせいで1日ズレてるんだ。誰かのせいで!
いよいよもって、ひな祭りまで時間がないんだ。
なので、今日は泊まり込む覚悟だ。寝袋も食料も持ってきた。準備は万端だ。
『その大荷物はそれですか』
「食料もジャンクだけどある。入れてくれないと俺は本気でやるよ? ここにずっといるよ?」
『はぁ……』
ガブリエルさんはどう見ているのかは分からないが、俺の様子を見てだろう。ため息をつく。
だが、これはどっちの反応だ? 怒ってないっぽいし、熱意に負けたパターンであってほしいな。
『──つまみ出しなさい。抵抗するなら多少は痛めつけても構いません。そして、これは正式に抗議します』
考えられた中で最悪のパターン!?
痛めつけてもいいとか、下手に抵抗したら天使ビームもあるかもしれない!
「毎日毎日、性懲りも無く来おって! しかし、ようやく貴様ともお別れだ!」
ガブリエルさんの一声で、ゾロゾロと門のところの警備の天使たちが現れた!
こんなに一気にこられては抵抗のしようもない。
「くそー、諦めんぞ。ここで俺を倒したところで、第2第3の俺が……──あーーーーっ!」
警備の天使たちに両脇を抱えられ、さらにぐるりと囲まれながら、無理矢理ゴンドラへと押し込まれる。
そして天使くんがゴンドラを操作し、ゴンドラが下に動き出してから、自分は羽を生やし悠々と窓から外に出ていった。
んで、動き出したゴンドラは急速に降下を開始するし、なんか操作板がバチバチいってる。
「あ、あの天使。ボタンを壊しやがった! これでは上へのボタンをもう押せない!」
操作板には下へのボタンしかなくなってしまった。
城下へは着いたら自動で戻る仕組みだから問題ないかもだが、天国へはこれなくなってしまった。
これではミカのところに繋がる唯一の窓口を失ったことになって、ひな祭りは失敗に終わる……。
『困ったやつ。こほん……門の中に入るためのヒントは最初に出しましたよ? 門から中へは入れないと。頭を使いなさい』
「えっ、ガブリエルさん? 今のはどういう意味が……──もう少しヒント! マジで時間がないんだ!」
何が起きたのかは分からないが、ガブリエルさんの声が聞こえる。教えてくれるなら教えてもらわねば。
『仕方ないですね。貴方がこの世界へと来る方法。これはもう答えですね……』
やれやれと言わんばかりの声だった。そして、これっきり声は聞こえなくなった。
そしてゴンドラはかつてないほどの速度を出している! 変なとこ壊れてない? ちゃんと止まるよね!?
連日の失敗続きでめげそうだけども、このくらいで諦められないからな。
昨日の失敗のについては理由がはっきりしているし、そこを反省して今日こそはミカに会う!
ミカの件が進まなくては話にならない。
チョコレートでお忙しいお姫様の手をわずらわせる事なく、お姫様に気づかれることなく進めなくてはいけないのだ。
昨日の失敗の理由は準備不足。だが、俺は同じ轍は踏まない男。
同じ失敗を繰り返さないためにはアレがいる。そう、──賄賂が必要だろう!
そして賄賂といえばお菓子。時代劇でもよくあるしな。そしてお菓子といえばお菓子屋さん!
「へい、いらっしゃい……なんだ零斗じゃねーか。冷やかしか?」
賄賂を買うために入った、お隣の和菓子屋の店内。俺の顔を見るなりそう言われた……。
いつもは競馬新聞読むのに忙しいおっちゃんは、今日は何か書き物をしていたらしい。というか、おっちゃんだと?
「なんでいつも冷やかしが前提なんだよ。つーか、おっちゃん。死んだんじゃなかったのか?」
「いつだよ……。毎日こうして店に出てるわ! だいたい、隣のオヤジが死んだら流石に分かるだろ!」
おっちゃんはキレて自分の死亡説を否定する。
しかし、俺の記憶では確かに死んだはずだ。
だが、生きていたならいたでちょうどいい。
「そんなことはどうでもいいんだ。お菓子を千円分くらいで見繕ってくれ」
「……」
「手土産としていくつか欲しいんだ。女の人が喜びそうなヤツを頼む! プロの目線でチョイスしてくれ!」
イラッとされたのは間違いないが、おっちゃんでも俺が客だと分かれば、流石にキレたりはしないらしい。
そして、お願いした通りにおっちゃんは、お菓子の入ったケースから、いくつかお菓子をチョイスしていく。
これが秘策というか間違いない選択だ。
お店の人に選んでもらうという、もう間違いようのないな。
昨日の失敗は手土産がなかったからだ。間違いない!
あれでは門前払いにされても仕方がなかった。それを踏まえて今日は天国の門へ行こう。
「ほらよ。こんなところだろう」
「流石はおっちゃん。俺ではこうはいかない!」
プロに選ばせた和菓子。これ以上はない手土産でしょう。いや、念には念をを入れて二重底にして、下に金色のやつも必要だろうか?
しかし、あれは断られた場合がマズイよな……。
「今度は何をやってやがんだ?」
「なにもしてないよ。ただ、あそびにいくのにおみやげがあったほうが、いいかとおもっただけだよ」
言った以上の事は言えないので誤魔化すしかない。追及されても、それっぽい事を言って誤魔化そう。
「警察のご厄介になるようなことだけはすんなよ」
「──しねーよ! 俺のことをどう思ってんだよ!」
「ならいい……」
どうして俺の評価はこんなんばかりなのか!? 真面目にやっているし、生きているのに。
……あのヤンキーたちのせいか? あんなのと一緒にいるからなのか。
今度、頭を真っ黒に染めさせよう。もしくは丸刈りにさせよう。
「じゃあもういくから。あぁ、ひな祭りはいつものやつね。ママンが言ってた」
「はいよ。毎度ありがとうございます。って言っておけ」
よし、これで準備は万端!
今日も元気に天国に行ってみよう!
※
大工衆の進捗を確認して、お姫様のご機嫌とりをして、二クスからおっさんたちの進捗を聞いたりしていたら、だいぶ時間がかかってしまった。
賄賂のお菓子を買ってはきたが、これにお姫様の分は含まれていない。
それなのに目ざとく袋を見つけられた時は、どうしようかと思ったーー。
お姫様に勘づかれるわけにはいかないのだ。これは秘密の案件なんだから。
なんとかお姫様を誤魔化し、ようやく今日もここまで来た。今日こそはミカに合わなくては!
「……貴様。昨日の大天使様の言葉を聞いていたのか?」
門のあるところまでは来たが、インターホンもない。アポの取りようもない。そもそも、狙い撃ちされるから門まで近づけない。
そんな状況の俺は、とりあえず昨日の天使ビームで穴の空いたままのところまで進んでみた。そしたら、昨日の頭の固い天使が、呼んでもいないのにやってきた。
「お前に用などない! ミカエルさん。もしくはガブリエルさんを呼んでこい!」
しかし、この天使くん。ちょうどいいところに出てきてくれた。
こいつにどちらかを呼び出してもらおう。
「貴様──」
「いいのか? 昨日ここでやるなと言われてたよねー。俺は昨日の位置から進んでない。もしこれで手を出したら、悪者はキミだよ。天使くん」
この天使くん。こいつが昨日のやりとりで、ガブリエルさんには逆らえない事は判明している。
それを利用しない俺ではないし、野郎なんぞに容赦も遠慮もない。
「これでは手は出せないよな。ザマァみろ! さあ、大人しく言われた通りにするんだな!」
「馬鹿め。取り継ぐわけがあるまい。そうして、そこで好きなだけ立っているんだな!」
それだけ言うと天使くんは俺に背を向け、嫌なやつ特有の笑いをしながら去っていこうとする。
嫌なやつだとは初めから思ってたが、やっぱり最悪だった。
「お前、性格悪いぞ。それでも天使か! ミカを見習えよ。クソ天使が!」
「ミカエラ様とお呼びしろ……」
こいつも天使だというだけで、自分のとこの姫が大好きな人だ。信者だ信者。
しかし、この世界の姫たちは愛されてるねぇ。ミカも見てくれは悪くないし、あのプニプニは魅力的だけどさ。勘違いの姫だからなー。
「──黙れ、お姫様大好きマンが!」
「何を言う、当然のことだろう!」
「どうせあのプニプニに目が眩んだだけだろう。自分たちの姫をいやらしい目で見ている変態野郎が」
「なっ、なんの話だ。そんなわけがあるまい! プニプニなどと……」
俺に掴みかかろうとしてくる天使くんを、お土産の袋を使って阻む。
こんなプニプニに目が眩んだ、変態野郎なんかにやられる俺ではない。返り討ちにしてくれる!
『何をしているのですか?』
そんな一進一退の攻防が続いていたら、不意に天から声がした。その声は昨日と同じ声。
──やった、ガブリエルさんや!
「聞いてください、この天使が酷いんです!」
「──何を言う。貴様の方がよほど酷いぞ!」
またもついている。今日は運が味方してくれているな。
この天使を悪者にしたてて、それを口実にガブリエルさんに取り入り……ふふふふっ……。
『貴方たち2人ともに言っているんです。話を聞いていなかったのか。わざとそうしているのか。どちらでしょう?』
ガブリエルさんは昨日と変わらぬ口調だが、何というか、ひしひしと感じるものがある。
たぶんだが、ものすごく静かにだが、これは怒っていない?
(おい、天使くん。ガブリエルさんは怒ってる?)
(ま、マズイぞ……。天使長が怒ったらただではすまんぞ)
姿も見えないのに、声だけなのに、なんかこう空気がビリビリする感じ。
雲より上にいるわけだが、雷でも鳴っているような気がする。
それに天使くんの顔色がヤバい。真っ青だ。
『そうですね。反省文を提出してもらいましょうか。ノート1冊分くらい。内容は心配せずとも大丈夫ですよ。ごめんなさい。と永遠書いてくれればいいですから』
な、何それ……。超こわいんですけど。
そんな狂気じみた罰を課せられるの?
「──申し訳ありませんでした! すぐに配置に戻りますので、ご勘弁ください!」
『わかりました。今日のところは見逃しましょう』
「──はい! 失礼します!」
ガブリエルさんの見えない圧に、2人ともガクブルしていたのに天使くんは自分だけが謝り、さっさと配置とやらに戻っていった。
あの野郎。俺を見捨て自分だけ助かりやがった。反省文から逃れやがった……。
『何故、また来たのですか?』
「昨日は、お土産がなかったから入れてくれなかったのかと思って」
問答無用で反省文なのかと思ったら、ガブリエルさんは話を聞いてくれるらしい。マジ天使!
ならば、ここで持ってきたお土産をアピール。だが、ただのお菓子ではやはり心許ない。
二重底にした方が良かったのかもしれないな。
『そんなことは関係ありません。何度来ようと門は開きません。帰りなさい』
「えー、お菓子買ってきちゃたんで」
『帰りなさい』
こえー、姿がないのに怖いよーー。冷たいよ。声が凍りそうなくらい冷たい。
どっから声が出てんのよ。どういう仕組みなのよ。
「はい」
怖いからそう言うしかないじゃん。
これ以上は、ガブリエルさんを刺激しない方がいい。今日は。
『次はありませんからね』
※
お土産ではダメだった。グサリと釘も刺された。
しかし、引き下がるわけにはいかんのです。あと、昨日のお土産はお姫様が美味しくいただきました。
『今日も来ましたか。まったく私の話を聞いていないようですね……』
「聞いてるけど来てんだよ。連絡手段が何もないんだ。何より合って話したい。あわよくば連れ出したい」
『聞き分けのないところが、ミカエラとそっくりですね』
「なんでもいいんで入れてくださいよー。日にちがないんすよー。そういうわけなんで、今日は中に入れてくれるまで、ここから動かないって決めてますから!」
今日は現実では2月28日。つまり異世界では3月1日なんだ。
異世界側の日付は誰かのせいで1日ズレてるんだ。誰かのせいで!
いよいよもって、ひな祭りまで時間がないんだ。
なので、今日は泊まり込む覚悟だ。寝袋も食料も持ってきた。準備は万端だ。
『その大荷物はそれですか』
「食料もジャンクだけどある。入れてくれないと俺は本気でやるよ? ここにずっといるよ?」
『はぁ……』
ガブリエルさんはどう見ているのかは分からないが、俺の様子を見てだろう。ため息をつく。
だが、これはどっちの反応だ? 怒ってないっぽいし、熱意に負けたパターンであってほしいな。
『──つまみ出しなさい。抵抗するなら多少は痛めつけても構いません。そして、これは正式に抗議します』
考えられた中で最悪のパターン!?
痛めつけてもいいとか、下手に抵抗したら天使ビームもあるかもしれない!
「毎日毎日、性懲りも無く来おって! しかし、ようやく貴様ともお別れだ!」
ガブリエルさんの一声で、ゾロゾロと門のところの警備の天使たちが現れた!
こんなに一気にこられては抵抗のしようもない。
「くそー、諦めんぞ。ここで俺を倒したところで、第2第3の俺が……──あーーーーっ!」
警備の天使たちに両脇を抱えられ、さらにぐるりと囲まれながら、無理矢理ゴンドラへと押し込まれる。
そして天使くんがゴンドラを操作し、ゴンドラが下に動き出してから、自分は羽を生やし悠々と窓から外に出ていった。
んで、動き出したゴンドラは急速に降下を開始するし、なんか操作板がバチバチいってる。
「あ、あの天使。ボタンを壊しやがった! これでは上へのボタンをもう押せない!」
操作板には下へのボタンしかなくなってしまった。
城下へは着いたら自動で戻る仕組みだから問題ないかもだが、天国へはこれなくなってしまった。
これではミカのところに繋がる唯一の窓口を失ったことになって、ひな祭りは失敗に終わる……。
『困ったやつ。こほん……門の中に入るためのヒントは最初に出しましたよ? 門から中へは入れないと。頭を使いなさい』
「えっ、ガブリエルさん? 今のはどういう意味が……──もう少しヒント! マジで時間がないんだ!」
何が起きたのかは分からないが、ガブリエルさんの声が聞こえる。教えてくれるなら教えてもらわねば。
『仕方ないですね。貴方がこの世界へと来る方法。これはもう答えですね……』
やれやれと言わんばかりの声だった。そして、これっきり声は聞こえなくなった。
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少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
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