連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
51 / 101
天使のホワイトデー 後編

徹夜明けは眠い!

しおりを挟む
「へへへ……もう……食べられないよ……」

 ぬくぬくとしていて寝るには丁度いい環境。
 パイプ椅子は寝るには向かないが繋がって並んでいるし、横になればそれなりに寝れる。
 何より徹夜にしみる暖かさ。誰も邪魔しない静かさ。もう、今日はここに泊まろう。そんなふうに考えてしまう。

「むにゃむにゃ……Zzz……」

 BGMっぽかった合唱も、話の長い校長先生の話も、もう過去のこと。今は何も聞こえない。
 俺、見つけたよ。ここが楽園だ……。

「──おい、起きろよ。卒業式どころか見送りすら終わったぞ! いつまでもヒーターの前を陣取ってないで帰るぞ!」

 ……楽園に侵入者が現れたようだ。
 いや、静寂を壊し暖かさを奪う、略奪者だ!

「──零斗れいと! いいかげんに起きろって! しょうがねぇ……」

 何者かがガサガサしたと思ったら、急に冷たい風に襲われる。そしてパチンと何かの音がした。

「──これでどうだ!」

「徹夜した我が眠りを妨げるとはいい度胸だ。誰かは知らぬが覚悟はあるんだな? 偽物の金髪の人よ」

 体育館の扉を開けヒーターの電源を落とした、偽物の金髪の人が現れた。
 同じ制服を着ていることから学校の生徒ではあるようだ。しかし、見覚えはない。

「偽物って何だよ。逆に本物の金髪ってのも何だよ」

「貴様のように染めた髪ではないということだ。そんなことも分からないのか。バカめ! 目障りだ。ヒーターの電源を再び入れて、そこの扉から失せろ!」

「今日も朝から何なんだよ! 昨日休んだのを心配してやって朝は迎えに行ったし、帰りもこうして待っててやってんのに!」

「それが迷惑なんだよ。気付けよ! お前が来なかったら俺はまだ布団の中にいられたのに。わざわざ家に押しかけやがってーー。何が楽しくて卒業するわけでもねーのに卒業式なんか出なきゃなんねーんだよ! 在校生は休みにしろよ!」

「とても卒業生には聞かせられない台詞だ……」

 卒業生も祝う気のないやつにいられても嬉しくないだろう? たが、俺とは違い祝う気のあるやつもいるのかもしれない。なら、出たい人だけ参加にしたらいいと思う。

 俺は進級にさえ差し支えなければ、可能な限り休みたい。出席日数とかギリギリでいきたい。
 それなのにお節介なやつらのせいで、こうして来たくもないのに卒業式に来ています。
 あー、早く帰りたいです。 ……んっ?

「山田くん。今、終わったから帰ろうって言った? 終わったの卒業式?」

「終わってんだろ! 誰もいねーよ。周り見てみろ! あと山田じゃないからな。鈴木だからな!」

「よし、山田くん。帰ろうぜ! ホームルームなんて無視して。片付けはやんなくていいんだろ?」

「……ああ、このまま幕だけ外して、入試から入学式までやるらしいからな」

 いいと思う。いちいち片付けないとかいいと思う。
 流石は体育館が2つもあるだけはある。片方使えなくても帰宅部には関係ないしな。

「今日は給料日だ。昼を豪華に食べてから帰ろう」

 今日は3月3日。金曜日。
 本来は5日に振り込まれるバイト代は、日曜日が5日になっているので、その前に振り込まれるのだ!
 2日も早く金が入るとか眠気も吹き飛ぶよね!

「悪いけど豪華に食うほど金ねーよ」

「おいおい、水臭いな。バイト代があるし昼飯くらい奢ってやるよ。佐藤くんも呼んできたまえ」

「あいつは先輩たちと一緒に卒業祝うって行ったよ」

「そうか。流石はヤンキー。先輩という繋がりがあるやつだったな。じゃあ、仕方ない。俺たちは大人しく帰ろう」

「期待させといて何なんだよ! 奢るって言ったんだから奢れよ!」

 まあ、──迷惑でしかないが! 気を使わせてしまったからな。お昼くらいご馳走しよう。
 ステムを持ってきてくれた、マスクヤンキーこと佐藤くんにも後日お礼をしよう。
 俺、義理とか人情とかは大事だと思うんだ。

「冗談だよ。駅前でいいよな? オシャレなお店をググりたまえ。スマホがない。家に忘れてきたらしい」

「オシャレ? そんなとこあんのかよ」

 こうして山田くんと2人、お昼を食べて帰った。
 ちなみに、行く店。行く店。どこも全部貸切状態でどこにも入れませんでした。
 どこも卒業式で、どこも同じような打ち上げがあったようです。

 結局、ハンバーガーか牛丼の2択しかありませんでした。盛ったところで、セットにしたところで高級感はなかったです。
 でも美味しかったし、山田くんも喜んでいたので良かったです。終わり。


 ※


「ただいまー」

 月に一度の給料日。ランチに贅沢しようと思ったらできなかったので、ゲーセンで贅沢しました。
 両手いっぱいの景品をゲットしました。楽しかったです。

「「おかえり」」

 玄関で靴を脱ぐべく、荷物を置いて靴紐を解いてしていると、珍しく戸が開きバタバタ音がして、『おかえり』が聞こえてきた。
 本当に珍しいこともあるもんだ。

「なんだ。珍しいな。一愛いちかが出迎えにくるなんて……」

 いや待て……今、『おかえり』が2人分聞こえなかった? それも聞いたことある声だった。
 そしてなんか嫌な『おかえり』だった。

「おかえりー、もうお菓子は何もないわよ!」

 そして、何故だかもう1人出てきたようだ。こっちは誰か分かる。
 なんでいるのかは分からないがミカだ。

「ミカ、俺なんか寒気がするんだけど、後ろの人たちは怒っていたりする?」

「あー、そうね。一愛もルイもまあまあ怒っていると思う」

 そうか、あの声はルイか。しかし、何故いるのか? どうしてまあまあ怒っているのか?
 いつも怒っているような気もしなくもないけど、今日に限っては何も心当たりがない。

「俺は何も怒られることをしていないと思うんだが、どうだろう? 学校にもちゃんと行ったしな」

「それは当たり前じゃない」

「えっ、当たり前なの! みんなそんなに学校行ってるの。ヤバくない!?」

「素直に謝りなさい。それが一番よ」

 この天使。どの口が言うんだよ。自分は1回だって謝るのが嫌なくせに!
 しかし、背後に感じるこのプレッシャーでは謝るしかないのも確かだ。

「──すいませんでした!」

「「…………」」

「ところでお2人は何を怒っていらっしゃるのでしょうか!」

 謝ってもプレッシャーは減らない。
 怖くて振り向けないんだが、もしかしてアレはないよね? この2人といえばアレだけど。ぼく……──これ以上はいけない! 出現してしまうかもしれない。

零斗れいと。私からは特にないが、約束はちゃんと守れよ」

「約束?」

 ルイの声色はそれほど怒っているような感じはしなかったから、振り返ってみた。
 するとルイの姿しか見えない。
 どうやらルイの後ろに、一愛とミカはいるようだ。

「今日は何月何日だ?」

「3月3日。ひな祭りだと思います」

「分かってんじゃないか……」

 ひな祭り……。
 やはり何も心当たりがない。

 毎年、ルイの家である和菓子屋から、ひな祭りのお菓子を買って食べるくらいしかしてない。
 それも、最近は家族バラバラに食べているし。

「れーとのバカ! さっさと帰ってこいって言ったのに。携帯には出ない。帰ってもこない! もう知らん! バーカ、バーカ!」

「一愛!?」

 バタバタと音を立てて妹が遠ざかる。
 向かう先は自分の部屋で、すぐにドアが閉まってしまう。追いかける暇もない勢いだった。

「見ての通りだ。せっかく用意したひな祭りに参加しなかったことに一愛は怒っている」

「ちなみにレートの分のお菓子は全部、アタシがいただきました。美味しかったです」

 いや、何がどうなっているのよ……。誰か説明してよ。
 あとね。ミカは普通にいるけど、ルイに何て説明すんのよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...