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天使のホワイトデー 後編
徹夜明けは眠い!
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「へへへ……もう……食べられないよ……」
ぬくぬくとしていて寝るには丁度いい環境。
パイプ椅子は寝るには向かないが繋がって並んでいるし、横になればそれなりに寝れる。
何より徹夜にしみる暖かさ。誰も邪魔しない静かさ。もう、今日はここに泊まろう。そんなふうに考えてしまう。
「むにゃむにゃ……Zzz……」
BGMっぽかった合唱も、話の長い校長先生の話も、もう過去のこと。今は何も聞こえない。
俺、見つけたよ。ここが楽園だ……。
「──おい、起きろよ。卒業式どころか見送りすら終わったぞ! いつまでもヒーターの前を陣取ってないで帰るぞ!」
……楽園に侵入者が現れたようだ。
いや、静寂を壊し暖かさを奪う、略奪者だ!
「──零斗! いいかげんに起きろって! しょうがねぇ……」
何者かがガサガサしたと思ったら、急に冷たい風に襲われる。そしてパチンと何かの音がした。
「──これでどうだ!」
「徹夜した我が眠りを妨げるとはいい度胸だ。誰かは知らぬが覚悟はあるんだな? 偽物の金髪の人よ」
体育館の扉を開けヒーターの電源を落とした、偽物の金髪の人が現れた。
同じ制服を着ていることから学校の生徒ではあるようだ。しかし、見覚えはない。
「偽物って何だよ。逆に本物の金髪ってのも何だよ」
「貴様のように染めた髪ではないということだ。そんなことも分からないのか。バカめ! 目障りだ。ヒーターの電源を再び入れて、そこの扉から失せろ!」
「今日も朝から何なんだよ! 昨日休んだのを心配してやって朝は迎えに行ったし、帰りもこうして待っててやってんのに!」
「それが迷惑なんだよ。気付けよ! お前が来なかったら俺はまだ布団の中にいられたのに。わざわざ家に押しかけやがってーー。何が楽しくて卒業するわけでもねーのに卒業式なんか出なきゃなんねーんだよ! 在校生は休みにしろよ!」
「とても卒業生には聞かせられない台詞だ……」
卒業生も祝う気のないやつにいられても嬉しくないだろう? たが、俺とは違い祝う気のあるやつもいるのかもしれない。なら、出たい人だけ参加にしたらいいと思う。
俺は進級にさえ差し支えなければ、可能な限り休みたい。出席日数とかギリギリでいきたい。
それなのにお節介なやつらのせいで、こうして来たくもないのに卒業式に来ています。
あー、早く帰りたいです。 ……んっ?
「山田くん。今、終わったから帰ろうって言った? 終わったの卒業式?」
「終わってんだろ! 誰もいねーよ。周り見てみろ! あと山田じゃないからな。鈴木だからな!」
「よし、山田くん。帰ろうぜ! ホームルームなんて無視して。片付けはやんなくていいんだろ?」
「……ああ、このまま幕だけ外して、入試から入学式までやるらしいからな」
いいと思う。いちいち片付けないとかいいと思う。
流石は体育館が2つもあるだけはある。片方使えなくても帰宅部には関係ないしな。
「今日は給料日だ。昼を豪華に食べてから帰ろう」
今日は3月3日。金曜日。
本来は5日に振り込まれるバイト代は、日曜日が5日になっているので、その前に振り込まれるのだ!
2日も早く金が入るとか眠気も吹き飛ぶよね!
「悪いけど豪華に食うほど金ねーよ」
「おいおい、水臭いな。バイト代があるし昼飯くらい奢ってやるよ。佐藤くんも呼んできたまえ」
「あいつは先輩たちと一緒に卒業祝うって行ったよ」
「そうか。流石はヤンキー。先輩という繋がりがあるやつだったな。じゃあ、仕方ない。俺たちは大人しく帰ろう」
「期待させといて何なんだよ! 奢るって言ったんだから奢れよ!」
まあ、──迷惑でしかないが! 気を使わせてしまったからな。お昼くらいご馳走しよう。
ステムを持ってきてくれた、マスクヤンキーこと佐藤くんにも後日お礼をしよう。
俺、義理とか人情とかは大事だと思うんだ。
「冗談だよ。駅前でいいよな? オシャレなお店をググりたまえ。スマホがない。家に忘れてきたらしい」
「オシャレ? そんなとこあんのかよ」
こうして山田くんと2人、お昼を食べて帰った。
ちなみに、行く店。行く店。どこも全部貸切状態でどこにも入れませんでした。
どこも卒業式で、どこも同じような打ち上げがあったようです。
結局、ハンバーガーか牛丼の2択しかありませんでした。盛ったところで、セットにしたところで高級感はなかったです。
でも美味しかったし、山田くんも喜んでいたので良かったです。終わり。
※
「ただいまー」
月に一度の給料日。ランチに贅沢しようと思ったらできなかったので、ゲーセンで贅沢しました。
両手いっぱいの景品をゲットしました。楽しかったです。
「「おかえり」」
玄関で靴を脱ぐべく、荷物を置いて靴紐を解いてしていると、珍しく戸が開きバタバタ音がして、『おかえり』が聞こえてきた。
本当に珍しいこともあるもんだ。
「なんだ。珍しいな。一愛が出迎えにくるなんて……」
いや待て……今、『おかえり』が2人分聞こえなかった? それも聞いたことある声だった。
そしてなんか嫌な『おかえり』だった。
「おかえりー、もうお菓子は何もないわよ!」
そして、何故だかもう1人出てきたようだ。こっちは誰か分かる。
なんでいるのかは分からないがミカだ。
「ミカ、俺なんか寒気がするんだけど、後ろの人たちは怒っていたりする?」
「あー、そうね。一愛もルイもまあまあ怒っていると思う」
そうか、あの声はルイか。しかし、何故いるのか? どうしてまあまあ怒っているのか?
いつも怒っているような気もしなくもないけど、今日に限っては何も心当たりがない。
「俺は何も怒られることをしていないと思うんだが、どうだろう? 学校にもちゃんと行ったしな」
「それは当たり前じゃない」
「えっ、当たり前なの! みんなそんなに学校行ってるの。ヤバくない!?」
「素直に謝りなさい。それが一番よ」
この天使。どの口が言うんだよ。自分は1回だって謝るのが嫌なくせに!
しかし、背後に感じるこのプレッシャーでは謝るしかないのも確かだ。
「──すいませんでした!」
「「…………」」
「ところでお2人は何を怒っていらっしゃるのでしょうか!」
謝ってもプレッシャーは減らない。
怖くて振り向けないんだが、もしかしてアレはないよね? この2人といえばアレだけど。ぼく……──これ以上はいけない! 出現してしまうかもしれない。
「零斗。私からは特にないが、約束はちゃんと守れよ」
「約束?」
ルイの声色はそれほど怒っているような感じはしなかったから、振り返ってみた。
するとルイの姿しか見えない。
どうやらルイの後ろに、一愛とミカはいるようだ。
「今日は何月何日だ?」
「3月3日。ひな祭りだと思います」
「分かってんじゃないか……」
ひな祭り……。
やはり何も心当たりがない。
毎年、ルイの家である和菓子屋から、ひな祭りのお菓子を買って食べるくらいしかしてない。
それも、最近は家族バラバラに食べているし。
「れーとのバカ! さっさと帰ってこいって言ったのに。携帯には出ない。帰ってもこない! もう知らん! バーカ、バーカ!」
「一愛!?」
バタバタと音を立てて妹が遠ざかる。
向かう先は自分の部屋で、すぐにドアが閉まってしまう。追いかける暇もない勢いだった。
「見ての通りだ。せっかく用意したひな祭りに参加しなかったことに一愛は怒っている」
「ちなみにレートの分のお菓子は全部、アタシがいただきました。美味しかったです」
いや、何がどうなっているのよ……。誰か説明してよ。
あとね。ミカは普通にいるけど、ルイに何て説明すんのよ。
ぬくぬくとしていて寝るには丁度いい環境。
パイプ椅子は寝るには向かないが繋がって並んでいるし、横になればそれなりに寝れる。
何より徹夜にしみる暖かさ。誰も邪魔しない静かさ。もう、今日はここに泊まろう。そんなふうに考えてしまう。
「むにゃむにゃ……Zzz……」
BGMっぽかった合唱も、話の長い校長先生の話も、もう過去のこと。今は何も聞こえない。
俺、見つけたよ。ここが楽園だ……。
「──おい、起きろよ。卒業式どころか見送りすら終わったぞ! いつまでもヒーターの前を陣取ってないで帰るぞ!」
……楽園に侵入者が現れたようだ。
いや、静寂を壊し暖かさを奪う、略奪者だ!
「──零斗! いいかげんに起きろって! しょうがねぇ……」
何者かがガサガサしたと思ったら、急に冷たい風に襲われる。そしてパチンと何かの音がした。
「──これでどうだ!」
「徹夜した我が眠りを妨げるとはいい度胸だ。誰かは知らぬが覚悟はあるんだな? 偽物の金髪の人よ」
体育館の扉を開けヒーターの電源を落とした、偽物の金髪の人が現れた。
同じ制服を着ていることから学校の生徒ではあるようだ。しかし、見覚えはない。
「偽物って何だよ。逆に本物の金髪ってのも何だよ」
「貴様のように染めた髪ではないということだ。そんなことも分からないのか。バカめ! 目障りだ。ヒーターの電源を再び入れて、そこの扉から失せろ!」
「今日も朝から何なんだよ! 昨日休んだのを心配してやって朝は迎えに行ったし、帰りもこうして待っててやってんのに!」
「それが迷惑なんだよ。気付けよ! お前が来なかったら俺はまだ布団の中にいられたのに。わざわざ家に押しかけやがってーー。何が楽しくて卒業するわけでもねーのに卒業式なんか出なきゃなんねーんだよ! 在校生は休みにしろよ!」
「とても卒業生には聞かせられない台詞だ……」
卒業生も祝う気のないやつにいられても嬉しくないだろう? たが、俺とは違い祝う気のあるやつもいるのかもしれない。なら、出たい人だけ参加にしたらいいと思う。
俺は進級にさえ差し支えなければ、可能な限り休みたい。出席日数とかギリギリでいきたい。
それなのにお節介なやつらのせいで、こうして来たくもないのに卒業式に来ています。
あー、早く帰りたいです。 ……んっ?
「山田くん。今、終わったから帰ろうって言った? 終わったの卒業式?」
「終わってんだろ! 誰もいねーよ。周り見てみろ! あと山田じゃないからな。鈴木だからな!」
「よし、山田くん。帰ろうぜ! ホームルームなんて無視して。片付けはやんなくていいんだろ?」
「……ああ、このまま幕だけ外して、入試から入学式までやるらしいからな」
いいと思う。いちいち片付けないとかいいと思う。
流石は体育館が2つもあるだけはある。片方使えなくても帰宅部には関係ないしな。
「今日は給料日だ。昼を豪華に食べてから帰ろう」
今日は3月3日。金曜日。
本来は5日に振り込まれるバイト代は、日曜日が5日になっているので、その前に振り込まれるのだ!
2日も早く金が入るとか眠気も吹き飛ぶよね!
「悪いけど豪華に食うほど金ねーよ」
「おいおい、水臭いな。バイト代があるし昼飯くらい奢ってやるよ。佐藤くんも呼んできたまえ」
「あいつは先輩たちと一緒に卒業祝うって行ったよ」
「そうか。流石はヤンキー。先輩という繋がりがあるやつだったな。じゃあ、仕方ない。俺たちは大人しく帰ろう」
「期待させといて何なんだよ! 奢るって言ったんだから奢れよ!」
まあ、──迷惑でしかないが! 気を使わせてしまったからな。お昼くらいご馳走しよう。
ステムを持ってきてくれた、マスクヤンキーこと佐藤くんにも後日お礼をしよう。
俺、義理とか人情とかは大事だと思うんだ。
「冗談だよ。駅前でいいよな? オシャレなお店をググりたまえ。スマホがない。家に忘れてきたらしい」
「オシャレ? そんなとこあんのかよ」
こうして山田くんと2人、お昼を食べて帰った。
ちなみに、行く店。行く店。どこも全部貸切状態でどこにも入れませんでした。
どこも卒業式で、どこも同じような打ち上げがあったようです。
結局、ハンバーガーか牛丼の2択しかありませんでした。盛ったところで、セットにしたところで高級感はなかったです。
でも美味しかったし、山田くんも喜んでいたので良かったです。終わり。
※
「ただいまー」
月に一度の給料日。ランチに贅沢しようと思ったらできなかったので、ゲーセンで贅沢しました。
両手いっぱいの景品をゲットしました。楽しかったです。
「「おかえり」」
玄関で靴を脱ぐべく、荷物を置いて靴紐を解いてしていると、珍しく戸が開きバタバタ音がして、『おかえり』が聞こえてきた。
本当に珍しいこともあるもんだ。
「なんだ。珍しいな。一愛が出迎えにくるなんて……」
いや待て……今、『おかえり』が2人分聞こえなかった? それも聞いたことある声だった。
そしてなんか嫌な『おかえり』だった。
「おかえりー、もうお菓子は何もないわよ!」
そして、何故だかもう1人出てきたようだ。こっちは誰か分かる。
なんでいるのかは分からないがミカだ。
「ミカ、俺なんか寒気がするんだけど、後ろの人たちは怒っていたりする?」
「あー、そうね。一愛もルイもまあまあ怒っていると思う」
そうか、あの声はルイか。しかし、何故いるのか? どうしてまあまあ怒っているのか?
いつも怒っているような気もしなくもないけど、今日に限っては何も心当たりがない。
「俺は何も怒られることをしていないと思うんだが、どうだろう? 学校にもちゃんと行ったしな」
「それは当たり前じゃない」
「えっ、当たり前なの! みんなそんなに学校行ってるの。ヤバくない!?」
「素直に謝りなさい。それが一番よ」
この天使。どの口が言うんだよ。自分は1回だって謝るのが嫌なくせに!
しかし、背後に感じるこのプレッシャーでは謝るしかないのも確かだ。
「──すいませんでした!」
「「…………」」
「ところでお2人は何を怒っていらっしゃるのでしょうか!」
謝ってもプレッシャーは減らない。
怖くて振り向けないんだが、もしかしてアレはないよね? この2人といえばアレだけど。ぼく……──これ以上はいけない! 出現してしまうかもしれない。
「零斗。私からは特にないが、約束はちゃんと守れよ」
「約束?」
ルイの声色はそれほど怒っているような感じはしなかったから、振り返ってみた。
するとルイの姿しか見えない。
どうやらルイの後ろに、一愛とミカはいるようだ。
「今日は何月何日だ?」
「3月3日。ひな祭りだと思います」
「分かってんじゃないか……」
ひな祭り……。
やはり何も心当たりがない。
毎年、ルイの家である和菓子屋から、ひな祭りのお菓子を買って食べるくらいしかしてない。
それも、最近は家族バラバラに食べているし。
「れーとのバカ! さっさと帰ってこいって言ったのに。携帯には出ない。帰ってもこない! もう知らん! バーカ、バーカ!」
「一愛!?」
バタバタと音を立てて妹が遠ざかる。
向かう先は自分の部屋で、すぐにドアが閉まってしまう。追いかける暇もない勢いだった。
「見ての通りだ。せっかく用意したひな祭りに参加しなかったことに一愛は怒っている」
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