連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
58 / 101
天使のホワイトデー 後編

プロデューサーの策略

しおりを挟む
♢5♢

「プロジェクトとしてはひどく簡単な内容だ。人を集め、城下の再生と発展を目的としている。それに足りないのは人と金だ。まず、城下には他からの人が寄りつかない。何故かと言うと……頭に輪っかもついてないくせに天使だという人たちが、下に一切いないからだ。そこに、終戦の宣言がちゃんとなされていないという問題もある」

 ミカの執事であるナナシくん。彼に聞いたところによるとそうらしい。
 彼には他にも、えらーい天使たちの家族構成も教えてもらった。だから俺は、誰に奥さんがいるとか知ってたんだよ!
 そして、そいつらをもてなしたというわけだったんだ。

「これでは、いつまた戦いがあるとも分からず人々は安心できない。貴様らが宣言を濁している理由も分かっている。しかし、いつまでもありもしない事を、あるかもと思わせておく必要を感じない。もう、いいだろう? 戦いは終わったんだ。未来を見るべきだと俺は思う」

 天使と悪魔間のシコリというやつを最も体現しているのが、眼前の偉い天使たち。
 悪魔側には脳筋がおお……もう過去にこだわる人は少ないらしいのだが、天使側は偉い奴らがクズ……未だに確執はあると言い張るのだ。

「だから。これから先を『みんな仲良く』の時代にしていきたい。ただ、それだけの事なんだ……」

 まずはそこから変えていかないといけない。
 そのためには偉い天使たちには協力してほしい。できれば自発的に。
 脅してとか。無理矢理とかがつくと俺のイメージがね。クリーンなイメージで生きたいからね。

 たまたま、セバスに連れてこられた異世界。
 中には『お前がこの世界の何を知ってんだよ?』と言う人もいるだろう。
 しかし、それでも俺はこの世界を変えると決めたんだ!

「──ギブ、ギブだ! 分かったから、この絞め技をやめさせてくれ!」

「俺は。俺は──」

 バレンタインの時より更に見えてきた、この世界の実状。大人がダメなせいで、子供たちまで迷惑しているという悲しい世界。
 それを変革者たる俺は良い方向に導くんだ。

「──ギブだって言ってるだろ! く、苦しい……」

「…………」

「何故黙る! 本当にやめさせてくれーー」

 なんかイライラしてねー。どんだけ俺が画策してこの場を作ったと思っているのかとか。
 出来るだけ穏便に済ませてやろう考えているのかが、あんまりえらーい天使たちに伝わらなくてさ。

「チッ、そのまま終わりまで固められていれば良かったのに。別にサインだけあればいいんだから、おっさんたち全員など不要なのに。自分たちだけお姫様にボコられなかったくせにーー。どうせならホワイトデーの終わりまで、入院でもしていてくれた方がいいのに」

 出番も欲しいだろうし脳筋のおっさんたちに、しぶる天使たちを締め上げてもらっている。
 姫たちのバトルは天使側に軍配が上がったが、下の方の戦いは悪魔側が有利というか完勝でした。

「貴様、全部聞こえているからな……うっ……」

「おや、1人脱落したか。残るキミたちはまだ続けるかい?」

「「──もう勘弁してください!」」

 それが総意であるなら仕方ない。これで、やっとお話しできるようだ。
 えらーい天使さんたちは、本当に手間をかけさせてくれる。


 ※


 残る天使。その1。
 最初に作るチョコレート工場の資料を見て。

「これは本当に必要なのか?」

「必要だ」

「そもそもチョコレートとはなんだ?」

「目の前のテーブルにあるだろう。お食べ」


 残る天使。その2。
 ホワイトデーの資料を見て。

「本当にこれは成功するのか?」

「する」

「したとして我らの立場はどうなる?」

「どうしようもないクズから、『あれっ? あの人意外といい人?』くらいにはなる」


 残る天使。その3。その4。
 もう見返りを求めて……。

「協力したら本当にモテるのか?」

「それは知らん。いい人だと宣伝はするが、あとは自分次第だろう。最後まで責任は持てない」

「無責任じゃないか! 聞いた話と違うぞ!」

「うるせぇぞ、ハゲ! 何もやってもみないで何を言ってんだ。まずはスタートラインに立つ。これだろうが! そのチャンスを与えてやると言ってんだよ、ハゲ!」


 残る天使。その5、6、7、8、9。
 もう面倒なのでまとめて!

「協力したら出番があるし、あの写真は拡散しない。お姫様からの粛清もなしだ。身の安全も保証しよう。そして、キミたちは良い人として有名になる」

「「…………」」

「逆に嫌だと言うなら、明日中に貴様らの地位と信用は失墜する。もうそのための仕込みは終わっている。電話一本で終わりだぜ。その上、『アナタ……離婚よ』『パパ、最低。死んで』となる。プラスして、ミカにも貴様らの不逞を暴露する。分かるだろうが、あの姫に殴られたら死ぬよ?」

「「──協力させていただきます!」」

 上記のようにザックリとお伝えした通りだ。
 これでホワイトデーの道筋がついた。
 初めてのホワイトデーは、終戦の宣言と仲直りの場とする。

 大人たちの確執を完全に消すのはもう無理だろう。そのくらいは俺にも分かる。
 でも、この先までそれを引っ張っていく必要はない。

 悪魔と天使なのに仲良しの姫たちがいるんだ。
 あの2人のこれからが、この先の世界を担うのなら。あの愛される姫たちがそうするなら。
 彼女たちについてくる人たちもそうするはずだ。
 どこかで憎しみとかを切らなきゃならないのなら、実は仲良しな2人がいる今だと思う。

 つまり、ここからの俺の仕事はホワイトデーをいかに成功させるかとなったわけだ。
 あの天使の方の姫にちゃんとやらせなくてはいけない。


 ※


「小僧。話はついたようだな」

「セバス。お前、さっきはよくもやってくれたな!」

 出番は終わったので後を二クスに任せ、会議室を出たところでセバスに声をかけられた。
 会議にも参加しないくせに偉そうな、俺を売りやがった悪魔執事だ!

「求められた事に答えたまでだ。それに考えても見ろ。いきなり天使たちが諂ってくれば誰でも気になるだろうが」

「それは……そうか……」

 こいつからお姫様にではなく、お姫様がセバスに頼んだのだろう。
 謝りに来た天使たちを見て、『俺が何をしているのか?』と。

 執事はそれを分かりやすくお姫様に伝えた。不要な部分を省いて。
 ミルクちゃんも言わなかったが、セバスも言わなかった。あの写真はでっち上げだと。
 もし言われていれば、俺はこの程度で済んでいないと思う。

「何故、事を裏でなさない? わざわざ協力などさせずとも、脅すネタはあったはずだ。必要なのは金と権力。それだけを得ることも可能だったはずだ。手間をかけてまで、表だってまで、回りくどい真似をする理由はなんだ?」

「流石は悪魔。考え方が実に悪魔らしいな。だが、俺は人間なんでね。あまり悪い事は出来ないのだよ。地獄には行きたくないんです」

「誤魔化すな」

「……それじゃあ変わんねーだろ。見えないってだけで変わんねー。ナナシくんもお前と同じようなことを言ってきたが、悪魔ってのはみんなそうなのか? それをルシアにも言えんのか? ミカに言えんのか。って言ったらナナシくんは黙ったよ。お前はどうなんだ?」

「……」

 流石の悪魔執事も黙った。
 嘘も方便と言いそうな悪魔が黙るということは、そういうことなんだろう。

「次は俺の番だな。実は俺からも1つ聞きたい事がある。変革を望まないヤツってのは誰だ? ソイツは世界を今のままにしておきたいんだろ。天使と悪魔どちらにも顔が利くヤツだとしか分からないんだが」

「ほう、1人でそこに行き着くか……。しかし、今の小僧にはどうしようもない相手だ。聞いたところで会うことすらできん。立ち向かうにしても力が足りん。 ……時が来れば教えてやる」

「まって。そんなつもりじゃなかったんだけど……。えっ、何、ラスボスはバトル必須なの? だとしたら無理なんだけど?」

「力とは何も腕力に限る話ではあるまい。今は、ホワイトデーを成功させる事を考えろ」

 えぇ──、俺にバトルは無理なんだけど……。
 ラスボスのことはあきら……考えないようにして、ホワイトデーを成功させよう! うん、それがいいと思う!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...