連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
79 / 101
天使のホワイトデー 後編

天使のホワイトデー ⑩

しおりを挟む
 あいこ記録を大幅に更新し、先行後攻じゃんけんはミカエラ選手が勝利した。
 お姫様の計略により、気迫はありながらもクールに、調子に乗ることもなく闘いに臨んでいるミカ。
 そしてこれが、お姫様が勝ちたいミカの姿なんだろう。

 天使ちゃんは調子に乗ったり、勢いで行動したり、必要以上に空回ったりしなければ強い。
 それを体現しているのがアミカちゃんモードなんだから、もっと普段からアミカちゃんに寄ればいいんじゃないかと思うのだが、ライバルであるお姫様の前ではそうはいかないんだろう。

 これはお姫様も同様にだ。
 お姫様もミカの前だと子供っぽいというか、対抗意識が強いからさ。勝ち負けがかかると余計にね。

「勝って証明するわ。アタシの方が強いのだと!」

 しかし、今のはいらないと思う。このデュエルより、もうドンパチやる戦争はないのだというメッセージの方が大事なんだから。
 どうせなら気の利いた台詞を言ってほしい。

「勝つのはあたしよ。負け越すなんてあり得ないわ!」

 だが、姫たちには目先の勝利の方が大事なようだ。互いに勝ちを譲るという気持ちも存在しないらしい。

「「──デュエル!!」」

 3戦目も本気バトルだね。
 これが天使と悪魔の最終決戦です!


 ※


 初戦の再現のように1ターン目から攻めるミカ。
 それを凌ぎ、中盤から終盤にかけて逆転する算段のお姫様。3戦目にして、互いのデッキの持ち味が生きる展開でゲームは進んでいる。

「間に合ったーーーーっ!」

 黙って見守り、要所要所で盛り上がるのを覚えた観客たち。その黙って見守る静かな時間に、下から大声が響き渡った。
 声の主は見たことある中学の制服を着て、手には卒業証書の筒を持っている妹だった。
 一愛いちかはよほど急いで来たのか息を切らしている。

「アマテラス。あいつをここに連れてきてくれ」

 一愛が今いるのは城の庭。俺たちがいる舞台までは、光の階段を100段は登らないといけない。
 すでに息を切らしている状態で、それは可愛そうなのでアマテラスを使い、ビットで足場を作ってここまで連れてきてやろう。俺、優しい!

『……あの女は誰? ご主人様、知ってる人? 制服で現れるなんて、あざとい女……』

 いつになく不満そうなアマテラス。
 なにやら、またおかしな勘違いをしているらしい。

「──あれは妹だ!」

『……妹? アマテラス以外にそんなのいるの?』

「お前のキャラはどんな設定なんだよ! お前、妹設定なのにご主人様はおかしいだろ!」

『世界には、ご主人様と呼ばせているお兄ちゃんもいるんだよ。ご主人様のように』

 いるわけねー、そんなヤツがいたら捕まるわ。
 そして死刑よ、死刑。だいたい、実の妹にどうしたら『ご主人様』なんて呼ばれんの?
 こちとら妹から『お兄ちゃん』ってさえ呼ばれたことないんだわ! はっはっは──……今、お兄ちゃんって言われた? ひょっとすると人生初だったんじゃないか……。

「──とにかく! 連れてきてくれ」

『はーい。うっかり落っことしたらごめんなさい!』

「そんなことしやがったら、宇宙まで行ってアマテラス本体を破壊するからな!」

『むーーっ! 妹とやらがそんなに大事なんだね! アマテラスより! こんなに有能なアマテラスより──』

 ギャーギャー言いながらも、言われたことはやるらしい。素早く離れていっているからよくは聞こえないが、『実妹など恐るるに足らず! 義理のとか。妹キャラの方が強い!』などなど言ってる。
 あんな発言をするアマテラスには絶対に言わないが、『お兄ちゃん』呼びはありかもしれない。
 これは一愛にも、お姫様にも、ミカにもナイショだぞ?

『ほら、連れてきたよ。ほめて!』

 という間にアマテラスは一愛を乗せて戻ってきた。
 なんというか、かまってちゃんの扱いが少し分かったかもしれない。
 余計なことは言うが迅速に行動していた。つまり──

『──ほめて!』

「よ、よくやった。いつもこれで頼む」

『むふーーっ。どう、アマテラス褒められたけど!』

 謎の対抗意識を妹へと向けるアマテラス。
 そのアマテラスに、わけもわからぬまま連れてこられた一愛。
 その一愛は不思議そうにアマテラスの声が出ているビットを凝視している。

「れーと、なにこの子?! スッゲーー! ロボットアニメみたい。もう1回やって! もう1回空へ!」

 そう言ってしまう気持ちは分からなくはない。
 ロボットアニメやSFみたいに飛び回れるのはスゴい。舞空術とか魔法とか超能力とかではなく、機械なもので飛ぶのがスゴいんだ。
 それこそガン◯ムのように!

『なんだと? 今のをスルーしてもう1回だと?』

「じゃあ2回!」

『増えた!? そういう意味じゃないんだけど……──って、掴まないで! 直接は乗れないから、乗ろうとしないで!』

 小型ドローンくらいの大きさを捕まえて乗ろうとする一愛。そのままでは撃墜してしまうから、イヤイヤと暴れるアマテラス。
 まったく何をやってんだコイツらは。お姫様たちなど真剣そのものだと言うのに……んっ?

「──って目を離してる間に決着がつきそうなんだけど?! 本当に何をやってんだ!」

「そうだった!」『忘れてた!』

 目を離していた間に、二クスの出す幻が大量に現れている。この数は闘いの終わりが近いということを表している。
 そして、幻のどれもが人型の天使。悪魔が群れないのに対して天使は群れる。それにしても数が多いな!

「おぉー、大迫力。これはぱない!」

「一愛、これはどっちが勝つ?」

「……れーとは、どっちに勝ってほしいの?」

 審判という立場上、どちらかをヒイキするのはよろしくない。
 しかし、俺がこれを企画したのは、お姫様を負けたままにしたくなかったからだ。
 最初は引き分け。次は負け。それで終わりにしてはいけないと、俺が勝手に思ったからだ。

「俺はお姫様に勝ってほしい」

「正直でよろしい! 最近、ミカちゃんに目移りしているようだから心配していたのだが、気にしすぎだったようだ。勝敗はルシアちゃんの引きにかかっている。1枚しかないカードを引ければルシアちゃんの勝ち。引けないとミカちゃんの勝ち」

「運ゲーか……」

 お姫様のデッキにある、大量の天使を一撃で全滅させる切り札。そいつを引くかどうかで勝敗が決まるのを、闘っている2人も分かっているのだろう。
 お姫様の手元に視線が集まっている。

 この勝負どころでものをいうのは運。
 何故かというと、ここが異世界だろうと手が光ったり、引きたいカードを引けたりはしないからだ。

「運ゲーなどではない。これこそがカードゲームではないか! この局面でのドローにこそ見るべきものがある!」

『妹のくせにいいことを言う』

 ガブリエルさんに言われた、『足りないもの』それがこういうものなんだろうか?
 俺がお姫様の立場だったら絶対に引けない。
 確率とか運とかではなく、精神論の類の話になる。

「れーとは、いつも本当に勝ちたいとは思ってなかったよね。確率とか理論とかを重要視するやつだった。だから、肝心なところで勝てないんだよ?」

 他に何がある? 必要なカードで揃えて、勝ちの可能性を1パーセントでも高くする。普通だろう?
 だが、そんな俺は妹にまるっきり勝てなかったよな……。

「肝心なところも何も俺は、一愛に勝てないからやめたんだけど?」

「それは最終的な話でしょ。最初に勝てなかったのは一愛だよ。ずーーっと勝てなくて、ムカついてムカついて大変だった。一切、妹に手を抜かない外道だし。だから頑張って、考えて考えて、クソ現実主義野郎をブチのめすスタイルを突き詰めた!」

 ……いい話をするのかと思ったら違った。いかにして一愛のクソゲスデッキが完成したのかの話だった。
 トドメを刺されたのも俺なら、生み出したのも俺だったという話だった。知りたくなかった。

「おかげで今があるから今は感謝しているが、当時はぶっころしたくて仕方なかった。勝てないのはカード回りが悪いから。相性が悪いからとか言うし。マキちゃんが止めなかったらヤっていたかもしれない」
 
 マキちゃん。ありがとうございます。
 妹にヤられるのを防いでくれて。
 今度会ったらお礼を伝えよう。

「……まあ、見ていろ。れーとはミカちゃんと同じタイプ。努力せずに出来るし、そのくせすぐ諦めるやつだ。そのうえ鈍感で、自分が負けるのは相手が努力しているからだと気づきもしない。お前たちは本当に自分勝手なやつだ。対してルシアちゃんは努力するやつだ。自分を信じられるやつだ」

『やるな、妹とやら』

「ルシアちゃんは勝つ!」


 ※


「ルシア、早く引きなさいよ」

「引くわよ。けど、引いた瞬間に勝ち負けが決まるというのは初めてね」

「そういえば……そうね。初めてね」

「今まで何回こうやって勝負してきたか分からないけど、ここに来て運で勝ち負けが決まるなんてね。ゲームっていうのは不思議ね」

「それでも、勝ちは勝ちだし負けは負けよ」

「そうね。勝ちは勝ちよね!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...