異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
187 / 618
第十四章 運び屋稼業も楽じゃない

第百八十一話 信用してません

しおりを挟む
ベリアは冒険者ギルドが運営する宿屋で宿泊を決め、カーネリアと共に一泊する事にした。

イズミは相も変わらずマスタングから離れる選択をせず、馬車置場にて眠る準備をする。
宿屋も馬車置場から歩いて2分程度の距離であるが、緊急時の2分は痛い。

ショルダーホルスターからマグナムを取り出し、シリンダーを外して弾を込め直す。
撃ち終えた2発の空薬莢をバッグに入れ込み、仮眠を取り始める。


翌朝、鳥の鳴き声で目覚めたイズミは、馬車置場の隣にある広場でコーヒーを作り始める。
朝の1杯は格別なのだ。

「…苦い」

何度作っても苦いコーヒーしか作れない。
不味い訳ではないので、時間をかけて飲み切る。

「イズミ様、ギルドマスターがお呼びなのですが…ご都合よろしいでしょうか?」

冒険者ギルドの従業員が呼びに来たが、マスタングを1人にするのは不安だったので、ベリアとカーネリアが来たタイミングでギルドマスターの元へ向かった。


ギルドマスターの部屋に入ると、奥のデスクで事務作業をしているギルドマスターと、手前のソファに座る男が2人居る。
格好からして冒険者だ。

「用があるなら要領良く簡潔に頼みたい」

イズミはソファに座らず、壁に背中を預けてから口を開いた。

「では…イズミ殿が言った通りの場所にて馬車を発見した。証言通り金貨や銀貨、帝国籍の兵士の死体も確認出来た」

イズミは従業員から手渡された報告資料…勿論読めない…を眺めつつ、次の言葉を待った。

「馬車の所有者は帝国が運営する、この王国内でも有名なイスベランド商会のものだった」

「帝国とこの王国は仲は悪いが、交流は停止されている訳ではないんだ」

ソファに座っている男が話を繋げる。

「魔族の卵を強奪した件については、冒険者ギルド及び国王直属の部隊で調査する事になるだろう…昨晩早馬で書面を送ったので、書面の到着は4日後だ」

「魔族との協定に違反している連中への処罰は厳格に行われる事は保証する。それで…件の卵についてなのだが」

イズミは提案を聞く前に言い切った。

「卵は私が責任を持って主の下へお返しします。私が頼まれた仕事であり、私の任務です」

その言葉を聞いたギルドマスターが、声を低くしてイズミに問うた。

「冒険者でも無い貴方に、魔族との戦争にもなりかねない事案を任せる事は、国の威信にも関わるのです」

「俺のような無宿人には関係無い話だ…俺が依頼を受け、引き受けた仕事なんだ。支援をするならともかく、邪魔をするなら冒険者ギルドでも容赦しないぞ」

腕を組み悟られないようにマグナムのグリップを握る。
これで相手がどう動くか…

「ギルドマスター、この男に任せるのなら我々の信頼出来る者を付けた方が良いかと。責任感はありますが、敵味方の区別がシビア過ぎます。悪戯に敵を増やし卵を危険に晒すかもしれません」

「王国も一枚岩ではありません…帝国の息がかかった貴族も多い故、安全に運ぶには国王直属の騎士隊に取り次ぐのが理想かと存じます」

聞いている限りでは妥当な判断をしている2人に関心しつつ、自分とマスタングの能力に関して把握していない事から、国王はまだエレナとアレクセイから聞いた話を広めてはいないように感じた。

「議論を交わすのは構いませんが、我々は先を急ぎます。この仕事にはスピードが大切なので」

イズミは腕を組んだまま部屋を立ち去ろうと歩き出す。

「イズミ殿なら、どのくらいで目的地に到着するのです?」

背中越しに聞こえたギルドマスターの声は、イズミを試すかのようだった。

「…満月が新月に変わる迄には」

「有り得ん!」

ソファに座っていた男が立ち上がると、イズミへ詰め寄って来る。

「聞いていれば現実味の無い事ばかり吐かして、1人で出来る範疇に無い事くらい分かるだろう!もっと国と世界の事を見て考えたらどうだ?この事案は正しく危機的状況なのだぞ!」

「だったら尚更、貴方達を信用出来ない。国王直属の騎士隊?動き出すのに何日必要だ?その間に昨日現れた馬鹿野郎と同じ考えの者達が集団で襲撃して来たら守り切れるのか?魔族から直接依頼を受けた俺から依頼を奪った事になる騎士隊に対して、魔族はどう対応するか考えたか?」

男がイズミの肩を掴んだが、イズミは無視をして部屋の扉に左手を掛ける。

「昼過ぎにはこの町を出発します。移動しない運び屋は、運び屋ではありませんので」

イズミはマグナムを使う事が無くて安心したが、また冒険者ギルドとの関係悪化しただろう現状に苦笑するしかなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...