異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
261 / 618
第十八章 手掛かりを探して

第二百五十三話 不思議な来訪者

しおりを挟む
「…何故そのカクテルの名前を?」

「さて何故でしょう」

目の前の女は得意気な表情でグラスをテーブルに置いた。
この異世界に来てから殆ど見かけないカクテルグラス、それもガラス製ではなく温かさを感じる木製に見える。

女の服装を観察すると、この町で見かけた女達や今までに出会った女達の服装とも一致しない。
ワンピースと着物のハーフみたいな、不思議な服装の女だった。

ここでイズミは思案する。
目の前に居る女について考えられる可能性は2つ。
1つは自分と同じ様な境遇の者、もう1つは自分の境遇を知っている者だ。

イズミは直感だが、後者の存在だと判断した。
特級品のドワーフ酒の蓋を外し、手の甲に押し当て瓶を傾ける。
甲に付いた酒を口に含むと、ジンの類いである事は分かる。
味覚を感じるならば、目の前の存在は夢ではなく現実なのだ。

次にショルダーバッグからカクテルセットを準備する。
シェイカーを手に取り、分解して内部を確認しテーブルに置いた。

足りないのは、氷とライムジュースとシュガーシロップだ。

期待せずにマスタングから受け取ったカクテルセットを物色していると、小ぶりな瓶が複数見つかった。
酒の割り材であり、ライムジュースとシュガーシロップもそれぞれ1本だけ入っていた。

コルクを開けて中身を確認すると、ライムジュースは着色されていない物だった。

イズミは床に突っ伏しているトムスと呼ばれていた男を起こすと、半ば無理やり気味に氷を出してもらう。

「トムスとやら、すまないが氷を出してくれ」

「うぅ~ん…氷?」

酩酊も良い感じであったが、出された氷を桶に入れて女のいるテーブルへと持ってゆく。

氷を別の桶に半分程を移し、準備物をテーブルに並べる。

「バーテンダーでは無いのでね、味の保証は出来かねますよ」

笑顔を見せる女を見てから、イズミはカクテル作りを始める。

テーブルに置かれたグラスを受け取り、氷を入れて冷やしながらバースプーンでかき混ぜる。
シェイカーに氷を入れてバースプーンで軽く回し、溶けた水を捨てると酒とライムジュースをメジャーカップで測り注いだ。

内訳は酒が45ml、ライムジュースを15mlだ。

「シュガーシロップは入れますか?」

「今回は要りませんわ」

女の回答を聞いたイズミはシュガーシロップを片付け、カクテルグラスの氷を捨てる。
両手を氷の入った桶で冷やし、指の熱がシェイカーに伝わりにくいようにしてから組み立てる。

「コッチでは初めてなのだが」

イズミはシェイカーを軽くテーブルに当て締まりを確認すると、持ち上げてシェイクをした。
軽快な音が酒屋に響く。

シェイク中の音に耳を澄ませ、指先でシェイカーの冷え具合を確かめる。

気持ち10秒程度シェイクをしたら、蓋を外してグラスへと注ぐ。

「どうぞ」

「ありがとう」

女は差し出されたグラスを手に取ると、ゆっくりと口元へ近付けた。
イズミは綺麗にしたグラスに冷たい水を注ぎ、チェイサーとして渡す。

シェイカーに残ったカクテルを手の甲に乗せ、自分も味見をしてみる。
やはりジンみたいなドワーフ酒なので、思っていた物とは微妙に違ったが甘さ控えめかつ酒の鋭さも感じられる飲み口だった。

「美味しかったですわ」

静かに飲んでいた女が、グラスを何処かに仕舞うと椅子から立ち上がる。

「それは良かった」

イズミは本心で答えると、自分のグラスに水を注いで一気に飲んだ。

「次にお会いする際は、別のカクテルをお願いしますね」

「…お手柔らかに頼みます」

女はテーブルに何かを置くと、酒屋の入口へフワッと浮いて移動する。
床に転がっている酒飲み達の上を通過し、イズミへと振り帰った。

「ベリアと共に町にあるアイカシア教会に行きなさい。探している物を見つける切っ掛けがあるかもしれません」

「探している物?」

イズミが確認をする為に聞き返したが、既に視線の先に居た筈の女の姿は無かった。

「しまった、名前を聞きそびれたな」

そう呟いたイズミは、1人で片付けを進める。
女がテーブルに置いていった物を確認すると、精巧に作られた何かの鳥の羽根を象った髪飾りだった。
酒代代わりの可能性もあるので丁重に取り扱う事に決め、ジャケットの胸ポケットに入れる。

翌日の予定も出来たので酒やカクテルセットを仕舞い、部屋へと戻ると酔いに任せて直ぐに眠りについた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...