異世界無宿

ゆきねる

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第二十四章 暴走を止めろ

第四百一話 特別な菓子

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グラテミアの屋敷内は出発した時よりも何処か明るい雰囲気に見え、清掃をしている従者のモチベーションも良好のようだ。
良い雰囲気は良い流れを作り出し、物事をプラス方向に持ってゆく事にも繋がる。

そんな屋敷にて唯一疲れた顔をしている者が、イズミがマスタングに魔力補給をしている隣で愚痴を零す。

「…大体、試作品なのだから極少数生産で良いじゃない。直ぐに量産体制を整えろなんて、正気じゃないわよ」

「それだけ魅力的な商品って事でしょう」

「美容クリーム、日焼け止めクリーム、シミ・そばかすクリーム、ニキビクリーム、2日前にはシャンプーとコンディショナーってのも研究しろって…どうして全部、私が研究担当なのよ」

「信頼されてるのさ。レシピの出処もアレだし」

「アレって何よ?」

「説明し難いだろ」

フラウリアである。
イズミ達がオブリビアに出発してからと言うもの、唐突に与えられた休暇を終えた途端にレシピ本の研究漬けの日々らしい。
半ばグラテミアから強制的に命じられたようなものであり、当然の事ながらフラウリアに拒否権は無い。

「素材の調達だけでも大変なのに、次から次へとレシピが出てくるのよ…毎日のように進捗を聞かれるし」

「それは大変だ、作った商品のテストとかはしてるのか?」

「それが!一番大変なのよ!」

フラウリアは魔力補給を終えたイズミの両肩を掴むと、勢い良く前後に揺らしながら鬱憤を晴らすかの如く愚痴は続く。

「取り敢えずこの屋敷で働いている皆さんに頼んで、試作品の使い心地を確かめて貰ってはいるけど…それでは調査出来るのはラミア族だけ、他種族での調査が全く出来ていない。でもグラテミア叔母様は多方面に売り出す気満々なのよ!データが圧倒的に足りないの!」

「色々と苦労してるのは良く分かったが、まず揺らすのを止めてくれ」

目が回りそうなイズミに気付いたフラウリアが両肩から手を放すと、少し落ち着いた様子で近くにあった木箱に座った。

「ヒュミトール内で協力者でも募ってみたらどうだ?1回の協力で銅貨でも銀貨でも支払う事にして、商品を試して貰い使い心地や経過観察をする」

「簡単に言うわね…」

「そうでもしないと、合法的にデータ収集出来ないだろ。他に方法が見つからないなら、商人ギルドとかに相談するとかだな」

「商人ギルドねぇ。こればかりは叔母様に相談する必要があるわね」

「そんなにカリカリしてると、見落としがあったり損したりするぞ」

イズミは徐ろに馬車置き場内を見渡してから、自分達以外は居ない事を確認してマスタングに指示を出した。

「疲れた身体には甘い物が良いんだ。マスタング、フラウリアに何かスイーツを実体化してやりたいのだが。今の所はフラウリア以外には内密に」

「…それは、女神様も含みますか?」

「一旦は。何れバレるのは承知の上で、それまでは研究を頑張るフラウリアに対する特別な労いって事で」

「かしこまりました」

車内のモニターが暗くなると、トランクが開く。
中身を確認してみると、皿の上にシュークリームとカステラが置かれていた。

「一度全く関係のない商談で商人ギルドを屋敷に呼んで、さり気なく新開発の商品に目が行くように仕向け、商人ギルド側から自発的に動いてもらうってのはどうでしょう?」

「観察眼の鋭い商人なら食い付くような、餌を眼の前にぶらさげるって事かしら。叔母様ならそう動くかもしれないけど…それは何かしら?」

イズミが持って来た皿の上にある菓子を見て、フラウリアは首を傾げる。

「シュークリームとカステラだな」

イズミがそう言うと、マスタングが補足説明をする。

「食べ比べて頂きまして、気に入った方をフラウリア様専用のレシピとして伏せ、選ばれなかった方はグラテミア様の持つレシピ本から何れ発見されるようにします」

「シュークリーム、カステラ…」

「お気に召した方のレシピは別途お渡しします。先ずは食べ比べをお願い致します」

マスタングに促されるまま、最初にシュークリームを手に取り一口頬張る。
濃厚なカスタードクリームに驚きつつも、何とか零すこと無く食べ終える。

イズミは口直しがてらの水を用意し、フラウリアに渡した。
シュークリームの味が残った状態では、次に食べるカステラとの比較に支障をきたす可能性を考慮したのだ。

フラウリアはカステラも食べ終えると、一言も発する事無く目を閉じて熟考に入った。
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