月下の妖

てぃあな・るー

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妖ノ世界

参,主人代理ノ鬼

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更新しないとか言っときながらここまでは出来たので、しました!おねがいしまーす! 




 千凪が言っていた隣の隣の部屋はとてつもなく大きな部屋だった。襖からして華美な花の彫刻が施されている。見たこともない豪華さに私が気押しされるぐらいだ。
 そんな中、千雪はもろともせず、こんこんと襖をたたいた。
「つれてきたよ」
「ご苦労。二人とも中にお入り」
 優しそうな声だ。心がほっとするような低い声。その声は何故か私の心に引っ掛かった。
 それが分からないまま、千雪に導かれ、私は“椿ノ間”とかかれた部屋に入った。その部屋はほのかに甘い香りがし、大きな壁には椿の木が堂々と描かれている。
 その部屋の中央の扇で顔を隠しているのがご主人とやらだろう。
 千幸は部屋の入り口のそばにで正座をし、頭を下げた。
「旦那様、千幸でございます。なにとぞ何故わたくしがここに連れてこられたか教えてくださいませぬか」
「千幸ちゃん…」
 千雪が焦った様に私を呼ぶ。
 沈黙が流れる。最初に沈黙を破ったのは、高らかな笑い声だった。
 驚いて顔を上げると、その人が腹をかかえて笑っている。
「あはははは!千幸というのだね。よろしく。しかし、千幸、君は何か勘違いをしているようだ。俺は千雪の主人ではない。代理だ」
 その人ー主人代理は座り直す。
「お前っ…!」
 千雪は呻くように言うと、弾かれたように飛び出し、主人代理の胸ぐらをつかんだ。がたんっと机が飛んだが、千雪は気にせず、ぶつかりそうな程顔を寄せる。
 しかし、主人代理は焦った様子もなく、ただただ愉快そうな雰囲気が漂う。
「主人代理に逆らうというのか、千雪」
 千雪が言い返そうと口を開いたが、その前にがらりと襖が開いた。
「まあまあ…喧嘩するのはいいけど、壊さないでね?この部屋高いんだから…それに、幸の前って事、わすれないで」
 千凪だ。顔は笑ってはいるが、目の殺気がすごい。
 千雪はしばらく千凪を睨んでからしぶしぶと手をはなし、主人代理と話し合い始めた。
 扇で口元を隠し、私に見られないようにしている。千凪は襖に寄りかかり、それを眺めている。
 私は千凪の着物の裾を引っ張り、目を合わせた。
「ねえ、なんで千雪はあんなに怒っているの?私のせい?」
 千凪は笑いながら首を横に振った。
「違うよ。向こうには向こうの事情があるの。幸はきにしないでいいよ?」
 私はうん、と頷くと視線を戻した。丁度話がついたようで千雪が顔をしかめながら、千凪の横に戻ってきた。
 下駄で割増されている千雪だが、千凪の方がすこし背は高い。
「…さてと。そろそろ俺も自己紹介しないとね」
 主人代理はぱちん、と扇を閉じ、顔をあらわにした。
 長く細い銀髪は目を隠すように垂れ、その隙間からは赤く輝く瞳ー
 私の心臓がどきんっと跳ねた。
 私はこの人を知っている。昔むかしにどこかで…
 しかし、一瞬脳裏に浮かんだイメージはすぐに失せ、次には分からなくなってしまった。
 私が悩むように顔をしかめたので、主人代理はまあまあ、と微笑んだ。
「俺は千陰(千陰)。見た通り、鬼だ。歳は…五百位?確か。これからよろしく」
 千陰は頭の角をとんとん、と触りながらいった。五、五百歳…
「宜しくお願いします」
「さて、と。千幸、君は何故ここに連れてこられたか知りたいんだね?率直に言おう。君は妖とその体の間で“婚姻ノ契”を結んでいるのだ。分かるかい?」
「………」
 私は驚きすぎて言葉が出なかった。
 婚姻ノ契?!なんだそれは。しかも妖と??ふざけてんのか。それにいつだ。記憶にないぞ。
 私の頭の上にはてなが浮かんでいるのがみえたのか、千陰はやっぱり、と呟いた。
「“婚姻ノ契”はね、妖が気に入った娘と結ぶ絶対の契約なんだ。首に赤いほくろが二つ、並んでいるだろう?それが証だ。その契約は来世までにも及ぶ。妖は長生きだからね。まあ、この後君がすべき事は沢山あるけど、一ヶ月位はゆっくりしていきなさい。いいよね、千凪?」
「おうとも。それに、幸だったら大歓迎♡」
 千凪は犬歯を見せながら笑いかけた。
 私はいきなり注ぎ込まれた難しい情報に戸惑いながらもなんとか笑い返した。
 この面子だ。さぞかし楽しい日々となるだろうな、などと思いながら私は千雪と千凪の後ろについて椿の間から出ていった。



 千幸たちが出ていった後、千陰は煙管をふかしていた。白い息をふぅーっと吐き出す。煙はくるくると渦を描き、そのうち薄れて消えていった。
「さあてこれからどうするかな…」
 ぼそりと呟く。
 千陰は近くにあった美しく花を咲かしている椿の枝を一つ、短く折った。掌に収まる程小さいそれを器用に指先で回す。ふと、何かを思いついたように目を光らせた千陰は椿を上にひょいと投げ、落ちてきた所をぐしゃりと握った。握られた拳の隙間から薄ピンクの煙が漏れ出す。しばらく待ち、手を開くとさっきまで咲き誇っていた椿がそのまま透き通るような美しいガラスとなり、一つの簪となっていた。
 千陰はじっと眺めると、懐にしまいこんだ。
「これはいつか役に立つだろう」
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