月下の妖

てぃあな・るー

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東ノ神 青龍

肆,青龍☆青藍

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 扉をくぐった先には宮殿が…というわけではなかった。どちらかと言えば庭に近いかもしれない。
 春の花がそれぞれ誇らしげに咲いているのに、手入れはきっちりとされていて、一つの草原を作っているようだ。

「よく来たのう。ようこそ、わらわの“蒼ノ泉”へ」

 ゆったりとした口調の声がひびいた。
 声のした方向を見ると、そこには一人の女性が。花が咲いている太い草のつるの椅子に座っている。
 長いポニーテールは上から下にかけて、水色から深緑へとグラデーションのように色づいている。切れ長の目は髪と同じ深緑の睫毛に縁取られ、瞳は夕焼けのようなオレンジ。ふっくらとした唇が作る表情はとても艶かしい。

だが。

 私はふと思う。

 青龍は青がつくから水を司るんじゃないの?!

 青龍はそんな私をみてふわっと微笑んだ。

「そこの女子は驚いているようじゃな。青龍は水を司っているのでは、と。ふふっ、面白いのう。古代より緑は青、と呼ばれているのじゃ。緑といったら草花であろう?じゃからわらわは木を司っておる」

「す、すみません…」

 私が首を縮めるとはははっと青龍は高笑い。

「愛らしいのう!わらわは青藍(せいら)という。そなたはなんという?」

「千幸です」

「ほほう!ますます面白いのう!そこの野郎どもと名が似ておる。…ん?そこにいるのは犬神か!」

 青龍…青藍は千雨を見つけて言った。
 千雨はふんっと鼻をならす。

「最初から気づいていただろう、青藍。何を今更」

「そうじゃのう。だが、やはり神籍を剥れても神は神なのじゃのう。お前から力をまだ感じるぞ、犬神」

「俺を犬神と呼ぶな。千雨、だ」

「まあそう硬くなるでない。久しい再開じゃ。客もいる事だしな」

 青藍はこちらにウィンクする。
 そんなことより、さっきから二人の間に火花が飛んでいる。

 喧嘩はしないでぇ!

 青藍は体制を変え、ぱちんっと指をならした。
 私たちの近くにつるがぐぐっと伸びてきて、椅子を作る。なかなか座り心地はいい…

 そんなことよりも!!

「青藍さん、頼みごとがあるのですが…」

「うむ。千陰とやらから聞いておる。全く、何者なのじゃ、あやつは。手紙から物凄い霊力がしよったぞ。まあ、それはよい。で、なんじゃ?」

「私の…この首にある契について、これは誰がつけたものなのか、知りたいのです」

 青藍はふむ、と首を傾げ、私の所に歩いてきた。
 着物をひき、首を見る。

「…??なんじゃ、この印…二重になっておるのか?まあいい。わらわが調べようかのう。時間がかかる故、ゆるりとして行け」

 青藍は目を細めるとくるりと踵を返し、暗がりへと消えていった。
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