くわばらくわばら1

101の水輪

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くわばらくわばら1

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 赤脇中学校2年1組32名は、〝とても仲が良く、世間でよく聞くいじめなどはいっさいありません〟な訳わなんてありえない。

「おはよう」
 元気印の津田島久樂々が教室に入ってきた。すでに数名の生徒が登校している。
「おはよう、久樂々」
 近づいてきたのは穂乃佳。小学校からの親友で、部活も同じテニス部だ。
「ねえ、英語の宿題した?できてたら見せてほしいんだけど」
「えっまた?でも穂乃佳ならいいよ」
 穂乃佳に頼まれたら、久樂々も断り切れない。ただ久樂々は笑顔だが、穂乃佳は少々渋い顔となった。

 えっまた?それって私へのいやみ?

 穂乃佳は、聞こえごなしにつぶやいた。

 次の日からだ。
「おはよう」
 いつものように、久樂々が元気よく教室に入ってきた。しかし、まったく反応がない。それどころか、必ず近づいてくるはずの穂乃佳が、今日は寄ってこず、離れたところで友だちとしゃべり続けてる。
 
 おかしいなあ?穂乃佳、どうしたんだろ

 不思議に思った久樂々の方から、穂乃佳に話し掛けて行った。
「穂乃佳、おはよう」
「ああ・・・」
 会話はそこでおしまい、途切れてしまった。スルーした穂乃佳は、友だちのおしゃべりを続けている。

 まあいっか。でも何か変な感じ

 人がいい久樂々には、今の状況が飲み込めていない。そうこうするうちに、気づかぬうちに事態はさらに進んでいく。

 体育の授業で、ダンスをすることになった。曲選びから、演技内容まで、自分たちの発想で組み立てる。5人1組で行うため、動きを合わせるのがなかなか大変だ。5人でメンバーを組まなければならなくなった。
 当然、久樂々はすぐに穂乃佳に声をかけにいく。
「ねえ、一緒にやろ?」
「あっ、それなら出来ない。他にやる子いる」
 久樂々は、思いもしなかった事態に混乱してしまう。
 頭の中が真っ白になる中で、久樂々はようやく他のグループに入れてもらえた。

 これって、もしかして省かれてるってこと?

 体育の時間が終わって、次は数学。この授業中はよく当たるので、生徒からの評判はよくない。
「じゃあ、順番に答え聞いてくぞ。そうか、今日は14日。女子14番、答えてみろ」
 それは久樂々の番号だった。成績は飛び抜けていいが、何せ緊張しいで人前での発表はとにかく苦手だ。
「津田島か、お前ならすぐに分かるだろ」
「・・・・・」
「どうした、こんな簡単な問題も出来ないのか?」
 当然答えは分かってた。しかし、『くす』っと笑い声が聞こえてきたため、固まってしまったのだ。いや、その笑いは、一人や二人だけではなかった。どうもかなりの女子からのようだった。
「誰だいま笑ったのは。まあいい、津田島、座れ」
 笑った生徒たちは、互いに目配せをする。様子を察した久樂々の恥ずかしさは、限界に達し、その場からすぐにでも去りたい気持ちで一杯になっていた。

 放課後、久樂々は、幼なじみの松田海陽に相談していた。
「ねえ、私って嫌われてる?何かみんなの様子がおかいしい」
「そうか?俺はさほど思わないけど」
「でも今日の数学の時間なんてみんなの態度が」
 久樂々は食い下がろうとするが、
「気のせいじゃない?また何かあったら相談してくれ」
と、海陽はつれない。鈍感な久樂々だったが、さすがに異様さには気づき始めていた。

 明日、学校へ行くの嫌だなあ

 その予感が、残念なことに当たってしまう。

 久樂々は、いつもより遅く登校すると、教室内は不自然な笑い声に包まれていた。
 
 良かった、今日は楽しそう

 それを見て、久樂々は少し機嫌が戻ったが、教室に入ると、再び奈落の底に突き落とされてしまった。
「ご本人登場ですハハハ」
 久樂々の姿を見た男子生徒が、大声で茶化す。さらに久樂々は黒板を見て、驚きのあまり声を失ってしまった。
  
 津田島久樂々様、この教室に不要です
 
 慌ててその言葉を必死に消しにかかったが、涙が止めどもなく流れ落ちてきて、全部消せぬまま、外に飛び出して行った。

 結局、久樂々はそのまま帰宅してしまう。
 
 いったいどうして?誰がやっったの?

 何度も自問を繰り返す。
 そのときだ、LINEが届いた。それはクラスメンバーだけのLINEだった。
 
 クララが大変!お願いハイジ助けて

 同時に動画が送られてきた。開けてみると、今日の黒板への落書きの様子だった。その内容に怒りを越えて言葉すら出てこない。恐らく、一部始終をクラスの誰かが撮り、動画となって送られてきたのだろう。
 
 母さん、すぐ来て

 嗚咽が止まらず、ただただ立ちすくだけだった。

 翌日、2年1組ではホームルームが開かれた。担任の松岡が話し始める。
「とても残念だけど、津田島さんが、今日学校に来ていない。なぜだか分かるか?」
「・・・・・」
 場の雰囲気がそうさせたのか、言葉を発する者はいない。
「じゃあ、聞く?このクラスに、いじめがあるんじゃないか?」
「・・・・・」
 ここでも答える者はいない。
「信じられん。俺のクラスにいじめがあるなんて。これまでたくさんの学級を受けもってきたけど、こんなの初めてだ」
  男子生徒の一人が、ニヤリとした。
「誰だ、こんなときに笑ってる奴は!言うぞ。津田島さんが言うには、黒板にヒドイことが書かれ、さらにその様子がLINEで出回ったそうじゃないか。こんなこと人のすることか!やった者は今すぐ名乗り出ろ。言い出してくれるのを、俺は信じる」
 そんなの出てくるはずがない。それどころか、生徒の間の雰囲気が、よりどんよりと淀んでいくのがよく分かる。
「先生、いいですか?」
  突然、一人の女子生徒が言い出した。
「犯人の目星が付いてるんでしょ?その人たちに、直接聞けばいいじゃないですか?」

 そうだ、そうだ!

 他の者たちも、一斉に声を上げた。
 さらに女子生徒は続ける。
「だいたい、本当にこのクラスにいじめがないって信じてたんですか?」
 松岡は言葉に詰まる。
「そりゃ、そう・・・。いやないとは信じてたよ」 
 痛いところを突かれたのか、松岡は言葉を濁してしまう。生徒たちの冷めた視線が突き刺さってくる。
「そうだけど、いじめた奴は一番悪い。でも周りで見てて見ぬ振りした者も悪い。その者たちも、いじめに加担してるのと同じだ。そんなところからどうにかしてかない。じゃあ言うぞ、いじめを許す雰囲気があるんだよ、このクラスには」
 松岡が自信をもって発した言葉だったが、
「いじめてない者に八つ当たりですか?勘弁してくださいよ、いじめてるお嬢さんたちに言えばいいじゃないですか」
と、生徒たちに響くことはなかった。
 さらに教室内が騒然としていった。

 その夜、このホームルームの様子が、SNSに載り拡散されていく。
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