アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

161 モーリスの涙

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 トーナメントには死のグループとか単純に不運なルートというものがある。
 ステージ勝ち進む度に、常に強敵が立ち塞がるというやつだ。

 今回はハンスがそれに該当していたのかもしれない。
 といってもハンスならば、自分が弱かっただけだと言うだろう。そんな奴だ、ハンスは。

 俺も強い敵にあたることは自分の糧になるから嬉しいとは思う。
 とはいえ、一発勝負のトーナメント。
 今回のハンスは本線でも強敵続き、敗者復活戦もそうだった。
 1日に午前午後の1戦ずつとはいえ、神経はかなりすり減っただろう。
 ハンス1回めの敗者復活戦では、第5戦にビリー先輩と対戦して涙した。
 残念ながら俺は見れなかったんだけど、応援した仲間曰く、善戦しての敗退だったらしい。

 セロも苦戦したビリー先輩。
 ビリー先輩の弓はかなり手強い。
 何せ強弓且つ連射が効くからだ。
 魔法着への着弾は刀以上に避けなければならないのである。

 よくテレビとかで見る主人公が矢を刀で叩き落とす芸当は、余程の腕と距離、動体視力の三位一体であって始めて可能なんだ。
 だから強弓の連射が武器のビリー先輩に善戦できるというのは、それだけで強者といえる。


 ハンスの2回めの敗者復活戦は第5戦で6年1組キム・アイランド先輩にあたった。
 これは俺も応援観戦した。
 ハンスはよく頑張ったと思う。
 が、それ以上にキム先輩が強かった。
 正直に言えば現段階の1年生のハンスと6年1組のキム先輩との力の差は歴然だった。
 あのハンスがほぼ手も足も出なかったのだから。
 俺も精霊魔法を発現出来なければとてもじゃないが話にもならないだろう。

 木爪のハンス対ダガーのキム先輩の試合は本線最短ともいえるくらい短時間の勝負だった。

「1年1組ハンス君、6年1組キム・アイランド君。準備はいいね?」

「「はい」」

「はじめ!」

「!えっ!」

「‥‥参りました」

 合図の直後。勝敗は決していた。
 一瞬でハンスとの間合いを詰めたキム先輩がダガーをハンスの首につけていた…。
 突貫?いや違う。だけど突貫よりもさらに疾い。
 精霊魔法?いや違う。精霊魔法並に疾い。


「アレク。あの子と闘ればもっと強くなれるわ」

 キム先輩を見ながら、珍しくシルフィが冷静に言っていた。




「ハンス‥おつかれ」

「アレク、俺はまだまだだな」

「ああ」

「今日からさっそく練習するよ」

圧倒されても諦めない。負けを糧に。
これこそがハンスの強さだと思う。

 体術で。ハンスが世代No. 1獣人になるのはまだ数年先のことだ。




 ▼





「「「いけーーモーリス!」」」

 敗者復活戦の決勝戦
 モーリスがビリー・ジョーダン先輩と闘った。
 文字通りの決勝戦。これに勝利した方が、10傑最終予選の30人に名を連ねる。

(モーリスには絶対勝って欲しい。だけど、正直ビリー先輩も応援したくなる俺だった)

 シュバババッ!
 カカカカンッ!

連射される弓矢の攻撃を迎撃するモーリス。

「「おおっ!モーリスすごい!」」

 セロもハンスも苦戦したビリー先輩の弓の連射。
 連射するビリー先輩のその強弓をなんとバスターソードの腹で撃墜しながら接近をするモーリス。
 あと少しでモーリスの間合いに入るというそのとき。

 赤から紫へ。

 モーリス最後の間合いに入る前に魔法着の色が変わった。


「くそっ!くそっ!」

「モーリス様‥」

 モーリスの人目も憚らぬ悔し涙。これにはさすがのセバスもおろおろしている。

 俺は悔し涙に暮れるモーリスの前に進んだ。

「モーリス、その涙がお前を必ず強くしてくれるよ。先に行くぞ。待ってるからな」

 肩を強く抱いてモーリスを激励する俺に涙でいっぱいのモーリスが応えてくれた。

「ア、アレク待っててくれるか?」

「当たり前だろ!友だちだろ!」

 泣きながら唇を噛み締めて頷くモーリスだった。

モーリスもまた剣術で。人族世代No. 1になるのは数年先のことだ。




 敗者復活戦からは、6年1組ビリー・ジョーダン先輩が勝ち上がった。
 もう1人は、ハンスも対戦した6年1組のキム先輩だ。
 キム・アイランド先輩。小柄で黒髪、顔も転生前の俺に近い日本人的のっぺりとした顔の先輩。
 モブ選手権大会だったら俺と2人でダントツ優勝候補だよ。
 それくらい印象に残らない、すごく陰がない小柄な先輩だった。
海洋諸国出身、とある国の留学生だという。

「あの子‥懐かしい匂いがするわ‥」

 キム先輩を見たシルフィが小さく呟いた。
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